OARLプラント
<試運転編>
作:KEBO
「社長、来週中にまとまりそうです」
「そうか・・・で、プラントの方は?」
「稼働可能な状態にはなっています。ただ、まだ試運転を行っていないので・・・」
「試運転か・・・」
社長、と呼ばれた男が考え込む様子で額に指を当てる。
「素材の方は」
「前回のようにすればすぐに段取りできますが、あまり何度も・・・」
「わかった。今回は求人誌で行こう。フリーター歓迎だ。無論社名には気を使えよ。いかにも怪しそうな・・・健康食品のメーカーでどうだ?」
「わかりました。すぐに手配します。それと・・・・」
眼鏡をかけた小男が言い辛そうにしている。
「なんだ?」
「はい」顔を上げる男。
「実は、昨日総務部の女子社員の一人に見られた疑いがありまして・・・」
苛ついたように、社長が息を吐く。
「で?」
小男が、資料を取り出した。その総務部の女子社員の履歴書等のデータを社長に渡す。社長はそれをしばらく眺めて机の上に置いた。
「気付いているのか?」
「はあ、詳しいことは理解していないようなのですが、同僚にも漏らしているようですし・・・・今一計りかねております」
「その同僚は?」
男がもう一つの資料を取り出す。社長は机の上に二人分の資料を並べた。
「仕方ない。漏れてからでは遅い。この二人も処理してしまえ」
「しかし社長」
「総務のOLぐらいすぐに埋まるだろう。いや待てよ」
「はい?」
「我が社が導入してしまえばよいかもしれんな・・・・よし、総務部の女子社員を使ってしまえ。募集などかけなくても職場復帰させればいい。それと、全社分を順次処置する計画を早急に作ってくれ」
「・・・・・かしこまりました」
小男が一礼して出ていく。「社長」は机の上に置かれた女子社員の資料をもう一度手に取ると、そのままゴミ箱に捨てた。
「ねえ、由美は?」
「なんかさっき部長に呼ばれてたよ」
ロッカーで着替える弥生と聡子。小柄でショートカットの弥生は技術開発部、対照的に長身で髪を伸ばしている聡子は由美と同じ総務部に属している。彼女たちの会社、「オフィステクノ工業」はこのところ忙しい。新開発した受付用ロボットが当たったため、世界中から受注が殺到していたのだ。企業の受付嬢の変わりにインフォメーションなどをこなすロボットで、もちろん小綺麗な女性の形に作られている。歩きはしないが完全に人型で、まるで受付嬢が座っているかのように見えるので人件費を削りたい準大手企業を中心にヒット商品になっていた。
「今日は、デート?」弥生が聡子に聞く。聡子は技術開発部、つまり弥生の同僚の新野とつきあっている。
「ううん。いつも忙しくって・・・日曜だけよ。それこそ弥生の方が詳しいんじゃないの?」
「新野さんは今をときめく3課だけど、わたしは2課だから・・・」
答える弥生。今回のロボットは「ちょっと変わった連中」が集まった3課の成果だった。3課のメンバーは男性ばかりで事務員もいない。それというのも今でこそ成果を出しているが3課の開発したものはモノにならない、いや控えめに言っても妙ちきりんなものが多く、予算も削られっぱなしだったからだ。さらにヒット商品が女性型ロボットであるだけにいやらしい想像もしてしまうというものだ。
弥生にしてみればそんな3課のことにはあまり触れたくないのだが、友人の聡子がその3課の新野とつきあっているのは、新野が3課の中でも唯一まとも「そう」に見えないことはないとはいえ弥生にとって不思議な事実だった。
「由美、もしかしてあのことかな?」不意に聡子が話題を変える。
「あのこと?」
「そう。昨日ね、3課の奥の実験室のところでまたロボットの改良してたって言ってたわよ」
「また・・・・」弥生は半ば呆れたように言った。彼女にとって3課は非常に怪しいという認識がある部署なので、ちょっとやそっとの事では驚かない。弥生は以前にも何やら怪しい色をしたカエルが入った水槽を大事そうに抱えている3課の者を見たことがあった。
