『メカニカルレディ』

作karma様




第2話 技術調査


「黒崎ロボット工学研究所に行きたいですって?」
目黒からの申し出を聞いた風間課長の第一声だった。
「はい。黒崎研究所は人間タイプのロボットでは世界的な権威で・・・」
「判っているわよ、そんなこと。黒崎グループの研究所なんだから。私が聞きたいのは、何の目的で行くのかってことよ。
まさか、あんたの叔父さんに会いに行くのに会社の出張費を使おうって言うんじゃないでしょうね。」
核心をずばり突かれて、目黒はうろたえた。
「ま、まさか。ぼくは、人間型ロボットを使った新しい公営事業企画を、えーと・・・」
黒崎昭太郎から詳しい話を聞いていないので、しどろもどろに目黒が答えていると、第2事業部の加賀部長が現れた。
「風間君、話の途中で割り込んで申し訳ない。今、社長に呼ばれたんだが、
人間型ロボットを使った公営の娼館について引合いがうちの社にきたんだ。これが引合仕様書だ。
公営事業課で応札に向けて提案書を作成するよう指示があったよ。
社長から既に黒崎ロボット研究所に話をつけてあるそうだから、誰かを行かせて提案書の内容を相談してきて欲しい。」
風間はポカンとして、目黒の方を見た。
「課長、部長の言ったことは僕の考えていたのと同じです。娼婦にロボットを使えば、社会問題は回避できます。
タブーだった娼館をビジネスにできます。それにロボットなら人間では考えられないプレイだってできます。」
ようやく黒崎昭太郎の用件を理解した目黒は饒舌になった。
「ロボットとプレイ?私にはちょっと考えられないわ。でも、社長の指示では仕方ないわね。
まあ、いいわ。行ってきなさい。君が最初に言いだしたのは事実なんだから。それに風俗産業には男性の視点は欠かせないし。」
「では、早速、行ってきます。」
「待って。君ひとりでは心配だわ。森下君もいっしょに行かせるけど、いいわよね。」
「も、勿論です。」
「未来ちゃん!」
「はい、課長。」
「悪いけど、これから目黒君と黒崎ロボット工学研究所に行ってほしいの。
社長の指示で、人間型ロボットを使った娼館の提案書を作成するから、内容を相談してきてほしいのよ。」
「これが引合仕様書だ。移動中に読んでおきなさい。」
「判りました。では、行ってきます。」

