『Metal Doll Princess』

作 Rui 様



〜Side Story〜


―水代楓―


中央都区保安維持部

保安課

「課長!!!」
威勢を挙げて課長の机に資料を叩きつける女性
「ど、どうしたのかね?水代君。」
少し怯えながらも口を開く課長
「どうしたもこうしたも無いですよ!今月に入って10件目ですよ!今週だけでも6件!
相次ぐ若い女性の行方不明事件!何で捜査をしないんですか!」
尚も威勢を増す楓
「そ、それはだな。その、上層部からの圧力が掛かっていてな。」
課長の言葉に資料をもう一度机に叩きつける楓
「何で上層部から圧力が掛かるんですか!」
「そ、それはだな…。」
楓の威勢に圧倒される課長
「もう良いです!私一人でも捜査して犯人を捕まえますから!」
そう言うと保安課から出て行く楓

治安維持部休憩所

コーヒーを飲み一息付く楓
「ほれ、もう一杯飲むか?」
そう言うと紙コップに入ったコーヒーを差し出す男性
「仁科、ありがとう。」
そう言うと男性、仁科からコーヒーの入った紙コップを受け取る楓
「また随分と威勢を張ったもんだ。」
「それはそうよ!上の奴らは私達の事なんてまるで解ってないんだから!全く、捜査しようにもしにくいわ。」
「…捜査って、例の連続行方不明事件か?」
仁科が尋ねる
「えぇ。今日の課長の言葉を聞いて軍部が絡んでるって言う可能性を見出したわ。」
楓の言葉に考える仁科
「水代。軍部に俺の知り合いが居る。」
「本当?」
仁科の言葉に目を輝かせる楓
「あぁ。今回の事件に関して聞いてみるわ。」
「ありがとう。聞いてきたら聞かせてね。」
「解った。」
仁科の返事の後、休憩所を出て行く楓

軍部中央ゲート

「治安維持課保安部の仁科です。水月唯に会いたいのですが、今おりますか?」
「少々お待ち下さい。」
仁科の言葉に答えると内線を入れるオペレーター
しばらくすると内線を切り、仁科を見る
「申し訳ございません。只今不在にしておられます。」
「何時頃に戻るか解りますか?」
「確認しました所未定となっております。」
オペレーターの言葉に頭を悩ませる仁科
「仁科ちゃん?」
ふと女性の声が聞こえる
「…俺をちゃん付けで呼ぶこの声は。」
そう言うと顔を上げる仁科
そこには唯の姿が有った
「やっぱり。MRFステッカーの蒼のエボYが有ったからもしやと思ったら。」
「良いタイミングだ。お前に聞きたい事が有ってな。時間大丈夫か?」
「私に?大丈夫大丈夫。それじゃ私のオフィスで待ってて。場所、解るよね?」
「あぁ。解る。」
「OK。彼通しといて。」
唯の言葉に答えるオペレーター

唯個人オフィス

「お茶です。どうぞ。」
「あぁ、すまない。」
ハイネの出したお茶をすする仁科
「マスターが来るまでもう少々お待ち下さい。」
そう言うとお辞儀をし、自分の仕事に戻るハイネ
お茶を飲みながらオフィス内を見渡す仁科
そのとき、ふと一枚の写真が視界に入り、立ち上がるとその写真を手に取る
「懐かしいな、まだ取ってあったのか。」
その写真には一台のGT―R
それと唯・仁科と男女が一人ずつ写っていた
「な〜ににやついてるの?」
ふと聞き覚えのある声がした
「うぉ!いつのまに戻ったんだよ。」
「今。…全く、MRF時代の写真見て何が良いんだか。」
「ただ単に懐かしくてな。」
そう言うと写真を元の場所に戻す仁科
「とりあえず座って。用件はそれから。」
唯の言葉に座る仁科
ついで唯も座る
「それで、用件って何?」
最初に口を開く唯
「あぁ。今保安課の同僚が最近起きている女性の連続行方不明事件を追っているんだ。」
「…あぁ、あれ。おかしいわね、こっちから口止めするように言ったのに。」
唯の言葉に若干呆れる仁科
「…どうしたの?仁科ちゃん。」
「呆れた。やっぱり軍部、嫌、お前が絡んでいたのか。」
「あら、悪い?これも戦力の増強の為なの。それで、その同僚にはどう言うつもり?」
「まぁ、正直に言うたらお前の所に来るだろうな。」
そう言うと唯を見つめる仁科
「そうしたら捕らえて改造するだけよ。」
唯の言葉に再度呆れる仁科
「唯、保安課にはどう説明する気だ。」
「それはこっちで根回しするから問題無し。それじゃ頼んだわよ、仁科ちゃん。」
唯の言葉に三度呆れる仁科