「うーん、なんか、ロボットの検査台じゃなくて手術台みたいな台の上に例の受付ロボが乗ってて」少し考える風に答える聡子。
プッ!と、弥生が思わず吹き出す。
「うわ、それ超怪しい」
「そうそう」聡子もつられて笑顔になる。
「だいたいイメージ湧いたわ・・・・今度はそれこそ風俗ロボットかなんかだったりして・・・・」笑いを押し殺しながら言う弥生。実際このところ商品の改良等堅実路線の2課にくらべて奇想天外路線とも言うべき3課の商品が会社に大きな利益を与えたおかげで社長にもてはやされているので、今まで地道にやってきた2課の弥生はあまり面白くないのだ。
着替え終わり、鏡を見る二人。その時、聡子の携帯が鳴った。おもむろにボタンを操作してメールを見る聡子。その顔が綻ぶ。
「ごめん、先帰って・・・」
「はいはい」聡子のセリフを予想していたかのように、弥生は肯く。予想というよりそれは確信に近かった。聡子は急にデートの予定が入ったのだ。それもあの新野と。
「じゃあね、お先!」再び鏡に見入る聡子を置いて、弥生はロッカールームをあとにした。
翌日・・・
「あれ、今日聡子ちゃんと由美ちゃんは?」
社食で、弥生は総務の冬美に聞いた。朝から見かけないと思ったら、社食でも見かけない。
「今日休みだよ、二人とも」
「ふうん」何か腑に落ちないものを感じながら、弥生は定食を平らげた。食後のコーヒーをすすっていると、視界の隅になかなかの外見をした白衣の男性社員が目に入る。新野だった。
(そういえば昨日・・・)
弥生は思い出した。聡子の様子から昨日デートだったことは99.99%確実だ。弥生は心配ついでに新野に声をかけた。
「おつかれさまです」
「あ、おつかれ」ビックリしたように顔を上げる新野。
「今日聡子は?」おもむろに新野の対面に腰掛ける弥生。
「え・・・まあ・・・」新野は曖昧に応えながらご飯を掻き込む。
「まあ、って昨日は何ともなかったの?」
ゲヘ、と一瞬食事を喉に詰まらせかける新野。それを見て弥生は可笑しくなる。そして、この男とつきあう聡子の気持ちが分かるような気がしてきた。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない。昨日聡子とデートだったんでしょ。ネタは上がってるのよ!」
笑いを浮かべながらからかうように畳みかける弥生。
「そりゃあ・・・昨日は・・・元気だったけど・・」半ばしどろもどろに応える新野。
「で、今日は?風邪?」
「それは・・・その・・・・」弥生の追求が立ち直る暇を与えず新野に突き刺さる。その慌てた様子が弥生にはたまらなく面白い。
「連絡ないの?まさか、泣かせたなんて言うんじゃないでしょうね?」
「そ、そんなことは・・・」
「メールの一本ぐらいあったんじゃないの?」
「いや、まあ」
「はっきりしなさいよ!」面白がっていた弥生も、新野の曖昧な態度にだんだんと苛ついてきた。彼女は新野をいじめるために座ったのではなくて、聡子の様子を聞くために座ったのだ。
「そんな人のプライベートに踏み込まないで下さいよ・・・・」ボソリと言い返す新野。隙をつかれたように、弥生は黙った。新野の言うことももっともである。
「わかった、ごめんなさい。でも聡子が心配だったものだから・・・」
「いいんですよ。でも・・・・」
「でも?」
「聡子、昨日何か言ってませんでした?」
「え?」
弥生は驚いた。聞いていたのは自分のはずなのに、今度は自分が質問されている。彼女は深く考えずに昨日のことを思い出した。
「そういえば・・・・」そこで言葉を区切る。
「3課って、今何やってるんですか?」質問に答えずに返す弥生。昨日聡子が言ったことを思い出したのだ。
「それは企業秘密です」キッパリと言う新野。
「企業秘密って、その」思わず吹き出しそうになるのを抑えて弥生が続ける。
