『ただいま整備中。』
作 Kelbin様
1.
初めてこの部隊に配備された時、私、タチバナ・リサ少尉は気が重くてしかたなかった。
面倒な部隊に配備されたものだわ、とため息しか出ない。
私の他に女性兵士は配属されておらず、隊長や同僚の兵士は皆男性だったからだ。
この部隊でうまくやっていけるのだろうかと、不安だった。
第18師団、第15部隊。
ゲリラが潜む密林の中にその基地を置き、そこを活動拠点して活動する部隊だった。
今時女性の兵士が皆無な部隊など我が軍には殆ど存在しない、と軍の広報が誇らしげに宣伝してたくせに、この部隊はわたし以外の女性兵士が居ないのだった。
今度宣伝部の人間にあったら絶対抗議してやろうと心に誓ったが、だからといって異性ばかりの集団に放り込まれる事態に変わりはなかった。
不安を感じたとしても無理もないと思う。たとえ、私が強力な攻撃能力を持つ義体兵だとしても。
戦線は現在拡大中だった。
ゲリラは密林にそのネットワークを広げ、我々に対する抵抗をもはや隠そうともしていなかったし、どうやら某大国がゲリラ達に密かに援助を行っているらしい、という噂がまことしやかに流れるそんな不穏な今の状況だった。
部隊長の説明によると、戦線の拡大と共に軍は戦線に置く部隊の創設や増強を繰り返し、結果普段なら男女や人種の比率がきちんと守られて構成されるはずの部隊が、人手不足やら人事部の不手際やらが重なって、現在のところその比率が守られていないのだという。
とはいえ軍法で定められている男女や人種の比率に数ヶ月のうちには是正されるだろう、と部隊長は楽観的に云った。
この部隊は、私の他は全て男性と云う以外とりたてて特殊なところなどない、ごく普通の最前線部隊だ。
普段は、偵察任務を繰り返し敵勢力の発見と掃討を繰り返す。そしてたまに大きな作戦に従事してゲリラを駆逐する、まさに普通の最前線部隊だった。
そんな部隊の中では、私は異質な存在だった。ただ女性であると云うだけの理由ではなく。
それは私が義体兵だからだ。
義体兵とは、脳以外の殆どの体の器官、四肢を機械に置き換えた兵士の事で、サイボーグ兵士とも機械化兵とも呼ばれる兵士の事だ。
私は十六の時、義体兵に志願し改造を受けた。今年で従軍歴は三年目になる。
密林での強行偵察任務が可能なタイプであり、その気になれば低劣な装備しか持たない敵のゲリラの一部隊を丸ごと殲滅できるだけの強力な攻撃能力を持っている、きわめて高価な義体だ。私の整備機材だけでコンテナ一つを運搬しなければならないほどに。
私のこの部隊での役割は、非常に簡単だった。
敵のゲリラが時々持ち出してくる戦車のような機械化戦力を無力化する為に、私は投入されたのだった。またごくまれに戦場に現われる無線操縦のロボット兵も脅威には違いなく、そのためにも私は働かねばならなかった。
もちろんわたし以外の部隊の兵士は皆生身の体だ。私は彼らを守るために配備されてると云っていい。
私は脳みそがついたロボットのようなものだ。
こんな機械女などに興味を持つひとなんて、そんなにいるものではないだろう。そんな根拠があるようでないような場当たり的な考えで、私は自分の不安を打ち消した。
今日の偵察任務も、普段どおりに行われた。
私が部隊に配備されて4ヶ月ほど経っていた。
この部隊が担当する地域は比較的に平穏な地区で、近くに集落も存在しないし、いままでゲリラの活動拠点が発見された事もない区域だった。
しかし、今日からその考えを改めるなければならないようだった。敵勢力のアジトを発見したからだ。
私も参加した偵察で判明した事は、アジトの規模は割と小規模なものだということだった。
すぐに攻撃が開始された。持っている装備での殲滅が可能と部隊長が判断したのだ。
そして、その判断は正しかった。
数時間の交戦の結果、我々はこの拠点の制圧に成功した。ゲリラの死体は5体しか出なかった。
「なんだ、思った通りだったな」同僚の一人、ミナカタが云った。
「そうね、大した規模じゃなかった。」私はそれに応えて云った。
「なんだ、少尉。もの足りないってか?」副隊長のオオサワがからかった。
私たちは地下にしては少し広めな道を、四名で探索行動中だった。まだ完全に制圧していない部屋を確認する為だ。とはいえ、敵らしき生体反応はなく敵兵は全て殺害しているはずだし、私たちには軽口をたたく余裕があった。
「そ、そんな事は云っておりません、大尉。…ただ、何もなければ皆が無事に帰投できると思ったからで…」少し気色ばんで私は反論した。ただでさえ殺戮機械と思われがちなのだ、義体兵は。ちゃんと反論して誤解を解いてもらわないといけない。
「そうですよ。タチバナ少尉はそんなつもりでおっしゃったんじゃないですよ。」うれしい事にもう一人の同僚、サノも一緒に反論してくれた。ミナカタも一緒になって抗議してくれる。
ここに来た当初は、あまりなじめなさそうな部隊員の様子に、気が重い日々を過ごしたものだったが、数ヶ月を共にするうちに私と同僚達は、それなりになじみ、交流が出来るようになっていた。
大尉は手を振って返事をする。わかってる、と身振りで応えているようだ。
「違和感がしないか?」
さりげなくわたしに近づき、小声で尋ねる。
「違和感…ですか?」
「そうだ。規模が小さいのはわかるが…坑道の道幅がちょっと大きいものがあるのがな…」大尉は、その端正な顔で怪訝な表情を作った。
「坑道の大きさ、ですか。」
ほとんどのゲリラはそのアジトを、地下に坑道を通すことによって作り上げる。たいていは人一人が、屈んで進める程度の広さしかないものだった。
それがこの制圧した拠点では、人三人分くらいの坑道が走っているのだ。
「ええ、確かに。私もその点は少し気になりました。」
だが、この拠点は作られてまだ日が浅いようだったし、おそらくゲリラはここをもっと拡張して大きな基地にでもするのだろう、そのぐらいにしか思わなかった。
大尉にその考えを述べると、彼も頷いた。
「とは思うんだがな。…なんか、少しいやな予感がするんだよ」いままで生き残ってこれたのはこういう時の予感が生き残る方に働いてくれたおかげでね、とオオサワ大尉は云った。
そう話してた時だった。いきなり壁がこちらに傾いてきたのだ。
声を上げるヒマすらなかった。なんの脈絡もなく坑道の土砂が私たちに降りかかり、あっとゆうまにミナカタと大尉がその土砂に埋まった。
「大丈夫ですか!大尉!ミナカタ!」サノはまだ呆然としていたが、私の声に自分を取り戻したようだ。すぐに動き始めた。
「だい、じょう…ぶだ…」大尉は応えた。幸いな事に彼は土砂は首まで埋まった程度ですんでいた。
どちらかと云えばミナカタの方がまずい状況だった。完全に埋まっていて手足も見えない。自力で何とか抜け出られそうな大尉を一旦おいといてサノと私はミナカタの救出に傾注した。
ぎしっ。
突如として響く聞き慣れぬ異音にハッとして、その方向を見る。
どうやら崩れた壁の向こう側には隠し部屋でもあったらしい。その壁がこちら側に崩れた結果、こちらの通路とつながったようだった。
音はその隠し部屋から響いていた。
私は体内に内蔵してる策敵機能をフルに使い、その正体を確認に努める。
ぎしり。
土煙はまだ収まっていない。
それでも私にはその輪郭がある程度つかめた。
(ロボット兵か!)
私は発砲して、サノに散開するように命じた。
ロボットは身長は2メートルほど、幅は1.5メートルと云ったところだ。
次第にこちらに近づいて来る。形もはっきりしてきた。見た事のあるヤツだった。たしか、遠隔操縦で動くタイプのはずだ。機敏な行動は出来ない。だがその最も警戒すべきは、右手に装着された30ミリ機関銃だった。
轟ッと、その機銃の発射音が坑道に響き渡った。
最初の攻撃を何とか回避できたものの、状況は圧倒的に不利だった。
副隊長とミナカタは埋まっていて行動が出来ない。ミナカタの方は早く救出しなければ手遅れになってしまう。ロボット兵の機関銃と我々の間には楯に出来るものなどなく、サノの持つ火力だけではロボット兵を排除するなど不可能だ。
不利どころか、絶体絶命だ。
だが、私がいる。
私という、義体兵が。
こういった機械化兵力に対抗する為に私はここに配備されたのだ。
弾薬は帰投用に残した分しかなかった。だが、私しか、ヤツに対抗できないのだ。
いま、ここで仲間の為に命を張らなくてどうする。
「サノ!ミナカタをお願い!私があいつを引きつける!」そう言い捨てると、ヤツの注意をそらすべく、私はヤツの正面に出た。
2.
遠隔操縦タイプのくせに、やけにその場の状況判断が的確な機体だった。おまけに動作が機敏だ。
土砂に埋まった仲間がいる場所から、何とかヤツを引き離すべく私は逃げ回る。しかし何にしても場所が悪すぎる。
盾になるものがまるでない回廊のような場所なのだ。ただ逃げ回るくらいしかできなかった。
「ぐあっ!!」
強烈な痛みとともに、左の前腕は吹っ飛ばされていた。
何とか衝撃に耐え態勢を立て直して、私はなおも逃げる。だがこんなことがいつまでも続けられるわけもない。
なんの遮蔽物もないこんな場所では、狙い撃ちもいいところだ。このままではなすすべもなく私は破壊されてしまう。
だが私は同時に妙な事に気がついた。
(どうしてこんなに射撃が正確なの?!)
さきほどから、私はあわやという銃撃を繰り返しうけていた。本当に致命傷になりかねないような攻撃だった。おかしい。
遠隔操縦タイプであるためか、このタイプのロボット兵の射撃は当たらない事で有名なはずなのに。
もしかしたら人が搭乗しているのだろうか。けれどもそんなスペースがあるようには見えない。なぜ?
このままでは追い詰められるだけだわ、と焦燥に駆られながらも私はある可能性に思い当たった。
(ひょっとしたら!!)
