『マテリアル・カンパニー』

作ナイトビダン様(挿し絵ホフマン様)



<本庄亜里沙>

第二話 機械仕掛けの乙女

深夜のビル街に激しい雨が降り続いていた。
暗い人通りの全くないビルの裏道を一台の軽自動車が走り抜ける。
その車には二人の女性が乗車していた。
運転しているのは長い黒髪を持つ清楚な印象の美少女・本庄亜里沙。
そして助手席で眠っているのは天海医大の御夜咲瞳博士である。
やがてその軽自動車は一際大きなビルの裏に出たかと思うと、
そのビルの地下駐車場へ降りていった。
ブウンッ。
車は軽くエンジンを噴かせると駐車場の奥まで一気に進む。
そこには車一台が通れるほどの小さなゲートがあり、
軽自動車はそのゲートをくぐった所で停車した。
静かにゲートが閉じられる。
運転席のドアが開いた。
その中から長い黒髪を耳の後ろにすきあげつつ亜里沙が虚ろな瞳を周囲に向けながら姿を現す。
つらそうに額に手をあてていた彼女は、やがて背筋を伸ばして直立した。
「ほ、報告致します!WSD-2プロト1ただいま任務完了し帰還致しました!」
ガコンッ!
それが合図であったかのように部屋自体が異様な振動に包まれた。
言うまでもあるまい。部屋自体がエレベーターとなって下降しているのである。
どれだけ下降しているのか、二分以上の下降の間、
黒髪の美少女はまるで人形のように直立不動のままただ前方に視線を固定していた。
やがてその振動も終わりを告げ、閉じられていたゲートが再びゆっくりと開放される。
そこには六人の男女の影があった。
暗くて顔を判別することはできなかったがそのうち二人は女性らしく、
リーダーらしい白髪の男は両手を後ろに回してじっと中をみつめている。
白髪の男の右手が少しだけあがって何か合図を行った。
同時に研究用の白衣を着た男三人と女一人が直立する亜里沙に声をかけることもなく
停車している車に駆け寄る。
そして助手席に寝かされていた御夜咲瞳を静かに引きずり出した。
白衣の女が瞳の身体を服の上からまさぐり身体チェックを行う。
「これといった外傷は見受けられません。素体に問題はないと判断します。」
白髪の男は黙ったまま頷いた。
それを確認した四人は続いて運ばれてきた冷たい金属製の円筒形カプセルに
意識を失っている瞳を寝かせると、
そのまま外に運び出してゆく。
それを亜里沙は哀しげに見送った。
「み、御夜咲先生・・・ごめんなさい・・・わたし・・・わたしは・・・」
この亜里沙のつぶやきを白髪の男は逃さずに聞き取っていた。
白髪の男は靴音を床に響かせながらゆっくりと亜里沙に歩み寄る。
亜里沙の表情が恐れと緊張で子供のように硬直した。
「WSD-2プロト1。どうしたのかね?」
「な、なんでもありません、パンザー博士!」
「ほう、その割にはつらそうじゃないか・・・。
君は全ての感情を捨てたサイボーグになったはず。
そう、私のためだけに働く機械人形・・・そうではないかね?」
「は、はいっ!おっしゃる通りです!・・・あっ!?」
そのとき亜里沙はパンザーの平手打ちを頬に受けて崩れ落ちていた。
「ならばなぜ指令に抗う態度を見せたのか!
なぜターゲットに対して罪悪感など抱いているのか!?」
「お、お許し下さい!私は、私はご主人様の忠実な下僕です!!だから、だから!!」 
必死に弁明する少女の姿を目の当たりにしたそのときパンザーの瞳に
妖しい炎が揺らめいたように見えた。
「ならば、その証を見せなさい。」
「えっ!?」
亜里沙の整った顔が強張った。
そのとき彼女の脳の中で小さな電子音が鳴り、彼女の瞳が黄色に点滅する。
「い、いや・・・あうっ!・・・ピピッ・・・はい・・・WSD2プロト1は御主人さまのご命令に・・・従います。」
それは彼女の意志から発せられている言葉ではないのは明らかであった。
しかし亜里沙はその指令に抗うことはできないのである。
彼女は静かに立ち上がると黒いタートルネックセーターを、さらにレザースカートも脱ぎ捨てた。
黒いシルクの下着姿とショートブーツを履いただけの姿になった亜里沙の瞳がなおも点滅し続けている。

