『からくり魔人』

作 karma 様


第11話 亜耶との再会


山賀城の地下深く、かつて地下牢に使われていた場所に亜耶を含める生身の女達全員が隠れていた。
差し入れに外から男たちが訪れることは珍しくなかったが、女人が訪れることはありえなかった。
薄暗い階段を降りて来る旅姿の女人を見て、亜耶は素早く傍らの火縄銃をとり、火縄に点火した。
亜耶は狙いを定め、引金に指をかけた。
既に、外の娘たちも銃を取り、火縄に点火していた。
女人は階段を降り、亜耶のほうに手を伸ばした。
相手が人形娘なら先手必勝、ためらっている余裕はないことは充分承知していた。
亜耶が指に力を込めると同時に声がした。
「待って!私よ。亜耶。」
その声を聞いたとたん、あっと思ったが、指は既に引金を曳いていた。
どーんという音が地下牢内に響いた。
「姉上!」
亜耶の意志にかかわらず、弾丸は銃から放たれた。
しかし、弾丸は当たらなかった。
伸ばした手のひらの前で弾丸は停止し、そのまま地面に落ちた。
「久しぶりに会えたのに、あなたは姉を撃ち殺すつもり?」
なつかしい声を聞いて、亜耶は涙ぐみそうになった。
「あ、姉上!よかった。当たらなくて。」
警備の侍が扉を開けて飛び込んで来た。
「今、銃声が聞こえましたが、大丈夫ですか。」
「大丈夫です。警備を続けなさい。」
沙耶は警備の侍に命じると、亜耶に向き直った。
「元気そうね。安心したわ。」
女中達も沙耶の迴りに集まって来た。
「姫様。よく、ご無事で。」
「ええ。皆の者にも心配掛けました。」
亜耶が言いにくそうに話しかけた。
「姉上。父上のことなんだけど・・・。」
「さっき、信之輔に聞いたわ。どの遺体が父上か判らなかったけど、手を合わせて来たわ。」
牢屋の奥から、添え木をした脚を引きずって、女中の桔梗が沙耶に近づいてきた。
「姫様。ご無事で。」
「桔梗。どうしたのですか、その脚は?」
「ここへ逃げ込むときに骨折してしまいました。それより外はどんな様子ですか?何日も地下にいるので、全く判らないのです。殿方に聞いても心配するなというばかりで。」
「ひどい有り様です。城は跡形もありません。男たちはここを守るだけで手一杯です。当面人形娘の侵入を防ぐことはできるでしょうが、このままでは、いずれ弾薬も尽きるでしょう。」
「これからどうすれば。」
「何か脱出方法を考えたほうがいいでしょう。」
「そうですか。でも、私は足手まといになってしまいますね。」
桔梗は脚にそっと手をあてた。
「私に見せてみなさい。」
沙耶は桔梗の脚に回り込み、しゃがみこんだ。
「医者にかかることもできず、難儀をしております。」
沙耶は、折れた脚に手を当てた。
不思議な感覚が桔梗の脚を包んだ。
「どうですか?」
「姫様、不思議です。痛みが薄らいできました。」
しばらくして沙耶は桔梗に言った。
「歩いてみなさい。」
そう言われて、桔梗は恐る恐る足を前に出した。
「痛くありません。姫様、ありがとうございます。」
桔梗は、その場に泣き崩れた。
「姉上。すごい。それが法力なの?」
「そうよ。ほかにも、病の者とか、怪我をした者はいるの?」
「お松が、熱を出しているわ。お梅は、傷が化膿している。」
「判ったわ。」
何人かの女中たちの手当てをした後、沙耶は旅姿から胴着と袴に着替え、木刀を腰に差した。
「姉上、その衣装は何?」
「修行のときに着ていた胴着よ。これが一番落ち着くの。」
そのとき、外がにわかに騒がしくなった。
「何か有ったようね。様子を見て来るわ。」
「姉上。外は危険よ。」
「大丈夫よ。」
亜耶の忠告も聞かず沙耶は表に飛び出した。
外では男たちが右往左往していた。
沙耶は地下牢入口警備の鉄砲兵に聞いた。
「何があったのですか。」
「人形娘の襲撃です。危険ですから奥に隠れていてください。」
「私なら大丈夫です。あなたは警備を続けなさい。」
「あっ。姫様!どこへ行くんですか?」
鉄砲兵の呼び止めも聞かず、沙耶は鉄砲兵の流れの後を追っていった。兵達は南の城壁に集まっていた。
崩れた城壁から人形娘が侵入し、信之輔が鉄砲隊を指揮して応戦していた。