逃げるのを止め、ヤツに向かってグレネードを発射する。
爆発に一瞬やつはたじろいだ。
しかし思った通りグレネードくらいの爆発力では、ロボットの装甲は破れなかった。だがそんなことが目的でない。
爆発に怯むロボット兵の隙をつき、私は背後に周り込む。そしてその背中に取り付くと、私の考え通りならば必ずあるはずのものを捜し始めた。
このロボット兵のデータは、私のデータベースに入力してある。その性能だけでなく、形状もだ。
「あった!」
首の裏側。確かにその形は私の知るこのロボット兵の形とは異なっていた。丸みを帯びた四角錐。遠目から見ると、首の部分にコブでもできたかのように見えるだろう。
私はマシンガンを投げ捨てて、そこへよじ登り始めた。片手しかない今、その手を銃だけに使うわけにはいかない。
その場所へはすぐに着いた。そしてすぐにつかみやすい箇所を捜し、片手でその部分を引っぺがしにかかる。
だががっちり溶接されてびくともしない。
それもそうか。敵もここが弱点であるのはわかっているのだから補強していて当然だ。
他に何か手を考えようとした時だった。左足に衝撃が襲い、私はつんのめった。機械のみが持つような恐ろしい力が、私を引きずり下ろす。
「──っ!」
先ほどのグレネードの炸裂の衝撃から立ち直ったロボットが反撃してきたのだ。
右手の機関銃では自身を傷つける可能性がある為にヤツは、残る左手で私の足を捕まえ、人間離れした力で引っ張ってきたのだ。私は必死になってヤツにすがりついた。今、手を放してはおしまいだ。坑道の壁にたたきつけられてバラバラにされるだろう。
「…ぐうあぁっ!!!!」
ぶちぶちと嫌な音とともに、私の左足はちぎれた。
ロボットのバカ力とヤツにすがり続ける私の力が拮抗した結果、太もものジョイント部が破損し、左足がもぎ取られてしまったのだ。
「ぐぅううううっ…!」
痛みに耐えつつも、一方で私は確信していた。やはりこいつは遠隔操縦じゃない。自らをかばうような動きを見せるような動きは私が知るタイプではありえない。だったらやはり、あそこが弱点なのだ。あの首の裏のコブが。
さすがに痛覚がひどい。すぐに痛みの感覚をほぼ感じられないレベルまで落としたものの、反応が遅れてしまった。
もぎ取った私の左足を捨てるや、すぐに右足をつかみにかかった。
捕まってなるものか。ここで私がやられてしまったら仲間はみんな屠殺されるだろう。
「くっ!」
左の前腕は吹っ飛ばされていたが、残っていた上腕をうまく使い背嚢を前に持って来る事に成功した。残った右手で粘着タイプの爆弾をザックから取り出し、それを口にくわえる。
粘着爆弾。一度張り付くと解除の薬品をかけない限り取ることができない爆弾だ。
これをあの首の後に貼り付けてしまえばいい。そしてあの部分が破壊できれば、それでこの戦闘は終わるはずだ。
ロボットの左手が私を捕まえようと自身の体をまさぐる。片手と片足を失ったせいで私はそれから避けるのも精一杯だったが、だが何とかヤツの首の裏にたどり着いた。
「これで終わりよっ!」
バシッと爆弾を貼り付け、すぐさま私はやつから離れようとした。爆弾が爆発するには1分はかかる。あの爆弾なら十分にあそこを破壊できるはずだ。その間に距離を開けないと爆発に巻き込まれてしまう。
「わっ!」
気付いた時にはもう、ロボットの手が残った私の足を捕らえてしまっていた。爆弾を取り付けた時に隙を見せたのが失敗だった。
「しまっ…」
あわてて私はヤツの指を外しにかかった。ロボットの手をほどこうとしたのだ。
しかしそんな必死の努力もむなしくすぐにヤツは私を引きずって持ち上げ、逆さづりにぶら下げられてしまった。。
まるで、獲物をじっくりと吟味するかのように。
私はじたばたと動いて抵抗した。このままではなぶり殺しだ。
しかし逆さ吊りにされ、体の自由が利きにくい。
なんとか残った右手で再びヤツの指を引きはがそうと試みる。しかしがっちりと捕まえたロボットの手はそんな努力ではどうにもならない。
「くっ…!」
そんな私の抵抗をうっとおしいとでも思ったのか、ロボットは私を坑道の壁にたたきつけ始めた。
「あぐっ!」
チタンの殻で守られているとはいえ、尋常ではない衝撃は私の脳にも容易に到達した。そして気を失う。
「あ…ああ…」
もうされるがままだった。
ぶらりと逆さに吊り下げられ、抵抗などできっこない。
「…う…うう…」
脳しんとうを起こして、意識はぼんやりとしたままだったが、それでも自分がどんなに危険な状況に陥ってしまったのかはわかる。
(…ダメ…このままじゃ…なぶり殺し…)
爆発はまだか。粘着爆弾はまだ爆発しないのか。あそこが破壊されれば、あの中におそらく入っているであろう脳をつぶせれれば、もう終わりのはずなのに。
ゆっくりとヤツの右手が持ち上る。それに取り付けられた銃口が、こっちを向く。
ぼんやりと自分の命の危機を見つめるしかできなかった。
ダダダっと、重い機銃の発射音が響く。同時に私は強烈な痛みに悶えた。
「!!!!!!」
声なんて出なかった。衝撃に耐えるので精一杯だ。
体の警報システムが被弾箇所を知らせてくれる。お腹と…胸だ。人工肺がやられたらしい。ああ、もうだめだ。頭を打ち抜かれる。いくら義体兵でも頭を飛ばされたら、もう…
ふたたび、重い機銃音が響いた。
警報システムが律儀に残った右手も肩から吹っ飛ばされたのを教えてくれた。もう残ったのは持ち上げられてる右足だけか。が、それもちぎれかけていると、システムはうるさく知らせてくれる。
(…ほんと…やけに…正確だわ…)
このタイプのロボットの機銃は精度自体も劣っているはずなのに。頭を吹っ飛ばさずにじわじわと私を死に追いやっている。
痛みの感覚を押さえる事も忘れていた。いや、生命維持機構が破壊されてるのだ。それどころじゃない。仮死モードに入らないといけない。そしてただ、脳だけを生かしつづけるモードへの移行を。はやく。はやく…
気は急いていたが、どうにも自分の行動がいちいち遅い。
自分の行動にいちいち焦れていた時、刹那、なにかが光った。
なんだろう。
ひときわまぶしい光が辺りを満たしたのも一瞬。
つづいて耳を聾する爆発音が坑道内を響き渡った。
3.
目が覚めるとそこは、自室だった。
「う…」
どのくらいぼんやりしていただろうか。ようやく自分が今、基地の自室にいるんだとわかった。
体を起こそうと努力する。だがどうしても起きる事が出来なかった。
おかしいと思い目を体に移してみた。そして納得した。
両手と両足がなくなっていたのだ。そればかりかお腹や胸が開かれ、体の中にたくさんのチューブやケーブルが接続されている。そしてそれがベッド際のさまざまな検査機器に繋がっているのだった。当然衣服を身につけるにはケーブルなどが邪魔なため、裸のまま私はベッドに横たわっている。ただシーツが被せられてるので、裸体が剥き出しにはなってはいなかった。
(そっか…わたし壊されたんだっけ…)
ようやく、私は前の戦闘のことを思い出していた。
両腕を飛ばされ、左足をもぎ取られ、そして粘着爆弾が破裂した際、その衝撃でちぎれる寸前だった右足も取れてしまった。その前にはお腹と胸も機銃で撃たれていたのだ。
普通の人間なら死んでいるほどの重傷だった。
たとえ手足だけを打たれていたとしても、生身の人間ならばあの機銃の衝撃は心臓に致命的なダメージをもたらすだろう。
けれど私は義体兵だ。脳さえ無事なら生還が可能なのだ。
(助かったんだ…わたし…)
手足がなく、まるでトルソー状態だったが、それでも生きている事にやっと安堵のため息をついた。さすがにあれだけ痛めつけらると、もうダメだと何度も絶望していたのだから。
「そういえば…私、どのくらい眠っていたんだろう」
安心すると、すぐに今の状況がおかしい事に気がついた。
私の目には、様々な情報が映し出されている。これはわたし以外には見えない情報だ。私の脳内のスクリーンに投影されてるもので、ウインドウが幾つか開き、自分の体がどんな状況なのかをモニタリングできるようになっているのだ。
私の体がいまどこまで壊れていてどれが使える状況かが表示されてたり、時刻や日付の表示もされている。そして確かに私の手足は外されて、お腹の機械の活動はそとの機器と繋がって初めてその活動を維持できていた。
他にもここから体の中にあるコンピュータや様々な機能へのアクセスが可能だった。
(え?)
あれから3日経っていた。
(おかしい。まだ修理されてないなんて。)
どうして私の体が壊れたままなんだろう。
わたしがここに配備された時、一緒に予備パーツも持ってきている。コンテナの中には私を3体は組み立てられるくらいの余分のパーツがあるはずなのに。
生身の体と違い、私の体はパーツでの交換が可能だ。壊れれば交換すればいい。なのに未だに修理されてないのは妙な話だった。3日もあれば私の修理はとうに完了できているはずだった。
いきなりドアが開いた。
「失礼します」
アマノ曹長が義務的に声をかけて、部屋に入ってきた。
私は腹を立てた。
「こら。ノックもしないでいきなり入ってくるなんてひどいじゃないの?」
すると驚いた様子でアマノは駆け寄ってきた。
「少尉!起きてたんですか!」
「ええ、今し方ね。」
彼のあわてた様子に私は笑って云った。
「よかった。もう3日も目が覚めないから脳の方にも異常があるんじゃないかって思ってたんです。」
アマノは本当に心配してたようで、胸をなで下ろしていた。
「そうなったら、私でも病院送りね。」
普通、義体兵は負傷しても脳に何らかの異常が認められない限り、戦線からの離脱は認められない。配備された基地で修理するのが原則なのだ。すぐに出撃に備えられるように。
義体兵の数は稀少であるため、壊れたからといってファクトリー送りにして代替えを配備するわけにはいかないからだった。
義体兵と生身の兵士との扱いの違いはこういう時に現れる。生身の兵士は負傷すれば、前線からはずれて野戦病院で治療を受ける。そして代わりの兵士が前線に送られる。
私たちは人間扱いされないのだ。
そのためにパーツ入りのコンテナも一緒に配備されるのであり、専属の整備兵も付くのだ。
とはいえ、脳に異常が来してしまえば基地で修理することは…いや治療することは無理だった。そこまでの設備はこの基地にはない。だから脳が傷つけば病院に送られるわけだ。
「ま、俺はサイボーグの脳が本来の専門なんで、たぶん大丈夫だとは思ってたんですがね。」
安心したせいか、アマノは軽口をたたいた。
「脳だけは人間扱いしてもらえるのね…それ以外は機械なんだから、当たり前よね…」少し悲しくなって、私はつぶやいていた。
「なんか云いました?」
私に接続している機器をチェックしながらアマノは聞いてきた。
「な、なんでもないわ。それより」
「どうして、3日も経つのに私を修理してないの、整備主任殿?」
アマノは私の整備を担当する整備兵だ。腕がいいしなによりも手際が大変いい。そんな彼が私を修理するのにこんなに手をこまねいてるのは変だった。目が覚めないからと云って、手足を付けておかないというのは仕事をさぼっているようなものだ。
「あ…そのことですか…実は…」
彼は申し訳なさそうに、理由を説明し始めた。
私たちがゲリラの拠点の攻撃を始めたちょうど同じ時刻、この基地も攻撃を受けたのだという。その攻撃はなんと、遠隔操縦によるロボット兵の攻撃だった。しみったれたゲリラには珍しくこのロボット兵を中心とした攻撃を繰り出し、その際私のパーツの入ったコンテナが破壊され、中のパーツは殆ど使い物にならなくなったのだという。
「そう…」
「補給部にパーツを発注したんですが…その…」
「時間がかかるの?」
「ええ。」彼は言葉を濁した。
「どのくらい?」私はいやな予感を禁じ得なかった。
「…2ヶ月、だそうです。」
「どうやら連中、自分達のアジトで派手な事をやろうとする予定だったみたいですね。」
「んで、それを気付かれないようにする為に陽動としてこっちを襲撃したみたいで…」
「少尉を壊したロボット兵。あれノーマルのヤツじゃなかったですよ。遠隔操縦じゃなくて…、中に猿の脳みそ入れて、補助AIでバックアップして」
「んで、義体兵の代わりにでもするつもりだったみたいです、敵さんは。」
アマノは言い訳するように聞いてもいない事を話し出した。
「やっぱり。でも人間じゃなかったのね。サイボーグの一種だとは思ったけど」
黙って聞いてるだけでは、彼が多少気の毒に思えてきたので、私はその話にのってあげる事にした。
「さすがは少尉。気付いてたんですね。…で連中、その動物サイボーグだかロボットだかの実験をやる予定だったんですが…それを少尉達がぶっつぶしたせいで…」
「つまり、行き違いになったって事?」
「ええ。連中、途中でそのことに気付いたみたいで完全に撤退しました。もちろん壊したアジトじゃなくて、本隊の方に。」
つまり、この地域はしばらくの間は平和であろうという結論が部隊の首脳の結論だった。
「なら、私をファクトリーに送って欲しいわ。こんな状態で2ヶ月もベッドに縛り付けられるなんてごめんよ。」
「あー、えと。車いすありますよ?ベッドに縛り付け状態にはなりません。」
車いすに今、私が接続している機器を一緒に積むつもりかしら。私は少し苛立って、彼を詰ってみた。
「…そういう事が言いたいんじゃいって事くらい、わかってるわよね?」
「ハハハハ…すいません。」アマノは悪びれずに謝った。
「その…ファクトリーに送っても、向こうでも部品が手に入らないみたいです。なんかあちこちで義体兵用のパーツが不足してるらしく。」
「…つまりどこに行ってもこの寝たきり状態は変わらないって事?」うんざりして私は聞いた。
「…申し訳ありませんが…そういう事で…」
4.
