『璃花』

作 人形者 (イラストbody 様)




「パパ、恐い…」
初めてのコールドスリープに怯えを隠せず璃花が父親に不安げな視線を向ける。
一度はベットに身を預けたがムクッと起きだし、隣の父のカプセルに入って来ようとする銀髪の少女。
「大丈夫だよ、コールドスリープと言っても、夜にベットで寝るのと同じなんだから。
ほんの少し目をつぶっていれば、あっと言う間にママのいる星に着いちゃうよ、恐い事なんか無いさ。」

この時代、長期の宇宙航行ではコールドスリープは一般的になっていた。
なによりその方が様々な面で安上がりになり、客にも好評だった。

「さ、目を閉じて。隣にパパがいるから安心だろ?」
優しく娘の美しい銀髪をなでながら寝かしつける。
暫く青い瞳で不安げに父の顔を見つめていたが、
「う…うん…」と目をつむる璃花。
「いい子だ。じゃおやすみ」
と言うと、娘のベットのフードを閉じ、自分も隣のベットに入りフードを閉じる。

そして数時間後には二人とも安定したコールドスリープ状態に入っていた。
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しかし、その宇宙船が目的地に着く事は無かった。
「コールドスリープ船」ばかりを狙った海賊に襲われてしまったのだ。

「シュー…」
乗組員を冷凍ガスで凍結させ、船内に入り込んで来る一団。
「素体の確保に向え。」
指導者らしき男が旅客データーを見ながら部下に指示を飛ばす。
「ボス、来て下さい」
一番近い客室に入っていた部下から声がかかる。
「どうです、なかなかの上玉ですよ」
「ほお〜、これは高く売れそうだ」
二人の男の視線の先には冷凍状態になり、身じろぎもしない人形となった璃花の姿があった。
血の気が失せ、真っ白になった肌には薄っすらと氷が張り、キラキラと光を反射させている。
「まるで良く出来たマネキン人形みたいだな」
「では何時ものルートに回しますか?」
「いや、このお嬢さんは、このままの姿の方が商品価値が高そうだ」
「では『ドールファクトリー』行きですね。」
ピッピッ、デコーダーに情報を入力する部下。
「ああ、ロボットにしてしまえば、永遠に歳は取らないからな。」

そんな男達の会話も冷凍凍結されてまった璃花の耳には入るはずも無かった…

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そして数年後…

「また、コールドスリープ船が襲われたのか…やっぱり個人船にして正解だったな」
携帯テレビのニュースを見ながら、独り言を言う伸一。
「お兄ちゃん、早くはやく〜っ!!」
初めての宇宙旅行で妹の真奈美ははしゃいでいた。
「ああ、分かった、分かった。」
そんな妹に手を引っ張られながら、宇宙港のカウンターへ向かう伸一。
「コンニチワ、お客様。ご用件をどうぞ」
受け付けの女性が機械仕掛けのように笑顔で対応する。
(へぇ〜、最近は教育が行き届いているんだな、まるでロボットみたいだ)
隣の受け付け嬢を見ると、逆にかなり人間臭かった。
(あれ?じゃあコレは本当のロボット??)
「個人船の予約を入れてあった、島村だけど。」
「島村様、ですね。お二人で2週間のご予定を承っております。」
手元も動かさず笑顔のまま応える。
(やっぱりロボットか。データーが事前に入力されているんだな)
「そう、それそれ。準備は出来ている?」
「ハイ、PM01:30に南3番ゲートから出港予定です。
しかしまだ搭載ユニットの指定を承っておりませんが。」
「搭載ユニット?何それ。」
「コールドスリープを利用しないお客様へのサポートロボットです。」
「長旅の間、相手をしてくれるってワケか…それは料金はかからないの?」
「ハイ、最初から含まれていますから。どのタイプを選びますか?」
ピッと微かに受け付け嬢から音がしたかと思うと、後ろの画面に数体の女性ロボットの姿が映し出される。
『メイドタイプ』『恋人タイプ』『セクシャルドールタイプ』…
「相手がロボットなら言っても恥ずかしくないな、じゃあその『セクシャル…』」
と兄が言おうとした言葉をさえぎり。
「リカちゃんたいぷ!!」
と横から背伸びした妹が口を挟む。その指差した先には、
可愛らしい服を着せられた銀髪の少女のロボットが表示されていた。
「リカちゃんタイプ。ですね、登録致しました。ではPM01:10までにご搭乗下さい。」
「うっ、…ま、まあ仕方が無いか、ここは真奈美の意見をとおしてやるか。」
『セクシャルドールタイプ』を指差そうとしていた手をバツが悪そうに下に降ろす。
「良い、旅を」と笑顔でお辞儀する受け付け嬢。
「さて、行くぞ真奈美」
「うん!」
妹の手を取って南3番ゲートへ向かう伸一。