「よく狙え!集中砲火を浴びせねば、あいつらは倒せぬぞ。」
火縄銃が一斉に火を吹き、無数の穴が開いた人形娘の体が倒れて行った。
だが、人形娘は後から後から、仲間の身体を踏み越えて、押し寄せていた。
「早く前列、交替しろ!雷撃の射程に入る前に撃て!」
前列が後ろに下がり、後列が銃を構え、一斉に射撃した。
「戦況はどうですか?」
後ろから沙耶に声を掛けられ、信之輔は驚いた。
「姫様。ここにいては危険です。早く地下牢に隠れてください。」
「私なら大丈夫。それより押されているのではないですか。」
「ええ。いつもより、格段に人形娘の数が多いです。ここも何時突破されるかわかりません。ですから、早く非難してください。」
そう言っているうちに、人形娘の隊列は雷撃が届くところまで達していた。
最前列が腕を伸ばした。
「いかん。来るぞ!退却だ。」
逃げる鉄砲隊の後ろから雷撃が襲い掛かった。
「はっ。」
沙耶が両腕を伸ばし、気合をこめた。
見えない壁が人形娘の雷撃を防ぎ、鉄砲隊を守った。
信之輔は、まじまじと沙耶を見た。
「今のは、姫様が?」
沙耶は頷いた。
「法力結界です。雷撃が止みました。いまのうちに早く次の攻撃を。」
「よし。皆の者!雷撃は姫様が防いでくれるぞ。心置きなく攻撃しろ。」
「うおーっ。」
それまで、押されていた鉄砲隊は勢いを盛り返し、人形娘を次々と撃破した。
そのとき、伝令がやってきた。
「大変です。北の城壁が破られました。」
伝令を聞くと、信之輔は沙耶の方を向いた。
「ここはもう大丈夫です。姫様、北をお願いします。」
「判りました。」
「姫様が?」
「いいから早く、姫様を案内しろ。」
「は、はい。」
伝令の侍の案内で、北の城壁に着くと、人形娘が鉄砲兵を襲っていた。
すでに、ほとんどの人形娘は倒され、2体だけだったが、指揮を失った兵達はただ散り散りに逃げ惑い、人形娘の雷撃を受けて、ばたばたと倒されていた。
沙耶は木刀を抜き、一体の人形娘に駆け寄った。
「素体ヲ発見。所有武器ハ木刀ノミ。特ニ攻撃力ハナシ。直チニ捕獲スル。」
人形娘は沙耶めがけて右腕を飛ばした。だが沙耶は簡単にそれを木刀で切り落とした。
「訂正。素体ハ未知ノ攻撃力ヲ有ス。二体デ捕獲スル。」
もう一体が合流し、一体が沙耶めがけて左腕を飛ばすと同時に、別の人形娘が沙耶に向け雷撃を放った。
沙耶は右手で結界を作って雷撃を防ぎ、左手の木刀で飛来した腕を受け止めると、ぐるっと木刀を回した。
腕は軌道を変え、雷撃娘に向かった。
雷撃娘は、飛来した腕をとっさに雷撃で破壊した。
その隙に沙耶は間合いを詰め、雷撃娘を両断した。
残った腕なし娘はその隙に飛び蹴りで攻撃してきた。
沙耶はさっと身を低くしてかわし、すれ違いさまに両断した。
沙耶の活躍を見ていた鉄砲兵たちから歓声があがった。
「姫様、すごい。」
「見事な技です。」
鉄砲兵の喝采を受けて、沙耶は手を振った。
悲壮感が溢れていた彼らの目は今や希望に満ちていた。
希望は沙耶だった。


第11話 終




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