『からくり魔人』
作 karma 様
第16話 沙耶人形
魔人は、焼けた半面を手で押さえながら、玉座に座って広間で人形娘たちが床に鉄骨で胸の高さほどの櫓を組むのを見ていた。
櫓ができあがると、人形娘たちは沙耶を運んで来た。
沙耶の外見はすでに硬質化しすっかり人形になっていた。
しかし、まだ完全な姿ではなく両腕は肘までしかなく、両脚は膝までしかなかった。
未完成のままにしているのは、沙耶にまだわずかながら自我が残っていたからだった。
しかし、それは傀儡虫からの侵食に耐えるだけが精一杯で、これから何をされるのか不安に感じながらも、すでに自分から行動する意志もなかった。
無表情のまま抗うこともせず、まるで猟師に仕留められた獲物のように櫓の梁に肘、膝だけでぶら下げられた。
股間は丁度、人間の腰の高さになり、その秘めやかな奥をさらけ出していた。
硬質化した身体の中で唯一その部位が生々しさを保っていた。
上向きに固定したままの沙耶の視界に魔人の顔が見えた。
「わずかに残れる汝の心、これより打ち砕かん。」
魔人の顔が沙耶の視界から消え、号令が広間に響いた、
「虜囚をここに連行せよ。」
人形娘たちが捕虜となった鉄砲兵達を広間に連れてきた。
「一体、何だ?俺達の命は保証されているはずだ。」
顔半面が焼けただれた魔人を訝しがりながら、信之輔が主張した。
「ここへ招きしは、快楽を与えるにためなり。」
「快楽?」
魔人は、櫓にぶら下がる一体の人形娘を指さした。
「この人形娘を汝らの快楽のためにこの場にて与えん。」
「こ、これは、沙耶姫様。」
「我らのためにこのようなお姿に。くくっ。」
「何が、快楽だ。姫様は我らを助けるために、自ら人形となったのだぞ。どうしてそのような惨いことが・・・」
言い終わらぬうちに、鉄砲兵の一人が沙耶の方に向かった。
「おい、お前、何をしている?」
「何をしているかって?そりゃあ、これからこの人形で楽しむんだ。」
「何を言っている。姫様は我らを助けるために人形になったのだぞ。恩を仇で返すのか。」
「俺らの命を救うため?とんでもねえ。」
「何だと。」
「俺達はこの女に騙されたんだ。この女が魔人を倒せるというから、こんな不気味な所へついてきたら、この始末だ。命を救ったなんて恩義でもなんでもねえ。せめてこいつの身体で返してもらわねえとな。」
その男の身勝手な言葉は沙耶にも聞こえていた。
彼らを守るために人形になる覚悟をした沙耶にとって、思いもよらない言葉を聞いて、まるでどん底に落とされた気持ちになった。
「おお、そうだ。そうだ。」
一人の身勝手な発言はたちまち鉄砲兵全体に伝播し、我も我もと沙耶に群がり、秘孔に肉棒を突き立て、乳房にむしゃぶりついた。
「はうっ。ああっ。みんな、やめて。」
沙耶の悲痛な叫びは、人形となった身では声にならず、沙耶の顔は無表情のまま男たちに責め続けられていた。
「へっ。顔は無表情でつまらんが、体は正直だぜ。」
人形体となった体は快感を増幅し、秘所を濡らすとともに沙耶の集中力を薄れさせた。集中力が薄れると、傀儡虫が精神の侵食を始めた。
沙耶は自分が消滅する恐怖に怯えた。
「ひーっ。止めて!誰か助けて!」
突然、二人の男が鉄砲隊を押しのけた。
「お前ら、姫様に触るな。」
「何だ。おめえ、邪魔すんなよ。」
硝子珠のような表情のない沙耶の瞳に信之輔と宗十郎が映った。
鉄砲兵を追い払う忠臣の姿を見た沙耶はほっとした。
だが、次の瞬間、服を脱ぐ信之輔を見て沙耶は愕然とした。
「うおおっ。姫様。姫様。信之輔はずっと姫様とこのようになりたかった。この者たちの自由になるくらいなら、信之輔がこうして・・・。」
「宗十郎も、姫様とこうしたかった。」
信之輔は沙耶の腰にしがみつき、宗十郎は沙耶の乳房にしゃぶりついた。
「なんだよ。何だかんだ言っても、二人とも俺達と同じか。ちゃんと順番を守れよな。」
鉄砲兵だけでなく、信頼していた臣下までも自分に襲いかかるの感じて、沙耶の心は沈んだ。
