フレンズ

作:KEBO 様



「ねえ、今日ウチに来ない・・・」
「いいの?」
「いいんだって。ウチのパパ当分帰ってこないし」
「えー、じゃあいっちゃおうかな」
「ねえ翔子」
「なあに」
「わたしたち、ともだちだよね」
「何言ってんのよ、当たり前じゃないの」
 翔子は笑った。プチ家出ももう五回目だ。親も「そのうち帰ってくるだろう」ぐらいにしか思っていないようだ。
 このマリと知り合ったのは一月ほど前、やはりプチ家出をしていた万里子から紹介された。とは言っても万里子も彼女と知り合って一週間ぐらいだったらしい。名前がマリどうし、気があったのだという。
「そういえば、万里子最近見ないね?」何の気なしに思い出して翔子が言う。
「そうね、出てこないね」マリが答える。
「ま、いいか」翔子は、口に出しながらそう思った。別に万里子がいなくても、今はマリがいるからそれなりに楽しいのだ。それよりも、マリのおかげで今日は一晩街で明かさなくても良くなりそうなのが嬉しかった。
「行こうよ」
「うん」
 マリに従って、翔子はマリの家に向かった。


「うわあ、すごい!」思わず声を上げる翔子。そこは、高い塀に囲まれた、邸宅と言って差し支えないほどの家だった。
「本当にここ、マリんち?」思わず聞いてしまう翔子。マリは、微笑みながら肯いた。
「ウチのパパ、会社で結構エライらしいんだ」
「へーえ・・・」翔子にしてみれば、こんな邸宅に住むような「お嬢さま」が自分たちのような、言うならば不良だとはどうしても思えなかった。
(お嬢さまが不良ごっこしてみただけなのかな)そう思いながら、翔子は興味津々の顔をしながらマリに続いて門をくぐった。