亜里沙

露になった亜里沙の肢体はまさに芸術品とも呼べる均整の取れた美しいラインを作り出していた。 
パンザーは直立している亜里沙に近寄ると亜里沙のはちきれんばかりに豊かな乳房を無造作に掴む。
「ひぐっ!」
「このように誰もが息を飲む美しい身体に改造してやったのは一体誰だ?」
「御主人さま・・・です。」
「小振りだった乳房をこんな掌から零れ落ちそうな大きな乳房に改造してやったのは一体誰だ?」
「ご、御主人さまです!」 
パンザーはニヤリと笑みを浮かべると亜里沙を抱き寄せ、その肉体を両手でまさぐり始めた。
「はっ、はっ、ああ・・・ひゃあう・・・」 
全身が敏感に反応しているのか、頬を紅潮させながら亜里沙はパンザーの愛撫に甘い声を漏らし始める。
「ふふ。どうだ、こんなに淫らで感じやすい身体に改造してやったのは一体誰だ?言ってみろ。」
パンザーは亜里沙の首筋に舌を這わせながら耳元にささやきかける。
「ひあ・・・ああっ・・・私を忠実なサイボーグに改造してくださったのは
・・・パンザー博士・・・御主人さま・・・あなた様です!」
その瞬間、淫らな忠誠の言葉を叫ぶ亜里沙の腿の内側から透明な液体が滴り落ちる。
「うあああああ・・・」
とめどもなく溢れ出る液体に股間をぐっしょりと濡らしながら亜里沙は哀しげに声をあげる。
「人工愛液分泌バルブが緩んでいるようだな?ふふふ。」
「ああっ!そんな・・・この調整はご主人様が・・・ああっ!ご、ご主人様止まりません!
もう私・・・ご主人様あああっ!!」
亜里沙が頂点に上り詰めようとしたその瞬間、突然パンザーは亜里沙を突き飛ばした。
「あああっ!いやあっ!」
床にへたり込んだ亜里沙は中途半端な絶頂感に全身を震わせながら
泣き出しそうな表情でうずくまってしまった。
その肩が激しく震えている。床には彼女の股間から溢れ出した愛液が大きな染みを広げていった。
「ううっ、ううっ・・・ううっ・・・」
いつしか亜里沙の口からは嗚咽が漏れ出していた。
「どうして・・・どうして・・・私は・・・こんなことに・・・」 
そのつぶやきをパンザーは冷笑で返した。
「全ては君が優秀な人材であったからだ。君は選ばれたのだよ。
感謝こそされ、恨まれる筋はない。
なあに近いうちに君は再改造だ。今度は綺麗さっぱり感情を消去してあげるから安心したまえ。
そうすれば、そうやって苦しむこともなくなる。」
亜里沙はパンザーの言葉に驚いて両腕で自分の身体を抱きしめた。
「そ、そんな!?そもそも感情を消去するなんて話、私は聞いていません!
私をこんな身体にしたあげく、そんな・・・あんまりです!!」
「・・・誰に口を聞いているのかね。本庄亜里沙・・・いやWSD-2プロト1!!」
「ひっ!?・・・ピピピピ」
パンザーの一喝を受けて再び亜里沙の頭の中で電子音が鳴った。
「ああっ!あ、頭が、頭が割れるぅぅぅっ!!うう・・・・・」
脳を貫く激痛に座り込んでいた亜里沙だったが、やがて彼女は呆然としたまま立ち上がった。
「・・・ピピ!申し訳ありません。私はご主人様の忠実な下僕です。
いかようにもこの身体をお使いくださいませ。」
「それでいい。」
冷たい微笑を浮かべて答える亜里沙に、パンザーは満足そうに笑みを浮かべると身体を翻す。
「もうよろしいのですか?」
そう問いかけたのはそこに待機していた女性であった。
彼女の軽くウェーブのかかった金髪を撫でながらパンザーはそのブロンド美女に口付けする。
「ローズ、彼女はまだ自分がどういう立場にあるのかわかっていないようだ。
自分がもはや人間ではない、
身体の中に冷たい機械がたっぷり詰め込まれたサイボーグであるということを
その身にたっぷり刷り込んでやってくれ。」
ローズと呼ばれた金髪美女は血の様に紅いルージュのひかれた唇をペロリと舐め挙げる。
「イエス、マスター。」 
ローズははおっていたトレンチコートを無造作に脱ぎ捨てる。
その下から現れたのは煽情的な真っ赤なエナメル調のドレスとハイヒール姿であった。
肩を露出させたビスチェタイプのドレスはその腰の辺りまで伸びたスリットと併せて
並の男なら瞬く間に虜にされるに間違いない。