---------------------------

二人は新幹線と在来線を乗り継いで目的の駅にたどり着いた。森下は、駅前で客待ちしていたタクシーを捕まえた。
「運転手さん、黒崎ロボット工学研究所へ。」
「森下、その前にちょっと寄りたいところがある。」
「なによ。昔の女に会いに行くんじゃないでしょうね。」
「よく、わかったな。」
「ちょっと!仕事で来ているのよ。」
「もちろん、仕事さ。運転手さん、帝都工大へ。」
「帝都工大?そういえば、この近くだったわよね。あんた、そこに知り合いいるの?」
「僕の母校さ。」
「へーっ、目黒って見かけによらず秀才なんだ。」
「見かけによらずは余計だ。」
タクシーは二人を乗せて、帝都工大に向かった。
帝都工大に着くと、目黒はさっさと歩き出した。あわてて森下は目黒の後を追った。目黒はある研究室の前で止まった。
「ちょっと、勝手に行かないでよ。えーと、榛原研究室?たしか榛原教授って動力炉の権威よね。
ロボット娼婦に付ける動力炉を相談するの?」
「ちょっと違う。まあ、すぐに判るよ。それにしても、さすがだね。榛原教授のこと、よく知っているじゃないか。」
「うん、以前知り合いがここにいたのよ。」
そのとき森下がちょっと寂しい顔をしたことに目黒は気づかなかった。
目黒が研究室の扉を開けると、そこには銀色の人形が座っていた。
人形は目黒たちのほうに顔を向け、ニコリと笑った。
「ここは榛原研究室です。ご用件はなんでしょうか。」
「晶!」
思わず森下は叫んでいた。
「森下、お前、このロボット知っているのか。」
「ううん、ちがうの。さっき私が言ってた知り合いが晶というんだけど、このロボットに似ているのよ。
似ているというより、彼女がそのまま、ロボットになったかと思うくらいそっくりだわ。」
「黒崎ロボット工学研究室で製造されたAKIRAというんだ。
モデルがいると聞いたけど、その人は行方不明になったと榛原教授は言ってたよ。」
「ええ、晶は行方不明になったのよ。それを聞いたときは、ショックだったわ。」
二人が用件を言わないので、AKIRAが確認してきた。
「恐れ入りますが、ご用件をお願いします。」
「ああ、そうだ。えーっと、榛原教授に面会したい。黒崎商事の目黒といえば判る筈だ。」
それを聞いたAKIRAは暫く黙って目黒の顔を見つめていた。ピッという音がすると話し始めた。
「卒業生の目黒健人様ですね。」
「えっ。そうだけど、よくわかったね。」
「大学の卒業生データベースにアクセスしましたら、お顔が一致しました。榛原とは、お約束はございますか。」
「いや、たまたま近くに来たから、寄っただけだ。もし、お忙しいなら、失礼するよ。」
「そちらの女性はお連れの方ですか。」
「はい。目黒の同僚で、森下と申します。」
思わず、森下は敬語を使ってしまった。
「判りました。少々お待ちください。ただいま榛原に確認します。」
AKIRAは、正面を向きプルルという音を発した。ガチャと音がして、男の声で独り言のようにしゃべり始めた。
「AKIRAか。どうした?」
女性の声に戻り、自問自答した。
「教授。只今、黒崎商事の目黒様という方がお連れの方といっしょに見えております。」
すると、再び声のトーンが低くなり、男の声になった。
「おお、目黒君か。今行く。ちょっと待ってもらってくれ。」
AKIRAは目黒のほうに向きお辞儀をした。
「榛原はいま、参ります。少々お待ちください。」
森下は感心していた。
「へーっ、よくできているわね。人間の秘書と変わらないじゃない。いや、それ以上かも。
さすがは、世界の黒崎研究所ね。」
部屋の奥の扉から、脂ぎった小太りの男が現れた。
「やあ、目黒君じゃないか。久しぶりだな。どうしたんだ、いったい。」
「教授、お久しぶりです。ちょっと、AKIRAを見せて貰おうと思って、立ち寄りました。」
「ああ、AKIRAはいいロボットだ。へたな秘書よりずっと役に立つ。」
そのとき榛原は目黒の後にいる女性に気が付いた。
「目黒君、こちらの女性は?」
「あっ、済みません。紹介が遅れました。僕の同僚の森下です。」
「榛原教授、初めまして。森下と申します。」
「榛原です。どうです、AKIRAは?」
「すばらしいですね。これほどまでに人間らしいロボットがつくれるとは驚きです。これなら、十分応札できそうです。」
「応札?」
「ええ、ロボットを使った風俗産業の引合が黒崎商事にきているんです。」
「なるほど、それでこれから黒崎研究所を訪問しようということかな。」
「ええ、そのまえにAKIRAを見ていこうと思いまして、あつかましいと思いましたが、こうして伺いました。」
「なに、目黒君なら何時でも歓迎だ。君に黒崎研究室を紹介してもらったおかげでAKIRAを手に入れることが出来たんだからな。」