「はあ、さっぱりした」タオルで髪を拭く翔子。マリの部屋には自分用のシャワーまであった。
(本当の金持ちは違うね)そう思いながら、服を着る翔子。それを楽しそうに眺めながら、マリは何かおつまみのようなものを広げていた。
「お腹空かない」
「ビール、欲しいね」思わず正直に言う翔子。
「あるよ」マリは笑顔で答える。「ちょっと待ってて」
 部屋を出ていくマリ。
(なんか、天然みたい)翔子は、まるでマリが召使いか何かのような錯覚を受けた。そういえば今までマリは、何を言っても笑顔を崩したことがない。
 髪を拭きながらゆっくりと腰を下ろす翔子。目の前に、お菓子ともつかない物が置いてある。翔子は、それを見て「カロリーメイト」を思い浮かべた。
(まさか、ねえ)
 程なくマリが戻ってくる。
「ごめん、ビール冷えたのないから、すぐ持ってこさせるから」
「持ってこさせる?」翔子は簡単に言うマリに少々面食らった。
「うん。すぐ来ると思うから」
「マリ、それってさ・・・」言いかける翔子。彼女の心の中に、嫉妬とも羨望ともつかないものが沸き起こりつつあった。おそらくマリはまったくそんなことは思いも寄らないだろう。しかし、翔子にはマリの態度が、非常に恩着せがましいような、嫌みったらしいようなものに感じられなくもなかった。しかし、
「食べない?」翔子の言葉を遮るように、皿に手を伸ばすマリ。やはり、まったく悪気はないのだ。翔子は急激にマリのことが鬱陶しくなった。おそらく万里子も同じような気になったのだろうと翔子は思った。
「これ、何?」そんな思いを顔に出さないように、翔子も皿に手を伸ばした。シャワーまで浴びてそんなことは、さすがに彼女も口に出すわけには行かなかった。
「パパの会社の製品なんだって。結構おいしいよ」何事もなかったように食べるマリ。翔子もそれを口に運んだ。マリの言うとおり、そんなに悪い味ではなかった。空腹には一応効くようだ。やはり「カロリーメイト」と同じようなお菓子なのだろうと翔子は解釈した。
 無言でむしゃむしゃと、皿を空にする二人。なんだかんだ言いつつ結構腹が空いていたのは確かだったのだ。
「ねえ翔子」突然マリが真顔で言う。
「何?」
「わたしたち、友達だよね」
 翔子は少しうんざりした顔をする。
「あたりまえじゃないの。そんなこといちいち言わなくても・・・」
 ドアが開いた。
ビールをお持ちしました
 缶ビールをトレイに乗せて、女が入ってくる。まるでレオタードのようにフィットしている鈍い銀色の全身スーツを着た女・・・・・
「・・・・・・!」思わず息を呑む翔子。女は、虚ろな表情のまま、震えているのとは違う、妙にカクカクとした動きで缶をテーブルに置く。
「どうかした?」その翔子の顔を見て不思議そうな顔をするマリ。
「どうかしたって・・・・」翔子は言えなかった。女は、万里子そっくりだった。まるで万里子をモデルにした人形のような・・・・それにしては、顔や髪が生々しすぎる。
失礼します」入ってきたときと同じように部屋を出ていく女。
「い、いまの・・・・」まだ収まらない心臓のドキドキを押さえるように胸を押さえながら、翔子がやっとという感じで口を開く。
「あ、召使いロボットの一人よ。ウチ、パパと二人だし、家のことはロボットがみんなしてくれるのよ」
「ロボットって・・・・いまの万里子そっくりだった」
「ええ、あれの元になったのは万里子だもの。パパの会社、ロボットも作ってるの」何事もなかったかのように言うマリ。
 翔子は、背筋に悪寒が走るのを感じた。マリが何を考えているのか、まったくわからない。友達のロボットを作って自分の召使いにしているなど、悪趣味もいいところだ。おそらくマリは翔子がいなくても翔子そっくりのロボットを作らせるに違いない。
