『コンバット・ドール開発史・プロトタイプ零号』
作 破李拳竜様
ドラマ協力/ MCマニア・Rui・人形者
イラスト/破李拳竜・ダイテツ
ATC・1
21XX年、遂に星間戦争に突入した地球は「ゼーダ・バスキュレーゼ連合軍」という外宇宙の星間連合国家からの侵略に対抗するため、国際平和機構は防衛軍を組織、反撃を行っていた。
ここ「ボピー社」は防衛軍の軍需産業を一手に引き受けて数々の軍用兵器を開発してきた。
「どうなんだ?完成の目処は!?」
「ボピー社」の「開発科学部」内「村上研究室」に野太い声が響いた。二十畳程のスペースに四つの机と村上博士の専用机が並ぶ部屋だ。そこの応接室にくわえタバコでサングラスの将軍階級の軍人が村上博士に向かって吼えている。
小柄な村上博士に対し、その軍人は痩身だが背が高く威圧的な態度であった。横にはK−1ファイター並みに屈強な護衛兵士二人がターミネーターみたいに立っている。
村上博士の助手の一人・ケイト・パトリクスは、そんな怖い軍人達に囲まれている村上博士が気の毒でならない。
「AIシステムにまだ若干の難点が・・・」顔色を見ながら答える村上博士であった。
「ただいま〜。」と、この場の空気を無視した呑気な声で部屋に入ってきたもう一人の助手・萩野舞子にケイトは「シッ!」と舞子の口をフサぐ。二人とも年齢も近い若い女性だが、おとなしく慎重なケイトと違い舞子は楽天家だ。
そして彼女は小声で「防衛軍の岸田さん、また来てるの!」と伝えた。
すると「岸田さんって、去年、地球で初めて本格的な宇宙艦隊を指揮して海戦をやってきた、艦隊司令を務めた提督さん・・・だった人でしょう、カッコいいわあ・・・。」舞子は憧れの目で岸田を見る。
しかしケイトにとって岸田司令は、「日本のクリスファー・リーかピーター・カッシング」と呼ばれた吸血鬼俳優に似ているルックスをしていると感じたが、性格は好きになれなかった。横暴な軍人高官以外の何者でもない。
「ウチも色々ロボットを造ってきたけど、今度本格的な人型のロボット兵士を製造でしょ、いよいよSFアニメの世界ね〜。」
ケイトの友人でもある萩野舞子は「ボピー社」の関連企業の社長の一人娘。何でも子供の頃に母親が急遺して、彼女の父親が亡き妻を偲び似せたロボットを製造して、彼女は母親ロボット相手に育ってきたので人型ロボットは馴染みの物らしい。
子供の頃は彼女は「ママがお人形になったの!」と思い込んでいたそうだ。ケイトもその実物を見せてもらったが、動くマネキン人形という印象しか感じられなかった。
イングランドから留学してロボット工学を専攻、「ボピー社」へ就職したケイトは、兵器製造用のアーム型や戦場投入の小型戦車型のロボットなどの製作プロジェクトには携わってきた。
しかし「人型ロボット」の製造に携わるのは初めてだ。クリスチャンである彼女の倫理観では、「神が自分の姿に似せて創ったのが人間。しかし人間が神を真似して、自分の姿に似せて人間のようなモノを造るのは、神への冒涜」という道徳観がどうしても頭をもたげる。一方では「どこまで機械を人間に近づけられるのか?」という興味も湧いてきてはいるのだが。
「・・・と、いう事で、アトはヨロシク!」と、岸田司令は護衛兵士二人と共に足早に部屋を出ていった。
「博士・・・」ケイトと舞子は、うなだれている村上博士に何と言って声を掛ければいいか分からなかった。
岸田司令が怒るのも当然で、ケイトや舞子達が係わるようになったのは最近だが、実は人型のロボット兵士「コンバット・ドール」製造プロジェクトが計画されてからもう一年以上も経っていた。だが、それはまだ試作機製造にも至っていなかったからだ。
コンバット・ドールは、地上でも宇宙空間の戦闘でも使用を前提に設計された。母艦より単一位置エナジーで初発を決め、高機動性運動を行える高出力エンジンの開発と同時に超硬質軽量合金の開発も行われ、合金の分子を瞬時に固め、ガラス状に結集させたテクタイト合金が生成された。
そしてそのテクタイト合金を外装として、跳弾効果を考え曲面構成でデザインされた事からその姿は「女性型」となった。その「女性型ボディ」に組み込めるサイズにまで高出力エンジンの小型化も完了した。だからもう、すぐにでもプロトタイプの1機くらいは出来てもおかしくないだろうというのが岸田司令の言い分だった。
しかし村上博士はまだ二の足を踏んでいる。それは俊敏な高機動性運動や汎用的な運動を行う為には、それを司る人工知能に膨大な要領を要するからとの事だった。
人間の反射神経のような伝達回路を作らなければならず、村上博士曰く「人間の脳と融合させて使用しなければならないくらいだ・・・。」そうだ。
