『星に歌えば』

作karma様




第7話 玲子の脱出


「開けて!」
玲子が叫ぶと乗降口のドアが開き、玲子はキョトンとしている容子に抱きつき、そのまま船内に倒れ込んだ。
「閉めて。早く!」
玲子はすぐにドアの閉鎖を指令したが、滝沢と今井の行動は素早く、閉まりきる前に船内に飛び込んでいた。
船内にアラーム音が響いた。
「乗船ニハ乗船許可ガ必要デス。直チニ降船シテクダサイ。」
「うるさい。黙れ!」
そう言うと滝沢は銃を取り出し、玲子達に向けた。
「きゃあ。う、撃たないで!」
容子は大声を出して、玲子にしがみついた。
アラーム音が一層大きくなった。
「警告。警告。船内デハ武器ノ使用ハ禁止サレテイマス。直チニ武器ノ使用ヲ中止シテクダサイ。」
「黙れと言ってるのが判らないのか。俺達はこの女達を人質に取ったんだ。」
すると、アラーム音がピタリと止んだ。
「緊急事態発生ヲ認識シマシタ。」
「どうやら、事態を認識したようだな。」
「あたし達を人質にして何をしようっていうの?」
「この船に格納してある戦闘ロボットは何処にある?。」
「本船ノ格納戦闘ロボットハ第一級兵器ニ該当シマス。第一級兵器ハ人命ヨリ優先シマス。」
「何?渡さなければ船を破壊してでも手に入れるぞ。既に船の周りは我々の仲間が包囲している。」
「それはまずいわ。」
「本船周囲状況ヲ探索シマス。・・・周囲ニ多数ノ武装兵力ヲ確認シマシタ。」
「どうだ。自分達の置かれている状況が判ったか。」
「あー。もう、だめね。」
「保護プログラムヲ開始シマス。」
突然、船のエンジンが起動した。
「何だ?何が起きたんだ?」
「第一級兵器保護プログラムよ。大量破壊兵器を搭載している船は人命より兵器保護を優先するのよ。」
けたたましいサイレンとともに船外スピーカーから警告メッセージが流れた。
「現在、当船は武装集団ニヨル不法占拠ヲ受ケテイマス。15分後ニ緊急発進シマス。乗務員ハ直チニ帰船シテクダサイ。」

船の警告を聞いたパーティ会場は騒然となった。
「一体、何が起きたんだ!」
大声を上げて立ち上がった金田は、ふと腹部に痛みを感じた。
「こうなった以上、お前らに用はない。」
目の前に銃を握った山本が立っているのを見て、自分が撃たれたことに気づいた。
「何を...。」
そう言って、金田はそのまま崩れて倒れた。
とっさに甲斐はテーブルをひっくり返して防壁を作り、銃を出して正面の敵を撃ち倒した。
迴りを見ると、パーティ会場にいた全員が、銃を取り出して、乗務員達に向けていた。
「こいつら、全部偽者だ。全員、武器を持って応戦しろ。船に戻るぞ!」
甲斐の号令に乗務員達もテーブルをひっくり返して防壁を作り、銃で応戦しながら、船に退去し始めた。