ローズの瞳が妖しく真紅に染まった。
同時に彼女の掌に穴が開いたと思うとそこから一本の鞭が飛び出してきたのだ。
その鞭を両手で掴んだローズは足元にうずくまる亜里沙を見下ろす。
「亜里沙、電磁鞭でお仕置きしてあげるわ。ウフフフ・・・」
両目の点滅が消えて再び自我を取り戻した亜里沙は目の前の女性を目の当たりにして
恐怖に唇をわななかせた。
「い、いやっ!助けて・・・」 
バシイッ!バリッバリッ!!
次の瞬間、亜里沙は強烈な一閃と電撃を受けて弾き飛ばれていた。
床に倒れこんだ亜里沙は慌てて一撃を受けた右手を確認する。
「ひ、ひいっ!?」
亜里沙は思わず顔をそむけた。
右腕の皮膚が引き裂けていたのだ。
しかしそこから見えたのは紅い鮮血ではない。
バチッバチッと小さな火花を散らす機械部品が彼女の皮膚の下から露出していたのだ。
「いやああっ!私は!私は!人間よおおっ!!違う!こんなの違う!!」
絶叫して床に丸くうずくまる亜里沙にローズの鞭が容赦なく襲い掛かる。
ビシイツ! 
バシイッ!
バリバリッ!
「うあああっ!!」
ローズの一撃が加えられるたびに亜里沙の美しい皮膚は無残に引き裂け、
機械部品が露出させられてゆく。
腕だけでなく、肩、腹、足、そして乳房。
電撃によってそのダメージは想像を越えるものがあるのは言うまでもなかった。
「よく自分の身体を御覧なさい!!
あなたの体からはもう一滴の血も出ないわ!出るのは人工体液と機械部品の潤滑油だけなの!
おわかり!アハハハ!!!」
そのとき冷たい金属骨格と鞭が接触し一際激しい火花を飛び散らせた。
「きゃあああっ!!・・・ピピピ・・・もう・・・許してください・・・うう」
全身から煙を噴き上げながら亜里沙は横たわっていた。
並の人間ならとうに死亡していて当然の扱いであった。
「・・・ウフフ。あなたがいけないのよ。あなたはもう人間ではないの。
全身機械のサイボーグなの、それをよく理解しなさい。」
「はい・・・わかりました・・・」
「聞こえないわっ!!」
ローズの獲物を狩る喜びに満ちた一喝が鞭の一閃と共に再度、亜里沙の背中を襲う。 
バチチッ!!
「ぎゃああっ!!」
亜里沙の背中の皮膚が引き裂け、ちぎれ飛ぶ。
その下の金属骨格が無残に露出する。 
そこに高圧電流が叩き込まれたのである。
亜里沙の生体脳に注ぎ込まれた激痛は彼女の生命を脅かすのに充分の威力であった。
「ピーッ!!内部脊髄装甲損傷!!!ピピッ!!・・・・・・!?わ、私なにを言ってるの!?
ひ、ひいいいっ!お許しください!お許しください!!
私は全身機械のサイボーグです!!忠実なサイボーグです!!だから・・・
ピピピピッ!生体脳危険!!あああああっ!」
泣き叫ぶように声を張り上げた亜里沙をローズは肩で息をしながら見つめていた。
「・・・そう、いい心がけだわ。このマテリアル・カンパニーの一員になった以上、
命令は絶対よ。いいわね。」
「・・・ピ・・・ピピ・・・わ・・・かり・・ました・・・うう・・・。」
「セクサボーグに改造されて売り飛ばされなかっただけ幸せに思いなさい。
世界各地に売り飛ばされていく娘たちがどんな改造を施されて出荷されていくか知っているでしょう?」
ローズの言葉に亜里沙は敏感に反応した。全身が小刻みに震え出して止まらない。
「は、はい・・・」
「博士のお傍でご奉仕させていただけるだけでありがたいと思いなさい。」
「わかり・・・ました・・・。」
そのまま亜里沙は床に倒れ伏した。
全身の六割近くの皮膚が引き裂けそこから露出した機械部品がショートしている。
バチッ!バチチッ!!
「お・・・母さん・・・ピ・・・人工脊髄回路損傷・・・生体脳・・・危険・・・全機能緊急停止
・・・暗い・・・暗い・・・よ・・・寒い・・・よ・・・」
全機能が停止した亜里沙の瞳から急速に光が失われてゆく。
その光を失った瞳は単なる義眼レンズでしかなかった。
「あら・・・やりすぎたようね。
まあ部品交換して皮膚を貼りかえるだけだから・・・別に問題ないわ。
私たちはもう人間ではないのだから・・・。」
ローズはそう言って人を呼ぶインターホンを手に取った。