もちろん、機械に人間の脳と融合させるなどという事は出来る訳はなく、人間の尊厳の倫理・道徳観の強いケイトはそんな村上博士の悩みが理解出来るだけに、尚気の毒に思うのだった。
四日後ケイトは村上博士の代理の用件で、岸田司令の居る「ブラック・ベース」へ向かった。身分証明や用件の手続きで少し時間が取られたが、基地内へ通される。広い基地内は物々しく、巨大な宇宙戦闘母艦や揚陸艦が山の如き姿で鎮座している。
初めての軍隊基地に入ってすっかり圧倒されてしまったケイトは、案内された場所にもすっかり迷ってしまいオロオロしている。すると前方から若い女性軍人が二人やってきた。彼女らは、ケイトより若い少女に見えた。
「すみませ〜ん、第六文室へ行きたいのですが、どちらか分からなくなってしまって・・・。」
訊ねたケイトに対し、ブロンドで両サイドを巻き毛にした少女は、「う〜ん、私達もこの基地には来たばかりだからなあ・・・レモネーズ、分かるゥ?」
と、隣のやはりブロンドでショートカットの少女に話を振った。彼女は
「だめだなあミーチム、あっちの北の建物の6階の事じゃない。」と、教えてくれた。
両サイド巻き毛の娘は「あっ、そうか・・・・」と呟くとケイトをまじまじと見て
「ウフ、あなたちょっと可愛いわねぇ・・・」とウインク。
「だめよミーチム、浮気しちゃ!」
この二人、何だか女子高生同士の会話みたいで、全然軍隊の人間っぽくない。それがかえって物々しい基地の雰囲気に圧倒されていたケイトの心をリラックスさせてくれた。
やっと第六文室へたどり着くと、応接間へ通されたが、やがて例の野太い声がして、岸田司令が誰かと話しながらやって来るのがわかった。どうやら相手は女性のようだ。
「村上は慎重というか、ありゃ優柔不断なだけだ!だから唯君に任せるぞ!」
「じゃあ、私の一存で?」
「まだ難しいが、その方向へ持って行く!」そう言い終ると岸田司令は一人で部屋に入ってきた。
「ケイト君・・・だったな、村上君には後で直接私から話すが、今日はとりあえずこの用件だけ伝えてくれ。」いきなり岸田司令は切り出した。
「コンバット・ドールの試作機製造は、他へまわす!」
「ええっ?ウチで、村上研究室は外されたのですかっ?」
・・・頼まれていた「コンバット・ドールの試作機」の主要AIシステムのデータ等を軍部へ渡すとケイトは「村上研究室」へ戻った。
岸田司令の話では、村上研究室は本プロジェクトから外されたのではなく、主要AIシステムを他の所で製作するというものらしいが、それでも良い気分ではない。一応それら全てを村上博士に伝えたが、村上博士は無言で頷いただけだった。
数日後ケイトは、村上博士から「さる問題が起こったから、私と同行してくれ!」と頼まれ、再び「ブラック・ベース」向かう事となった。
博士は「問題は、ロリータ・カルテットに依頼するので会いに行く。」と話した。
「ロリータ・カルテット?芸能人のアイドル・ユニットですか?」と、軍隊関係とは思えないそのチーム・ネームのセンスに呆れてつい微笑んでしまったケイトであった。
「いや、岸田司令が組織した女性の特殊作戦戦闘チームの名前だ。」真顔で答えた村上博士だったがケイトは、やっぱりあの横暴軍人大将がつくったものだったかと、そのネーミング・センスに呆れるだけだった。
〇連載のごあいさつ
この作品は拙作「撃殺!宇宙拳」に登場した「コンバット・ドール」という女性型サイボーグ・ロボットの開発史にまつわるストーリーで、主人公のケイトという娘は劇中たった2コマしか顔を出していないキャラクターで、私自身忘れ去っていたのですが、ここの管理人・人形者さんから「コンバット・ドールにプロトタイプがあった。」と言われ作品を読み返して確認し、やがて、「このキャラクターを『人形姫サイトでも・・・』という事になり、チャット・ドラマを設け、常連のMCマニアさん、Ruiさんにも参加協力してもらい、そのチャット・ドラマをベースにして本作を創造しました。
基本線は「撃殺!宇宙拳」の世界観ですが、私の他の作品のいくつかともリンクさせたので、私の作品読者に二度三度楽しめる物語にしました。もちろん当然、ビギナーの方々にも楽しんでもらえる話にしてあります。
・・・とはいえ、すでに有る設定に絡め、他の話ともリンクさせたりすると、コジ付け辻褄合わせが大変で、先にドラマ後半部分を作り、後から物語前半を作って、決めた設定にコジ付けていった「スターウォーズ新三部作」を作ったジョージ・ルーカスの気持ちが良く分かりました(笑)
読者の皆様の要望は、極力取り入れていく方針なので、どんな事でも意見でも、感想をお待ちしています。
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