『からくり魔人』
作 karma 様
第12話 勝利の宴
その日の夜、有り合わせながら、盛大な宴会が開かれた。
地下牢に隠れていた女達も久しぶりに外に出て宴会を楽しんだ。
沙耶の帰還、人形娘との戦いでの圧勝と久しぶりに心躍る日となった。
突然、どーんという音とともに夜空に一輪の花が咲いた。
「うわー。きれい。」
沙耶は夜空を見上げ、散っていく花火を楽しんだ。
兵士たちも、おおっと声を上げて、一斉に拍手した。
「どう?姉上。」
花火の上がった方から亜耶が現れた。
「とってもきれいだったわ。」
「姉上が帰ってきたら見せようと思って、朱雀山で大々的に花火祭りを準備していたのよ。でも、こんな騒動でなくなって。せめて城の庭でと思ったけど、火薬は貴重品だから一発だけね。」
「ありがとう。私のために貴重な火薬を使って。ところで、いまのは亜耶が打ち上げたの。」
「ええ。魔人に備えるためにみっちりと銃と火薬の使い方を覚えたわ。そのとき、ちょっとだけ花火の作り方も覚えたの。」
「すごいわ。魔人に備えたのは私だけではなかったのね。」
「姉上こそ今日は大変な活躍をしたそうですね。鉄砲兵たちの間で噂になっているわ。」
「活躍というほどではないけど、修行の成果が皆の助けになってよかったわ。」
「雷撃を防いだり、木刀で人形娘を斬ったそうですね。すごい技だわ。習得に苦労したのでしょう。」
「法力自体はすぐに体得できたのだけど、最初のころは、どう使えば魔物に効くのかわからなかったの。使い方が判ったのは、小須茂殿に会ってからよ。」
「小須茂殿って?」
沙耶は亜耶に綱木村での出来事を聞かせた。
「まあ、そんな方がいらしたのですか。私も是非お会いしたいわ。」
二人が、離れていた間の他愛もない話をしていると、そこへ信之輔と宗十郎がやって来た。
「姫様。すごい技です。信之輔、感服しました。」
「もっと早くもどっていれば、多くの人達を救えたのですが。」
「今からでも遅くありません。これまで籠城するしかなかったのですが、姫様の力があれば、希望があります。」
「私も同じことを考えていました。このまま籠城していてもいずれは弾薬も尽きます。脱出を考えましょう。」
「脱出?何をおっしゃるのですか。姫様の力と三百丁の鉄砲があるのですから、ここは攻めるべきです。」
「しかし、まだ敵の力は分からない以上、ここは兵を立て直すのが先決と思いますが。」
「いや、ここで我々が脱出すれば、敵は警戒します。反撃はないと考えている今こそ、反撃の好機です。」
沙耶が反論しようとしたとき、鉄砲兵の数人が割り込んで来た。
「お願いです。おらの娘はあいつらにさらわれちまっただ。いまごろ人形にされてるだ。おら、仇討ちがしてえ。」
「おらは、実際に自分のかかあを撃っただ。いまでもそのときを忘れられねえ。」
「おらも、自分の娘を打ち殺しただ。姫様の力でおらたちを守ってくだせえ。そしたら、あの魔人の土手っ腹に穴をあけてやります。」
「皆の気持ちは判ります。でも冷静になって考え直してください。」
いつのまにか、沙耶の迴りには鉄砲隊が取り囲み、地に頭をつけていた。
「お願いします。姫様。」
「力をお貸しください。」
一心に請い願う雑兵たちの姿に沙耶は何も言えなくなってしまった。
「姫様。この者たちは皆、魔人に一矢報いたいと思っているのです。」
沙耶はしばらく考え込んでいた。
「分かりました。明日魔人城を攻めましょう。」
「うおーっ。」
鉄砲隊は大歓声をあげた。皆、酒をあおり、踊り始めた。
成り行きを見ていた亜耶が心配そうに寄って来た。
「姉上。本当に魔人城に攻め込むつもりなの?」
「彼らの気持ちはもう魔人を倒すことしか考えていないわ。いま、彼らを止めれば、戦意を失うか、自暴自棄になるだけでしょう。」
「本当に大丈夫なのですか?」
「そのことで、あなたに頼みがあるの。これからすぐ大悟寺に行ってほしいの。」
「判った。小須茂殿をお連れすればいいのね。」
「場所は彦左衛門が知っているわ。」
亜耶は彦左衛門を呼んだ。
「彦左衛門!これから直ちに大悟寺に向かいます。すぐに支度をしなさい。」
「えっ?どういうことです?」
「説明は後です。急ぎなさい。」
「は、はい。」
そこへ桔梗が現れた。
「姫様、私も連れて行ってください。」
「桔梗。これは危険な旅です。」
「判っております。私はもう一生歩けないと思っていました。沙耶姫様に救っていただいたことに報いたいのです。」
そこへ彦左衛門が戻ってきた。
「姫様、私の息子の彦次郎が馬を数頭持っております。今から馬で走れば、朝には大悟寺に着くでしょう。」
「では、出発しましょう。皆の者、旅支度を。桔梗。私達は男の姿に着替えましょう。人形娘にどこまで通用するかどうか判りませんが、わざわざ女の姿で出掛けることはないでしょう。」
「そうですね。早速、着替えましょう。」
侍姿の亜耶と桔梗、彦左衛門と彦次郎が出発するのを、沙耶は見送った。
城を出発し何事もなく城下を抜けて四人はほっとした。しかし、瓦礫の陰で一体の人形娘が闇の中に目を光らせた。
「素体ヲ発見。直チニ捕獲スル。」
人形娘は、亜耶たちの後を追って、馬に劣らぬ速さで走り始めた。
第12話 終
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