「はぁ…」
ため息しか出なかった。
どうやら本当に、二ヶ月もこの状態にならざるを得ないらしい。手足もなくてお腹も胸も開かれた状態で。
この状態で困るのは、パジャマ一つ着る事が出来ない事だった。
生命維持用の機器とチューブやケーブルで繋がっているので服を着る事が、その邪魔になってしまうのだった。
おかげで今は下着すら着けられない裸の状態で、その上にシーツをかぶせて裸体を隠している状態だった。
それにこの部屋の機械と接続されるわけだから、車いすにも乗る事が出来ない。
が、内蔵の部品は早期に何とかなりそうだとアマノは云ってた。
「2週間ほどで、なんとかなりそうです。」
手足より内蔵の部品の方が優先的に供給されるのだそうだ。それも当たり前だった。内蔵の部品は生命維持に関わる部品なのだから、手足の供給よりもプライオリティは高いはずだ。
「失礼します!少尉、お元気で何よりです!」
サノが見舞いに来てくれた。あの戦闘以来、私は彼らの顔を見ていなかったのでうれしかった。
サノは私がロボット兵を引きつけたおかげで無傷ですんだという。
「少尉は私の命の恩人です。本当にありがとうございました。」
ぺこりと彼はお辞儀した。
なぜかその顔は少し赤らんでいて、気のせいか、ちらちらと私を見る目が熱っぽい。どうしてだろう。
「あまり、元気って感じじゃないけどね」
少しぐちめいて私は説明する。2ヶ月は身動きが取れなくてこのままだと話すと彼は顔を曇らせた。
「もし…何か、自分に出来る事があれば、おっしゃって下さい。」
彼の困った顔に少し罪悪感を感じる。彼に愚痴ってもどうにかなるものでもないというのに。
繕うように私は時々見舞いに来てくれるだけでいいと云っておく事にした。
そう云うとまた彼は顔を赤らめて、ハイ、とうれしそうに返事をしてくれた。
「そうだ、オオサワ大尉とミナカタを連れてきてくれない?あれからまだ一度も顔を見てないから。」
アマノが話してくれたところによると、オオサワ大尉も、ミナカタも無事だと云う事だった。ミナカタなどは生き埋めになったというのに、二人とも骨を折った程度ですんだのだという。
だが彼はまた困ったように云った。
「すいません、今二人は基地にはいないんです」
「今、治療の為に後方の病院にいるんです。」
そうだった。
彼らは人間なのだ。
負傷すれば病院に送られる。なんでそのことを忘れてたのだろう。
「来月には基地に戻れるそうですから、その際にお礼したいと云ってました。」
そういって、彼は私の部屋を辞した。
今のところあまり退屈はしていない。
普通の人間が私のようにずっとベッドに横たわっていれば、次第に体力の低下を危惧しなければならないだろうが、義体兵の私にはそれは杞憂でしかない。せいぜい戦闘の勘が鈍るのを懸念する程度だった。
しなければならない事はあった。前の戦闘の報告書を書かないといけなかったし、体のパーツに関する資料を入力して、運用の構想を練ってそれを書類にしないといけないからだ。休暇だと思って積極的にこの暇な時間を使うしかない。
そうこうしているうちに内臓部品が到着した。本当に2週間ほどで送られてきたのだった。
「少尉、これでパジャマ着れますよ!」
アマノの変な慰めに苦笑しつつ、多少ましになるだけよと私は云い返す。
「すいません、それじゃ…お腹と胸にパーツ、取り付けますんで…」
困ったような彼の顔に、すぐにアマノが云いたいことを察する。
私は硬直した。
ああ、こういう時だ。
こういう時、女性の整備兵じゃないと気まずいのだ。
なにせ胸やらお腹やらをあけられて、ごそごそカチャカチャ弄られるのだ。男性に。
こうやって男性に体をいじくられてるとどうにも変な方向に気持ちが行ってしまいそうで、どうにも気まずい。
アマノがシーツを取った。
するとそこにはケーブルやチューブだらけの機械の身体が露わになって、私に羞恥心を思い出させるのだ。
アマノの目には私の乳房や陰部が眼に飛び込んでいることだろう。彼だって男性なんだから仕方ない。サイボーグであるとはいえ、私だって一人の女性だ。男性の前で裸になることへのためらいくらいある。
それでも彼に修理してもらわないことには、どうしようもないのだ。
彼しか、私の体を直すことが出来る人はいないのだから。
「ね、眠るわ。」
あわてて目を閉じる。さっさと感度を落とさないと。胸のパーツを取り付ける時に乳房に当たったりすると変に感じて困るのだ。
おまけに私の乳房はそれなりに大きい。Fカップもあるのだから。
人工皮膚で覆われた乳房は、大きいとどうしても感度が良くなってしまう。乳房の表面積にちりばめられたセンサーの数が多い為だ。下手に感じて濡れてしまっては、本当にバツが悪い。
義体兵は義体専用の食料以外は食べられないが、セックスは可能なのだから。
よく、どうして女性の義体兵はみな胸が大きいのか?と不思議がられる。私生活はともかく、そんなにセクシーである必要はないだろうと揶揄されるのだ。
確かに戦闘には大きすぎる乳房は邪魔だ。しかし乳房は予備のバッテリーの格納場所としてうってつけの場所でもあるのだ。長時間の戦闘に備えて、こういう予備のバッテリーの格納区画があるのは安心できるものだ。だからそれなりの大きさがあり、なおかつ戦闘の邪魔にならない程度の大きさがもとめられ、結果的にFカップの大きさに落ち着いている。
「う…あんっ…」
しまった。思わず声を漏らしてしまった。は、早く感覚を遮断しないと!
私は自分のミスが見逃されてる事を期待して、そっと薄目をあけてアマノ様子を見てみた。
「…」
アマノは頬を赤らめながら、何かに耐えるような顔をしていた。
(ごめんなさい、アマノ)
私は心の中でわびた。
5.
生体維持のパーツが補修され、胴体が修理されたとはいえ、このトルソー状態が続くことには変わらない。
それでも車いすが使えるようになったことで、それまでの自室に閉じこもり状態が解消されることになった。もちろん服も着ることができた。
そんなわけで、アマノやサノなどに手伝ってもらうことで、私は車いすに乗って基地の中を巡るようになった。
基地内は、先日の戦闘で敵勢力にかなりのダメージを与えたと云う自負があるせいか、どことなく気持ちの余裕のようなものがあるような気がした。どこか浮ついた空気が流れているような、そんな気がした。
とはいえそれでも通常の偵察任務へ向かう兵士には、ぴりぴりとした緊張感は失われていないようだった。なんと云ってもここは最前線であることには変わりなく、我々の油断につけ込んで、敵が反抗を企まないとは限らないからだ。兵士達をは皆そのことを充分肝に銘じているものと思われた。
そんな微妙な空気が流れる基地の中で、私は以前よりよく声をかけてもらっていることに気付いた。
ここに配備された当初、私はここの隊員とのコミュニケーションに不安を抱いていた。私はなんと云ってもただ一人の女性であるし、義体兵だ。普通の人間ではない。そして集団の中では異質なものは排除されることは良くあることだった。これまでにも幾つかの部隊に配備された時にも、腫れ物に触るような扱いを受けたり、あるいは露骨な無視をされたこともあったからだ。
それがどうだろう。ここでは普通に接してもらえるようになった。
私を歓迎してくれるような雰囲気だった。
ほろりと眼から涙がこぼれた。
とてもうれしいかった。
目が覚めると、また頭がずんと重い感じがした。
部隊の朝ははやい。兵士達は5時半には起床しすぐに中庭に整列し、点呼を行うからだ。
私も同じように目が覚めるが、当然身動きが取れないので、兵士達の点呼の声を聞くだけだった。
それにしても最近、どういうわけか目覚めが良くない。
いつも、頭が重たい感じで目が覚めてしまう。どこか疲れていてまぶたがとても重い。
体調でも悪いのかと思って脳内スクリーンから自分の体のモニタリングをかけてみるが、特にネガティブな数値が出るわけでもない。本当にただ少し脳が疲労したような、そんな感じだった。
朝からそんな調子だったから、最近の私はぼんやりと何をするでもなく一日を過ごしてしまうようになってしまっていた。
さっきまで午前中だと思ったのに、気が付けば昼食の時間を迎えていたり、アマノに手伝ってもらって義体兵用のレーションを摂取した後、ふと気付くとぐっすりと寝入ってしまってたりと、かなりのだらけた生活を送ってしまっていた。
私は自己嫌悪に陥った。
いくら体が不自由だからと云って、こんな自堕落な生活をする自分が許し難かった。。
アマノに相談すると、休暇だと思えばいいじゃないですかと軽く云われてしまった。のんびり過ごせばいいと。
だが私は義体兵だ。普通の兵士より多く活動すべき役目だと思うし、またそれができる能力を持っている。なのに2ヶ月も休みつづけなければならないなんて。私にはそうした忸怩たる思いがあった。
そもそも私の体は疲れることを知らないはずなのだ。それなのにどうしてこんなに疲労感を感じるのだろう。
ひょっとして、私はまだどこか壊れてるのではないだろうか。
考えたくはないが、もしかしたら疲労を感じてしまうのは、脳自体に何か異常があるのではないか。
先の戦闘で私は激しく頭部を叩き付けられた。そのせいで脳の機能に異常を来しているのではないだろうか。
ぞっとした。
私の脳の部分は45%の割合で改造されている。未改造部分については問題がないようだ。もしあればこんな風にものを考えたりはできないだろう。私の個性を司る殆どの脳野が私の未改造部分だからだ。
だがそのほかの、改造された部分が故障しているとなれば、死に直結するだけの危険な故障になりかねない。今は大丈夫だが、将来、いや明日にでも深刻な故障を起こしたりしないだろうか。
アマノは大丈夫だという。自分はサイボーグの脳が本来の専門なんで、とまた軽口をたたく。
けれど彼も私の脳をちゃんと検査できているわけではない。義体兵用の病棟にしかない検査機器を使うことで初めて、異常が確認されるのだから。
私の手足が配送されて来るには、まだ一月近くある。
どうにも不安が解消されないので、私は毎日モニタリングのデータを分析して何か異常がないかを探し続ける事にした。
常に襲いくる疲労感や倦怠感と戦いながら、ともすればぼんやりしがちな自分を叱咤し続け、データの解析を続けた。そして、4日目にようやくその数値に気付いた。
それは妙な数値だった。
なぜならそこは、乳房の感度のデータだったからだ。
昨日の夜、午後11時から日をまたいで午前2時までの間の乳房の感度がどうにも私がよく知るデータとは様子が違っているのだ。
私の乳房は感じやすい。たまにパジャマと擦れただけで感じてしまい、乳首が立ったり、あまつさえ快感の為に目が覚めてしまうことさえあるくらいに。
義体兵に改造された当初、この感じやすい乳房には困らされたものだった。
やがて義体の使い方になれるにつれ、感じやすい部位の感度を低く抑えれば、その感じやすさがかなり緩和されることに気付いた。それ以来、私は寝床に就く前には必ず、乳房の感度を押さえてから寝るようにしているのだった。
最近はぼんやりしていたせいだろう、その慣習を忘れるようになってしまっていたのだ。
普段、午後10時には私は床に就く。昨日も同じ時間に眠りに就いた。けれどその感度の低下処置を忘れてしまっていたのだ。
寝る間際にそのことを思い出し、パラメーターを弄る作業を試みたが、結局眠気に負けてそのまま寝入ってしまったのだった。
それがおかしなことに、朝その時のデータを確認してみると、眠りに就いた午後10時から起床した午前5時半までの乳房の感度のログは感覚が押さえられた時のそれだったのだ。
おかしい。
もしかすると、私は自分の感覚の低下処置を無意識に行っていたのかも知れない。長年の慣習のせいで。しかし、疑いは残った。
私は考えた。これは乳房だけではないのかも知れない。私は他の感覚器官─例えば性器など、敏感な部分の感覚も同様に押さえてあるのだが、その処置もあやしい、と。
だから、寝る前に次のことを試してみた。皮膚や乳房や性器のセンサーの感度をかなりめいっぱい上げてみる。触られるだけで絶頂に行ってしまう一歩手前くらいのレベルにまで、感度を上げてみようと。(さすがにそれ以上の感度を上げると脳自体が壊れてしまいそうで怖かった)そしてそのまま、眠るのだ。
そうやって感覚を制限せずに眠ってしまえば、翌朝自分が感覚データのログにその感度が高いままのデータが記載されるはずであろうから。
もちろん、あまりの感度の高さのせいで、少しパジャマと擦れただけで飛び起きてしまうかも知れない。
けれど今私は手足がない状態だ。寝相が悪くなる心配などなかった。
6.