「受付嬢ロボットの改良型?」
「・・・・・・やっぱり」新野がつぶやく。
「やっぱりって?」
「聡子が昨日しつこく聞くんですよ。一体何を作ってるのかってね。奥村さんもわかってらっしゃると思うけど、技開は機密保持が命でしょ。彼女にもそういって聞かないでくれってきつく言ったんですよ」
「じゃあ、それがショックで休んだのかな?」
「そうかもしれません」新野は今までと違って滑らかに話し出した。
「とにかく僕にも連絡はないんですよ」
「そうなんだ」
ようやく得たかった情報が得られて、席を立つ弥生。
「ちょっと待って、奥村さん」その弥生を呼び止める新野。
「はい?」弥生が振り返る。
「その、それ、誰にも言わないで貰えます?一応まだ秘密なんで」
「いいけど・・・」そこで弥生にある考えがひらめく。この際それもいいだろうと思った。使えそうなものかお笑いのネタかわからないが、見て置いて損はないに違いない。
「条件があるわ」ニヤリとして言う弥生。
「じょ、条件って、奥村さん・・・」困った顔をする新野。
「なに、簡単なこと。わたしにも見せてよ、それ。よくわからないけど見せてくれるんなら誰にも言わない。約束する」
「困ったな・・・・課長に怒られる・・・」新野が本当に困っている風な顔をする。
「とにかく言ってご覧なさいよ。あの課長スケベだからわたしが見に来るって言ったらよだれ垂らして待ってるかもよ」
「そんな・・・」
「じゃ、連絡待ってます」歩き始める弥生。
「ちょっと、奥村さん」食事もそこそこに必至で呼び止める新野を無視して、弥生はさっさと社食を出た。そして、出た瞬間彼女は思わず舌を出して微笑みを浮かべた。
「あれ、弥生さん帰らないの?」
「うん、残業」
「じゃ、お先!」同僚の美里が席を立つ。弥生はにこっとして手を振る。結局、新野は課長に許可を求め、弥生は終業後に3課に立ち寄ることになったのだ。時計を見て、白衣を羽織ったまま席を立つ弥生。3課は何が落ちているか解らない。制服が汚れるとクリーニングが面倒だった。
「ちょっと、3課行って来ます」
「そうか」応える課長。ドアを開ける弥生。弥生は気付かなかった。課長の目に恐怖の色が浮かんでいるのを・・・・
「おつかれさまです」3課のドアを開ける弥生。部屋には誰もいないが、まだ帰った風ではないように机の上は広げっぱなしだった。もっとも3課はいつ家に帰っているのかわからない気もするので、弥生は気にしないことにした。
不意に、奥の実験室のドアが開く。ドアの隙間から新野の顔が覗く。
「おつかれさまです」もう一度言う弥生。それを認めたのか新野は弥生を奥の実験室に手招きした。それに従い奥へ進む弥生。
「なんだ、何もないじゃない」ありふれた実験器具とパソコン類しかない部屋を見て弥生は思わずつぶやいた。それを聞いたのか新野が反応する。
「そう。手狭になったから隣の倉庫に移したんだ」
「移したって、何を?」
「君の見たがっている物だよ」新野は、昼のおどおどした態度とはがらりと変わって落ち着き払っていた。弥生はそんな新野の態度に何か不安を覚えながら、新野に続いた。
無言のまま歩く二人。弥生には10メートルほどの廊下が非常に長く、息の苦しいものに感じられた。そして、昼に新野をいじめたことを少し後悔した。
「ちょっと待って」倉庫のドアの横にある電子キーを叩く新野。キーを打ち込みエンターを押すと、廊下の後ろの防火扉が降りていく。当然ドアが開くと思っていた弥生は少々面食らった。
「なぜ、防火扉を?」思わず問いかける弥生。
「必要なことだからさ」新野は応えながら再びキーを打ち込みはじめた。最後にエンターを押し、ロックが開く。
「念のためね。確実に素材を押さえるために」
「素材を押さえる?」
「見れば解るさ」部屋の中に入る新野。弥生は戸惑いながら続いた。そして、思わず声を上げた。
「え!?何これ?」