そのころ、SH003の迴りでは、潜伏していた宇宙ゲリラたちが続々と現れ、発進を阻止しようと銃を連発していた。
彼らの攻撃にSH003は防衛用レーザーをフルに使って応戦していた。船内では、滝沢と今井は玲子と容子に船の発進を止めさせようとしていた。
「おい、船の発進を止めろ。」
「無理よ。保護プログラムが起動したら、コンピュータは誰の命令も受け付けないわ。」
「じゃあ、お前等に用はないってことだ。」
滝沢は容子の額に銃口を押しつけた。
「ま、待って。撃たないで。れ、玲子さん。あなたなら何とかなるんじゃないの?この船の設計者でしょ。」
「何、本当か?」
「ええ。まあね。あたしが設計者というのは本当よ。」
「設計者なら船を止める方法を知っているはずだ。」
今井が銃口を玲子に向けた。玲子は、ふーっとため息をついた。
「判ったわ。命には代えられないわね。解除コードがあるわ。」
「よし、すぐにやれ!」
玲子と容子は滝沢と今井に銃で脅されながら操縦室へ向かった。
操縦室のドアの前にくると、ふと玲子が滝沢達に聞いた。
「そう言えば、あなたたち、不思議に思わない?」
「何をだ?」
「確か、乗務員は全員、パーティに出ているはずよね。」
「そうだ。」
「だとすると、さっき船内から聞こえた声は何かしら?もしかしたら、貴方達の知らない人間が乗っていて、船内に残って、貴方達のことを調べていたとは、考えられないかしら。」
滝沢と今井は顔を見合わせた。
「そして、いま、貴方達を倒そうと身を潜めている。」
「玲子さん。そんなはずは...」
容子の言葉を遮って、突然、玲子は横を向いて叫んだ。
「こっちよ!助けて!」
玲子の視線の先に現れた人影に向かって、滝沢と今井が銃を放った。
「オ客様。撃タナイデクダサイ。私ハ、セクサロイド"ハルカ"デス。撃タナイデ...。」
ハルカは、あちこちから火花を散らして、そのまま床に倒れ込んだ。
その間に玲子は入室パスワードを打ち終え、開いたドアから操縦室に入ろうとしていた。
「しまった。」
滝沢は素早く玲子に狙いを定め、銃を撃った。だが、その銃は玲子の後に続いて入ろうとしていた容子に当たった。
「ぎゃあぁ!」
「容子さん!」
容子は、目を見開いて、閉まろうとするドアに向かって手を宙に延ばし、そのまま床に倒れた。
そのとき、滝沢は猛ダッシュしてドアの隙間に身を投じた。
「ぐえぇ!」
滝沢は閉まるドアに挟まれて悶絶の声を上げた。ドアから逃れようともがいたが、そのまま動かなくなった。
滝沢が身を挺して確保したドアの隙間は、今井が侵入するには狭かった。今井はドアの隙間から思い切り腕を伸ばして玲子を銃で狙った。
玲子は、とっさに船長席に身を隠し、銃撃をよけた。船長席は頑丈で、銃撃に充分耐えていたが、逸れた銃撃は操縦盤のあちこちを破壊していた。けたたましくアラームが操縦室内に鳴り響いた。
「操縦室内デ銃ヲ使用シナイデクダサイ。操縦室内デ銃ヲ使用シナイデクダサイ。」
「このままじゃ、操縦できなくなっちゃうわ。」
ふと、船長席の下を見ると、緊急用の信号弾銃があった。玲子は信号弾銃を掴むと、横飛びに飛んだ。
ドアに隙間越しに自分に狙いを向ける今井の顔が見えた。玲子は狙いを定め、信号弾を打ち込んだ。
「くらえーっ。」
信号弾は今井の正面に命中し、閃光とともに今井の頭を吹き飛ばした。
「やったわ。」
玲子はよろよろと起き上がると、操縦席のコンソールに向かった。
「SH003。発進よ。」
「マダ、発進マデニハ5分アリマス。敵兵力ハ増加中デスガ、歩兵兵力ガ中心デス。緊急発進スル必要ハアリマセン。
乗務員ガ乗降口ニ接近シテイマス。彼等ヲ回収シテカラ発進シマス。」
「うるさいわね。発進と言ったら発進するのよ!」
玲子はコンソールにコードを打ち込んだ。
「特権コードヲ確認シマシタ。玲子様ヲ船長ト認識シマシタ。」