翌日

保安課第3会議室

そこには仁科と楓の姿が有った
「それじゃあ今回の事件の裏には軍部が絡んでるって事?」
「あぁ。唯から聞いた話だとそう言っていた。」
「唯?」
「軍部の知り合いだ。」
「そう。」
そう言うと考え込む楓
「水代、どうするつもりだ?」
「決まってるじゃない。直々に問いただす迄よ。」
楓の言葉に呆れる仁科
「しょうがね〜な〜。アポは取っておいてやるから明日にでも行って来い。」
「ありがとう、仁科。」

翌日

軍部中央ゲート

「水代楓様ですね。私ハイネと申します。マスター唯の命でお迎えにあがりました。」

ハイネに連れられ唯のオフィス迄来る楓

唯個人オフィス

「とりあえず、試作機は何処の段階迄行ってるの?」
「完成はしています。現在は調整をしています。」
唯の問いに答える男性
「どのくらいで終わりそう?」
「3〜4日有れば。」
男性の言葉に黙り込む唯
「それと例の件についてですが、許可が下りました。現在プロトタイプである機体を製作中です。」
「やっとね。まったく、何でこう上層部は頭が固いのかしら。」
「全くです。それと一ヵ月後に定期メンテナンスが有りますからお忘れなく。」
「あっ、うん。」
唯が答えるとドアをノックする音が聞こえる
「ハイネ?」
「はい。水代楓様をお連れしました。」
唯の言葉にドアの向こうからハイネの声がした
「入って。」
「はい。」
その言葉の後ドアが開く
「それじゃ、自分はこれで失礼します。詳しい事はこちらの資料に書いておりますので。」
「ありがとう。」
唯の言葉を聞くとオフィスを出て行く男性
「…来たわね。とりあえず座って。ハイネ、お茶出してあげて。」
唯の言葉にキッチンに消えていくハイネと
椅子に座る楓
「それで、何の用?…って言っても大体解ってるけど。」
「それならば話は早いわ。」
そう言うと持ってきた鞄から資料を取り出す楓
「仁科から聞きました。今回の女性連続行方不明事件は貴女が、いえ。軍部が関係していますね。」
「…えぇ、そうよ。」
楓の言葉に素直に答える唯
「それなら問います。何故このような事をしたのですが?」
「お茶です。」
「ありがとう。」
楓の言葉の直後お茶を持ってくるハイネ
お茶を受け取り軽く啜ると口を開く唯
「ハイネ、近年の戦乱についてのファイルを出して来て。」
「はい。」
唯の言葉に頷くと棚に向かうハイネ
物の40秒ぐらいで戻ってくるハイネ
「こちらになります。」
「ありがとう。」
そう言ってハイネから資料を受け取ると楓に見せる唯
「ここの所解る?近年何処の国でも内戦等が頻発。この国もそう。言ってる事解る?」
「えぇ、一応は。その為の治安維持部ですから。」
「よろしい。近頃この極東地区以外で内戦・内乱が起きているのはご存知?」
唯の言葉に驚く楓
「ハイネ。」
「はい。つい一ヶ月程前です。極北地区司令部が陥落したとの情報が入りました。
確認致しました所この情報は真実である事が判明致しました。」
「えっ?」
「現在極東地区北部戦線では極北地区の事態収縮の為の打開策を考案中です。」
「それで考案しているのが人を基にした機械人形の特殊部隊。解るでしょう?今回の事件の背景が。」
唯の言葉に黙り込む楓
「納得いくでしょう?圧力がかかっていた事が。」
「だからって何故女性が被害に合わなければいけないのですか!」
「何故って?古来からそう言う風になってるのよ。」
「古来からって!」
そう言った直後崩れ落ちる楓
「あ、れ?」
突然崩れ落ちる自分に疑問を持つ楓
「まぁ、機密事項を知ったからには帰さないけどね。上には許可取ってあるし。それじゃ、お休み。」
唯の言葉の後意識が途切れる楓
「ハイネ、連絡しといて。今から素体を持っていくって。」
「はい、解りました。」

軍部Metal Doll製作工場通称ファクトリー

改造室に楓を抱え入ってくる唯
「やっほう、持って来たよ。準備は?」
「いつでもOKです。」
「そんじゃ、始めるよ。」
そう言うと作業台に楓を寝かせ固定する作業員

作業は先ず両手足を切り離し、臓器を人工物に置換する事から始まった

「各臓器摘出完了。」
「人口臓器への置換完了。」
「腕部及び脚部接続ユニットへの変換完了。」
改造室の中に作業員の声が響く
「腕部接続完了。」
「脚部も接続完了。」
「唯さん、頭部の改造を始めますので降りてきて下さい。」
改造室からの声にガラス越しに頷く唯