部屋の中を見回す弥生。部屋の中には、白衣の男達、3課の面々が忙しそうに動き回っている。そして、まるでベッドぐらいのサイズの台がいくつか繋がったベルトコンベアのような設備があり、所々それに覆い被さるように何かいろいろなアームのぶら下がった機械が置いてある。
「OARLの製造、いや改造プラントだよ。来週から実稼働させるんだけど試運転がまだでね。だから君のような人はここでは大歓迎なんだよ」
弥生は新野の言う意味が理解できなかった。思わず聞き返す。
「どういうこと?わたしになにか手伝わせるって事?それにOARLって」
「オフィスオートメーテッドロボットレディーの略だよ・・・まあ、とりあえず好きなだけ見ていいよ。君に話すことはもうあまり無いからね。見ておくのは今のうちだよ」
あざ笑うように言う新野の言葉を不審に思いながら、弥生は3課の面々の間をぬって「製造プラント」に近付いていった。機械が動いている。その機械にいろいろな部品を埋め込まれようとしているロボットが、弥生にはさっき食堂であった冬美によく似ているように思えた。
「これは一体・・・?」
弥生はその向こうに、隣の部屋を見ることができる窓を見つけのぞき込んだ。その向こうの部屋に、まるで死体を安置するように「裸」のまま寝かされて並べられている数体のロボット。
「よく見てごらん」新野が怪しい微笑みを浮かべながら言う。弥生は目を凝らしてガラスの向こうのロボット達を見回した。
「由美・・・?聡子・・・?」
ビタっと手を張り付けてその窓の向こうをのぞき込みそれを確認すると、彼女はゆっくりと振り返った。
「彼女たちには試運転の試験体になって貰ったんだ。今回の製品は反響が大きくてね。いっそのこと事務関係の社員を全部ロボット化できないかというユーザーからの要望があったんだよ。でも受付ロボみたいに全部同じ顔って訳にもいかないし、ある程度仕事もできないといけないから、今働いている社員をそのまま生かせないかっていう話になってね。しかしまあ一人一人改造するのは時間がかかるし手間だから、まとめて改造して作動を統括制御するシステムを考案したんだ」
「そんな・・・」
さっき動いていたプラントの台から、「冬美」が全裸のまま立ち上がる。その表情はうつろで、何の感情も感じられない。そしてその立ち上がった冬美を、男達が隣の部屋へと連れていく。
「だから、彼女たちは明日には職場復帰するよ。そして近くに携帯電話のアンテナがあればどこでも制御装置が彼女たちの生体脳からデータをロードしてあたかも人間であるかのような作動をさせる」
弥生は愕然としてもう窓の向こうを見た。うつろな表情の由美が冬美と同じように上半身を起こし、ゆっくりと立ち上がる。その状況をチェックする男達・・・
「やあ、奥村君」突然の声に振り返る弥生。
「稲村課長・・・」声の主は、3課の課長稲村だった。女子社員の間では使い古された「バーコード」の愛称で呼ばれており、3課ということで駄目オヤジ扱いされていた。
「どうかね?このシステムは人件費のさらなるコストダウンを計ることができるんだ。それだけでなく会社にいる間は仕事以外のことは絶対にしないし、福利厚生も必要ない。少し残念だが君も彼女たちと同じくこのプラントによる改造を経験して貰うことにしよう」
首を振り後ずさる弥生。
「怖がらなくてもいい。2課の山村課長には断ってある。明日から君はこの3課に異動だ」
二人が近付いてくる。弥生は必死の思いでそこから駆けだした。二人をはじめ3課の面々は笑いながら弥生をゆっくり追いかける。足元に散らばるケーブルやら何やらをサンダルで跨ぎながら、弥生は一刻も早くこの倉庫から脱出しようとドアを開いた。そして、彼女はそこに立ちつくした。
「だから言ったでしょ。確実に素材を押さえるために防火扉を閉めるって」
新野をはじめ、稲村や3課の面々が薄笑いを浮かべながら近付いてくる。彼女は必死の形相で防火扉を叩くがもちろんビクともしない。その腕を、新野が掴む。