「私は一体何をしてきたのだろう?何のための努力だったんだろう?この身を人形に変えてまで守った者は何?この者たちにとって、姫でもなんでもない。私はただの人形。」
自分の存在意義を失った沙耶は、自分を襲う快感に身をゆだねた。
「きっとあの人も同じね。・・・あの人って、なぜ私は思い出してるのかしら?」
思い人の姿も薄れ、徐々に傀儡虫にあらがう力が弱まる沙耶のあり様を見ながら、魔人はつぶやいた。
「ふふ、沙耶。汝が救いし臣下によって、汝を完璧なる人形にする計略は如何?」
生きる希望を失い、いつ果てるとも判らぬ男たちの責めに精根尽き果て、傀儡虫によって沙耶の自我は徐々に深い闇の中に飲み込まれた。
夜が明けるころ、男たちは皆、床にへたり込んでいた。
部屋は男たちの汗と欲望の残滓の匂いでむせ返っていた。
「かあーっ、もう一滴もでねえ。」
沙耶は、股間だけでなく、顔も胸も腹部も男たちの欲望の残滓でべっとりと汚れていた。魔人は鉄砲兵たちを抜けて沙耶をのぞき込んだ。
その瞳には、先程まであったわずかな輝きはなく、硝子のように無表情だった。
魔人は、人形娘たちに命じた。
「時、至れり。沙耶を組立よ。」
沙耶を櫓から外し、両腕、両脚を取り付けた。
魔人は沙耶に質問した。
「汝は何ものぞ。」
「私ハ魔人様ノ人形デス。魔人様ノ命令ニ服従シマス。」
魔人は鉄砲兵に向いて言った。
「善きかな。汝らに感謝す。沙耶に残りしわずかな人の心、汝らによって砕かれたり。これで、ただ我が命のままに動くものとなりぬ。」
「へえ。お役に立てて、よかっただよ。」
疲れ切った鉄砲兵は床にへたり込んだまま、興味なさそうに返事をした。
「沙耶、汝に命ず。この者たちを殺せ。」
魔人の言葉に鉄砲兵たちは驚いた。
「おい。俺達に危害を加えないんじゃないのか。」
「おう。沙耶姫との約束だぞ。」
「我、確かに約せり。我が言は、我もその場の人形娘も汝らに危害を与えずと。」
「じゃあ、なんで沙耶姫に俺達を殺させるんだ。」
「沙耶人形は、約定の後に作りたる人形なり。約定の及ぶところにあらず。」
「何だ?その屁理屈は。」
「屁理屈という言は解せず。ただ我が言に偽りなし。沙耶、疾くこの者たちを処分せよ。」
「了解シマシタ。」
魔人が本気だと判って、男たちは慌て出した。
「おのれ、もとより死は覚悟の上。だが、むざむざと殺されはせん。姫様、御免。」
信之輔は刀を抜き沙耶に斬りかかった。
だが、刀は見えない壁に弾き返された。
沙耶は信之輔の方に無表情に腕を伸ばし首を掴むと、軽くひねった。
それだけでぐったりとなった信之輔を床に落とし、信之輔の刀を拾った。
その隙に、沙耶の背中を目がけ宗十郎が斬りかかった。
「うおおお。」
沙耶は宗十郎に向き直ると、刀を無造作に真横に払った。
宗十郎は咄嗟に受け止めたが、刀はまるで竹光のようにすっぱりと切り落とされた。
沙耶の刀は、そのまま宗十郎を真っ二つにした。
「うわああっ。逃げろ!」
鉄砲兵達は逃げ出したが、部屋の出口は人形娘達が塞いでいた。
追い詰められた鉄砲兵達は、全身から自分たちの残滓と血糊を滴らせながら近づく沙耶にひざまづいて命乞いをした。
「あんたの身体を弄んだのは悪かった。何でも言うことを聞くから、許してくれ。」
「意味不明デス。貴方達ガ私ニシタコトハ、私ノ行動トハ無関係デス。私ハ魔人様ノ命令ヲ遂行スルダケデス。」
「うわあ。」
出口のない部屋で逃げ惑う鉄砲兵達を、沙耶は無駄な動きなしでただ機械的にばさばさと斬り捨てた。
たちまち部屋は血の海となり、その中央に返り血を浴びてべっとりとなった沙耶が立っていた。
「魔人様、ゴ命令ヲ遂行シマシタ。」
「可なり。身体を洗浄して待機せよ。」
「了解シマシタ。」
沙耶は踵を返して、鉄砲兵に一瞥もくれずに、その部屋を後にした。
第16話 終
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