◆名作収録コーナー「踊る人形」後編◆



投稿時間:01/02/10(Sat) 22:38
投稿者名:ナイトビダン
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タイトル:踊る人形(後編)

 二週間がたち、三週間が過ぎた。
 いまだに奈津美から一度も連絡はない。電話もあれからつながらなくなっていた。
 どうもおかしい。
 そう思い始めた晋作だったが、自分の身辺も慌ただしくなってきていた。彼の初参加CMの撮影が始まったのである。
 晋作が撮影当日まで社内機密にされていたCM撮影企画書をやっと見せてもらい、目を通したとき彼は思わず息を飲んだ。
「今日スタジオに搬入されるこの・・・”ダンシングドールSDG−1”から”4”というのは一体なんですか?」
「ん?それか?何でもCMで使う人形・・・というかロボットらしいぜ。人間顔負けの踊りと演技をするんだってよ。なんでも若いかわいこちゃんのロボットらしいぜ。」
 下卑た笑いをもらしながらプロデューサーは立ち去った。
「・・・四人のダンサー・・・身体検査・・・若い女の子・・・は、はは・・・まさか・・・な。」
 晋作は必死に笑おうとしたがその頬はなぜかひきつっていた。
 撮影が始まった。
 撮影スタッフがそれぞれ配置に付き、撮影助手の晋作も自分の位置につく。
 やがてスタジオ入りしたメインの男優が設置されたセットのステージの上に立った。照明が点灯され、スポットライトも準備完了する。
 それを確認した監督が静かに頷いた。
「よし、ダンシングドール出せ。」
 監督の指示が出る。するとステージ脇から銀色の全身スーツに身を包んだ四人の美女達が全く同じ動き、同じ歩幅で男優のまわりに駆け寄ると四人全員同じ微笑を浮かべてポーズをとったのである。
 そのとき晋作は凍りついた。
 目の前の銀色の衣装に身を包んだ四人の中に、これまで連絡の取れなかった奈津美の姿があったのだ。
 あまりの驚き言葉もでない晋作を無視して撮影が始まった。
 奈津美たち四人の美女達は音楽に合わせて、まるで機械制御されてるように一糸乱れぬ華麗なダンスを見せる。その見せる表情の変化までも、まるっきり同一なのである。
「カーット!!いやあ、すごいな。機械人形ってのは。」
 監督が満足そうにうなづいた。
「違う!!」
 そのとき晋作は叫んでいた。
 たまりかねた晋作がステージで微動だにせず動きを止めている奈津美に駆け寄る。
「奈津美!奈津美!おい!俺だよ!わからないのか!?」
 しかし奈津美は晋作の呼びかけに答えない。機械的に顔が動くとモーター駆動音が晋作の耳に聞こえてきた。
 奈津美の黒かった瞳はガラス玉のようなブルーに変わっていた。その中にレンズのような物がピントを合わせるように動くのが見える。
「ワタクシハ”ダンシングドールSDG−4”デス。ツギノダンスデータノ入力モードデスカ?・・・ハイカシコマリマシタ。」
「なんで!?誰が!誰お前をこんな姿にしちまったんだよ!?」
 半狂乱になった晋作は奈津美から引き離され、他のスタッフに取り押さえられたままスタジオの外へ引きずり出された。
「奈津美!奈津美ぃぃぃぃっ!!!!」
 絶叫する晋作は不意に背後に黒服の男達と高価なブランドスーツに身を包んだ男がいることに気が付き振り返った。
「困りますね。うちの商品に手荒なことをしてもらっては・」
 晋作はその声をおぼえていた。それは、間違いなく奈津美の携帯に出た男の声であったのだ。
「し、商品だと!ふ、ふざけるな!奈津美に・・・奈津美になにをしやがったんだお前らは!!」
 掴みかかろうとする晋作とスーツの男のあいだに素早く黒服の男が立ちふさがる。
「彼女たちは私たちのオーディション、さらに身体検査を受けて良好と認められたマテリアルです。CM主演契約を我々と結んだ時点でその場で改造手術を受けていただきました。彼女たちは最先端のサイボーグ技術を用いた高性能”ダンシングドール”として全身を機械化して生まれ変わっていただいたのですよ。もちろん私どもの商品としてね。」
「そ、そんな!奈津美が、そんなこと了承するわけないだろう!!」
「契約書に明記して有りますよ。サイボーグへの改造手術を受けることの承諾、サイボーグ化に伴う全ての人権の放棄、改造手術後は商品として所有権を我がプロダクションに委ねること。今後の燃料やメンテナンス代については摘出した臓器を売却して当てること。などなど。理由はどうあれいったんサインした以上は契約成立です。まあ、日をおきますとさすがに怖くなって後から心変わりされる方も多いですので、みなさんその場で有無を言わさずすぐに改造手術させていただきました。改造後の記憶消去処理から、機体の調整、ダンスプログラムのインプットと一ヶ月間はきつい!いやあ本当、今回は大変でした。納期がきつかったです。」
 男はにやりと笑った。晋作に差し出した契約書のその明記部分は膨大な契約文書のほんの片隅に小文字で描かれているのみである。
「彼女たちをだまして・・・あんな姿に改造したというのか!?」
「言葉には気を付けてもらいましょう。契約は契約です。彼女たちは人間をやめることに
同意したのです。そして機械の肉体を得ることで念願のステージに立つことができたのではありませんか。では私も忙しいので失礼。」
 晋作はがっくりとうずくまった。
 スタジオの中からはダンスの音楽、彼女たちのヒールが奏でるステップの音が空しく響いてくるのだった。。
<了>


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