目を覚ますと日がとうに高くなっていた。
仰天して脳内スクリーンに投影されてる時刻を確認する。
──午後1時。
そんな馬鹿な。
絶句せざるを得なかった。こんな、こんなに寝坊をしてしまうなんて。義体兵の自分が。
こんな自堕落な、場末の娼婦のように一日を過ごしてしまうなんて。
そしてこんなに寝過ごしていたにもかかわらずやはり頭は重かった。それどころかいつもよりその重さはずしりとして重みを増していた。
ともすればその重みに負けて眠りこけてしまいそうだったが、何とか集中力を保って自分の感度のデータのログをチェックする。そして、やはり思っていた通りになっていたことを確認してしまった。
乳房を服に擦ってみる。
「あん…」
ほんの少し擦るだけで私はすぐに感じてしまった。連鎖的に下半身も濡れる。
まちがいない。私の体の感度は昨日調整した通り、下手をうつとすぐに絶頂に行ってしまうほどの感度のままだった。
だが今し方チェックしたログデータは全て平均的な感度の数値しか現していなかった。
あり得ない。今でさえこんなに感じてしまうのだから、感度のデータも同じような数値を羅列しなければならないはずなのに。
「…まさか…」
ここに至って導き出される結論はただ一つしかなかった。
誰かが、夜の間の感覚データのログを改竄している、ということだった。
誰が、なんの為に?
いろいろと考えてみた末に出た結論は、とても苦々しいものだった。
「…そんな…でも…!」
だがこの推理に間違いないと思う。
私は夜、誰かに弄ばれている。だがそれを隠す為に私の体のデータのログを、普段のなんでもない数値に改竄しているのだ。
そしてことはそれだけに留まらない。
私は夜、そんな目にあっているというのに、そのことについて全く覚えがないのだった。
きっと、いや間違いなく私はレイプされている。いつもいつもこんなに疲労しているのは、何度も絶頂に至っているせいだと私は推理したのだった。
だが、私はそのことを憶えていない。全く。
これはおかしい。
何故憶えていないのだろうか。
「あふ…」
情けないことに眠気が止まらなかった。
疲労は私の集中力をどんどん割いて行く。
次第に私は夢の中に落ちていった。
朝が来たようだった。
目覚めるのが億劫だった。ただぼんやりと周りを見回すぐらいしかできない。
(そういえば、感度設定を高くしたまま、眠ってしまったんだっけ…)
「大丈夫ですか?少尉」
アマノが部屋に来てくれているようだ。しかし私はそれに応えることすら面倒で目を閉じてしまう。
(間違いないわ。)
二日続けてこんなに疲労してしまっている。
これは感度を極端に高い状態のままに放置しておいたためだ。結局私は感度の再設定を怠ったまま、泥のように眠り込んでしまっていた。
夜、そんな状態で私は犯されたのだからたまらない。強姦者が与える快楽はさぞや凄まじいものだったろう。おそらく死にそうなほどの快楽だったのだろう。だから私はこんなに疲労困憊しているのだ。
(きっと私、昨日の晩も犯されてるんだ…)
疲労は集中力を奪うが、同時に心地よさも与えてくれている。
それは容易に私を眠りへといざなう。
(このまま、ずっと眠っていたい…)
それはまるで凍死する寸前の心地よさのようだった。
(いや、だめ、だめよ。リサ!)
考えなければならないのだ。
どうすればこの状態を終わらせることが出来るのか。それを考えないといけない。でなければずっと、このままの状態が続いてしまう。もしかすると、事態がもっと悪い方向に行ってしまうかも知れないからだ。
(きっと、人工人格が代わりになっているんだ…)
それは昨日、思いついただけで、そこから先を考えることが出来なかったことだ。
眠りに入る直前に私は、別の違うログデータからもう一つの奇妙な事実を掴んでいた。
この特長あるデータは以前にも見覚えがあるものだった。それは人工人格と私の体を繋いだ時に現れる独特の数値だったからだ。
毎晩毎晩、私は犯されている。それはもう間違いないだろう。けれどそれについて私は全く覚えがないのだ。これはおかしい。
その答えが人工人格との接続だ。
まず私という人格の代わりに私の体と人工人格を接続する。そしてその人工人格に私の体の全てを操作させるように設定しておく。
人工人格が体を操ることで、私を犯す者は充分に私の体を楽しみ、まさぐることができる。彼の責めに人工人格がいちいち反応してくれるだろうから。そして事が済めばその人工人格を終了させてしまえばいい。
このからくりによって、コトを私が憶えていないことが説明できる。実際に私を犯す者たちと言葉を交わしたり体を操るのは、人工人格なのだから。
しかし快楽自体は私の脳にも多大な負担を与える。
人工人格はこの快楽をある程度は受け取るが、その大部分が私の脳を直撃するからだ。
そこで、その時の強力な快楽を私自身に感づかれないようにする為に、強姦者は感覚器官のログデータを改竄してしまう。こうすれば私には昨晩どんな目に体があってたのかなんて知るすべがないからだ。
それでも激しいセックスのせいで私はいつも疲労感が抜けない。朝になっても頭が重くてぼんやりとしてしまうほどだ。快感の疲労を解消できずに。
おかしいと思って調べてみても、ログは改竄されてるのだから夜の間行われたことが私にはまるでわからない。
(…)
なんという巧妙なからくりさだろう。
この考えからすると私は夜、ずっとダッチワイフとして扱われているのだ。
散々もてあそばれ、犯され続けているのだ。
「…なんてこと…」
自分の推理に私は絶句した。
犯人は誰なのだろう。
私を、毎晩のように犯している者は。
誰がこんな事をしているのだろう。
7.
真っ先に思いつくのはアマノだった。
なんと云っても彼は私の整備主任だ。彼は私の体のことを知り尽くしているはずだ。私を操る方法なんていくらでも思いつけるはずだ。私が眠っている間に人工人格をインストールするなんてこともなんでもないだろう。
インストールされた人工人格は、おそらく恐ろしくインランな女の人格なのだろう。夜な夜な男を求め快楽を求め続ける、はしたなく卑猥なセクサドールの人格。
それが私の中に入っていったのだ。
ぶるっと震える。両手があったなら、きっと自分を抱きしめたていた。
…
インストール?
私の中に人工人格が、インストールされてる?
別の機器に入っている人工人格と接続されてるわけではなく?
私は慎重に考えてみた。
(…あり得る)
初めは何か人工人格が入ったコンピュータとでも私を接続してるのかと思った。
だがログの内容をチェックしたり、また人工人格を接続する面倒な手間を考えれば、あらかじめ私に内蔵されてるメモリの中にインストールしておく方が便利なはずだ。
私を毎晩のように犯しているのなら、そんな手間に時間を割くより手軽に人工人格を起動できるようにしておく方が便利だろうから。
それなら私の中のメモリを捜せば、どこかにそれが、巨大な容量を占めて存在しているはずだった。すぐにチェックしてみる。
(…あった。)
まるで文字化けしたようなファイル名だった。けどその容量の大きさは人工人格以外の何者でもなかった。
解析してみると、以前、この人工人格を見たことがあるのに気が付いた。
たしか、”マリア”と云う名前の人工人格だ。
まごう事なき娼婦の人格。
(もう…間違い…ない…)
これはもう確実な証拠と言うほかなかった。
この人工人格が私の体を乗っ取り、夜な夜な娼婦の役割を演じ、性交が終わった後、データを改竄するのだろう。
そして私には疲労だけが残り、毎日ぼんやりするしかないのだ。
なんと云うことだろう。
やはりアマノなのだろうか。
いや彼しかいない。間違いなく彼だ。
彼が毎日私を犯し、そしてその感覚データを改竄しているのだ。
彼を追求して、止めるように説得しようか。
けれど、彼がそれを断ったらどうしよう。いや逆上して暴力を振るわれたら?
私は今、完全に無力だ。彼に身の回りの世話をしてもらわなければ、食事すら出来ない。
発砲されたり、ナイフで切り裂かれても、私は簡単にスクラップにされるだろう。
(どうしよう…)
上司である部隊長に相談しようか。
しかしどうやって?私は自力で部隊長の部屋にすら行くことができない。今はちゃんとした回線が開かれてさえいない状況だ。私は完全に休暇扱いになっていて部隊長とは連絡が取れない状況なのだった。メールを送ることすら、今の私には出来なかった。
体の全てを彼に握られている以上、私には彼の欲望を拒むことは出来ない。
(…なんということ…)
そっと嘆息する。
私はアマノには好意を抱いていた。
もしかすると恋愛にまで発展するかも知れない感情が、私の中に芽生えてきているのを、はっきりと感じていた。
もし真実彼が私を陵辱しているのなら、この感情にもピリオドを打たなければならなかった。それがとても悲しかった。
彼も、私のことを憎からず思ってくれていると、うぬぼれていたのに。
それなのに。
(アマノ…)
ああ、涙を拭う手さえ今の私にないなんて。
対処法は限られている。
まずは人工人格を消す。
だが消しただけではダメだ。どのみち私は眠りから覚めさせられ、アマノの相手をさせられるのだろうから。
人工人格を消してしまえば、当然私の体を操る者がいなくなる。だから私自身が人工人格の代わりとなってアマノの相手をしてやるしかない。幸いなことに私はこの”マリア”人格がどんな風に喋り、男を誘う行動を取るか、ということをよく知っている。
でも彼に女を犯す喜びなど感じさせるつもりはない。
あらゆるセンサーの感度を落としてやるのだ。
全くの不感症状態に体の感覚を設定する。これは一つ一つの部位の感度を設定してやらないと意味がないから、すぐに元の感じやすい体の状態にすることは出来ないはずだった。
つまりセックスを白けさせる。
全く感じないマグロ状態の女を抱くのは男の方もあまり燃えて来ないだろう、そう踏んだのだ。
そうすれば今夜はともかく、明日からは私を抱くことに乗り気がしなくなるだろう、そう考えたのだった。
(アマノ…)
相手の方に非があるとはいえ、好きな人をだますことが、どうにも気のりしないことだった。
やっぱりだまされてる振りをして彼に抱いてもらおうか。
アマノは嫌いな相手じゃない。どちらかというと好きな方だ。
抱かれても別にいいじゃないかと、そう、私の女の部分が叫ぶ。
そうすれば、彼と両思いになるのではないかと。
けど一方でどうしてここまでされて、黙っているのかと憤る声もあった。
彼のやっている偽装は悪質だ。なのに人工人格のフリをしたりとか、感度を落としてやるとか、どうしてそこまで卑屈なことをしなければいけないのかと抗議するのだ。
男に思うままに扱われて悔しくないのかと、自分を詰る声もないではない。それは相手に対してもっとはっきりとした復讐を要求していた。
(そんなの…無理よ…)
今の私は、こんなことくらいしかアマノに抵抗するすべがないのだ。
手足を外され、体の自由を奪われ通信能力も奪われた私に、いったいこれ以上の何ができるというのか。
それはもう、何度も考えたことだった。
(よし)
私は意を決して、人工人格を消去に入った。
巨大なファイルで、あちこちに様々なリンクが張られていたが、それでもアクセス禁止のやっかいなパーミッションもなく、すぐに私はファイル消去に成功した。
そして、感度を極低レベルにまで落とす。
本来はあまりこれはいいことではない。
皮膚センサーの感度を完全になくしてしまうと、自分が今どこにいてどんな状態にあるのかと云うことさえわからなくなってしまう危険性があるからだ。
だが今の私には別に問題はない。
両手両足がない状態で、日がな一日ぼんやりとベッドに横たわるくらいしかできないただの人形。それが今の私だからだ。
こんな状態では、義体兵としてのプライドなんて望むべくもない。
8.
