『星に歌えば』

作karma様




第4話 金田の赴任


あれから一年の歳月が流れた。高位の階級章をつけた一人の男が一人の女性を連れ添って宇宙港にやってきた。
二人は十数名の部下に見送られ、SH003に乗り込んだ。
「まさか、ドルゴール星に赴任することになるとはな。しかも、よりによって、この船で。」
「あなたが、ろくな手柄を上げないから、ドルゴール星のようなド辺境に行くはめになるのよ。こんなことなら、結婚するんじゃなかったわ。」
「容子ちゃん。誤解だよ。副司令官から司令官だよ。昇進じゃないか。」
「どうだかね。前の司令官が定年退職して空いたポストを適当につけて、辺境に追い払われたんじゃないの。」
「エリート軍人というものは、辺境星をいろいろまわってポストが上がっていくんだ。」
キャビンで二人が揉めているところに、一人の女性が声を掛けてきた。
「柿谷さん。じゃなかった。今は金田容子さんですね。さすが、新婚ですね。仲がよろしいですわ。」
「あら、玲子さん。あなたも、この船でドルゴール星に行くの?」
「ええ、宇宙軍の仕事で出張なんです。」
「わざわざ恋人の船で出張なんて、あなたたちの方こそ仲がいいんじゃない。そういえばもうすぐ結婚らしいわね。」
玲子は少し照れて、下を向いた。
「ええ、今度の仕事が終わったら、芳雄が結婚しようって。」
「あら、おめでとう。じゃあ、出張といいながら、実は婚前旅行かしら。」
「ち、違います。ちゃんとした仕事ですよ。」
「どんなお仕事なの?」
「宇宙軍の依頼でロボットを新規開発したんで、ドルゴール星にデモしに行くんです。ここに写真がありますわ。」
玲子は、バッグから一枚の写真を取り出した。そこには、全身を装甲と武器で覆われた女性型ロボットが写っていた。
「へーっ。戦闘用ロボットね。すごい装備だわ。」
「ええ。両胸に2門のレーザーキャノン、両腕にレーザーバルカン、両目と指先にはレーザービームが装備されていますわ。」
「戦艦並みの装備ね。よくそれだけの装備をこのボディで扱えるわね。あっと言う間にエネルギーを使い果たしちゃうんじゃない?」
「動力に反物質を使っているのよ。」
「うへっ。どうしてそんな危険な燃料を使うの?」
「全戦闘能力を使い果たしたときに、自爆して敵を道連れにするためですわ。」
「随分、物騒なロボットね。でも、どうして女性型なの?」
「それは、司令官のご指示で...」
容子は夫をじろっと眺めた。
「あなた、こういうのが趣味なの?」
「いや、こういう殺伐としたロボットは女性型の方が、雰囲気が和らぐと思ってな。」
「どうかしらね。」
容子は再び玲子に向きを変えた。
「緑川スペースシップの戦闘用ロボットって、初めて聞くわね。いままでどうして作らなかったの?」
「いままでも、アーマースーツは製作していたんで、ボディはなんとか製造できるんですが、小型の自立戦略式コンピュータを作る技術が無かったんです。でも全自動宇宙船の技術を使えばなんとかなると思って。」
「じゃあ、このロボットのメインコンピュータは、やはり、例の...」
急に小声になった容子の問いに玲子も小声で答えた。
「まだ、入ってません。地球では調達が難しいので、ドルゴール星で調達しようかと。」
「なるほど。それでわざわざ辺境の星へ行くのね。じゃあ、今はコンピュータ無しなの?」
「今回はデモ用なので、ハルカに使ったのと同じコンピュータを搭載しています。自分で戦略を立てることはできませんが、簡単な命令に従うには充分ですから。」
「そうなの。ハルカはよくできてたわ。気に入っていたのに、赴任の騒ぎの間に回収されてしまったわ。あなた、ハルカはどうなったの?」
「ああ、あれは寿命が来たんだ。ボディの腐敗、いや劣化の程度が大きいんで、緑川スペースシップに回収してもらったんだが、もう手がつけらないということで、しかたなく廃棄処分した。なあ、玲子君。」
金田は玲子に目配せした。
「え?ええ。そうですわ。容子さん。」
金田は玲子に擦り寄って小声で話し始めた。
「ところでもう一体のロボットの積み込みは間に合ったのかね。」
「ええ。昨日、完成して、戦闘ロボットと一緒に格納庫に搬入しましたわ。」
「あなた、なんの話?」
「いや、玲子君と新規開発ロボットの話をしているんだ。なあ、玲子君。」
「ええ。そ、そうですわ。」
「ふーん、そうなの。」
そこへ、船内放送が流れた。
「当宇宙船は、これよりドルゴール星に向けて発進します。乗客の方、席に座り、安全ベルトを着用して下さい。
乗務員は、それぞれ定位について、発進の衝撃に備えよ!」
金田夫妻と玲子は椅子に備え付けのシートベルトを締めた。
「SH003、発進!」
船長の命令とともに、上昇エンジンの轟音が響き、船体が浮き上がった。
上空に達するとメインエンジンが点火し、成層圏めがけてまっしぐらに飛び去った。


第4話 終



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