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数十分後、二人を乗せた小型宇宙船は定刻どおりに出港した。
運行や乗員の生命維持の全てをコンピューターが行うロボット船である。
狭いながらも寝室と居住区、倉庫の三つの部屋があった。

「大気圏ヲ・離脱・シマシタ・人工重力装置正常ニ作動・しーとべるとヲ・外シテ下サイ」
合成音声によるインフォメーションが船内に流れる。

「お兄ちゃん、早くぅ!」素早くベルトを外した真奈美がもたついている兄を急かす。
「分かった、分かった。急がなくても、リカちゃんは逃げやしないから。」

妹に手を引かれ、倉庫に来る二人。
中にはちょうど少女が一人入るようなカプセルが壁に固定されていた。
「お兄ちゃんっ」
「ああ。待ってろって。」
カプセルの横にあるスイッチを押すとシュッーと言う音と共に静かにフードが上に開いて行く。
「うわぁ〜〜っかわいい!!」
「へぇ〜…まるで人間みたいだな…」
中にはフリルの着いた可愛らしい服を着せられた銀髪の少女の人形が眠るような表情で収納されていた。
背丈は真奈美より頭一つ大きいようだ。
ジー…カチ…カチ…
二人が暫く眺めていると微かにモーターの音をさせながら人形が目を開く、琥珀のような青い瞳。
「ピッ・ユニットロボット−ELS4C・正常に・起動致しました・現在・ワタシの設定は『お友達ロボット』デス」
可愛い顔に似合わず。抑揚の無い、事務的な口調で人形が言葉を発する。

ジー…と機械的に首を回し、自分を見つめる少女の姿を確認すると、あらかじめインプットされていた言葉を話す。
「コンニチワ・ワタシ・リカちゃん・お友達に・なってね」
小首を傾げて挨拶をするロボット。
二人が驚いていると、更に言葉を続ける。
「ワタシの・名前は・変便可能です・ご希望がありましたら・入力して・下サイ」
と言うとピタッと動作が停止した。

「大したもんだな…ところでどうする?名前を変えられるそうだぞ。」
「エルフィンちゃん!」
すかさず答える真奈美。エルフィンとは彼女がお気に入りの人形の名前だった。
「『エルフィン』・登録致しました・ワタシは・エルフィン・仲良くしましょう」
機械的に笑顔にかわる銀髪の人形。

「うん、一緒に遊ぼ!」
ゆっくりとカプセルから出て来た人形の腕を引っ張る真奈美。
「貴方の・お名前は?」真奈美の顔を見つめる人形。
「あたし、まなみ。さっこっちに来て」
「ハイ・マナミちゃん」
真奈美に手を引かれるまま、倉庫から連れ出される。
「おいおい、俺の名前は?」ひとり残される兄。
「あとで〜」

それから数日間、真奈美はエルフィンをえらくお気に入りで、毎日のように
おままごとやゲームの相手をさせて遊んでいた。

しかし、一週間も過ぎた頃、伸一の方は
「やっぱり『セクシャルドールタイプ』の方が良かったな〜…」
と後悔し始めていた、こんな宇宙空間、持ってきたエッチ本も見飽きて新しい刺激を求めていた。
そしてある晩、とうとう我慢出来なくなって、エルフィンを収納したカプセルの前に来ていた。
「真奈美は良く眠っているようだし、今のうちだな。」
と言うとカプセルのフードを開け、人形を起動させる。
「ピッ・ワタシは・エルフィン・シンイチ様・何か・御用でしょうカ?」
基本的に船内にいる人間の命令を聞くようにプログラムされているロボットは
機械的に笑顔になり伸一の顔を見つめる。