「どうしたの?そんな青い顔して」マリが顔を覗き込む。そのマリを、翔子は思わず突き飛ばした。
「何するの?」悲しそうな顔をするマリ。
「マリ、どういうことかわからないけど、友達そっくりなロボットこき使って楽しい?わたしは、気持ち悪いよ。そんなの・・・・」
「翔子・・・・」
「ごめん・・・やっぱりわたし、マリの友達にはなれないわ。友達をなんだと思ってるのよ・・・・・」
 そう言ったときだった。マリの表情が変わった。
「やっぱりそうなんだ・・・」
「何よ?」マリの顔を見て、少したじろぐ翔子。さっきまでとは違う、何か憑かれたような表情のマリがそこにいた。
「友達だよって言ってもみんな本当はわかってくれないんだ。わたしのことなんて」
「どういう事よ?」
「わたし、とっても寂しいのに・・・・いつも誰かに一緒にいて欲しいのに・・・・」
「マリ?どうしたの?」
「万里子もそうだったわ。わたしは万里子にずっと一緒にいて欲しいから、何でも言うこと聞いて上げたのに・・・・」
「万里子?何があったの?」
「みんなわたしから離れていっちゃうの・・・でも、万里子には一緒にいて欲しかった。だから・・・」
「だから・・・?」
「生まれ変わった万里子は、ずっと一緒にいてくれるわ。何があっても。そのために万里子には生まれ変わったんだから」
「もしかして・・・・あれは・・・まさか?」
「やっぱり翔子にも食べさせておいて良かった。翔子にも、一緒にいて貰う」
「ど、どういうこと・・・」翔子は思わずあとずさった。マリはおもむろに、何かリモコンのようなものを取り出すと翔子の方に向けた。
「な、なによ・・・・」
「怖がらなくてもいいの。痛くないから。翔子、機械になっても、わたしと一緒にいてね」
 リモコンのボタンを押すマリ。
「なに?え、ああああああ・・・」
 翔子の腹に、何か電気ショックのようなものが走る。次の瞬間、なにかが体の中に拡がりはじめた。
「ななな・・・ななににををししたたのの・・・・」はっきりと言えない言葉で翔子が言う。腹から拡がった何かが全身に行き渡っていく。それは決して苦痛ではなく、むしろ快感に近いものがあったが、それ以上に翔子にとってはおぞましく感じられた。
「何も考えなくていいよ・・・・気持ちいいでしょ。万里子、いらっしゃい」
はい、マリさま」虚ろな目の万里子が部屋の中に入ってくる。しかし翔子はそれをもう見ていなかった。
「ああああぁぁぁぁぁ」身体の中を、何かが這い回るように伸びていく。それと同時に、彼女の身体は言うことを聞かなくなっていった。それは身体のどの部分にも例外なく行き渡っていった。
 頭の中を掻き回されるような感覚に、彼女は悲鳴を上げたつもりだったが、声は出ていなかった。時々、意識が途切れる。と同時に、身体のどこかが麻痺していった。手足が指先から痺れ、一瞬電流のような感触を受けるとともに感覚がなくなっていく。その電流が、徐々に身体の中心部に向かって動いていった。
 やがて、頭頂部のビリビリが、頭の中心部に到達する。
+*−/%$&’()|#$
 翔子の意識が、絶頂感とともに弾けたそして次の瞬間、彼女の理解することができない情報が、嵐のように頭の中に流れ込んできた。
(脚部関節ユニット接続完了)
(腕部ユニット作動確認完了)
(発声ユニット接続)
(腰部ユニット化80・・・90・・・100完了)
(生体メモリーバックアップ完了)
(生体脳組織細胞置換開始)
(メインモニター作動確認完了)
(皮膚組織細胞置換完了)
(胸部動力ユニット切替・・・生体部細胞置換開始)
(神経ユニット稼働開始)

