『星に歌えば』

作karma様




第8話 戦闘ロボット発進


玲子が滝沢の凶弾に倒れた30分後、SH003から緊急通信が地球にはいった。
「司令官。ドルゴール星に向かったSH003から超空間緊急通信です。」
「なに?SH003から?」
司令官と呼ばれた男がマイクを取った。
「地球基地司令官の中田だ。SH003。そちらからの定期連絡が途絶えて、こちらも心配している。何があったのか、教えてくれ。」
「SH003ヨリ報告シマス。ドルゴール星ノ宇宙軍ハ、宇宙ゲリラニ占拠サレテイマシタ。」
「何だと?」
「乗務員ハ、降船シタトコロヲ襲撃ニ会イ、全滅シマシタ。」
「玲子はどうした?」
質問したのは、緑川武則、緑川スペースシップの社長、つまり玲子の父親だった。
SH003から定期連絡が途絶えたという連絡がはいり、娘が心配になって宇宙軍基地にやってきたのだ。
「玲子様ハ、金田容子様ト本機ニ乗リ、襲撃ヨリ脱出シマシタ。」
「よかった。」
だが、続く言葉は武則の心を抉った。
「デスガ、離陸直前ニ、2名ノゲリラガ船内ニ侵入シ、戦闘トナリマシタ。」
「何。そ、それでどうなったんだ?」
「容子様ハ、敵ノ弾ヲ背中ニ受ケ死亡サレマシタ。」
「何と。金田君の奥方も。くそっ。」
「そ、それで、玲子は?」
「玲子様ハ、信号弾銃ヲ使用シテ1名ノ頭部ニ命中サセ、他ノ一名ハ操縦室ノドアニ挟ミ、敵ノ銃ヲ奪ッテ頭部ヲ撃チマシタ。」
「さすがは玲子だ。」
「デスガ、敵ノ銃ヲ奪ウ直前ニ、銃撃ヲ受ケ、重傷デス。現在ハ容態ガ悪化シ意識不明デス。」
「うおおおっ。玲子がそんな。なんてひどいことを。」
武則はその場に崩れた。
「おのれ!宇宙ゲリラめ。中田司令官、すぐにドルゴール星に兵を出してくれ!」
「それはいいが、最も近い宙域からでも3日は必要だ。ゲリラが逃げるには十分な時間だ。」
「くそっ。何とかならんのか。」
「現在ゲリラノ戦闘機ガ本機ヲ追跡中デス。私ハ玲子様ヨリ、戦闘ロボットヲ発進スルヨウ命令ヲ受ケテイマス。戦闘機ヲ破壊後、ソノママ、ドルゴール星ニ向カワセマス。」
「ちょっと待て、SH003。戦闘機の破壊はいいが、ドルゴール星に向けるのは保留だ。いまある戦闘ロボットは簡易電子脳しか搭載していないはず。
安易に使用すると、敵にロボットを奪われて逆に兵力を与える可能性がある。」
「玲子様ハ意識不明ニナル前ニ、船内ノ利用可能ナモノヲ全テ利用シテ戦闘ロボットノ電子脳ヲ改造シマシタ。」
武則がそれを聞いて何かに気づいた。
「船内で使えるもの?そうか、判ったぞ。金田容子は背中だけに被弾したんだな。」
「ハイ。」
「ん。緑川社長。何の話です。」
「いや。何でもない。司令官。玲子が手を加えたのならロボットは大丈夫だ。頼む。玲子の恨みを果たさせてくれ。」
「大丈夫かな。急場で改造したロボットでしょう。」
「万一のときは、反物質炉を暴走させて自爆させればいいことだ。」
「うーん。判った。SH003、玲子君の命令を遂行しろ。」
「了解シマシタ。」

