『からくり魔人』

作 karma 様


第15話 沙耶改造


石の台に美しい女剣士の人形が置かれていた。
人形は虚ろに天井を見つめていた。
魔人はそれをじっと眺め、彫像のような美しい裸体の感触を確かめるように滑らかな身体を撫でた。
「楓。汝、人型に戻れり。疾く起きよ。」
それは、蜘蛛型から人型に戻った楓だった。
楓は、失った雷魔刀の変わりに元の腕脚を装着していた。
沙耶を苦しめた雷魔刀は、今は魔人の甲冑に戻っていた。
「魔人様、雷魔刀ヲ頂キナガラ敗北シ、申シ訳アリマセン。」
楓は上半身を起こしながら答えた。
「可なり。汝、務めを果たせり。沙耶、既に我が手中にあり。」
そこへ一体の人形娘がやってきた。
「魔人様。御報告シマス。沙耶ノ人形化デ問題ガ発生シマシタ。」
魔人は楓を伴い急いで沙耶の様子を見にきた。
人形娘から、沙耶の人形化が進まないと連絡を受けたのだ。
石の台に拘束して傀儡虫を体内に侵入させて、一刻が過ぎるというのに、沙耶はまだ生身のままだった。
「はうっ。ふぐっ。くくっ。」
沙耶の目は大きく見開き、身体は小刻みに痙攣していた。
そして腹部は臨月の妊婦のように膨らんでいた。
「これは如何なることか?」
魔人は傍らの人形娘に尋ねた。
「原因ハ不明デスガ、素体ノ体内ニ侵入シタ全テノ傀儡虫ガ活動ヲ停止シテイマス。」
その間にも傀儡虫は沙耶の股間から侵入を続け、沙耶の腹部が徐々に膨らんでいた。
魔人は沙耶に言った。
「汝、我との約束を違えり。汝の臣下の命は証するべからず。」
「わ、私は、す、好きにすればいいと言っただけ。に、人形になるとは、い、言ってない。お、お前は、こ、言葉に、厳格と、言った。」
「うむむ。汝の言は真なり。」
魔人は沙耶の指摘に呻いた。
「ならば、我は我が思うままにするのみ。」
魔人が指示すると二体の人形娘が沙耶の両脇に立った。
「な、何をするの?」
沙耶の問いかけに答えず、無表情に人形娘は両脇から唇を、すーっと沙耶の両乳首に近付けた。
「はああっ。」
人形娘の唇が触れた途端、沙耶の背筋に感じたことのない快感が走り、背中が思わず弓なりになった。
「いやっ。やめて。あうっ。集中できない。」
沙耶の腹部の内部で何かが、ぞわっと蠢いた。
「くっ。食べられる。身体が食べられる。はあっ。ああっ。早く止めなきゃ。」
だが押し寄せる快感に乳首は天を突くように屹立し、それが人形娘の唇のなかにすっぽりと包まれると、一層快感が強くなった。
「だめっ。はあはあ。ああっ。いやよ。」
沙耶は、手足の拘束ももどかしく、いやいやをするように首を横に激しく振った。
だが、腹部は波を打ちながら徐々には凹み、それと同時に沙耶の身体は白磁の艶を帯び始めた。
「次は汝のよく知る者に任せん。」
魔人が命令すると楓は沙耶の股間に回り込んだ。
「沙耶様、参リマス。」
既にとろとろと蜜の溢れる沙耶の陰裂に舌先を割り込ませた。
「ひーっ。楓。だめーっ」
楓の舌を伝わって、液にまみれた沙耶の秘孔に傀儡虫が次々と分け入って侵入を始めた。
妊婦のように膨れていた腹部は一気に引き締まった元の体型に戻るとともに白磁化し、それはさらに胸部に達した。
乳首を人形娘に吸われたまま、乳房はお椀型を保ち人形の堅さを帯びていった
その変わりようを魔人はうれしそうに眺め、堅くなった沙耶の身体を指先でこつこつと叩いた。
「汝の身体、美しきなり。楓と並ぶ人形とならん。」
「くはっ。い、息ができ・・・。」
人形化が胸全体に進行すると、肺が消滅し呼吸ができなくなり、声も出せなくなった。沙耶は呼吸を求めて、口をぱくぱくした。
「汝、既に呼吸は無用なり。」
魔人のいうとおり呼吸を止めても息苦しさはなかった。逆に安心すると快感が襲ってきた。
押し寄せる快感に耐え、沙耶は法力を発し、辛うじて首のところで傀儡虫の侵攻を押し止めた。
人形化が進む胴体に対し、首から上は生身のままだった。
「ふむ。頭部は、未だ人形化せずや。されば、傀儡虫を増強せん。」
沙耶の胴体は人形化が進行するとともに、関節に継ぎ目ができ始めた。最初は微かに見えるだけだったが、徐々にはっきりと分かるようになると、自動的に腕と脚は付根から外れ、開いた断面から更に傀儡虫が侵入した。
侵入した傀儡虫は快感を増幅した。
「ああ、あうっ。ああーっ。だめーっ。」
ついに沙耶の顔は面のように無表情になり、目は硝子のように虚ろになった。