その人形の手を引き外に出すと
「服を脱げ、そして今からは声のボリームを下げて話すんだ。」と命令する。
「ハイ・了解しました」
と少し小さな声で返事をすると静かに服を脱ぎ始める。
「へえ〜…」
そして現れた少女の裸体は伸一の想像以上だった。
「本当に人間の女の子そのものだな。これだけそっくりに造られているからには…」
とその小さなスジにしか見えない股間へ指を這わせる。
「やっぱり、ちゃんと造ってある。これなら使えそうだ。」
「何に・使えそう・なのですカ?」無表情な瞳で見つめる人形。

「こうやって使うのさ」と事前にひいておいたマットの上に押し倒す。
何をされているか、理解していない人形の上に覆い被さり、
僅かに膨らんだ胸や柔らかな腹を撫で回しながら、自分の一物を片手に握る。
その一物が自分の股間に押し付けられそうなのを無表情に見つめながら伸一に質問する人形。
「その○ニスを・ワタシの・廃棄口に・挿入するのですカ?」
「そうだ、ちゃんとそっちの機能もあるんだろ?」
スジを指で広げながら答える伸一。
「そっちの機能・とは『セックス人形モード』の事で・しょうカ?」
「そうそう、やっぱり付いてるんじゃないか。」
固いので揉み解している伸一。
「現在の・ワタシは『お友達ロボット』です・その行為は・禁止されていマス」
と人形が無表情に答えるが、お構いなしに伸一は押し込んでしまう。
「入った、さすがにキツイな」
「ピッ・抜いて・下さい・ただちに・その行為を停止して・下サイ」
僅かながら抵抗をみせるが、伸一に押さえられているので動く事が出来ない。
「まあまあ、固い事言いっこ無し、お人形さんだって楽しみたいだろ?」
「ワタシに・楽しみたい・と言う感情は・ありません・消去されまシタ」
「消去?何の事だ?まあいいや。」
と上下運動を始める。
「ピピッ・ア・・ヤメテ・下さい・機能にエラーが起きる・可能性が・ありマス」
と無表情に伸一の下でもがく人形に次第に変化が現れる。
表情は変わらぬまま頬が紅潮し、股間から透明の液体が分泌されだした。
「おっ、その気になって来たみたいだな、じゃこっちも」
と腰に力を入れる伸一。
「ピピッ・エラーが発生しましタ・・・エラーが・・ビビッ・・・・・・・・」
「大丈夫だよ。あとでリセットしてやるから」
快感に身を任せている伸一は適当な事を言って行為を続ける。
「ピッ・・・・・・」
「ん?」
スウッとロボットの腕が伸び、伸一の肩に回る。
「ピピッ・・・モット・・モットシテ・・下・・サイ・・モット・・」
「お?そっちのモードが立ち上がったみたいだな」
伸一が見ると、人形は無表情ながらも唾液をたれ、息が荒くなっていた。
「呼吸の必要も無いのに息が荒くなるなんて、良く出来たプログラムだな」
つまらない事に関心しながらも腰に力を入れる。

「うっ、もう少し…」
と思った矢先、いきなり締め付けが強くなる。
「イタッ、おいちょっと絞め過ぎだよ。少しゆるめてくれ」
しかし、締め付けはますます強くなるばかりだった。
「イテテッ、おい!」
「・・・・ぎぴゅ・・・エラー・・エラー・・・モード切・り替エ・・ぴゅいっ・・・」
伸一が見下ろすと人形の瞳が様々な色に変化していた。
「ヤバっ!」
ロボットの腕を振りほどき、一物を無理矢理引き抜く。
「いてて、ちぎれるかと思った」
ガガガッ・・ガクガク・・・
中空に両腕をあげたまま小刻みに身体を震わせている人形、
「ビビ・・erRR・・ぎピュッ・・・・ガガ・・・」
人形の口から言葉とは思えないノイズ音が漏れ出す。
「やっちまったかな…」
ジー…カシャッ!
やり過ぎたか、と後悔している伸一の方にいきなり顔を向けるロボット。
ヴー…ン…カタッ。
機械的にゆっくりと立ち上がると両手を前に出し、伸一の方へ歩き出す。
その瞳は赤く点滅していた。
「まずい、こいつ狂っちまった…」
「・がヴゅ・・・御主人サマ・ご奉仕・イタシマス・・・ヴゅ・・・御主人サマ
・・・シンイチ・・サマ・・・ ガガッ・・・」
無表情に繰り返しながら伸一に迫って行く。
「お兄ちゃん、どおしたの?」
「えっ!?」
伸一が声の方に振り向くと、真奈美が目をこすりながら入り口に立っていた。
「こっちへ来ちゃダメだっ!」
「え?何の事?あっ、エルフィンちゃん。」
人形の姿を見付けて真奈美が嬉しそうな顔をする。
「あっ、そうだ。こういう時の為に」
と壁に駆け寄り「非常用」と書いてある小窓のプラスティックを叩き割ると、中から
護身用のレーザー銃を取り出す。