ずっと眠っていたせいか、今日はいつもの就寝時間になっても目が冴えて眠ることができなかった。
だが、アマノが私に夜ばいをかけてくるなら、まずは眠ったふりをするのが一番だ。
不安な思いで悶々する。本当にアマノは来るのか。できるなら、来ないで欲しかった。
自分の思いを、裏切って欲しくなかった。
きぃ。
ドアが軋む音だった。
(来た)
やはり、私を陵辱する者は存在したのだ
人工心臓ですら、今は激しく動悸する。緊張が頂点に達する。
ぎしり。
侵入者は、室内に足を踏み入れた。
「少尉。起きて下さい。」
アマノの声がした。
それは、普段の声の調子と何ら変わりないものだった。
(え?)
私は動揺した。まさか自分に声をかけてくるとは思わなかった。寝ているところを襲って、いきなり人工人格を起動させるのだと思いこんでいたのに。
スイッチが入る音がして、室内灯が灯った。
「…う…ど…どうしたの?」
私はまぶしさに目をしょぼつかせ、今起きた風を装った。
心の中で私は驚いていた。大いに動揺していた。こんなにも普通にアマノが入ってきたことに。電灯なんて灯すとは思わなかった。私を密かにレイプするのなら、暗がりで事を済ます方が露見しないはずなのに。けど彼は室内を明るくすることを全く問題にせずに入ってきた。
「…まだ…11時じゃない…朝にははやいわよ…」
彼の平静な声に合わせて、私もごく普通に接するようにアマノに声をかけた。
ひょっとしたら彼は私をレイプしに来たのではないのかも知れない。何か別の用事で彼はここに来たのだ、彼への好意からそう思いたくなった。思い違いをしていたのかも知れないと。
「いえ。これから調整の時間ですから。ですから起きていただいたんです。」
「調整の時間?」
なんだろう、調整とは。
アマノはゆっくりと私に近づく。そして日中いつもやってるように私に接続されてる機器のチェックをし始めた。
「夜もチェックする必要があるの?」
その何気ない振る舞いに、私はすっかり警戒を解いていた。いや面食らっていたというのが正しいかも知れない。
「ええ。」
アマノは言葉を切った。
「セクサドールの調整をね。」
彼がさわっていた機器から、ぱちんと云うスイッチオンが聞こえた。
「え!?」
驚くと同時だった。
突然体を動かすことができなくなったのだ。
手足が付けられてないとはいえ、胴体や首を振ることくらいはできる。だがたった今それもできなくなった。
「あっ…な、なぜ…」
口は動かすことができるようだ。しかし体はまるで金縛りにでもあったかのようにまるで動くことをしない。
「せ、セクサドールって…い、いったい…」
私は推測が当たってしまったことにひどく動揺していた。そんな!まさか!私は心の中で叫んでいた。
「あなたをセクサドールにする為の調整ですよ。もちろん」
アマノは関心なさげにそう云った。
枕元に近づくと、アマノは動けない私の上半身を起こし、首に手を伸ばした。首のジョイント部分を保護するチョーカーを弄った。
ぱちりと音がして、チョーカーの一部に小さなハッチが開く。そこには幾つか端子が並んでいた。
いつのまにかアマノの手には鍵のようなものがあった。
「あっ」それを見て私は驚いた。
それはIDとパスワードを発行することができる電子キーだった。見た目も本物の鍵そっくりだった。そしてそれは見覚えがあるものだった。これを使えば私の後頭部を開閉することが可能なはずだ。整備主任としてのアマノが管理しているものなのだから。
「止めて!」
「頭を開けないで!お願い!」
彼は私の整備を担当しているのだから、普段の状況ならそれは問題ないはずだった。だが今は違う。
ぱちっ。
私の願いもむなしく、彼は無造作に端子の一つに電子キーを挿入した。
途端にパカリと私の後頭部が開いた。
「やめて、アマノ!そこは脳に対して直接アクセスできる端子がたくさんあるのよ!」
私は必死になって彼に懇願した。
だが彼は私の後頭部に回り込んで云った。
「もちろん知ってますよ。私はあなたの整備主任ですから。」
かちり。
「あ、あん!」
今、彼は何かのプラグを私に挿入したようだ。情けないことに私はこんなことでも感じてしまうようだった。
これもたぶん電子キーの一種なのだろう。それでも先ほどの電子キーと違って、今度のものはソフト的な切り替えを促す鍵のようだった。
「……」
何も起こらなかった。いや違う。
私は理解した。
そうか。これが人工人格と私の人格を入れ替える鍵だったんだ。この鍵を使って、アマノは私のメモリにインストールしておいた人工人格を起動したつもりなんだ。
しかし何か起こるはずもない。なぜなら私が人工人格を消去したのだから、入れ替わるはずなんてない。
「…」
アマノは今頃私が人工人格に変わるのを期待しているはずだ。
あの人工人格がどんなものかは知っている。その立ち居振る舞いを私は以前目にしたことがあるからだ。
ここまで自分の予測が的中してしまっていることに、私は激しい落胆を感じていた。
でもやることがある。私はあの人工人格のように振る舞わないといけないのだ。
人工人格に込められた娼婦になりきるのだ。
”マリア”になるのだ。
「…あら…アマノさん…お久しぶり。」
「やあ、マリア」
アマノは背後から応えた。
もう間違いない。
彼だ。アマノが犯人なのだ。私は悲しさと落胆のあまり声を震わしそうになる。
(アマノ!どうして!どうしてこんな事をするの!私は、あなたのことが…)
ダメだ。淫乱な娼婦の人格であるマリアがこんなところでいきなり泣き出しちゃ。
男を迎えるために、うれしそうに話しかけないと。でも。
「今日も遊んで下さるの?うれしいわ?」
アマノが背後にいてくれたのが幸いだった。もし私の顔を見ながら話していれば、決壊寸前の涙に気付くだろうから。
「ああ。昨日も一昨日もお前を抱いたが、いっこうに飽きというものが来なくてね」
「今日もお前をいただきに参上したのさ。」
うしろにいるアマノがどんな顔をして会話しているのかはわからない。けど私の目からはレンズを洗浄する液体がとめどなく流れてしまっていた。信頼していた人から裏切られたという事実が、私の胸に突き刺さる。
「くっ」
「くっははははは!」
突然、アマノが笑い出した。
狂気じみた笑いだった。
首が動かせたら、その様子をしげしげと見たことだろう。
「ど、どうしたの、アマノさん、急にそんな…」
「おーい。みんなぁ。そろそろ入って来ていいぜー!」
突然アマノはドア越しに廊下へ声をかけた。
「え?」
驚くヒマもなかった。
アマノが呼びかけると、ぞろぞろと兵士達が私の部屋には行ってくるではないか。ウツミ、ヤマガタ、タサカ…ムカイ軍曹までも。なんと云うことだろう、第3小隊の兵士が皆顔をそろえている!
「ど、どうして…」
「忘れたのかい、マリア」
「俺は、本当は昨日も一昨日もお前を抱いてないんだぜ?やりすぎで…正直ちょっと疲れててね。」
そう言いながら、アマノは薄笑いで私をのぞき込んだ。
「えっ!」
「だが、ここにいる連中はそうじゃない。」
「昨日のあんたの客は第2小隊だったからな。」小隊長であるムカイ軍曹が云った。
「…」
私は驚きのあまり声も出なかった。
ちょっと待って。
今、なんて云った?
アマノは今、昨日も一昨日も私を抱いてない?
いやその後だ。
”キノウノアンタノ客ハ第二小隊ダッタカラナ”
昨日の客が第2小隊だった、とはいったいどういうことなの?
かちゃり。
開きっぱなしになっていた後頭部のハッチをアマノは閉じた。
「あんたが消した、人工人格のファイルだけどね。」
「あれ、ダミー。」
アマノは冷徹に云った。
9.
兵士達が私を犯し始めた。
しかし、小隊14人をいっぺんに相手になどできない。それで結局一度に三人もの兵士の相手をしなければならなかった。
感度は下げていたはずだ、大丈夫、彼らを満足なんかさせたりしない。私のセンサーは全部不干渉モードになっているはずだ。一縷の望みにすがって、私は震えながら自分を励ました。
くにゅっ。
「あん!!」
ウツミが私の胸をもみしだくと、私ははしたない声を上げてしまった。
(ど、どうして?)
つづいて、キス、そして舌を入れられ、マンコ、クリトリスを触られる。一斉に複数の手や舌にさわられて嘗められる。私の敏感な部分は予想をことごとく裏切って、脳に強烈な快楽を送りつけてきた。
確かに感度は最低レベルにまで下げたはずなのに。どうしてこんなにも感じてしまうの?
努めて冷静さを保とうとしたのに、早くも動揺しきって、もろくなってしまっていた。
「不思議ですか、少尉?せっかくセンサーの感度を下げておいたのにねぇ。今じゃあ、感じまくってぬるぬるだもんね」アマノが云った。
「!」
そんなことまで彼に知られてるなんて!
「さっき、あんたの頭に電子キーを挿れたでしょ?あれ、セクサドールモードへの移行用の鍵なんだよ。」
「おととい、妙にセンサーの感度が良くなってたから、今度からセクサドールモードになった時は、ずうっっっっとあの感度にしとくことにしたのさ」
「!…そ、そうだったの…う、うはあああぁ!い、イクぅぅうぅ!!」
ヤマガタの射精だった。一気に快感の頂点に達してしまう。だが、私をまさぐる手はヤマガタだけじゃない。ウツミの責めもまた、強烈だった。
ただ、乳房を揉みしだかれてるだけで、私は連続的にイかされていた。
「おら、くわえろ!」タサカが乱暴に命令する。何の抵抗も感じずに私は彼のペニスをくわえた。どうして私は彼の云う通りにしてしまうのだろう。
これもセクサドールモードのせいなのだ。男達の要求に素直に応じて、彼らに奉仕する。それがこのセクサドールモードの挙動なのだ。
でもどうして?
いつ、私はこんなセックス人形に成り下がったのだろう?
「あんたは憶えてないでしょうがね。」
アマノは語り出した。
彼はこのセックスパーティーの仕切り役らしかった。兵士達がそのおぞましい欲求を十二分に満たすまで待っているようだった。
「昨日も、おとといも、あんたは、あの人工人格のファイルを消してたんですよ。」
その意味は図りかねた。
「ど、どういう…事…?」
「くっくくく…」
私はその嘲笑を呆然と聞いているしかなかった。
「いやー、おもしろいねぇ。あんた、まるっきり昨日と同じセリフで聞いてくるんだもん。」
「そんなところまで機械仕掛けじゃなくてもいいのにねぇ」
アマノは嘲った。
「毎晩、事が終わった後、あんたにダミーの人工人格のファイルをあそこに置かせてるんだよ。」
私に置かせている?いったいそれはどういう意味なのだろう。
が私にはアマノを問いただす暇などなかった。
「あああっ!!ふはぁあああああああああっ!!!はぁっ!はぁっ!」
三人の男達から絶え間なく攻められ続け、とうに快楽地獄の中に突き落とされていたのだ。絶頂が間段なく私を飲み込み、もはや彼の言葉を聞き分けるだけの集中力を保つのは難しい。
彼らは入れ替わり立ち替わり私を犯す。彼らに休息が与えられても、私はずっと輪姦されて続けているのだ。
「あんたはね、もう人工人格とあんた自身が融合してるのさ。」
アマノの嘲るような声が聞こえる。
「この間の戦闘で、あんたの脳はかなりやられたのさ。そのままほっといたら、確実に死んじまうくらいにね。」
「で、俺はあんたの脳にマイクロマシンを注入したんだ。」
「結果はうまくいったよ。マイクロマシンによる脳の再構成。だがそうなるとあんたの脳みそはもう、生ってわけにはいかない。完全に機械化してしまったのさ。」
「何せ俺の専門は、サイボーグの脳なんでね。脳の機械化なんてお手の物なのさ。」
「あはぁああああああっ!!!!」
衝撃の事実だった。絶え間ない責め苦のせいで私はもう何かを聞くことさえ辛かった。
私はもう、サイボーグではない?そんなっ…。
「だから、俺たちはあんたを死んだことにした。戦死扱い」
私が人間としての扱われる、最後のよりどころはもう、とうになくなっていた?