*

それは大学に入学して間もない頃。
本庄亜里沙は念願の医者への道の第一歩を踏み出していた。
「ということで、私は御夜咲先生の研究室にアルバイト助手に行くことに決めたわ。
どう?亜里沙も一緒に来ない?」
大学の近くの喫茶店で亜里沙は高校時代からの親友・水沢香奈と午後のお茶を楽しんでいた。
この日、香奈は亜里沙に一緒に研究室アルバイトをしようと持ちかけてきてくれたのである。
いつも溌剌とした香奈に比べて亜里沙は口数も少なく控えめな性格であった。
学生時代から二人は一緒に行動してきたがリードするのはいつも香奈で、
その香奈の暴走をセーブするのが亜里沙である。
それゆえにバランスがとれていると言えなくはない。
しかし亜里沙はその申し出を断った。
彼女はすでに別の研究室にアルバイト先が決まっていたからである。
「ええっ?あのパンザー博士の研究室に行くの!?なんでえ!?」
香奈が余りに大きな声をあげたため、周囲の視線が集まるのを感じて
亜里沙は思わず顔を真っ赤にして縮こまる。
しかし香奈はそれにはお構いなしになおも続けた。
「やめときなって!何されるかわかんないよっ」
「やだなあ、香奈。考えすぎよ。博士が私の入試の成績に眼を留めてくださったそうなの。
それにね・・・お給料がいいから・・・」 
その一言で香奈は全てを了解した。 
亜里沙の家庭は母子家庭で、女でひとつ彼女を育ててくれた母親も先日来、
病気で入院している状況であった。
亜里沙自身奨学金とアルバイトで学費を稼いでいることを香奈は知っている。
「そうか・・・わかった。でも困ったことがあったら遠慮なく言いなよ。」
明るく笑う香奈に亜里沙はいつも元気を分けてもらえると感じていた。
香奈と親友でいられることがとても幸せであった。 
不意に亜里沙は腕時計に視線を落とす。
「いけない。香奈、ごめん。私これから博士の出張のお供しないといけないの。」
「えっ、ああ・・・なるほど、それでその荷物か。」
香奈はテーブルの下を覗き込む。そこには大き目の旅行バッグが置かれていた。
「えへっ。」
香奈が下を覗き込みながら笑った。
「え?なに?」
「私たち本当に気が合うわよね。ほら今履いているショートブーツお揃いだよ。」
そう言って足をあげる香奈に周囲の視線が集中する。
「あ、あはは・・・そう・・・みたいね。」
亜里沙はまたもや顔を真っ赤にしてうつむいてしまうのだった。

