恵子

「ピート見てみてっ、ほらこんなのが落ちてる!」
「ひゃー、こりゃスゴイな、リアルー! まるで人間みたいじゃんか。」
珍しい落とし物を発見し興奮する子供達の足元には、両手両足が無くなった、
まるで「だるま」の様な姿にされた恵子が転がっていた。

「使い物にならない」と判断した店主が、再利用がききそうな手足だけを
外し。あっさりと路地裏に捨てたのだ。

「ピート、これ動かないのかなあ・・・?」
「うん、ちょっと待って。お腹にスイッチが付いてるから・・・」
ピートと呼ばれた少年が興味本位で、むき出しになった恵子の
スイッチ類に触れる。

「ビビッ!・・ガガ・・・」

それまで微動だにしなかった恵子の瞳が開き、口からノイズ音がもれる。

「わあっ、動いたっ動いたっ!」そんな恵子の様子にはしゃぐ少女。
「今度はこのスイッチだ・・・」
調子に乗った少年は恵子の他のスイッチまで弄りはじめる・・・。

「ガガッ・・コ・・コン・ニ・チ・・ワ・ワ・・ゴ・・ゴ・シュジン・
・・サ・サマ・・・」

「喋ったっ喋ったっ! ねえ、もっと他にも喋らせてよっ、」
「うんっ、じゃあ次はコレかな?」
GFにせがまれ、他のセリフを喋らせようと色々スイッチを入れる。

「・・ビッ・・コン・ニ・ニ・・チ・ワ・・ゴ・シュジ・ジン・サ・
・・マ・・マ・・・」

しかし恵子は「壊れたレコード」の様に同じセリフを
繰り返すだけだった・・・。

「なーんだ、つまんない。やっぱコレ壊れてるんだ。
ねっピート、ハンバーガー食べに行こうよっ」
まだ恵子を弄り足りないという顔の少年の腕を引っ張る少女。
「そうだね、ハンバーガー食べに行くか! 」
そう言えば今日は半額の日だった。と思い出すピート
「うんうんっ、行こう!」

壊れたオモチャに様は無い。とばかりに恵子に見切りをつけ
遊びに行ってしまう少女達。






・・・・・・・・・ハ・・・・・・・

・・・・ハ・・・ン・・・・バー・・

・・ガー・・・・・・・・・

置き去りにされた恵子の口元が微かに動く・・・。

・・・・カ・・・ズ・・・・・エ・・・・・


・・・ゴ・・・・オ・・・・カ・

・・ナ・・・・・・・・

・・・・リョ・・・・・・


・・・コ・・・・ウ・・・・・



・・・・・・ア・・・・



・・メ・・・・・・・・・




・・・リ・・・・





・・・・・・



そこで恵子の全ての機能は完全に停止した。

大きく瞳を開き、
次の言葉をつぐもうとした表情のまま・・・・。





『恵子』 終




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