そんな、そんな、そんな…
「だってそうだろ?義体兵だから、多少問題があるとはいえ人間さまとして扱ってやれるんだ。けど、脳みそも機械になっちまったら、あんたはロボットだ。そうだろ?」
私がロボット?私が?
「人間がロボットになるってことは一度死んだと見なしていいからな。」軍曹が勝手なことを云った。
「で、タチバナ・リサ少尉は死んだわけだ。…がここに元タチバナ・リサだった義体がある。ロボットして問題なく稼働可能。さ、どうする?」
アマノは兵士達に聞いた。
「再利用!」
「りさいくるー!」
私を犯す為に順番を待っている兵士達が、一斉に唱和した。
「タチバナ・リサだけに、リサ・逝く・るーってか」「うまいこと云うなお前」「るーってなんだよ」「気にスンナ」
楽しそうに彼らはさえずる。
「とにかく再利用、再利用」
「そうそう。使えそうな義体だからな。」
「機械だから使い回しても、耐久性があるだろうし」
「何せ、戦場にいるのが長いと、女日照りが長くてよー」
「ダッチワイフな機械人形でも、贅沢は言えねぇしナァ」
男達は口々に勝手なことを吐いた。でももう私にはそれを悔しいと思う余裕すらなかった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
ただただ荒い息をして地獄の責めを耐え続けしかなかった。
「だから、”マリア”をインストールして、あんたの元々の人格と融合させるようにしたのさ」
「あああ!がはぁ!ああああん!」
二人分の射精をアナルとマンコから同時に受けてしまった。快楽は倍加倍増され、体の一部がその強烈な信号に耐えかねて、はぜた。
バチバチとお腹の接合部分が裂けて、中の機械が顔をのぞかせた。
「おい、あんまり無茶すると壊れるぞ」
「このくらいなら大丈夫だよ。アマノが直してくれるさ。」
「部品はたくさんあるしな」
(…え?)
快楽に濁った私の意識でも、その言葉はしっかりと耳に届いた。
「おい!いくらコンテナの部品が残ってるからっていって、脳が壊れたら治せないことだってあるんだぞ!もっと大切に扱え!」アマノは気色ばんで抗議した。
「そん時はこの間使ってた人工人格ってのを使えば、いいじゃねーかよ」
(コンテナの…部品が残っている?)
(そんな…アマノはコンテナの部品は全て破壊されたって…)
そうか。これも嘘なんだ。
私をだます為に彼はこんな嘘を付いたのだ。
そう言えば、車いすにを使って基地の中を巡っていた時、私がコンテナを見たいというと、彼はなぜかあわてていた。
「すいません、邪魔だったんで、埋めたんです」破壊された部品を全て。彼はそう申し訳なさそうにいっていたことを思い出す。
コンテナを見られると困るはずだ。なぜってそれは破壊されてないだろうから。
もし見られれば、部品があるのになぜ私を修理しないのか、と云う疑問に変わり、私という義体兵が必要であるにもかかわらず故障を放置して、修理を要求してこない上層部への不信に繋がる。
基地ぐるみなのだ。
私をセクサドールにしようという陰謀は。
10.
「ふー。ちょっと休憩しようぜ。」
順番が一巡したらしい。皆裸になっていた。
「…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
あまりの気持ちよさに私は頭の中が真っ白になっていた。
私はもう、セクサドールなんだ。
いやだと思っていても、体が勝手に反応してしまう。気持ちいいと思ってしまう。そうなったらもう、自らすすんで快楽に向かってしまう。
たぶん、性器や乳房なんかも軍から支給されたものなんかじゃないんだ。特別製で恐ろしく感じてしまうような。ああ、そう云えばアマノが私に取り付けた部品があったっけ。あれはひょっとして、私の感度を上げる為の機械なんじゃないのかな。
私の心は書き換えられ、義体兵の誇りなんて微塵も残っていないんだ。
私は男達に奉仕する、セックスマシンに成り下がってしまったんだ。
「それにしても、最初はやりにくかったな」
兵士の一人が喋りだした。
「そうそう。腹とか胸とかからケーブルとかが出てたからなぁ、下手をうつとケーブルがこんがらがって、やりにくいったらなかった。」
あの時は面倒だった、と男達は口々に話した。
そうか。
まだ、お腹や胸のパーツが壊れてて、ケーブルやチューブと接続されてた時も、彼らは私を抱いてたんだ。
そんなに早くから。
ふと、思い当たることがあった。
車いすに乗って基地の中を巡っていた時。
やけにみんなが、チヤホヤしてくれたのを、私は思い出した。
あの時私は、やっと皆の中にとけ込めたのだと、とてもうれしく思ってた。
本当にうれしかった。
けど、真相は違うんだ。
みんなはもうすでに、私という娼婦を皆で味わった後だったのだろう。
だから私という性処理道具をみんなで共有しているような、そんな気持ちだったんだ。
みんなの持ち物。
みんなに使い回される機械。
そっか。
私はもう、みんなの間ではセックスの道具でしかなかったんだ。
そうだったんだ。
時刻は午前2時をまわっていた。
長い責め苦がようやく終わった。
室内はすでに照明を落とされ、暗くなっている。
部屋の中には、私とアマノだけが残っていた。
兵士達の汗や唾液や精液にまみれ、体はとても汚れていた。けれど私にはそれを不快に思うだけの気力さえ残っていなかった。激しい快楽がもたらしてくれた心地よい疲労感に、ただ私はたゆたっていた。
(私、本当にセクサドールになってしまったのね…)
そんな絶望感とも、歓びとも取れる感情とともに私は快感の中に漂っていた。
なぜかアマノはそんな私を、ただじっと見つめているだけだった。
椅子に座って、私を見つめてるだけだった。
「私を…どうするつもりなの。」
口を開くのさえ億劫だった。
「…これから私をどうするつもりなの?」
言葉を紡ぐのも辛い。それでもこれだけは聞きたい。
私を、これからどうするのか。
私には、どんな未来が待っているのか。
アマノはしばらくの間黙っていた。私の質問などまるで聞いていなかったように。
もう無視されるだけなんだ。こんな汗と精液で汚れたやらしい人形の質問にさえ答えてくれないんだ。
「私はもう、必要じゃないの?」
「義体兵の私は必要じゃない…?」
アマノ…あなたが好きだったのに。
もうこんなセクサドールなんかには答えてくれないの?
そんな風に自分を憐れんで、ひたすら悲しくなってきた時、アマノはようやく話し始めた。
「とりあえず、セクサドールモードが完全にあんたの意識を書き換えるのが先だな」
「…」
私が求める答えとは、微妙に違う。
「そうなってから初めて付けてやるよ。手足を。」
その時にはもう、私は今の私でなくなるのだ。
「おっと、武装は全部外すぜ?手足を付けても、あんたが俺たちを攻撃したりしないようにな。」
「義体兵にその気になられたら、こんなぺらぺらな基地なんざ即、死体だらけになっちまうからな」
部屋の暗さで、アマノどんな顔をしているのか、全くわからない。
「もっとも、あんたはそんなこと思いもしないだろうけどな」
「その後は?」
「その後、私はどう扱われるの?みんなに。」
一番聞きたいのはそれなのだ。
こんな風に散々に犯されて、壊されて、そして使い捨てにされるんじゃないのかと、私はおののいていた。
体が壊れても直してくれるのだろうか。みんなから奴隷のようなひどい扱いを受けたりしないのだろうか。
アマノは云った。
「今と変わらないさ。この部屋にあんたは居ていい。」
「で、ここでみんなを待つんだ。たぶん毎晩相手をするだろうな。今日みたいにたくさんの兵士の相手を。」
「うっ…うっ…」
涙出た。どうしようもなく涙がこぼれる。
「そうだな。もっとヤラシー格好してみんなを待ってもらうだろうな。エッチな下着がいいってヤツいるし。あとハイレグとかメイド衣装とか。そう言うコスプレもありらしいぜ?」
「そ、そんな衣装、絶対着ません!!」意地になってそんなことしか云えなかった。
だがアマノは聞いてさえいないかった。
「ああ、大丈夫だ。今オオサワ大尉とミナカタが調達に云ってるからな。せっかく後方に行ってんだからついでに買ってきてもらうように頼んだんだ。」
「…!…」
オオサワ大尉と…ミナカタまで…?
一緒にあの敵のゲリラと戦った、彼らも?
「…で、でも…」
でも彼らは怪我をして、後方の病院に入院しているはずなんじゃ…
「怪我をしたのは本当だぜ?けどさ、そんなに重傷じゃないんだよ、二人とも。だから向こうでセクサドール用の衣装を調達頼んだのさ。」
「そんな…じゃあ、もう、彼らは後方の医療施設に送られた時点で、私がセクサドールに改造されてしまうことをわかってたの?!」
「あたりまえだろ」
アマノは近寄って、私のあごをくいと引いた。
「なぜ、この部隊には女が居ないと思う?」
「それは…人事部の不手際とか…人手が足りないからで…」
「公式な理由はな」
聞きたくない。
今から話される理由なんて、私は聞きたくない。
でも目を閉じたくらいでは、天野の声は遮られなかった。
「普通なら、一小隊に最低3人、女が配属されるはずだよな?でも、ここには居ない。なぜだ?」
わからなかった。
「この部隊にはいままで女と云えば、女の義体兵しか配備されてないんだよ。」
「え?」
「部隊長が本部にコネを使ってな。女のサイボーグだけを配備するように仕向けてたんだよ。」
衝撃だった。
まさか、そんな。
「そ、それじゃあ、私が…ここに私が配備されたのも、初めから…」
「そうだ」
「あんたが来る前の義体兵も、今のあんたみたいにセクサドールに改造した。」
「な…」
絶句した。
「生身の女兵士だと使いづらいんでな。その点義体兵なら洗脳できる。セクサドールに書き換えちまえばいい。おまけに壊れても廃棄すれば、ほかのいろんな部品に紛れるから、証拠が残らない。」
「だから、ここには女の兵士は配属されない」
「じ、じゃあ、前にいた人は…!」
アマノは事も無げに云った。
「スクラップ」
「!!!!」
まるで頭を撃たれたかのようだった。
これ以上の衝撃はなかった。彼らは、この基地の人間は義体兵を、私のような女性型のサイボーグを本当にただの機械部品程度にしか考えてないのだ。
「そ…そんな…」
こんなことが平然と行われているなんて。
そういえば私を抱いていた兵士達には、誰も私を性のおもちゃにすることに良心の呵責なぞ感じた風はなかった。
「あ…あなた達は…まともじゃないわ…」
やっとひねり出した非難の言葉にも、彼はまともに答えてくれなかった。
「しょうがねーんだよ。みんな、がっついてさ。やりすぎてとうとう機械脳がイカれちまってさ。人工人格を使ったんだけど、快感を受けるとるのは本来の脳の方だからよ、犯しても反応がいまいちマグロ気味なんだよ。」
「しょうがねぇから、泣く泣く廃棄処分、てわけさ。」
壊れれば捨てる。彼らにしてみればそれだけのことなのだ。
「ま、それでも使える部品は使うけどな。この間あんたに人工肺をつけたろ?あれ、前のヤツの部品だから。」
「…」
悲しかった。
ただ悲しくて、涙が止まらない。本来人工の眼を洗浄する為に使われる液体なのに。
涙を流しすぎてもうすぐ枯渇してしまうかもしれない、とぼんやりと的はずれなことを考えた。
前の義体兵の末路。
それは、私の未来でもある。
わたしも、いつかみんなに責められ続けて、壊されるんだ。
そして、スクラップにされて、廃棄されてしまうんだ。
11.