戦闘ロボットが覚醒したとき、宇宙空間に漂っていた。
「私ハ、KY004。」
なぜ自分がそこにいるのか判らなかった。覚醒以前の記憶が全くなかった。何か記憶があったような気がしたが、何も思い出せなかった。だが、自分のなすべきことは明確だった。
「私ノ使命ハ、敵ノ殲滅。」
内蔵レーダが反応し、敵の戦闘機が接近していることを知らせた。両眼のカメラで確認し、照準を合わせると両肩のレーザーキャノンが火を噴いた。
戦闘機は、破片となって虚空に散っていった。しかし、まだKY004の使命は終わっていなかった。両脚の噴射口からロケット噴射し、戦闘機が来た方へ進み始めた。
ドルゴール星が見えてくると、多数の迎撃戦闘機が近づいてきた。KY004は両脚のロケットを自在に操り、敵の攻撃を避け、両肩のレーザーキヤノン、両手のレーザーバルカンを撃ち放ち、瞬く間に迎撃戦闘機を全滅させた。
宇宙空間での移動についての知識が、自然に身についていたが、それが何に由来するのか判らなかった。
考える間もなく、大気圏に接近したので、大気との摩擦を電磁シールドで防御しながら、猛スピードで地上に落下していった。
やがて、ドルゴール星宇宙軍宇宙港が見えてきた。
発着場に隣接する建物が遥かに見えた。その建物に見覚えがあったが、記憶バンクをサーチしても何も記憶がなかった。
「着地目標、前方ノ建物。」
地表が猛スピードで接近してくると、なぜか恐怖心を感じた。
「オ、落チル。コ、怖イ。」
激突の寸前、怖さのあまり、視覚をオフにしてしまった。そのまま激突したが、電磁シールドに守られ思った程、衝撃は無かったが、建物があった場所は巨大なクレーターに変わっていた。
シールドを解除し、両脚のロケットを噴射してクレーター最下部から地表面に飛び上がると、無数の光弾が接近してきた。
待ち構えていた一面の戦車隊とアーマースーツ隊と空から戦闘機部隊が一斉放火を浴びせた。
KY004は脚のロケット噴射で左右に移動しながら、戦車隊をレーザーキヤノンで薙払い、アーマースーツをねじ伏せ、ランチャーミサイルで戦闘機を撃墜していった。
敵の兵力は、ほとんど壊滅状態であった。残った数機の戦車と戦闘機は、後退を始めていた。一方、KY004も無傷ではなかった。
「両脚のロケット噴射口、破損。」
もともと、宇宙空間での戦闘用に重装備、重装甲にしたボディは、地上戦においてロケット噴射を損なうと、機動力を全く失ってしまった。
次々と捨て身のアーマースーツ隊にタックルをかけられ、地表にたたきつけられ、集中砲火を浴びた。
両脚を失い、レーザーキャノンを破壊され、両腕を吹き飛ばされ、ようやく、戦闘ロボットは動かなくなった。宇宙ゲリラたちは、ほとんど全兵力と引き換えに勝ち取った勝利に喜びの声をあげた。
だが、KY004は最後の攻撃を仕掛けていた。
「全兵力、破損。攻撃、不可。最終攻撃手段、用意。全反物質燃料ヲ炉内ニ投入。」
反物質炉内の内包エネルギーが急上昇し、爆発限界に近づいた。
「・・・イ、イヤ。自爆、怖イ。」
恐怖心が、KY004を満たしたとき、過去の記憶が走馬灯のようによみがえった。
「そうか、あたしは人間だったんだ。」
そのとき、閃光がKY004の周りを覆い、ゲリラの残存兵を全て吹き飛ばした。

その光景は、ドルゴール星から100万km離れたSH003にも見えた。そして、その映像は超空間通信を通じて、地球の軍基地にも送信された。
「うおおおっ。やったぞーっ。」
ドルゴール星の軍基地のあたりが閃光に包まれると、基地内部でどよめきが起きた。緑川武彦は涙を流していた。
「司令官。SH003から連絡です。」
「どうした?」
「悲シイオ知ラセデス。只今、玲子様ノ心臓ガ停止シマシタ。」
その連絡を聞いて、緑川武彦はその場に泣き崩れた。
「玲子おおーっ。見届けてくれたかーっ。お前の思いを果たしたぞーっ。」
いつまでも泣き続ける緑川武彦に誰も声を掛けられなかった。
「SH003、ご苦労だった。容子君と玲子君の遺体を地球に運んできてくれ。」
「申シ訳アリマセン。ゲリラノ戦闘機ニ受ケタ攻撃ノタメ、ワープエンジンガ停止シツツアリマス。コノ超空間通信モ10分程度デ不通トナリマス。」
それを聞いた緑川武彦は慌てた。
「司令官。すぐにSH003を救助に行ってくれ!」
「緑川社長。すぐにドルゴール星には調査のために宇宙軍を派遣するが、連絡のとれない漂流船を救助するのは不可能に近いぞ。」
「それでもいい。SH003を探してくれ。玲子の遺体を持ち帰ってくれ。」
「後3分デ通信ガ途絶エマス。」
「頼む、SH003。玲子の顔を見せてくれ。これが最後になるかもしれん。」
「了解シマシタ。」
ベッドの上に寝かされている全身包帯の緑川玲子の姿がスクリーンに映った。
「玲子。そんな姿になって。」
「後1分デス。」
「SH003。ご苦労だった。君が無事地球に戻れることを祈っているよ。」
「有難ウゴザイマス。」
SH003がそう言ったとき、スクリーンは真っ暗になった。
「玲子。玲子。」
泣きじゃくる緑川武彦の肩に中田司令官は何も言わず、そっと手を置いた。中田司令官はその時、歌声を聞いたような気がした。子供の頃聞いた懐かしい曲のようだった。

3日後、ドルゴール星に到着した宇宙軍は、周囲の宙域をくまなく探したが、ついにSH003を見つけることはできなかった。


第8話 終



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