『星に歌えば』

作karma様




第6話 宇宙ゲリラの罠


そのころ乗降口の外では、山本と名乗った男が小声で階級章にぼそぼそと話しかけていた。
「隊長。時間がかかってますが、大丈夫でしょうか?俺達を宇宙軍と信じてくれますかね。」
耳奥の小型レシーバから返事が聞こえた。
「そんなことで、いちいち通信するな。怪しまれるじゃないか。大丈夫だ。こいつらの中で山本敬吾を知っている奴はいない。
時間がかかっているのは、宇宙軍のコンピュータにお前の顔面パターンを照合しているからだ。
いま超空間通信をハッキングして顔面パターンデータを書き換えたから、船のコンピュータにもバレてない。完璧だ。」
そのとき、乗降口の扉が開いて、金田司令官と乗務員一同が現れた。
「前司令官の山本という者だ。新司令官の歓迎の挨拶に参った。」
「やあ、君が山本君かね。いままでご苦労だったね。」
山本と金田の二人は堅く握手を交わした。
「山本君、紹介しよう。私の家内の容子だ。」
「司令官夫人。ようこそ、ドルゴール星へ。」
「歓迎に感謝しますわ。」
「さあ、司令官、それに乗務員の方々、長旅で疲れているだろう。こちらにパーティの準備をしてあるので旅の疲れを癒やして頂きたい。」
「有難う。是非、参加させてもらうよ。」
「誰か、一人、船に残ってもらおう。」
「それはかわいそうだ。この船は全自動宇宙船だから、誰も勝手に入れんよ。折角だから、全員で参加しようじゃないか。」

乗務員たちが全員パーティに出払って、船内が無人になると葉留香は自分の思考を取り戻した。
「変ね。あの人はあたしの知っている山本司令官と違うのに、軍のデータベースとは一致しているわ。どうなっているの?」
もう一度、軍のデータベースにアクセスしたかったが、外部とのコンタクトはブロックされているので、葉留香はとりあえず船外カメラで周囲をスキャンしてみた。すると、パーティ場の建物の陰に大勢の人影が見えた。最大ズームアップしてみると、それは大量の武装兵士だった。
「どうやら、金田司令官達を襲撃しようとしているようね。こいつら、何者かしら。すぐに襲撃しないところをみると、狙いは他にあるのかな。」
一人の男がトランシーバーで話し始めたのが見えた。
「送信はだめでも、無線の受信はできるかしら?」
周波数をスキャンすると会話を傍受できた。
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「隊長。こんな芝居いつまで続けるんですか?一気に奴等を襲ってしまえばいいじゃないですか。」
「そうはいかん。なんでも、彼らの乗ってきた船は完全自動操縦船だそうだ。襲撃すれば、乗務員を置いたまま離陸してしまうかもしれん。
ワープ空間に逃げ込まれたらやっかいだ。船を完全に乗っ取るまでは、この芝居を続けるんだ。
戦闘ロボットさえ手にいれれば、宇宙軍を蹴散らすことなど訳はない。われわれの戦いは圧倒的に有利になるんだ。」
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「なるほど。こいつら宇宙ゲリラね。宇宙軍を乗っ取って格納庫の中のロボットを狙っているんだわ。」
葉留香は考えあぐねた。
「でも、宇宙船としては、関係ないことよね。知らせることもできないし。」
外部とのコンタクトはブロックされている葉留香には危機を知らせるすべがなかった。
「知らせることができたとしても、それが玲子に知れたら、いまのささやかな自由も奪われてしまうわ。」
葉留香は、このまま成り行きに任せようと思ったが、戦闘ロボットが宇宙軍と戦う状況を想像すると、気が重くなった。
「あのロボットは第一級兵器に指定されているわよね。宇宙ゲリラに渡ったら、どれほどの犠牲が出るかわからないわ。」
葉留香は自分の両親が宇宙ゲリラに殺され、孤児になったことを思い出していた。
「コンピュータのままだったら、こんなこと悩まずに済むのにね。あたしのおせっかいは、こんな風になっても、まだ無くなってないみたい。
どうせ、今の自由だってわずかなものだもの。たとえ、玲子に奪われたって大して違いはないわ。」
葉留香は覚悟を決め、危機を知らせる方法を考え始めた。

パーティ会場に着くと、招待客はその豪華さに圧倒された。
「何、これ。略式じゃなくて、本格的なパーティじゃないの。」
男性達は軍服や制服でまだいいが、平服で来た玲子と容子は場違いに思えた。
「あなた。あたしドレスに着替えてくるわ。」
「困ったな。あたしスーツしか持ってない。」
「じゃあ、あたしのを貸してあげる。」
「有り難う、容子さん。助かったわ。」
「おい、ここまで来てホストを待たせては失礼だ。」
「いや、構わんよ。女性はいろいろあるからな。だが、お二人ともここは不案内だろう。おい、滝沢、今井!ご婦人達を案内して差し上げなさい。」
「了解しました。」
二人の男は敬礼すると、玲子と容子に近づいた。
「我々が御案内します。こちらへどうぞ。」
「有り難う。」

船の乗降口に着くと、一緒に中に入ろうとする滝沢と今井を玲子は制した。
「ごめんなさい。船長の許可無く、勝手に乗船させる訳にはいかないの。」
「すばらしい船なので、ちょっと中を拝見したいのですが。」
「玲子さん。そんな硬いこと言わなくても。」
「ごめんなさい。勝手なことしたら甲斐、いえ、船長に怒られるの。彼、そういうとこ、きっちりしてるから。」
「彼?」
怪訝そうにする滝沢と今井に、容子が弁解した。
「実は彼女は船長の婚約者なの。」
「なるほど。そうでしたか。判りました。後で船長に正式に許可を貰います。」
「すみませんね。」
「いえ、お気になさらずに。」
女性二人が船内に入ると、滝沢が階級章に向かって喋り始めた。
「隊長。乗船は拒否されました。」
「わかった。無理するな。まだ機会はある。」
暫くすると、乗降口が開いて、ドレスに着替えた二人の女性が現れた。
「ごめんなさい。お待たせしました?」
「いえ、そんなこと...」
男が言葉を言い切る少し前に、乗降口の扉が閉まろうとした。そのとき、船内から声が聞こえた。
「そいつ等は宇宙ゲリラよ!」
最初、何のことか判らなかった玲子と容子だが、男達の顔がこわばるのを見て、事態の重大さに背筋が寒くなっていった。


第6話 終



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