『からくり魔人』

作 karma 様



第1話 異界からの侵入者

山間の豊かな自然に恵まれた山賀の国は、名君の誉れ高い山賀泰然の統治によって、平和な反映を誇っていた。
山賀の国の象徴である朱雀山は、古文書によれば、かつては何度も噴火したらしいが、いまはその雄大な姿を人々は崇めていた。
朱雀山を背景にそびえ立つ山賀城の天守閣から山賀泰然は眼下に広がる城下町を眺めていた。
今、城下は夏祭りの最中で、今夜、朱雀山の火口から打ち上げられる花火を見ようと、山に向かう人で賑わっていた。
夏祭りの一大風物である朱雀山の花火は、泰然も楽しみにしていた。
「父上。ここにいらしたのですか。」
「おお、亜耶か。こうして、平和な城下を見ていると、心が休まるのだよ。ところで、沙耶はどうした?」
「姉上なら、そろそろ涼しくなったからと言って、いつものように。」
亜耶が庭の方を指差して言った。城の庭から、娘の沙耶と剣術指南の楓の気合の声と木刀のぶつかりあう音がかすかに聞こえてきた。
「また、剣術の稽古か。あんなに男まさりでは嫁のもらい手がないぞ。まったく、双子なのにどうして亜耶のように女らしくできないのか。」

庭では二人の娘が白い胴着姿で木刀で鍔競り合いをしていた。亜耶と瓜二つの娘が叫んだ。
「楓。今日こそは一本奪ってみせる!」
「姫様。腕をあげましたね。でもまたまだです。」
そこへ、亜耶が近づいてきた。
「姉上、父上がお呼びです。そろそろ朱雀山の花火が始まるから、天守閣へ来るようにと。」
「父上が?しかたない。楓、勝負は一時あずけるぞ。」
「判りました。では、勝負は後日ということで。」
そこへ突然、突風が吹いて、三人の娘は吹き飛ばされ、地面に打ちつけられた。
「きゃあ!」
風の吹いた方を見ると、そこには虹色の輪が地面より一尺ほど宙に浮いて、グルグル回っていた。
「あれは何?」
輪の中心に光が集まり、競りあがって何かの形になろうとしていた。
そのころになると、警護の家臣たちが異変を聞きつけ庭にわらわらと集まってきた。
「姫様、大丈夫でござるか。」
「楓殿、怪我はないか。」
「あ、あれを。」
沙耶が指さした輪の中心には、全身漆黒の甲冑を纏った、身の丈十尺はある大男が立っていた。
「何者だ!」
「何処から来た!」
「名を名乗れ!」
家臣たちは沙耶と亜耶をかばいながら、虹色の輪を遠巻きに囲んだ。
「はっ、はっ。これは、興なり。この地にも、我が創作意欲を満たす女人あり。汝ら双子なりや。」
大男は沙耶と亜耶の方を向いて言った。甲冑の面に隠れて表情は見えないが、心なしか、笑っているように見えた。
大男は、沙耶と亜耶に向かって一歩を踏み出した。沙耶は亜耶をかばって、前に出た。
家臣達は一斉に刀を抜き、沙耶と亜耶の周りに集まった。
「姫君から下がれ。下郎。」
「下郎とは無礼なり。我が名は、からくり魔人。崇高にして偉大な芸術家なり。何人も我が創作を阻むべからず。」
からくり魔人が手をぐっと前に突き出すと、指先から雷がほとばしり、家臣達をなぎ倒した。
「ぐああっ。」
「いかん。近寄っては危険だ。弓矢隊を呼べ!」
姫を守ろうと、家臣達は魔人に切りかかるが、なすすべもなく、魔人の雷に倒れた。
騒ぎを聞きつけた泰然が弓矢隊とともに到着したころには、家臣はほとんど地面に伏していた。
「弓を射れ!」
泰然のかけ声とともに何十、何百の矢が魔人に向かって飛んだ。
だが、かすり傷も付けず、矢は全て漆黒の甲冑にはじき返された。
「汝等の攻撃は我に効力なし。」
矢を一向に気にすること無く、魔人は両手を突き出して雷撃を放った。魔人への攻撃はまったく効果がなかったが、魔人からの雷撃は確実に弓矢隊も泰然も、倒していった。
「む、無念。くーっ。」
「汝等、今だ息ありや。ふむ、虫けらすら殺せぬほど、わが弱りしは、彼の地よりの転移に力を使い果たしたればなり。」
「沙耶!亜耶!逃げてくれ!」
「娘、我が元へ。」
魔人は沙耶と亜耶に手を延ばした。
「よ、寄るな。」
「あ、姉上!」
沙耶は亜耶をかばいながら、後ずさりした。
「姫様、危ない。」
魔人の手がまさに沙耶と亜耶を捕らえようとしたとき、楓が飛び込み、二人を突き飛ばした。魔人の手は、二人の代わりに楓を捕らえた。
「か、楓!」
「は、放せ、この魔物!」
「ほう。汝も我が作品となるに値せん。」
そこへ、騒ぎを聞きつけ、新たな弓矢隊がやってきた。
「弓矢隊、前へ!標的はあの魔物だ。」
「まて。射るな。楓が捕まっておる。楓に当たるぞ。」
周りで弓を構える弓矢隊のことなど気にもせず、魔人は楓を引き寄せ、抱きかかえた。
「我にとって、この者達を倒すことは、易きこと。なれど、汝が如何なる作品になるべきか、疾く見んと願う。」
そう言うと、魔人は楓を抱き、そのままゆっくりと空中に浮き上がった。
「いかん。このままでは楓がさらわれてしまう。止むを得ぬ。矢を撃て。撃ち落とせ。」
隊長の号令で、弓矢隊は空中の魔人に弓を向け、一斉に矢を撃ち放った。
「汝らの攻撃、我に効くもの無し。しかれども、我、素材の傷つくを恐る。」
魔人が矢の来るほうに手のひらを向けると、矢は魔人に届く前に、見えない壁に跳ね返され、ぱらぱらと地面に落ちた。
何時しか朱雀山から花火が打ち上がりはじめた。
「我が再起を祝う花火なりや。」
そう言いながら、花火を背景に魔人は空高く舞い上がった。
「楓ーっ。」
「姫様ーっ。」
沙耶と楓の叫びは、虚空に消えていった。


第1話 終



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