「目黒から、このロボットにはモデルがいると聞いたんですが、西園寺晶というんじゃないですか。」
西園寺の名前を聞くと榛原はぎくっとした。
「き、君は西園寺くんを知っているのか。」
「ええ、晶は私の高校の後輩です。」
「そ、そうか。彼女は実に惜しい人材だった。わしは、彼女をかっておったのだが、
2年前に突然、研究室を辞めると言いだした。
なんでも、行方不明になったお姉さんを探すと言っておった。
わしは引きとめたんだが、その後、お姉さんと同じく行方不明になってしまった。」
森下はしばらくAKIRAを見ていた。
「目黒、悪いけどあたし、ちょっとキャンパスを散歩してくる。このロボットを見ていると晶を思い出しちゃって。」
それを聞いたAKIRAは森下にニコリと笑いかけ、事務的に話し始めた。
「森下様、キャンパスを散策されるなら、正門正面にある学生課に立ち寄られることをお勧めします。
大学内の名所の案内がございます。」
「ありがとう。そうするわ。」
そういうと、森下はうつむいてそそくさと出ていった。
「どういたしまして。」
そう言って、AKIRAは再び無表情に正面をむいた。
森下がいなくなると、榛原は目黒にニヤリと笑った。
「どうだ、いいできだろう。きみのおじさんの腕は確かだよ。」
「ぼくも先生に叔父を紹介した甲斐がありますよ。」
「ちょっと見てみるか?そのために来たんだろ。AKIRA、こっちへ来い。」
「はい。了解しました。」
AKIRAはすっくと立ちあがると、直角に向きを変え、歩き出して榛原の前で停止し、直立の姿勢をとった。
目黒はAKIRAに近づき、ボディのあちこちを拳の裏でコンコンと叩いたり、胸を触ったりした。
「これが、あの晶ちゃんのなれの果てか。あの柔肌がこんなカチコチの身体になっちゃって。」
「お、おまえ、まさか、晶と寝たことがあるのか。」
榛原がすごい形相でにらんだ。
「そうですといいたいけど、相手にしてもらえなかった。
一時期、ヒューマノイド研究室の結城教授と付き合っていましたよ。
シベリア行きが決まって、結城教授の方から別れたみたいだけど。」
「ふん、結城は、わしがシベリア開発チームのメンバーに推薦してやった。戻って来るのは来年だ。
予想どおり、女より仕事を取った。
簡単に連絡がつかん所だから、いまごろ何も知らずに一心不乱に寒冷地仕様のロボット開発に打ちこんどるはずだ。
昔の恋人が行方不明になって、わしのロボットになっておるとは夢にも思っておらんだろうよ。」
「そうだ、AKIRAの性器を見せてもらえますか。」
「ああ、いいよ。AKIRA、後をむいて前に屈め。」
「了解しました。」
そういうと、AKIRAは背を向けて、前屈みになって、お尻を突きだした。目黒は股間を覗き込み、指でなぞった。
「リアルだなあ。元は本物だからなあ。中を確かめたいんですが、いいですか?」
「あまり、いじるなよ。AKIRA、セクサロイドモードだ。」
AKIRAの身体がブルッと震えた。目黒が再び指でなぞると、AKIRAは、ああとうめき声をあげた。
「へえ、濡れてきた。よく出来ているな。中はどうかな?」
目黒は人差し指と中指をAKIRAの性器に潜りこませた。
「あうっ。うーん。ああん。」
目黒は指の角度をいろいろ変えてAKIRAの反応を確かめていた。
「あん、目黒様の指の刺激が、ああ、とても効果的です。性感処理機能がフル稼動状態です。
姿勢制御に影響が出ています。」
AKIRAの両足がブルブル震え始めた。榛原教授の顔が険しくなった。
「おい、目黒君。もう、いいだろう。そろそろ、黒崎研究所に行った方がいいんじゃないか。」
「そうですね。大体感じが判りましたよ。これなら充分使えそうだ。」
目黒が指を抜いて左のポケットからハンカチを出そうとすると、AKIRAがそっと目黒の右手を持った。
「失礼します。洗浄します。」
そういうと、目黒の濡れた指を口に含んだ。口を離すと指は乾いていた。
「サンキュー、AKIRA。じゃあ、教授。いずれまたゆっくりと。」
そういうと、目黒は部屋を出ていった。
「AKIRA、あいつの指はそんなにいいのか。」
「はい、マスタよりも効果的です。」
「わしと比較せんでいい。」
「申し訳ありません。マスタ。」
目黒が建物の外に出ると、タクシーが一台止まっていた。窓のガラスが下がり、森下が声を掛けた。
「目黒、こっちよ。」
「散歩に行っていたんじゃないのか。」
目黒はタクシーの中に潜りこんだ。
「そう思ったんだけど、一人じゃつまらなくて。だけど、あの部屋には戻りたくなくてね。」
「森下には悪いことをしたな。」
「気にしないで。それより、そろそろ黒崎研究所に行った方がいいわ。」
「そうだな。運転手さん、黒崎研究所へ」