「さてと、お喋りは終わりだ。明日も早いんでね。」
「ちゃっちゃとやることやって寝ないといけないんだ。」
「…え?」
彼は、自分の端末を持ち出し、それを私の首に繋いだ。かちりとケーブルを接続しただけで、私は声を出してしまっていた。あまりにも感度が良すぎる。もう、私は自分がセクサドールであることを認めてしまっていた。
アマノはそんな私の喘ぎにはまるで関心を示さず、もくもくと端末を操作していた。
「…な、何をしてるの…?」
だが彼は応えない。今度こそ無視されるんだと思った時、また彼が口を開いた。
「今日はよく喋るな」
「昨日、おとといとずっと無口だったのによ」
また私の質問に答えてくれない。
どうでもいいことを行ってはぐらかす。そして私が油断していると、いきなり核心を話し始める。私にとって、とてもひどい事実を。
「まぁ、それはあんたがセクサドールに順調になってきてるって証拠だけどな。」
答えでなくとも、ひどい言葉だった。
「明日にはあんたはもう、従順なセクサドールになってるかもな」
「快感に慣れてきたから、喋る余裕ができた。つまりセックス人形として、あんたの心が変わってきてるってことだな。」
「…」
やはりひどい事実だった。
涙はもう出なかった。
何もかもをあきらめるようになって、悲しみも感じなくなったのかも知れなかった。
「よし」
私が沈黙してると、アマノは端末から顔を上げた。
「んじゃ、記憶、消すから。」
「…っえっ!?」
人工心臓が停止するほどのショックを受けた。
「…え?い、今なんて…」
「だから、記憶、消すから。」
アマノはまるでたばこをもみ消すほどの気軽さで云った。
「や、やめて!おねがい!消さないで。」
「き、気に入らないって云うのなら、もっと従順になります!!でも、お願い、記憶を消すのだけは…!」
「そんなことになったら私は…ほんとに…」
本当に、私はただのロボットになってしまう。
それは、それだけは、本当に。
「全部は消さないさ。」
アマノは思いのほか優しく云った。
「記憶が何もないロボットを抱いてもあんまり面白くないからな。」
「え?」
「じ、じゃあ、いったい…何を…」
私はアマノの言葉におろおろと狼狽えるだけだった。確かにもう、私は命知らずの義体兵ではないのだろう。生殺与奪の権の全てを彼に握られた、哀れな機械人形でしかなかった。
「今日の昼以降、あんたが考えたりしたことや見たことが消えるだけさ。」
「で、あんたは明日起きた時、また考えるんだ。俺が怪しい。きっと俺が自分をレイプしてるんだ。でもどうすればいいの?ってな。」
「…!」
「しょうがないから、センサーの感度を最小にしたり、ダミーの人工人格のファイルを消したりするわけ」
「…」
「で、明日の晩もまた、俺に同じことをいうんだよ。」
「あら、アマノさん、お久しぶりってね」
「…」
そんな、そんな。
つまり、この数日私はずっと同じようなことを繰り返していたというの?
彼の悪事を暴くつもりでいろいろとしていた準備は、何度も繰り返してきたことだというの?
「これを繰り返してると、あんたはやがて本物のセクサドールになる。」
彼は最後の宣告のように云った。
「今の自我よりセクサドールの自我が勝つようになるんだ。」
そう云って、端末のキーを叩いた。
「あぁっ!」
端末からの命令は接続されたケーブルを通じて私に伝わった。その瞬間、私は確かに自分の中で何かが切り替わったのを感じた。
「あ…はぁ…あああ…」
私はしばらく、喘ぐことしかできなかった。自分の中で何かが変わって行くような、そんな感じがする。
「じゃあ、まず、ログデータを適当に改竄しろ。」
「明日、何も知らないあんたが、疑えるほどの平均的な…ノーマルな感度のログデータをでっち上げろ。ああそれから。あと人工人格のファイルも適当に作れ。できるな、セクサドール・リサ?」
アマノは命令した。
私はセクサドール・リサじゃない。
「今、あんたは俺の命令には一切服従するモードになってる。さっきまではもちっと、抵抗できるモードだったんだけどな。」
そんな命令に応えたりしない。私にはそんな命令に応える必要なんて…。心の奥底で私は葛藤した。でも私の大部分はこの命令を喜々として聞いていた。
命令を実行したくてしょうがない。彼は私の整備主任なんだ。彼の命令は喜んで聞きたい。そんな風にしか私は思えなくなっている。
すぐに命令を実行に入る。
自分の脳内スクリーンにウィンドウを映し出し、データのでっち上げの作業を開始し、数分のうちに彼の命令を完了したのだった。
「…終わりました…」
まるで彼に褒められたいかのように、私は報告した。
「よし。次は今日の記憶を消去だ。」
端末の簡易モニターで私の作業を監視してたアマノはすぐになんでもないことのように云った。
「!」
一瞬、私は驚いた。
記憶を消す、とは確かに聞いた。でもそれを、自分の記憶を消去を、私自身にさせるなんて。
なんてひどいことを命じるのだろうか、アマノは。
さすがに私は声を上げて抵抗した。今日一日だけの記憶とはいえ、私にとっては大事な記憶だ。消したくなんてない。
「ああ、い、いやです、ああ…」
でも、無駄な抵抗だった。
「…う…あ……」
命令に従うことへの喜びの方が勝ってしまう。ああ、私はもうほんとにセクサドールになってしまってるんだ。
「…はい。」
「…ご命令に…した、従い…ます…」
記憶を消去するツールを立ち上げ、私は記憶を消去する準備を始めた。ツールに今日の記憶だけと指定してやれば、今やっている作業の記憶さえも消えてしまってても、勝手にツールが消していってくれる。
そして私は躊躇うことなく実行させた。
──実行。
「あああっ!!!」
突然、快楽のエネルギーが逆流したような感覚が私を襲って来た。
「う…あ…あ…ああん…あーーーーーっ!!!!」
目の前が真っ白になって、頭の中が空っぽになったようなようだった。ああ、これはイっちゃった時みたいだ…。私はぼんやりと考えた。
どうやら記憶の削除をすると、こんな風にイキを感じてしまうらしい。
「はぁっはぁっはぁあっ!!!!!」
作業ウインドウのプログレスバーが成長し、記憶の消去が進んでゆく。
がくがくと体を揺らしのけぞる。乳首が立ってぷるぷると乳房を震わせる。口や股間からしとどなく潤滑液を漏らし続ける。
ああ…今日は何度もイっちゃったのに、またイッちゃうんだ、私。
「ああああっ!!!!うぁああああーーー!!!」
記憶が消されるたびに私は何度も絶頂に達した。何度も何度も。あまりの切なさに体はエビぞりになって耐えようとした。ひくひくとお尻が揺れる。股間に潤滑液が垂れ流れて、太ももを濡らしていやらしく光った。しかしとうとう、そのあまりにも激しいエネルギーの逆流は体の他の部分にも、激しい破壊をもたらすようになってしまった。
ワタシってほんとにやらしいなぁ。
バチッバチチッ…!!!………
体の表面にあちこちにある、修理や分解する為のハッチから火花が散る。
「はぁはぁっ!!!くぅああああ!!!」
体が壊れかかっているにもかかわらず、まだワタシは快感に悶え続けた。
ぱん!と音を立ててお腹が爆発し、中にある機械が飛び出た。
「あああああああああああっっっっ!!!!」
まだまだ、絶頂地獄は終わらなかった。
指定した分の消去が終わった。
私の動きも収まった。エビぞりのまま体を硬直させたまま。
人工筋肉を駆動させのたくらせていたエネルギーは、私の意識が飛んだ後しばらくしてその供給を止めた。
硬直した体はようやく弛緩し、ベッドにゆっくりと倒れ込んだ。
再び、私の目からレンズ洗浄用の液体がこぼれていた。
とどめなく、こぼれ落ちていった。
だがもう、なぜ自分がこの液体をこぼしているのかというさえも、私にはわからなくなっていた。
12.