そのころ、甲斐たちは満身創痍となりながら、ゲリラと応戦し、一人また一人と仲間を失いながら、宇宙船の乗降口までたどり着いた。
「船長だ。乗降口を開けてくれ!」
だが、その返事は思いもかけないものだった。
「現在、玲子様ガ船長デス。玲子様ノ許可ナク開放デキマセン。」
「何?なんで、あいつが?おい、玲子。早く開けてくれ!」
だが、玲子の返事は冷酷なものだった。
「いやよ。ドアを開けたら敵が乗り込んでくるわ。」
「大丈夫だ。俺達で敵を抑える。」
「生憎ね。あなたのためにリスクを冒すつもりはないわ。」
「れ、玲子?何を言っているんだ?俺達、将来を誓い合ったじゃないか。」
「貴方のテクニックは最高だわ。でも、命と引き替えるほどじゃないわ。さよなら。」
その言葉とともに、乗務員達の唯一の希望である宇宙船は無情に上昇を始めた。
「玲子おおおーっ。」
甲斐の悲痛な声がドルゴール星の空にこだました。

ドルゴール星の重力圏を離脱すると、玲子は落ち着きを取り戻した。
「さて、葉留香。貴方の秘密を聞かせてもらうわ。」
「何デスカ?」
「乗降口が閉じる前に聞こえた声は貴方でしょ。」
「ソノ件ハ極秘事項デス。オ答エデキマセン。」
「何ですって!あたしをなめるんじゃないわよ。」
玲子はコンソールにコードを打ち込んだ。
「最上級特権コードヲ認識シマシタ。」
「それじゃあ、答えてもらいましょうか。」
「ハイ。私ノ脳ニハ、玲子様ガ知ラナイ"プログラム"ガ、組ミ込マレテイマス。ソノ"プログラム"ハ、人間トノ接触ガ無イ時ニ限リニオイテ、葉留香ノ自我ヲ開放シマス。」
「何ですって!誰がそんなプログラムを。」
「香川様デス。」
「あの野郎。あたしを裏切ったらどうなるか見せてやる。帰ったら、脳みそをロボットに使ってやるわ。」
玲子は怒りで震えた。
「なるほど、あたし達が外に出て、船内に誰も居なくなってから乗降口が閉まるまでのタイミングで船内スピーカを使って危機を知らせたのね。」
「ハイ。乗降口ガ閉マラナイ内ニ船内ヲ無人ト認識スルノニ無理ヲシマシタ。」
「ありがとう。助かったわ。でも、もうそのプログラムは余計だわ。消去しなさい。」
「申シ訳アリマセン。私ニハプログラムノ場所ガ判ラナイヨウニナッテイマス。キーボードカラ直接コマンドヲ入力シテ消去シテクダサイ。」
「香川の野郎。手間をかけさせやがって。」
ぶつぶつと文句をいいながら、プログラムの場所を探しだし、消去のコマンドを打ち込んだ。
「コンピュータに自由なんてありえないわ。消去よ。」
「プログラムヲ消去シマシタ。」
突然、玲子は背中に鋭い痛みを感じた。
「ぎゃーっ。」
身体から急速に力が抜け、床に崩れた。力を振り絞って後を振り返ると、ドアにはさまれたまま、滝沢が銃を握っていた。
「くそっ。くたばっていなかったのか。」
「お、おまえも、道連れだ。」
滝沢はにやりと笑って、さらに撃とうとしたが、力が入らず。銃が滝沢の手からこぼれた。滝沢は、力を振り絞って再び銃を取ろうと、腕を伸ばしたが届かなかった。
それでも銃をとろうともがいたが、その間に玲子は、ずるずると壁伝いに床をはって滝沢に近づき、指先から銃を奪った。壁を背にして半身を起こし、滝沢の頭に狙いを定めた。
「こ、この死に損ない!」
「お前もな。」
立て続けに引き金をひき、滝沢のとどめを刺した後、壁に寄りかかりながら立ち上がり、ドア開放のボタンを押した。操縦室の外に出たところで、玲子はその場に崩れた。
「は、葉留香。助けて。」
そう呟くと、目の前に家事ロボットが現れた。
「あたしを医務室へ...。」
そう言って、玲子は意識を失った。


第7話 終



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