天海医大の研究室構内は暗く静寂に包まれていた。
コツコツコツ。
小気味よいヒール音を響かせながら亜里沙はパンザー博士の研究室までやってきた。
すでに夕方ということもあって窓から差し込む紅い陽光も
ゆっくりと周囲の闇に呑み込まれようとしている。
御夜咲瞳らの一般研究者のいる一角から隔離されたような場所、
昼間でも殆ど人通りのない研究棟の最も奥にパンザー博士の研究室は置かれていた。
「失礼します・・・」 
亜里沙は恐る恐る研究室の扉を開いた。
中は電気もつけられておらず物音ひとつ聞こえてこない。
「まだ・・・誰もきてないの?」
亜里沙はバッグをひとまずドアの脇に置くと研究室の奥へ入ってゆく。
その奥には博士の自室があるのだ。
そこに近づくに連れて奇妙な息遣いが彼女の耳に入り込んできた。
「誰か・・・いる。二人?」 
亜里沙はゆっくりと奥の部屋のドアに近寄る。
「ああ・・・博士・・・すごく・・・いいです・・・あああっ」 
それは紛れもなく女性の喘ぎ声であった。
亜里沙は部屋の中で今どのような行為が行われているか想像して思わず赤面してしまう。
「ちょ、ちょっと待ってよ・・・私・・・どうしたらいいのよ・・・」
亜里沙は想定外の状況に直面し、
自分が今どのように行動したらいいか判断することができなかった。
学業の成績は優秀であったが、こと男女の色事に関して亜里沙は子供同然であった。
ガチャン! 
不意に扉が開かれた。
「えっ!?」 
そのまま亜里沙は身体の支えを失って部屋の中に転がり込む。
「ええっ!いや、あの、その?わ、私は・・・そのっ」
明らかに動揺した様子の亜里沙を部屋の中にいた二人は冷ややかに見つめていた。
「これが新しいマテリアルですね、博士。」
開いたドアを再度、閉めながらそう言ったのはなんと大胆なランジェリー姿の金髪美女であった。
冷たいアイスブルーの瞳が床に転がる亜里沙に注がれている。
その指がさりげなく部屋に鍵をかけていた。
亜里沙は動揺しつつも轟然と革張りの椅子に腰をおろしている白髪の科学者に視線を向ける。
「ぱ、パンザー博士!?私は、その、出張の・・・」
「わかっていますよ。本庄亜里沙くん。君を待っていたんだ。」
「え?で、でも他の助手さんたちは・・・」
「みな第五手術室で君を待っている。」
「しゅ、手術室・・・って!?」
亜里沙はパンザー博士の言っている意味が全く理解できなかった。
ただ、とてつもなく恐ろしいことが自分の身に起ころうとしていることだけは察したのである。
「わ、私、帰ります!すいません!!」
慌てて立ち上がりドアに駆け寄る亜里沙を金髪美女が制した。
「は、離してください!?ううっ!」
亜里沙の両肩を掴む金髪美女の力は予想以上に強く、華奢な亜里沙の肩が悲鳴をあげる。
「ローズ、手加減しておきなさい。まだ生身なのだからな。」
「心得ておりますわ。」
ローズと呼ばれた美女はおもむろに亜里沙の唇に自分の唇を重ね合わせた。
「むっむぐううっ!?」 
もがく亜里沙を気にした様子もなくローズは亜里沙の唇を貪る。
「うふふ、おいしい・・・」
やがてその手は亜里沙の肩から胸と下腹部へと伸びてゆく。
小振りな亜里沙の乳房をローズの指が荒々しく揉みしだき始めると、
とうとう亜里沙は泣き出してしまっていた。
「あら、気持ちよくて泣いているのかしら?」
ローズは妖艶に笑うと亜里沙のレザースカートの裾をまくりあげてその中に指を滑り込ませた。
「いやあああっ!」 
頬を羞恥と初めて味わう感覚に紅潮させながら亜里沙は声をあげていた。
今まで何者の侵入を許したことのない箇所にローズの指が入り込もうとしていたのである。
「いや!いや!痛いっ!」
その様子にローズはやや驚いてひとまず指を引き抜く。
みればそこには赤い鮮血のあとがあった。
「まあ・・・博士。このマテリアルは男を知りませんわ?」
パンザーは愉快そうに語るローザに笑みを返した。
「それも承知の上での選定だ。このマテリアルは商品にはするなとの“会長”の御命令もある。」
「まあ・・・」
そうつぶやきながらローズは泣きじゃくる亜里沙の顎をつかんで引き寄せる。
「よかったわね、あなた相当優秀なマテリアルとして選ばれたみたい。これからは仲間よ。
いえ、仲間になるのね、うふふ、仲良くやりましょう。」
「な、何を言っているのですか?わ、私には何がなんだか・・・」
そのときいきなりローズは亜里沙の首筋に歯を立てて噛み付いた。
「ふあああっ!」
亜里沙は大きく眼を見開く。
亜里沙の首筋に血が滴り落ち、何か異物が体内に注入されるのを感じ取った。
同時に彼女は全身に力が入らなくなり立っているのも厳しい状態に陥る。
がっくりと崩れ落ちる亜里沙を抱きかかえながらローズは口元の血を舐め取る。
同時にそこに覗いていた鋭利な二本の牙が口の中に収まるように消えた。
「筋肉弛緩剤注入完了しました。」
「うむ。」
それを確認してパンザーは立ち上がった。
「では手術室へ行こうか。皆が待ちくたびれている。
我らマテリアル・カンパニーの新たな一員を誕生させるのだ。くくく。」
亜里沙は手術用のベッドに寝かされ、全身にシーツをかけられた。
当然、声も出なければ身体も動かない。
―な、なに!?わたしどこへ連れて行かれるの!?誰か助けて!!!
「ぱ、パンザー博士?」
不意に亜里沙の耳に飛び込んできた女性の声に彼女は一縷の望みを見出した。
その声は御夜咲瞳博士の声であったのだ。
−御夜咲先生!助けて!!助けてください!!!
「手術ですか・・・?」 
亜里沙の心の叫びに気付くはずもなく瞳はすっぽりとシーツに覆われた手術台に視線を落とす。
「いや、先ほど事故で亡くなられたお嬢さんでしてね。これから病理解剖に回すところですよ。」
ニヤニヤと笑うパンザーに悪寒を感じたのか瞳はすぐにここから立ち去りたいと思っていた。
そんな亜里沙の瞳が偶然シーツから除き見えた亜里沙のブーツにとまる。
「香奈ちゃんと同じブーツ・・・ということは若いお嬢さんね。可哀想に・・・」
−み、御夜咲先生!気付いて!!お願いーっ!!
「では、これで。」
瞳は軽く会釈してゆっくりとその場を離れてゆく。
−待って!待って!御夜咲先生!!行かないでっ!!
靴音が離れ、再び手術台が動き出す。
そのときシーツの下の亜里沙の瞳から絶望の涙が流れ落ちた。