「心配することはないよ。社内的には異動したことになっているし、生体脳は残すから外に出ても制御装置が君の行動を完全にシミュレートしてくれる」
「イヤ!離してよ!」
必死にもがく弥生。しかし女一人で男数名の相手は絶望的だった。白衣のボタンが弾け、袖が破れる。やがて彼女は両肩と両脚を抱えられ、倉庫の中に連れ戻された。
「麻酔の準備をしろ」
「イヤぁー!!」
必死に抵抗する弥生。しかし四人がかりで押さえつけられた彼女に、注射器を持った新野が近付いてくる。そして、3課の面々はその作業をまるでなにか物を扱うかのように淡々と進めていった。彼女の衣服がめくれ素肌が露わになっても男達はそれに興奮するでもない。それはさらに弥生を恐怖させた。3課の面々は彼女を「素材」としか扱っていないのだ。
やがて男達が弥生の首筋を露出させる。彼女にはもう恐怖しか感じられなくなっていた。悲鳴すら上げられず怯え震える弥生の首筋に、新野がゆっくりと針を滑り込ませる。チクリという痛みが、弥生の全身を硬直させた。
「制御設定は?」稲村が確認する。
「オッケーです」無造作に答える新野。
「・・・・イヤ・・」朦朧としていく意識の中、弥生は掠れるような声を絞り出して最後の抵抗をしたが、聞き入れられるはずもない。力が抜けていく身体から衣服が脱がされ、手足が次々と台に固定されていく。
「準備オッケーです」
「改造プロセスを開始します」抑揚のない女の声が、一瞬弥生の意識を清明に戻す。いつの間にか社の制服を着た聡子が、うつろな表情でプラントを制御する端末のところに座っている。
「聡子・・・・・」
「彼女も君と同じく3課に異動になった。そして君もすぐに彼女のようになれる」
聡子が無表情のまま端末を操作し、弥生の乗った台が動き始める。
まるで普段の作業の如く機械を操作する3課の面々。もう弥生にかまう者はいなかった。弥生は身体が移動していくのを感じていた。最初の機械のところで台が停止する。上から機械のアームが降りてくるのを見たところで、彼女の意識はとぎれた。
弥生の意識に関係なく、作業は進行していった。口が開かれ、口腔部から侵入した細いアームが、弥生の脳に制御装置を取り付けていく。腕や足は切開され、人間の骨格が機械の骨格に置き換えられていった。それと同時に背面から臓器が摘出されそれに変わる機械が埋め込まれていく。機械の緻密さは、弥生のボディラインをまったく崩すことなくその作業を行っていた。やがて、耳朶の部分にピアス型の受信機が取り付けられ、最後の装置の中で全身コーティングが行われた。
部屋の中央部にあるスーパーコンピューター、すなわち親制御装置から、作動チェックの命令が発信され、正常に受信された。奥村弥生、今ではもうこの名前はアルファベットの羅列による記号に過ぎないが、彼女はゆっくりと立ち上がった。
「チェックをするから向こうの部屋へ移ってくれ」新野が指示をする。
「ハイ」
無表情のままに従順に応えると、「OkumuraYayoi」は検品質へと裸のまま歩いていった。
中山美里は、課長に呼ばれるとため息をつきながら立ち上がった。彼女の同僚だった弥生が、急遽隣の3課に配置換えになった上、彼女までも面談があるというのだ。
今日は朝から首を傾げることばかりだった。今まで仲良く話をしていた総務の女子社員達が、妙によそよそしい。というより、まるで無表情に黙々と仕事だけをしていた。そんなことは美里には信じられないことだった。何より、一番のおしゃべりの由美がろくに挨拶もせずに無表情で制服に着替えていたのなどは信じられないを通り越して不気味にすら思えた。
「すまんな待たせて」人事部の東谷に呼ばれて、隣の部屋に入る。と、そこには技術開発部第3課の稲村課長が立っていた。
「稲村君と一緒に倉庫に行ってくれ」言い渡す東谷。
(わたしも3課かな・・・)
