Kiyomi:Mechanization processing



 眩しさに目が覚める。目の前に、たくさんのライトがついた照明があった。
(まるで手術室みたい・・・・・え?)
 不意に清美は、自分が裸で固定されていることに気が付いた。それも両手足を広げられ、大の字である。
「何よ、これ」
「何って、手術台ですよ」誰かの声がした。見知らぬ白衣の男が立っている。
「手術・・・・・・どうして!?」
「君はこれからロボットに生まれ変わるんだ」
「ロボ、ト」
「そう。家庭の家事労働一切をこなす理想的な家政婦ロボットだ」
「そんな・・・まさか、早智子も」ここへ来て清美は思い至った。早智子はモデルではなく・・・
「ああ、Sachikoね。宮原が連れてきた娘だよ。酔い潰れていたのを宮原が連れてきたんだ。死ぬだの何だのとうるさいし、そのままにしておくのも勿体ないので素体捕獲用モデルの素体にした」
「素体って・・・・ロボットの?」
「当たり前じゃないか。あんな複雑な造形、彫刻家でもあるまいしできるわけないだろう。HKRがなんで一般向けじゃないと思ってるんだい?人一人失踪させるのがどれだけ大変か、君にも想像ぐらいはつくだろう?」
「失踪・・・・じゃあ」
「そうとも。HKRっていうのは、オーナーが指定した人間をロボットに改造した物だよ」
「そんな・・・・・どうしてわたし・・・」
「君は新婚旅行先で失踪した花嫁だ。失意の新郎は新婦そっくりのロボットを置いて、っていうところでどうかな」
「いや・・・助けて・・・・吾郎さん・・・」
「無駄だよ。この話は三崎さんからの話だからね。籍も明後日がお日柄がいいんじゃなかったかい?」
 その通りだった。吾郎が言うに、籍を入れるのは明後日が日がいいということで、まだ入れていなかった。
「嘘・・・」
「続きをしてやろう。悲嘆の新郎を見かねた、彼の会社の重役の娘が彼を慰める。そのうちに彼も心を開き、二人はめでたくゴールインするというわけだ」
「嘘よ・・・・吾郎さんがそんなこと」
「嘘でも本当でも、きみにはもう関わりがないことになる。動作の都合上記憶はある程度残すが感情は消えてしまうからね。だいたい、三崎さんを巡っては大分ドロドロした修羅場があったらしいじゃないか。私が父親なら、それを知って娘をそのドロドロに巻き込ませたくはないがね」
「・・・・・・」
 清美はようやく悟った。吾郎には、自分も早智子も邪魔な存在だったのだ。重役の娘と自分たちとではどちらが彼にとって得になるのか、彼女にも想像がついた。だいたいはじめから、吾郎の収入で家事ロボットが買えるなど、話がうますぎる。その重役が今回のオーナーであることも、想像に難くなかった。
「怖がることはない。痛みも苦しみも一瞬だ。それに幸せに思うんだね、君はHKRに改造されて、いつまでも若く綺麗なまま愛する旦那のために尽くせるんだ。時々可愛がって貰うといい。HKRにはそういう機能もあるからね。重役の娘さんとの新婚生活を見ても、嫉妬すらしなくなるのだから」
「そ・・・・い・・・・・」恐怖に目を見開く清美。
「よし、始めろ」
 手術台の横から、まるで工場のように機械のアームが伸びてくる。
「い、イヤァ・・・・!」
 悲鳴を上げても無駄なことだった。彼女の身体は固定されており、身をよじらすことすらできなかった。アームから伸びる針が全身のあちこちに突き刺さりなにか薬物を注入する。
「あぁ・・・あああ」
 彼女は悲鳴を上げた。一瞬の痛みのあと、薬が注入された部分から灼けつくような、そしてとろけるような快感が沸き起こり、彼女の脳髄を直撃する。そしてその快感に麻痺した四肢をレーザーメスが切り裂き、機械を埋め込んでいく。
(わ・・・たし・・・・溶ける・・・・)清美の意識がピンク色の雲に覆われていく。
 顔に何かが覆い被さった。続いて口腔と鼻腔から細いアームが侵入していく。アームは彼女の頭蓋内に侵入すると、脳細胞と細胞大のマイクロチップを融合させて基盤のような物を生成していく。清美の脳は、瞬く間に半生体コンピューターへと改造されていった。
(わた・・・し・・・ワ・・・タシ・・・・いや・・・・システ・・・・ああ・・・ユニット・・・たすけ・・・ニンシ・・・キ・・・)
 意識が自分でない物に無理矢理変えられていくのを感じながら、清美の思考は消滅していった。


After processing




※このお話はすべてフィクションであり、登場人物その他すべてのものは実在のものとは全く関係ありません。

(c)KEBO 2003.1.14