*

亜里沙はまどろみの中から覚醒した。
視界の中にあるのは手術室の巨大な照明灯だけである。
ここが手術室であることはすぐに理解できた。
彼女の記憶はこの手術室に連れてこられ全裸にされたこと、
そして麻酔マスクを装着されたところで途絶えていたのである。
痛みは無かった。しかし全身の感覚という感覚が全く失われてしまっている。
今は視覚と聴覚だけが覚醒しているだけなのである。
「人工心臓の埋め込み完了しました。人工血液の循環を開始します。」
「金属骨格BからFの取り付けにかかります。」
「人工脊髄への神経パルス回路接続率25%。」
「脳波パターン覚醒レベル20%に達しました。」
カチャカチャ。
亜里沙は自分の周囲にいる白衣の人影が何をしているのか思い至り愕然とした。
彼らは自分の身体を手術しているのである。
彼女の肉体を斬り開き、それもなにやら聞いたことも無い言葉の交わされる異常な手術を今、
自分の身体に施しているのだ。
「あ、あうう・・・」
必死に声を出そうとするが声が出ない。
そんな亜里沙にマスクをはめた男の一人が気付き亜里沙の血に濡れたメスを片手に彼女の顔を覗き込んだ。
その男はなんとあのパンザー博士その人であった。
「おや、意識は覚醒したようだな。見たまえこれを。」
そう言って彼女の目の前に差し出したのは透明なカプセルに入れられた臓器であった。
亜里沙の瞳が恐怖と驚きで見開かれる。
医学を学ぶ者にとってその臓器が何かわからないはずがなかった。
「そう、これは君の生殖器・・・子宮だよ。これからの君には必要の無い物だから取り除いた。
心配はいらないSEXはできるようにしっかり人工性器を埋め込んでおくからね。」
亜里沙はあまりの衝撃で気が狂いそうになっていた。
「やあ・・・やああ・・・」
「嫌と言われてももう君の身体の臓器は全て摘出してしまった。
ん?君の臓器は難病に苦しんでいる人たちの移植用に我が社が責任を持って売却させてもらうから。」
罪悪感のかけらも見せずパンザーは言い放つ。
「聞けば君にはお金が必要だそうじゃないか。
我々マテリアルカンパニーの一員になれば、その点に関して心配は無くなる。
君の臓器売却利益の何割かを君に還元するとの会長の言葉もいただいてある。よかったねえ。」
亜里沙の瞳からは涙が溢れ出していた。声は出なかったが亜里沙は間違いなく泣いていたのである。
「う、ううっ・・・ひぐ・・・ひぐ・・・」
「おや、嬉し泣きかい?あはは・・・泣くのはよしたまえ。人工肺との接合はまだ途中なんだ。
回路にエラーが出てしまう。」
そう語りかけながらパンザーは受け取った回路を亜里沙の体内に埋め込む。
「亜里沙くん、我らの会長が君の優秀な成績にお目を留められてね・・・
是非とも我らマテリアルカンパニーに迎え入れたいとおっしゃられたのだ。
これは大変名誉なことなのだよ。光栄に思いたまえ。」
「あ、あう!うう・・・ひぐ・・・ひぐ」
亜里沙にとってみれば到底理解できる言葉ではなかった。
突然、拉致されたうえに人体実験のモルモットの如くその若く清らかな肉体を切り裂かれ、
さらには電子機械という異物を埋め込まれているのである。
そのとき亜里沙の涙を看護婦の一人がガーゼでぬぐった。
その看護婦は優しく亜里沙の頬を撫でる。
その看護婦はあのローズであった。
「亜里沙、あなたは全身を機械化改造されてサイボーグになるのよ。
うふふ、マンガやSFみたいな夢物語と思っているでしょう?でも違うの。
あなたは正真正銘の機械人間になるの。
もう普通の生活は送れないわ、そう・・・私と同じになるのよ!」