 身体の感触が戻ってくる。彼女はそれが身体の感覚だと自覚したが、それはいままでとはまったく違う、信号としての感触だった。もっとも彼女にそれを判別することはすでに不可能だった。
(生体脳組織細胞置換完了)
(基本プログラムロード要求)

 マリの指先が、翔子のこめかみに触れる。翔子はそれを感じ取ったが、その瞬間、翔子の、完全に細胞置換された脳は命令を発した。
(ダウンロード開始)
 翔子は自分の頭が冴え渡っていくのを感じた。大量の情報が流れ込んでくる。彼女はそれをすべて認識し、各部の駆動用に振り分けていった。そして、唐突にマリのデータが流れ込んでくる。彼女はマリの命令に絶対服従しなければならないことを認識した。そう認識することにまったく抵抗がなかった。
(ロード完了・・・起動)
 ゆっくりとたちあがる翔子。
「翔子・・・・ずっと、いっしょにいてね」マリの表情が変わったのを翔子は認識した。しかし、それがどういう感情の表情なのかは理解できなかったし、理解する必要もなかった。それよりもしなければならないことがメモリーによって照会され、彼女は即座にそれを実行した。
かしこまりました、マリさま
 翔子は、そう発声した。


「困ったものだな・・・・」
 首から下を、銀色の機械皮膚細胞組織に置換された二人の娘が焦点を失った目を開いたまま横たわっている。彼女たちはMARI、つまりかつて北川の娘だったアンドロイドに服従する使用人ロボットになされてしまっていた。その耳の後ろからはケーブルが伸び、端末に繋がれている。彼女たちの個人情報はすでに端末に落とされ、北川は問題にならないように手を打った。
 その横に、首を外されたMARIの胴体が、そしてその横の台にMARIの首が置かれ、やはり首と端末は繋がれていた。知らないものが見たらさぞ仰天しただろう。MARIの胴体は若い娘のそれとしか見えない。首との接合部さえなければ・・・・。MARIの解体はリモコンでのみ可能なように設計してある。接合、分解の際には機械皮膚細胞が自動的に分離結合するのだ。
 端末に、MARIの記憶、つまり翔子と万里子が機械化されたいきさつが表示されている。
 機械化細胞組織体が紛失したのが一週間ほど前だった。北川は、まさかこんなところにその機械化細胞組織体があったとは思いも寄らなかった。瀕死の娘を改造し、決して歳をとらないアンドロイドにしたのは北川自信だった。しかし、学習能力は人間のようには決してならない。何度叱ってもMARIに道徳やモラルといったものは身に付かなかった。だからこそMARIは家に閉じこめておいたはずなのだが・・・・・
 おまけに、データによれば万里子よりも翔子の時の方が改造に至る時間が短い。MARIは、自分の気に入らないことが少しでもあれば思い通りにすることができるのを学習しているのだ。
「まったく、悪知恵ばっかり覚えやがって」
 機械化細胞組織体を見せたのが悪かったのだろうと思う。有機物の体内に植物の根のように神経のような機械化細胞を張り巡らせ、全身一気に機械化する。北川が動物の複雑な動きを機械に取り込むために開発したものだ。これを見て、MARIは自分の仲間が増やせると思ったに違いなかった。服従プログラムをインストールするなど、本当に北川も感心するほどだ。
「まあ仕方ない。しばらくお仕置きだ」北川は、MARIのメモリーに叱られているイメージを注入することにした。そして、翔子と万里子には、絶対服従ではなくある程度の自立性を持たせた「お友達」プログラムを注入するのだ。もちろん、MARIの監視役として。
「ま、三人仲良く遊べよ」北川は苦笑してキーを叩く。
 MARI、翔子、万里子それぞれの目が開き、めまぐるしく動き回る。やがて端末のモニターにデータのインストールが完了した旨を告げるメッセージが現れた。
「起動!」そう言いながら北川がキーを叩く。
 目の焦点を調整し、ゆっくりと、かつまったく同じ動作で立ち上がる翔子と万里子。
「おまえ達にはロックをかけておいた。MARIに簡単に洗脳されるなよ」再び苦笑する北川。
わかりました。ご主人様」抑揚のない声で、合わせたように二人が答える。
 モニターに何かが表示される。
”パパ、ゴメンナサイ”
「おおそうだ。繋ぐのを忘れてたよ」
 MARIの首からケーブルを外し、北川はMARIの首と胴体を繋いだ。
「パパ、ごめんなさい!もう悪いことしないから」泣き顔、裸のまま北川に抱きつくMARI。叱られているイメージがメモリーからロードされているのだろう。
「よしよし、これからはこのおねえさんたちの言うことよく聞いて、良い子にしてるんだよ」
 翔子と万里子が虚ろな目でMARIを見る。
「はいパパ」しおらしく肯くMARI。
 しかし北川はちっともそれを信じてはいなかった。MARIの学習機能はロボットの中では随一なのだ。約束が破られるのは、北川の技術の高さの証明でもある。複雑な想いで、北川はMARIの頭を撫でた。

<おわり>


※このお話はすべてフィクションであり、登場人物その他すべてのものは実在のものとは全く関係ありません。


<作者あとがき>
 そんなわけで、今回はボーナストラックなしです(笑)
 ちょっと勢いで書いてしまいました。結構雑なのはお許し下さい。例の斜体の件で実験してみましたが、どうでしょう・・・?なんかいまいちな気も。一つ一つタグ入れるのは長編になったらしんどい気もしました(手間の割に効果が・・・)
 機械化方法的にはボーグ(TNG)をイメージしてます。どうも液体系はバイオライダー思い出してしまいます(^^;;;;
 というわけで、今回も最後までのおつきあいありがとうございました。
 2003.3. 5

※このお話に関する著作権は作者であるKEBOに属します。無断転用・転載はお断りします。
 お問い合わせ等ありましたらこちらまでお願いします。

(c)KEBO 2003.3. 5

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