『からくり魔人』

作 karma 様



第7話 人形娘の襲撃

「素体ヲ発見、直チニ捕獲スル。」
お鶴は沙耶を見つけると無表情のまま一歩足を踏み出した。
「ねえちゃん!止めて!」
かん太は、沙耶の前に両手を広げて立ちはだかった。
「素体ノ捕獲ヲ妨害スルモノハ排除スル。」
お鶴は腕を振り上げかん太めがけて振り下ろそうとした。
「はっ!」
気合とともに沙耶が右掌をお鶴に向けて突き出すと、お鶴の動きが一瞬止まった。
その隙に沙耶は電光のごとくかん太を抱いて後ろに跳んだ。
動き出したお鶴の指先が空を切って、かん太の鼻先を掠めた。鼻先に血が滲んだ。
「かん太。近づいちゃだめ。もう、お姉ちゃんは、お姉ちゃんでなくなったのよ。」
「そんなことない。姉ちゃん!正気に戻って。」
「原因不明ノ動作不良。人形体ニ異常ナシ。素体ノ捕獲ヲ続行スル。」

「お鶴ちゃん、来ないで!今度は本気で行くわよ。」
沙耶の言葉を気にした様子もなく、お鶴は地を蹴って沙耶に掴みかかった。
沙耶はかん太を抱いたまま、右へ左へとお鶴の腕をかわした。
「このままでは捕まってしまう。お鶴ちゃんを傷つけたくないけど仕方ない。」
沙耶はかん太を左手で抱え、右手を突き出した。
「いえーい!」
裂帛の気合とともにお鶴の体が勢いよく吹き飛び、家の壁を突き破って見えなくなった。その後、家の屋根が崩れ落ちお鶴を埋めた。
「姉ちゃん!」
「ごめん。お鶴ちゃん。」
沙耶は、お鶴のもとへ走ろうとするかん太を抱き締め、逃げ出した。だが、すぐに沙耶は足を止めた。
「素体ヲ発見、直チニ捕獲スル。」
そこには、べつの人形娘が立っていた。
「いえーい!」
人形娘は勢いよく吹き飛んだが、何事も無かったように立ち上がってきた。
沙耶は下唇を噛んだ。
「この程度では足止めにもならないか。もう、一回。」
沙耶は再度右手を構えた。
「要注意。素体ヨリ未知ノ攻撃アリ。生存捕獲優先ヲ解除スル。」
そして、人形娘は両手を延ばし、指先が妖しい光を帯びた。
そのとき、銀色の人影が沙耶の横を通り過ぎ、人形娘とすれ違った。
黄金の光が弧を描くと人形娘の身体が肩から胸へ滑り落ちた。
銀色の人影は沙耶の方を振り向いた。
「沙耶殿!貴方は不思議な力をお持ちのようだが、人形娘は衝撃だけでは倒せない。切断しなければ、だめです。」
「その声は、小須茂殿。その出立ちは?」
「説明は後です。早くその子を連れて逃げなさい。」
そのとき、村娘が悲鳴を上げて家の中から飛び出してきた。
「きゃーっ。」
泣き叫ぶ村娘に無表情な人形娘が迫っていた。
「むっ。今度はこっちか。」
才馬は疾風の如く走り、村娘の救出に向かった。
たちどころに人形娘は才馬の剣で上下に切断された。
村娘は、安堵でへなへなと座り込んだ。
そこへ上半身だけの人形娘が手を伸ばして、村娘の足首を掴んだ。
「ひっ。」
その手を才馬が切り離した。
「早く逃げなさい。」
才馬に促され、村娘は逃げ出した。
才馬は、別の人形娘に追われる村娘を助けに向かっていた。
村娘は沙耶を見つけて声を掛けた。
「沙耶様。早く逃げましょう。」
「ううん。私は、残って村の人を助けるわ。」
「でも、ここは危険です。沙耶様も捕まってしまいます。」
「大丈夫。お願い。この子を連れて、大悟寺に行って。雲慶和尚を呼んできて!」
沙耶の決意が固いのを見ると、村娘は一言だけ言って、かん太を連れて走り去った。
「お気を付けて。」
だが、沙耶はその言葉を聞いていなかった。沙耶は新たな人形娘に向かう才馬の方をじっと見ていた。
「あんなふうに力を刀に込められれば・・・。」
そう言うと、沙耶は腰から木刀を抜いて正眼に構えた。

才馬が人形娘を倒して、辺りを見渡すと沙耶が木刀を構えているのが見えた。
「沙耶殿!何をしているんですか。ここは危険です。早く逃げなさい。」
だが、沙耶は才馬の声が聞こえていないようだった。木刀の構えに集中しているようだった。
そのとき、沙耶の後ろの壁が突然破れ、人形娘が飛び出してきた。
「いかん。神速移動!」
だが、才馬はその場でつんのめってしまった。
「くっ。魔人との戦いからまだ甲冑が回復していない。」
沙耶を見ると、横に体をずらして、ひらりと人形娘を躱していた。
「見事な体さばきだ。よし、まだ間に合う。」
才馬は慌てて沙耶の方に駆け寄ったが、途中で信じられない光景を見た。
沙耶は躱し様に、木刀を横車に構え、人形娘が振り向いた瞬間、胴を払った。
その後、人形娘の身体は真二つに切断された。
「さ、沙耶殿。い、今、どうやって人形娘を切ったのですか?」
沙耶は才馬に向かってにっこり笑った。
「刀で切りました。」
「刀で?人形娘は普通の刀では切れません。いや、それ以前に、それは木刀ではありませんか。」
「はい、木刀です。でも、才馬殿の刀を真似したら、できました。」
「光斬剣を?」
沙耶は才馬の前まで近づくと、手のひらを才馬の刀にかざしながら言った。
「この刀に強い力を感じます。」
それから手のひらを才馬の胸に移した。
「そしてこの甲冑も。これが才馬殿の家伝の法具なのですね?」
「ええ、小須茂家に代々伝わる剛力甲冑と雷神刀です。」
そのとき、才馬の背後でどーんと音がして瓦礫の山が吹き飛び、土煙がたちこめた。
土煙の中から、風を切る音とともに腕だけが飛び出してきた。
腕は才馬の腕を掴むと、根元から伸びる綱がぴんと張り、ものすごい速さで才馬を土煙の中に引きずり込んだ。
「小須茂殿!」
沙耶は才馬の後を追って、土煙の中に駆け込んだ。


第7話 終



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