改造

「やめないかローズ、亜里沙を怖がらせてはいけない。」
亜里沙の体内に黙々と電子回路を埋め込みながらパンザーがたしなめた。
しかしその眼は明らかに亜里沙の嘆き悲しむ様子を楽しんでいるのがわかる。
「さてそろそろ頭部の手術に移行するぞ。
覚醒レベルをひとまずゼロに戻したまえ。」 
その言葉を聞いて亜里沙は表情を硬直させた。
拒否しようと首を振ろうとするがそれもできない。
このまま意識を失えば、もう次にはどうなっているかわからないのである。
自分という存在を認知することも無い機械人形にされてしまっているかもしれないのだ。
「やああ・・・やあああ・・・うああああ・・・・・!!」
か細い声を絞り出す亜里沙の頭をローズが抑える。
そして不意にローズは亜里沙の頭部を持ち上げた。
「諦めなさい。あなたの前の身体はもう殆ど残ってないわ、ほらね。フフフ・・・」
「いっ!?いやあっ!やあああああっ!!!」 
なんと亜里沙の首はすでに切り離されていたのだ。
彼女の視線の下には真紅に染まった手術台の上に横たわる無残に切り開かれた肉体があり、
そこにかつてあった臓器に代わって埋め込まれた細かい機械部品と
今後の亜里沙の女性としての体型を形成する金属骨格が露出していたのである。
その瞬間、亜里沙の瞳から急速に光が消失した。
どんよりと濁った瞳を見開いたまま亜里沙は失神したのである。
いや強制的に眠らされたと言った方が正しかったかもしれない。
「眼球を摘出する。高感度センサーと人工角膜レンズの準備を。・・・メス!」