「はい・・・」首を傾げながら、彼女は稲村に続いて倉庫に向かった。
倉庫のドアが開く。目の前に、大きなプラントがあり、それを操作する端末のところに弥生と三原聡子が座っていた。
「弥生さん元気!」
弥生の姿を見つけてホッとしたのか、思わず声をかける美里。しかし、弥生は全く反応せず無表情のまま何かキーを叩いている。美里にはその姿が由美の姿にダブった。由美はともかく弥生が無反応なことなどあり得ない。
「弥生さん、なにかあった?」
思わず弥生のところに歩み寄る美里。弥生は美里の方を振り返ったが、何事もなかったかのようにまた端末に向かう。それを見て美里は自分の顔が青ざめていくのがわかった。
(やっぱり総務の子たちと同じだ・・・)
彼女の方を向いた弥生の顔は全くの無表情だった。そうしているうちに、彼女は突然腕を掴まれた。
「なによ!」振り払おうとする美里。しかし彼女は両腕を捕まれおり、身動きできなくされていた。
ゆっくりと、注射器を持った新野が近付いてくる。
「なんなのよ・・・」美里は恐怖に青ざめた顔で新野に問いかけた。
「君も彼女たちと同じようにOARLシステムの一員になって貰う」
横に立った稲村が応える。
「彼女たちに何をしたの・・・・」
「そう。あれは彼女たちの生まれ変わった姿だ。身体の一部を機械に置き換え、脳に制御装置を取り付けたうえで親機とリンクさせている。オフィスの作業効率は飛躍的に上がり人件費も劇的にコストダウンできる」
陽子は部屋に来てはじめてプラントをよく見た。台の上に寝かされた、ロボットだと思っていた女性に機械が次々と何か処置をしていく。よく見るとその面々は、間違いなくついさっきまで彼女と一緒に働いていた娘達なのだった。
「どうしてわたしが・・・」
「君だけがというわけではないんだ。事務系の女子社員は全員改造してOARLシステムに統合することになったんだよ」
「そんな・・・・」
そう言いつつ、彼女はやがて意識を失った。3課の面々が手際よく彼女の衣服を脱がせていく。そしてやがて他の女性達と同じようにプラントの台に寝かされ、その台は改造装置の方へと進んでいった。
「案外あっさりと行きそうですな」稲村が言う。
「ああ、今日は技開、明日は営業、その次は資材だ。一週間ほどで女子社員は全部リニューアルされることになるだろう」いつの間に倉庫に来ていた東谷が言う。
「そうですな。ところで、受注の方はどうなのですか?」
「あとは契約を取り交わすだけだ。クライアントの方は人数が多そうだから一週間以上フル稼働になるぞ」
「それはそれは。ま、しばらくは会社も我々も安泰ですな」
「そう願いたいものだ」
せわしく動き回る白衣の男達の横で、美里の肉体に機械が埋め込まれ続けていた・・・・
<おわり>
※このお話はすべてフィクションであり、登場人物その他すべてのものは実在のものとは全く関係ありません。
<作者あとがき>
久しぶりに一本上げたので、しゃこしゃこっとこっち向けに振ってみました。自分でもああしたりこうしたりしたいというのはまだまだあったのですが今回はあえて割愛しました。
完全機械化でなくあまり露骨に萌えワードも入れなかったので、好みが別れるかもしれませんが、それは皆様各自脳内補完願います(^^;;;;;;ここに限っては特にうるさいことは言いませんので、もし「書いてみたいんだけどどうも・・・」という方がいたらネタに使って貰って書き加えとか書き直しとかしていただく元や練習台に使っていただいて結構です(ただ、一報だけお願いします)。みんなで楽しく遊びましょう(爆)
というわけで、今回もおつきあいありがとうございました。
では
2002.11.16
※このお話に関する著作権は作者であるKEBOに属します。無断転用・転載はお断りします。
お問い合わせ等ありましたらこちらまでお願いします。
(c)KEBO 2002.11.16