もう、沙耶の意志で動かせるところは一つもなくなった。
そして、沙耶の身体は痛みも苦しみも感じなくなった。ただひとつの感覚を除いて。
人形体となって乳房と股間の刺激は増幅され、沙耶はまゆひとつ動かせないまま、押し寄せる快感に耐えて自分を保ち続けていた。
「我、驚嘆す。斯くのごとく抗いし女人は汝のみ。然れども汝の抗い、既に無用なり。頭蓋を外せ!」
魔人の命令に沙耶の身体は自分の意志と関係なく自動的に反応した。
頭の迴りがかちっと音がした。
一体の人形娘が沙耶の頭部に迴りこめかみに手を掛けた。
沙耶の頭蓋は簡単に外れ、脳が剥き出しになった。
何も抵抗できないまま脳を剥き出しにして叫びたくとも叫べず、泣きたくとも泣けず、沙耶はただ恐怖で一杯になった。
魔人は一匹の巨大な傀儡虫を取り出した。
二寸角ほどの傀儡虫は周囲にびっしりと並ぶ細い金属の足をもぞもぞと動かしていた。
「この傀儡虫が取り付かば、汝、我が言に従うのみ。」
魔人が傀儡虫を沙耶の脳に取り付けると、たちまち金属の足を脳に食い込ませ、内部に触手のようにもぐりこませた。
沙耶は頭をかみつかれる感じがした。そのあと、頭が真っ白になった。
「ああ。な、何も考えられない。」
傀儡虫が脳に延ばした触手はどくどくと脈打ち、更に新たな触手を延ばすのを確認すると、人形娘は頭蓋を元に戻した。
頭蓋はぴったりとくっつき、継ぎ目は見えなくなった。
その間にも傀儡虫は沙耶の脳に触手を張り巡らした。
感情、意志、価値観といったものを消し、魔人への服従を植え込んでいった。
「私は魔人様の人形。魔人様の命令に従います。ち、ちがうわ。だめ。」
沙耶の楽しかった思い出も、悲しかった思い出も、意味のないただの情報に変わって行った。

そして最後に才馬の顔が浮かんだ。
「もうだめ。私は人形になってしまう。でも、私はこんな姿であの人に会いたくない。何とかしなくちゃ。」
微かに残る沙耶の自我は、最後の最後で留まった。
消し去ろうとする傀儡虫の支配から自我を守りながら、魔人への一矢のために、僅かずつ法力を蓄え始めた。
だが、時間が経過とともに沙耶の自我は徐々に薄れてきた。
「私ハ魔人様ノ人形。」
その言葉が沙耶を支配しようとしていたが、一人の男性の記憶が沙耶の完全支配を妨げていた。
名前すら思い出せなくなっていたが、その顔だけは消えなかった。
「コノ人ヘノ思イハ誰ノモノ?ソレハ、私ノモノ。デハ、コノ人ハ魔人様ノモノ?イイエ。デハ、私ハ誰ノモノ?私ハ魔人様ノ人形。」
もう何百回と同じ問を繰り返していた。
その間にも徐々にわずかな法力を溜めていた。
沙耶は、なぜ法力を溜めているのかさえわからなくなった。
判っていたのは、名前も思い出せないその男性のためらしいことだけだった。
魔人は人形化した沙耶を覗き込み、問いかけた。
「答えよ。汝は何者か。」
魔人の問いかけに沙耶は自動的に答えようとして声を出した。
「私ハ・・・」
自分の声とは思えない抑揚のない声だった。
だが、それが自分の本来の声、そう自然に認識した。
沙耶の答えを間近で聞こうと、のぞき込む魔人の顔を見た瞬間、理由も分からずただ反射的に沙耶は口を大きく開け、魔人めがけ光の玉を発射した。
「ぐああっ。うおおっ。」
魔人は片目を押さえて倒れ込んだ。
「魔人様。大丈夫デスカ。」
人形娘たちが魔人の迴りに寄ってきた。
「斯くの如き有様になりても、我に抗うとは。我が怒り心頭に達す。」
魔人は人形娘をはねのけ、沙耶の上に掌を広げ、沙耶に電撃を放った。
「うがががっ。」
電撃が沙耶の身体を走り迴り、沙耶は無表情のまま、四肢のない身体を反り返らせた
だが、魔人の電撃はすぐに停止した。
「我、解せり。此、汝の策略なり。我をもって汝を破壊せんとするためなり。汝を破壊するは愚行なり。されど、我が隻眼を奪いし代償は大なり。その報いを与えん。」
魔人は人形娘たちに指示を出し、沙耶を運ばせた。


第15話 終




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