---------------------------

目黒と森下が黒崎研究所の入り口を入ると、受付に女性が声を掛けてきた。
「イラッシャイマセ。コチラハ黒崎ロボット工学研究所デス。ゴ用件ハナンデショウカ。」
「さすがはロボット工学研究所ね。受付嬢がロボットだわ。」
「そうだね。」
目黒は受付嬢に近づいた。
「黒崎商事の目黒と森下というものだが、黒崎所長に面会したい。アポはあるはずだ。」
「黒崎ノ約束ヲ確認シマシタ。目黒様一人ノオ約束デス。」
「彼女は、私の同僚の森下だ。」
「判断デキマセン。確認シマス。少々オ待チクダサイ。」
受付嬢はプルルと発信音を立てた。
「黒崎だ。」
「所長、コチラハ受付デス。タダイマ黒崎商事ノ目黒様トイウ方ガオミエデス。
オ連レ様ガイラッシャイマスガ、オ通シシテヨロシイデショウカ?」
「かまわん。すぐ通してくれ。」
目黒に向き直った。
「デハ、オ進ミクダサイ。所長室ハ4階デス。」
二人は奥のエレベータホールに向かった。
「ここの受付けロボットはよくできてるけど、AKIRAより融通がきかないわね。」
「本当のロボットだからね。」
「えっ、どういう意味?」
「あっ、いや、AKIRAみたいに特注品じゃなく、量産品だってことさ。」
「なるほどね。」
エレベータで4階まで上がり、
所長室のドアをノックした。
「どうぞ。」
「黒崎商事の目黒です。こっちは同じく森下です。」
ドアを開けると、黒崎昭太郎がにこやかに出迎えた。
「健人、しばらく見ないうちに社会人らしくなったな。」
「黒崎所長、今日は仕事で来てるんですよ。」
「そうだったな。すまん。社長から話は聞いているよ。人間型ロボットを使った娼館の引合に応札するそうだな。
黒崎グループの一員として、出来る限り協力するよ。」
「黒崎研究所が協力していただけるなら心強いですわ。
仕様書の記載では、人間そっくりのロボットを20体提供することになっています。
じつは、ここに来る前に帝都工大に寄ってAKIRAを見てきたのですが、あのようなロボットになるのでしょうか。」
「AKIRAを見てきたのですか。それなら話が早い。言動が人間らしいことがおわかりでしょう。」
「ええ、本当に驚きました。」
「今回は、さらに外見も人間そっくりにします。そのためには、人間のモデルが必要です。
そこで、こちらからのお願いなんですが、黒崎商事の女子社員からモデルを選んでいただきたい。」
「外見なんて合成すればいいんじゃないですか。」
「合成ですと、どうしても人間らしさがでないんですよ。
それに、ロボット娼婦のモデルが黒崎商事の女子社員ということになったら、話題にもなりますよ。」
森下は、しばらく考え込んだ。
「わかりました。社に持ちかえって上司と相談します。」
その後、細かい打合せを行った。二人が帰ろうとすると、黒崎所長が引きとめた。
「そういえば、森下さんはうちの研究所は初めてじゃないですか?ぜひ、見学していってください。」
「森下、折角だから見ていったらいいよ。俺は、何度もみているから、ちょっと叔父さんと話をしているよ。」
「そうね。じゃあ、お願いします。」
森下が部屋を出ると、目黒が話し掛けた。
「おじさん、うちの女子社員を20人行方不明にするのは無理だよ。」
「うむ、俺もそれには困っているんだ。
とりあえず社員名簿の中から、顔写真、家族関係、健康状態で候補を選別させたんだ。お前の意見を聞かせてくれ。」
黒崎がリモコンボタンを押すと、奥の部屋からSIZUKAがあらわれた。
「SIZUKA、作業は完了したか?」
「はい、完了しました。」
「腹部ハッチを開けて、ディスプレイのケーブルを接続しろ。」
「了解しました。」
「これが、晶ちゃんのお姉さんか。姉妹そろって美人だね。」
SIZUKAが一連の作業をおえると、ディスプレイに黒崎商事の女子社員の顔写真と所属、氏名が映った。
「総務の恵子は止めた方がいい。今、警官とつきあっている。人事の真由美はOKだな。
経理の仁美は、親戚に新聞記者がいる。」
目黒は女子社員の顔を見るなり、つぎつぎとコメントをつけた。
「SIZUKA、健人のコメントを録音しろ。」
「個人名とリンクさせますか。」
「ああ、そうしてくれ。」
目黒は女子社員の顔を見ながら、ロボット化に適しているか、評価していった。
最後に、森下と風間の顔が映ると、考え込んだ。
「森下と課長かぁ。」
「右側の女子社員は、さっきの娘だな。二人とも知り合いか?気が進まないなら、対象から外してもいいぞ。」
「そうだな、ちょっと考えさせて。」
全部の女子社員を確認しおえると、黒崎は目黒に礼を言った。
「ありがとう、助かったよ。これだけの情報をよく集めたな。」
「こんなの普通じゃないの?それより、おじさん、俺、欲しいものがあるんだけど。」
「何だ?」
「改造用ナノマシンだよ。」
「おいおい、玩具じゃないぞ。簡単に研究所の外に持ち出せん。」
「わかっているよ。今度の仕事に使うんだよ。ちょっとアイデアがあるんだ。」
目黒が黒崎にアイデアを話し終えると、森下が戻ってきた。森下はSIZUKAを見て驚いた。
「ああ、面白かった。えっ、静香さん?静香さんをモデルにしたロボットがここに?」
それを聞いた黒崎昭太郎も驚いた。
「えっ、森下さんは静香・・さんを知っているんですか?」
「おじさん、森下は西園寺晶さんの高校の先輩なんだ。」
「そうでしたか。本当に私は彼女たちのことで胸をいためているんですよ。」
「どういうことですか。」
「私が静香さんを研究所で見かけて、ロボットのモデルをお願いしたんですよ。
その帰りに行方不明になってしまって。
もし、私がそんなお願いをしなければ、事件はおきなかったんじゃないかと思っているんですよ。
そうすれば晶さんもお姉さんを探して行方不明になることもなかったと。
せめてもの償いにと思って、榛原教授に晶さんに似せたロボットを作ったのですよ。」
「そうだったんですか。」
「さあ、森下、そろそろ引き上げよう。じゃあ、おじさん、さっきのもの、お願いしますよ。」
「ああ、わかった。何とかしよう。じゃあ、気をつけて帰りなさい。」