*

「改造手術後の調整は無事完了したようだな。
君はこれより我らマテリアル・カンパニーの一員となった。
形式ナンバーWSD-2プロト1、いいね。」
彼女が目覚めて連れてこられたのは東京都心の超高層ビルの最上階であった。
万全のセキュリティを施されたその部屋にパンザー博士と共に通された彼女は
奥の豪奢な机に座っている男を目の前にして直立している。
亜里沙はパンザーの指示で下着をつけることを許されてはいなかった。
下着を着用しないまま美しい華の刺繍が施された光沢の鮮やかな
パールホワイトのチャイナドレスを着せられている。
ドレスと同じ色の肘まである手袋をした手を両脇につけ、
足には真紅のハイヒールを履かされていた。
一見すれば高級娼婦にも見える。
亜里沙はややうつむいた。すると長い黒髪が頬にかかる。
この血の気を感じさせない亜里沙の白い肌にかかる黒髪もまた
全て新たに植毛された人工毛髪であった。
しかしその白い肌と黒髪の取り合わせが、艶やかさと以前の清楚さを感じさせた。
「ようこそ我がマテリアルカンパニーへ。
新しく生れ変わった君を我々は歓迎する。
・・・ふふふ、似合っているじゃないかそのチャイナドレス。」 
男の顔は背後の巨大な窓から差し込む陽光の逆光になってよくは見えない。
しかし彼女の機械化された瞳はその年齢がまださほど高齢ではないことを認識していた。
男は手にした彼女のデータに目を通す。
「素体名・本庄亜里沙・・・18歳。若いな・・・。」 
男の言葉に「WSD-2プロト1」という物としての名前を与えられた亜里沙の眉が微妙に動いた。
彼女は記憶を消されはしなかったが、脳の一部は機械化されてしまっている。
その部分にマテリアルカンパニーへの絶対的服従プログラムがインプットされているのである。
「パンザー。」
「はい、会長。」
いつも傲慢不遜な印象のパンザー博士もこの「会長」と呼ばれる人間に対してだけは
頭が上がらない様子であった。
「御夜咲瞳博士確保の件、わかっているな。」
「はい。当初の会長の計画通りこの新しく改造したWSD-2プロト1を使用します。
間もなく吉報をお届けできるかと。」
「そうか・・・」 
男はサングラスの下から直立不動の亜里沙を見つめる。
「WSD-2プロト1・・・君の働きには期待している。」
その言葉に反応するように亜里沙の瞳が黄色に発光する。
彼女の頭の中で電子音が鳴った。
「はい、そのようなお言葉をいただき光栄です。
サイボーグに改造していただいた御恩に報いるためにも私、
WSD-2プロト1はマテリアルカンパニーに永遠の忠誠をお誓いします。」
亜里沙は冷たい人形のような微笑を浮かべて一礼した。
以前の亜里沙とは思えない冷たい無機質な笑みであった。
「ふ、ふふふ。その人形のような微笑・・・それでこそ我らの一員となったサイボーグだ。
可愛いやつ・・・パンザー、おまえの改造手術はいつもながら見事だ・・・」
「ありがたき幸せ。今夜はこの新型をご存分にご賞味くださいませ。
男を知らぬままサイボーグに改造しましたのでどのような反応を示すか・・・
今後のセクサボーグ開発のよいデータ取得になります。」
「ふふ、おまえらしいな。楽しませてもらおう・・・」
頭を下げたパンザーは亜里沙を残して退室した。 
一人残された亜里沙はプログラムから自我を取り戻していた。
不安そうな表情を浮かべながら両手を前で組んだまま、伏せ目がちに口を開く。
その瞳はもとの漆黒に戻っていたが義眼レンズが微かに動くのがわかった。
「か、会長・・・ひとつだけ確認させていただいてよろしいでしょうか。」
「なにかね?」
「母の治療費の件は・・・」
「案ずるな。今後の学費、生活費、母上の治療費その他もろもろ・・・充分な報酬を約束しよう。
但し君が我々のために忠誠に励めばの話だ。」
「わかっています。それに・・・この機械の体を維持してゆくには・・・」
「パンザーにしっかり聞いているようだな。そうだ、どちらにしろ君に選択の余地は無いのだよ。」
そう言って男は椅子を回して外の景色に視線を移した。
「では最初の仕事を与える。ここに来て私に奉仕するのだ。
君がどれくらい精密に、そして忠実に改造されているか今夜一晩かけてじっくりと検査してやる。」
そのとき亜里沙は両目を強く閉じた。
しかし拒否する思考はそもそも許されてはいない。
彼女の機械化された電子頭脳が強制命令プログラムを発令した。
「ああっ!ピピッ!かしこまりました。・・・ご奉仕させていただきます。嬉しいです、会長・・・」
表情を一変させ、瞳を妖しく輝かせながら亜里沙は娼婦のように唇に笑みを浮かべると
会長の傍らに歩み寄る。
「ああ・・・」
下着を付けていない亜里沙の股間から銀色の雫が伝い落ちる。
彼女の機械体は無条件で発情プログラムを稼動させているのである。
「失礼・・・いたします。存分に私の新しく生れ変わった体をご賞味くださいませ。・・・あああ」
−もう、どうなってもいいわ・・・私はもう・・・人間じゃなくなってしまったのだから・・・。
亜里沙はプログラムに強制された表情なのかわからない妖艶な表情を見せて、
会長の股間にその顔を埋めた。


第二話/終


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