「・キゅい ・・マナミ・チャン・・」真奈美の姿を見付け彼女に近づいて行く人形。
「真奈美、だめだ!!」
その間に割って入る伸一。
「ピッ・マナミチャン・・アソビマショウ・・・ナカヨク・シマ・シマショウ・・・」
機械的な笑顔に変わり、近づいて来る銀髪の人形。その瞳は青色に変わっていた。

「これでどうだっ」
その人形に向かって引き金を引く、一発、二発、三発!
「・がヴゅ・・・・ビッ・・ま・マナ・・me・・ちゃ・・・」
腕の関節部に命中したレーザーで内部電池が暴発、片腕が吹っ飛ぶ。
「まだ来るかっ!」
更に引き金を引く。
「あ・・アソビ・・・ma・・・しょ・・ヴ・・ビビッ!」
二連発した横腹の増幅装置が加熱爆発、横腹に大穴が開く。
カチッ…カチッ…
「えっ?もうエネルギー切れかよ??」
銃のエネルギー表示をみて悲鳴を上げる伸一。

しかしレーザーの連射を受けたエルフィンの身体は。
所々の人工皮膚が溶けて内部機械がむき出しになり、片腕は肘から先が無くなり、横腹には穴が開いていた。


キュピ・・・ガガッ・・

「・ぎぴゅ・・マ・na・・mE・・ちゃ・・・あそ・・アソ・・be・・・」
ガシャン!!
そこまで言うと人形は前のめりに倒れ動かなくなった。
身体の色々な部分から煙が上がっている。

「エルフィンちゃん、動かなくなっちゃったよ…」
「はあ…はあ…どうしよう…ユニットロボット壊しちゃった…」

巨額の修理費を要求されるかと思ってロボットの連絡先に通信をする。
しかし、彼の予想とは全く違う答えが返ってきた。
「いいえ、こちらのプログラムミスで大変な御迷惑をおかけしてしまい、申し訳御座いません。
修理費等一切は当社が負担致しますので、ご心配はいりません。」
抑揚の無い声で女性オペレーターが返答する。
「良かった〜、じゃあ俺は最初に払った旅行費だけで他に何もしなくて良いんですね?」
オペレーターロボットかな?と思いながら質問する。
「ハイ、御迷惑をお掛けしました、今後も当社の製品をご利用下さい。」
と言う返答と共に通信が切れる。

「はあ〜…助かった、色々細かく聞かれたらどうしようかと思ったよ…」
ほっと胸をなで下ろす。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
目を見開いたまま完全に停止し、煙も収まった人形を突ついている妹。
「ああ、お兄ちゃん達、何も怒られないんだって。良かったな」
「よいしょっ。真奈美、何も悪い事してないよ?」
関節が硬直したままのエルフィンを一生懸命抱き起こしている妹。
「あっ、いや、エルフィンちゃん。タダで直して貰えるんだってさ。」
慌てて、話題を摩り替える兄。
「エルフィンちゃんまた動くようになるの?」
「ああ」
「良かったね〜、エルフィンちゃん。また遊べるね。」
壊れた表情のままの人形をギュッと抱きしめる真奈美。



そして数週間後修理され、別の客に挨拶をする人形の姿があった。
「コンニチワ・ワタシ・リカちゃん・お友達に・なってネ」



END


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