◆名作収録コーナー「踊る人形」前編◆



投稿時間:01/02/09(Fri) 23:23
投稿者名:ナイトビダン
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タイトル:踊る人形(前編)

 長尾晋作25歳。CM制作会社に勤め始めたばかりの晋作には同棲中の役者を目指してレッスンに励む恋人・内藤奈津美がいた。
 そんなある日のこと、それまでお互いの夢に向かいがんばってきた二人に転機が訪れる。
 晋作は初のCM制作に参加が決まり、奈津美もまた某CMのバックダンサーに抜擢されたのである。
「で?どんなCMなの?」
「ええとね。詳しくはまだ聞いてないの。でもね、ダンサーは四人だけなのよ。私はその一人に選ばれたってわけ!」
「ホント!?すごいじゃないか!うん、奈津美すごいよ!」
 素直に喜ぶ晋作を見て、以外にも奈津美は不意に表情を曇らせた。
「どうしたの?」
「でもね、なんだかものすごく激しくて難しいダンスらしくて健康診断を受けさせられるらしいの。本契約はその後なんですって。そんなハードなダンス私に踊れるかしら・・・」 晋作は心底心配そうな奈津美を思わずぎゅっと抱きしめていた。細く柔らかい、でも芯のしっかりした奈津美の身体を晋作は全身で感じる。奈津美の髪の優しい臭いが晋作の鼻を快くくすぐってくるようである。
「・・・晋作の身体・・・暖かいな・・・」
「奈津美も、暖かいよ。・・・大丈夫、奈津美ならきっと素晴らしいダンスが踊れるさ。」
「うん・・・晋作がそう言ってくれるなら・・・きっと、大丈夫だね。」
 ゆっくりと晋作は奈津美の身体に回した腕を解こうとする。しかし今度は奈津美が晋作を抱きしめていた。
「晋作・・・。明日の本契約のあと、そのまま撮影日までの一ヶ月缶詰レッスンなの。」
「えっ!?一ヶ月もかい?連絡ぐらいとれるんだろ?」
「うん・・・たぶん大丈夫だと思う。超過密スケジュールで、そう言うのも一切、認めてくれないって話だけどね。」
 晋作は一抹の不安をおぼえていた。でもこれは奈津美にとって人生の転機ともいえる大仕事であるはずだ。
「そうか・・・。君に会えないのは寂しいけどお互いがんばろうぜ。」
「うん・・・。うふふ・・・もしかして、あなたが今度参加するCMだったりして。」
「さあね。あはは・・・そういえば俺もまだどんなCM撮るのか聞いてないや。」
 二人は互いに笑った。
 そして笑いが一息ついたとき二人はゆっくりと身体を重ね合わせ、部屋の電気を消した。

 翌朝、部屋の前で別れた二人の接点はそれっきり途絶えた。
「本当に連絡とれないのかな?」
 あれから一週間が経過していた。
 奈津美からの連絡は無い。晋作はついに我慢できなくなり、試しに奈津美の携帯に連絡を試みた。
「もしもし?」
「誰かね?」
 晋作は息を飲んだ。奈津美の携帯がつながったと思ったらいきなり太い男の声が帰ってきたからである。
「お、俺はこの電話の持ち主の恋人だよ!あんたこそ奈津美の携帯に出るなんて一体誰だ!?」
 しばらくの沈黙。
「私はプロダクションの者だ。彼女は今、動くことができない。」
「電話に出られないということか?」
「そうだ。もう連絡をしないでくれ、彼女たちは調整に忙しいんだ。」
 ブツ!
 荒々しく電話は切られた。その態度に晋作は奈津美の身の上を心配せずにはいられなかったが、このような状態になることはあるていど奈津美から聞いていたこともあり彼女を信じて様子をみることにするのだった。


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