「いいなぁ…」
アマノは独りごちた。
「あーっ!…ああああ…あああ…」
タチバナ少尉は記憶の消去に伴う激しい快感に身悶えしてた。切なげに。
「すげぇ、いい。」
アマノはまたつぶやいた。
「はぁっはぁぁあ!!!!」
だが一方で彼女はその快楽地獄に酔い痴しれてるはずだ。
アマノは勃起していた。
「あーああああっっっ!!!!」
がくがくがく…
彼女は体を痙攣させた。
記憶の消去が終わったのだろう、のけぞってふるふると震えていた少尉だったが、やがてぴくりとも動かなくなった。
アマノは、まだ少女の面影を残すかんばせをのぞき込んだ。
ガラスでできた少尉の瞳には、白痴のような光だけが鈍く反射していた。
「…」
みだれて果てた彼女の顔はすごく可愛い、とアマノは思った。
くしゃくしゃになった髪をそっと撫でてやる。
今の彼女はシステムダウンした状況に近い。あとで再起動してやらないと。
だがそれでも、今日はもう目が覚めないだろう。機械脳と言っても快楽信号を受け続ければその回復にはの時間がかかる。なにせ生身の女性がもし、彼女の受けたものと同じくらいのオーガズムを受け続ければとうの昔に脳卒中で死亡しているだけのものなのだ。機械脳だから耐えられるのだ。
「俺はひどいことをしてるな。」
再びアマノは独りごちた。
初めてタチバナ・リサ少尉に会った時、おっかなそうな女だと思った。
人を容易に寄せ付けなさそうなルックスで、射抜くような目で隊員達を睨みつけていた。
性格はまじめそのもので何事にも几帳面。冷静でキビキビとして、卒なく仕事をこなす。有能な義体兵のステロタイプがそのまま服を着て歩いてるような、そんな女に見えた。
だがそんな印象が変化して行くのに一月とかからなかった。彼女は次第にやわらかな一面を見せるようになっていったのだ。
初めの頃のぶっきらぼうな物言いが、お互いに慣れるにつれ、肩肘を張らない会話ができるようになっていった。
信頼感が生まれ、人当たりは悪くなくなっていった。冗談を言えば笑った。少したれぎみの眼で笑うと、とても可愛いかった。
基地に配備された当初、眼光が鋭かったのは男性だけの環境のせいだ、と云うのもすぐにわかった。単に彼女が緊張していただけだなのだと。
とはいえ、仕事の時となると彼女は厳しい上司ではあった。彼女の体の整備状況を説明する時、その指摘は鋭く、戸惑うこともしばしばで、よくヘコまされたものだ。それでも後でちゃんとフォローを入れる事を忘れず、彼女ならではの気遣いをしてくれた。決してギスギスした人間関係に陥らないように。
男だらけの基地の環境の中でも彼女は皆とのコミュニケーションに前向きに取り組んでいた。積極的に皆と話をしようとしていた。コミュニケーションがうまく行かないと実戦の中で同士討ちだってありえたし、誤射と称して気に入らない相手を殺すことだってあるからだ。
それでも最初からうまく行くはずもなかった。義体兵だからという前に、彼女は軍隊という組織の中では士官であり、そして女性なのだから。こういうことには時間がかかるものだ。
そんな時、落ち込んでうつむく彼女は寂しげで、はかなげに見えた。そんな、時々見せる彼女の女性らしい部分に触れると自分が彼女に惹かれていくのが止められなかった。
人を寄せ付けない表情の一方で、寂しげに微笑んでなんでもないと強がる。そのギャップに、彼は保護欲をかき立てられるのだった。
(こんな娘をセクサドールにできるなんて、俺は本当にラッキーだ)
部隊長の命令とはいえ、初めのうちはこんな女改造したって面白くもねぇ、と不満たらたらだったのだ。
それが彼女に惹かれて行くにつれ、次第に彼女を自分だけのものにしたくなった。
自分の好きな娘を自分の思い通りに改造できる。それは男の夢かも知れないとアマノは思う。
とはいえ、なかなか彼女をおおっぴらに改造するチャンスが訪れてくれなかった。
彼女の整備主任であるとはいえ、脳を弄らせてくれなどとはそうそう言い出せるものではないからだ。
部隊長からは敵と交戦するまで待てと云われた。戦闘の際、彼女が壊れるか、事故が起こって壊れるかするまで待つべきだと。事故とはつまり、味方からの誤射を受けてしまったり、誤爆に巻き込まれるなどだ。
下手に彼女の体を分解させてくれと申し出るのはまずいやり方だ。義体兵を怒らせるのは最悪の選択肢なのだ。その気になれば部隊の兵士全員を屠殺することさえ、彼女にはには可能なのだ。
従って体が破損する事態でもない限り、おおっぴらに彼女の体を分解することなどできなかった。切っ掛けがないと改造なんて無理な話なのだ。
早く改造して自分のものにしたい。そう考えてたアマノはイラついていた。がようやく彼女は前の戦闘でやっと破損してくれた。
実際には彼女の脳にはダメージなど受けていなかった。
治療と改造を平行して行わないといけないのかと初めはうんざりしていたのだが、改造だけに集中できると知ってアマノは喜々としてマイクロマシンを注入したのだった。しかし一日で意識が回復しなかったのには正直焦った。
好きになった娘がこれで死んでしまうのではないのか、何か手順を間違ったのではないかと、激しく落ち込んだ。自分を責め続けた。
だから3日目にようやく彼女が意識を取り戻してくれた時には、彼は本当に安堵したものだった。
アマノは少尉を抱きかかえた。
壊れたマネキンのようになった彼女は、手足がないせいですこし抱えにくい。
兵士達がさんざんに犯し、汚し尽くした彼女を、洗ってやらないといけなかった。兵士達の汗だの精液だのがへばりついていてとても汚らしい。
濡れたタオルで彼女を丁寧に拭き、清潔にしてやる。その所作には愛情が感じられる。
後始末は、彼女の整備主任たる自分の役目なのだ。
それにしても、好きな娘が他の男にいいように陵辱されているのは、正直あまり気分がいいものではない。
快楽に身をよじらせて切なげに泣く彼女は、それだけで彼の勃起を促したし、時々救いを求めるかのように自分を見つめる瞳には、ぞくぞくさせられた。情欲をかき立てられて仕方なかった。
リサにはどこか男を凶暴な野獣にしてしまうメスの魅力があるようだった。
そんな自分を彼女に感ずかれたくなくて、恐ろしくぶっきらぼうにそして乱暴に接したこともある。
その時の彼女の、しょげかえりシュンとした反応に却って、自分の性欲をかき立てられることがしばしばで、彼はますます彼女の魅力にのめり込んでいったのだった。
「まったく、おまえは俺の理想の女だぜ」
皆も、彼女を抱く前から興味津々だったようだ。
セクサドールにしたらどんな風になるのか、どんな反応をしてくれるのかと大いに期待していたようだった。
そしてその期待は報われた。
どんな兵士も彼女にぞっこんになった。
初めは人形抱くほど落ちぶれちゃあいねぇよ、などと斜に構えていた連中もいるにはいた。
それが、溜まったものを出すだけだ、などと云って彼女を抱いた途端、意見を百八十度変えたものだった。
彼女によって命を救われたサノさえもだ。
初めの頃は気が進まない様子だったが、それでも一度彼女を抱く快感を知ってしまうと後はすすんで動いてくれた。
それほど、リサはセクサドールとして理想的な娘なのだ。
ひょっとすると、この基地で改造した娘の中では一、二位を争うほどに人気のセクサドールになるのかも知れない。
丁寧に彼女の汚れをぬぐい取り終わると、すぐにアマノはメンテナンス用のコンピュータとリサを接続した。それから義体管理用のソフトを立ち上げ、彼女が今フリーズ状態に陥っていることを確認する。
(戦争が終わったら、こいつを俺のモノにしよう。)
アマノは密かにそんな企みを抱いていた。
(んで適当な記憶をでっち上げて、メイドにでもしようか。身の回りの世話とかこいつにやらせて。)
彼女の首の裏に手を回し、首輪の後にある強制リセットスイッチを押す。
「ピー…」
彼女は電子音を漏らすと、胸を反らしてふるわせた。乳房がふるふると揺れる。その目はまだ、焦点が合っていない。
(メイドロイド用の人工人格をインストールしなきゃな。ちょっと面倒だが、後々使い勝手が良さそうだし。その時は俺が、今度みたいに調教して人格融合しなきゃいけないな。)
「しすてむ…ちぇっく…カイシ…シマス…」
いつもの彼女らしからぬ声音で、少尉は喋りだした。
(うまく融合すれば、めちゃくちゃエッチなメイドドールが完成するぜ)
「でばいす…ちぇっく…カイシ…シマス…」
アマノはそんな彼女を冷静な目で見つめていた。
(性格はいーんだ。ちゃんと仕事をする。てきぱきと。)
「ちぇっく…シュウリョウ…しすてむ…キドウ…シマス…」
(でもすげー寂しがり屋なのさ。ご主人さまがそばにいないとどうにも沈みがちでさ)
ニヤニヤとだらしなく、都合のいい妄想に耽る。
(第3小隊の連中はすぐにがっつくからな。前のドールもそうやって壊しちまったし。なるべくセーブさせないと。)
「しすてむ…キドウカクニン…でーもん…キドウ…カイシ…シマス…」
アマノは彼女の起動を確認すると、念のためにそのステータスを睡眠モードに強制した。疲労のせいで起動したとしてもすぐに眠りに就くとは思うが、念のためだ。保険を掛けておこう。下手に目覚められるのはまずい。
(俺のものにした時に、脳自体が壊れてたんじゃ、いやだしな。)
アマノはカチャカチャとキーボードを叩く。
(俺はこの娘の今の性格じゃないといやなんだ)
「う…」
ようやく彼女は、彼女自身の声を漏らした。だがぼんやりとした表情のまま、ゆっくりと瞼を閉じてゆく。結局その瞳の焦点は合わず終いだった。
(だからわざわざ、この子の人格に娼婦の人工人格を融合させる方法を選んだんだからな)
歪んだものではあったが、確かにアマノは彼女を愛していたのだった。
少尉が完全に眠ったことを確認しても、アマノは椅子に座ってその場を動かなかった。
じっと、タチバナ少尉を見つめ続けた。
「…いつ、こいつに手足をつけられるかな。」
「完全にセクサドールとして自覚してくれないとだめだしなぁ…」
「…あと…2、3日はかかるかなぁ…」
アマノのひとりごとは続いた。
13.
今日もやはり頭が重かった。
そして今日も、5時半に起きることができなかった。
脳内スクリーンを見て時刻を確認してみる。今は11時だった。
昨日よりは早く起きたはずだけど…でも私、昨日は何時に起きたんだろう。
「はあ…」
いつから私はこんな自堕落な娘になったのだろう。私の体は機械なのに。疲労してるなんておかしいわ。
そうだ。昨日思いついたことを実践してみないと。
えーとセンサーの感度をあげて……
でもやはりあの人工人格のファイルは消すべきよね。
「あふ…」
ああでも…とても眠い…
さっきまで眠っていたのに。まだ寝足りないなんて。怠け者のサイボーグなんて冗談の種にしかならないのに。
そう云えば…どうして、私はこんなにセンサーの感度を上げたりだとか、人工人格をどうこうしようとか考えているのだろう。
「…」
わからなかった。
「おはようございます。少尉」
そう云ってアマノさんが部屋に入ってきた。
「食事、します?」
彼はそう聞いてきた。
私は首をかしげた。変な事を云う。
「あの…アマノ…さん?私…以前のように生身の脳ではありませんし…もう、脳に栄養を供給する必要…ないんですけど?」
そういうと彼はひどく驚いた顔をした。
何か変なことを云ってしまったのかしら。
「あの…ですから…もう義体用のレーションは必要ではなく…」そう、くどくどと説明しようとした時、
「…えと…リサ?」おそるおそる彼は尋ねた。
「はい?何ですか?」
「タチバナ少尉?」また彼は尋ねた。
「…は、ハイ…何でしょう…」しかし少尉と呼ばれることに、私は何か違和感を感じていた。
「あの…アマノさん…私…確かに少尉ですけど…でも…でも…」
「私…もうそんな風に呼ばれるのが…なんか…しっくり来ないって云うか…あの…」自分自身で何を言いたいのかわからなかった。しどろもどろ状態でしか、私は言葉を紡げなかった。
「リサ、って呼ばれる方がいいか?」彼は真剣な様子で聞いてきた。
言葉遣いが先ほどとは変わっている。命令口調だった。でも、それは当たり前だ。私は敬語を使うような相手ではないのだから。
「…」
彼の顔をまじまじと見つめる。
私は曖昧に微笑んだ。
「……ハイ…」
突然、アマノさんが私に口づけした。
その瞬間、びりびりと体中に快感が走り、反射的にあそこが濡れてしまったのを感じる。
「あ…ん…」声を漏らす。ちょっと恥ずかしい。
でもこれが自分らしいと思えてならない。
アマノさんは私の胸を鷲づかみにした。乳首を弄って私の快感を高めて行く。
「あん!ああん!」
「こんな事しても、大丈夫か?」
おかしなアマノさん。いいに決まってますよ。
「わ、私…う、うれしいです…」
私は気持ちよくなってしまって、そう答えるのがやっとだった。体中がしびれてくる。
「セクサドールに、なったんだな?」
「はぁはぁ…わ、私を…こ、こんな風に…したのは…あ、アマノさんじゃ…ないですか…あああん!!!」
「よし。」
アマノさんは決意したように云った。
「今から俺のちんぽをくれてやる。欲しいか?」
普通、いきなりこんな事を云う人がいれば、その人の正気を疑っただろう。けれど私にはもう、そんなことをおかしいと思う感情すら湧かなかった。
「どうだ?」
アマノさんがぎゅっと私を抱きしめる。彼の体温が私の冷たい機械の体を温める。知らず頬が赤らんでしまう。男の人にこうやって抱かれるのはいつだってうれしい。
「で、でも…あ、朝ですよ?いいんですか?朝から…」
「お前の体を調整するのは、俺の仕事のうちだ。」
そうだった。彼は私の整備主任。彼に抱いてもらうのは整備の一環です。
「そうでした。私の整備はアマノさんのお仕事でしたね。」
私はうれしくなってにっこり微笑んだ。
「感度を調整していただけますか?アマノさんのおちんちんを私に挿れて。」
彼の返事は、再びのキスだった。
「私、アマノさんに整備していただくの、うれしいんです。」
ようやく唇を放してくれた時、私は云いたくてしょうがないことを彼に伝えた。
アマノさんが頬を赤らめたような気がしたのは、気のせいだろうか。
彼はすぐに私を愛撫し始めた。乳房だけじゃない。あそこをくちゅくちゅと弄ってくれる。
「は…あああん!!!」
私はやらしい声を上げて喘ぐ。体が切なくなる。
早く挿れて欲しい。
アマノさんのちんぽで私を調整して欲しい。
でももしかしたら、他の兵士が私たちの行為を見て何か云ってくるかも知れない。
なんと云ってもまだ朝なんだもの。
でもそれならこう云えばいいんだわ。
ごめんなさい、ただいま整備中なんです、と。
end.
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