改造室

「どぅ?」
「やりがいが有りますね。ただいつもより違うのには何か意味がお有りで?」
「えぇ。特殊部隊の隊長機にするつもりよ。って言っても各小隊のね。」
作業員の質問に答える唯
「成る程。」
唯の言葉に納得する作業員達
「それじゃ、始めるわよ。」
唯の言葉で頭部の作業に入る

「頭部切開完了。…その、生体脳はどうするおつもりで?」
「とりあえず人口脳の制御システムとして残しておくわ。不測の事態にも対応出来るようにね。」
「了解です。」
作業員の問いに答えると黙々と作業をこなす唯
「…相変わらず似たり寄ったりね。…制御パーツ頂戴。」
「はい。」
唯の言葉に脳の制御パーツを手渡す作業員
「さんきゅ。…え〜と、ここがこうなって。…ここがこうだから〜、このパーツは…。っと、良し。
んでこうしてと。…終わり。後は閉じるだけだからお願いね〜。」
「了解しました。」
作業員達の言葉を聞くと作業室から出て行く唯

ファクトリー休憩所

ソファーにもたれかかる唯
「ふ〜。」
「お疲れ様です、マスター。」
「ハイネ、来てたの。仕事は?」
「はい、一段落致しましたので参りました。」
「そう。」
そう言うと黙り込む唯
「マスター、あの彼女はどうなされるおつもりで?」
「ん〜、私の所の小隊長にするつもりよ。何で?」
「いえ、早坂様にご披露するつもりなのかと思いまして。」
ハイネの言葉にキョトンとする唯
「ハイネ、そんな事はしないわ。彼女は私個人のMDじゃないから。軍部のMDだから。」
「そうでしたか。ご無礼をお許し下さい。」
「良いのよ。それじゃ、戻りましょうか?」

翌日

軍部第7戦闘訓練所

そこには唯とハイネ、立ったままフリーズ状態の楓に何人かの研究者が居た
「全く、なんでこんな所で楓のデータ取るなんて。」
「マスター、上からの命令なんですから素直に聞いて下さい。」
「解ってるって。」
そう言うと楓に視線を移す唯
「楓を起動させて。始めるわよ。」
唯の言葉にパソコンを操作する技術者
「―――システムオールグリーン。各パーツ問題無し。プログラムオールグリーン。
MDR―01カエデ、起動シマス。」
そう言うと起動し唯を見るカエデ
「模擬戦とは言え本気で行くからね。」
そう言いながら背部に飛行ユニットを装着する唯
一方カエデの方も次々と武装やユニットが装着されていく
「…各ユニット及びウェポン装着。…問題無し。」
カエデの言葉に模擬戦の設定をする技術者
「…模擬線設定。エネミーVN―01と認識。」
そう言うと唯に向かって突っ込むカエデ
「ひゅう。いきなり?」
そう言うと空中へと飛び上がる唯
「目標上空へ。…ロック。」
そう言うと腰と足に装備されたミサイルが一斉に発射される
「ミサイル!ジャマーセット!…起動!」
唯がそう言うとミサイルは唯をそれる
それを確認すると右腕からビームサーベルを取り出しカエデに向かい急降下する唯
「目標接近。ビームサーベルセット。」
そう言うと右腕にビームサーベルを握るカエデ
その直後双方のビームサーベルが接触しあう
接触後離れる唯
「目標離脱。ロック。」
そう言うと左腕がレーザーガンに展開して唯目掛けて放つカエデ
「ちょ、ちょっと待って〜!」
そう言いながら自身の体の前で両手を合わせる唯
「こっちも本気出すよ。」
そう言うと両手の間にエネルギーの球体が発生する
「目標に高エネルギー確認。シールド展開。」
そう口にするとシールドを展開し始めるカエデ
「遅い!エーテルストライク!!!」
そう言うとカエデ目掛けてエネルギー体を放つ唯
シールドを展開していたカエデに命中する
命中してからしばらく経ち煙が晴れるとそこには損傷したカエデの姿が有った
「…そ、損傷率50%をOVER。メ、メンテナンスを、よ、要求シ、シマ、シマス。」
「緊急シャットダウンしろ!」
技術者の言葉にシャットダウンするカエデ
それを確認して地上に降りる唯
その唯の側に近寄るハイネ
「やり過ぎたかな?」
「エーテルストライクはやり過ぎかと私は思います。」

軍部ブリーフィングルーム

「んで、カエデは?」
「損傷率64%。外装のみで完全に修理が完了する迄は2週間です。」
「そう。解ったわ。ありがとう。」
そう言うとブリーフィングルームから出て行く唯

ブリーフィングルームの外にはハイネの姿が有った
「ハイネ。」
「マスター、これからどうなされるおつもりで?」
「さぁ?とりあえずは神の所に行って来る。近頃うるさくてね〜。」
「解りました。行ってらっしゃいませ。」
ハイネの言葉に見送られる唯

―SIDE STORY―水代楓―

終わり




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