---------------------------

翌朝、目黒と森下は風間課長と加賀部長に出張の報告をしていた。
「どうだったね、黒崎研究所のロボットは?」
「ええ、AKIRAとSIZUKAというロボットを見てきました。ロボットでありながら、人間らしさを感じます。
外見や感触を人間そっくりにすれば、男性には十分魅力的だと思います。」
「そう。未来ちゃんがそういうなら確かね。わたしもそのロボットを見てみたいわ。」
「あと、黒崎研究所から希望がありました。」
「なんだ?」
「黒崎商事の女子社員をロボットのモデルに使いたいそうです。その話は、社に持ちかえると回答しました。」
「ほほう、それはおもしろい。うちの女子社員と同じ顔とスタイルのロボットが相手をしてくれるという訳だ。」
そのとき、加賀は二人の女性から冷ややかな目で見られていた。
3人が打ち合わせていると、加賀に電話が掛かってきた。
「加賀部長!お電話です。」
「今行く。ちょっと先に進めてくれ。すぐ戻る。」
電話が終わると加賀は血相を変えて戻ってきた。
「大変だ。五星物産が応札してきたぞ。」
「五星物産の参入は脅威ですが、うちには黒崎研究所が付いていますよ。」
「それが、五星物産と組んだ会社はオフィステクノ工業というらしいんだが、
既に人間そっくりのロボットをクライアントに見せたそうだ。目黒君、黒崎所長から何か聞いていないか。」
「オフィステクノ工業?済みません、部長。聞いたことないですね。」
「世界的権威にあぐらをかいているから、出し抜かれるんだ。すぐに調べろ。
それから、この件で明日、緊急対策会議を開くことになった。そこで重役連中に説明しなけりゃいかん。」
「判りました、部長。早急に対応します。じゃあ、未来ちゃんは出張の報告と明日の会議の資料をお願い。
目黒君は、黒崎研究所にスーパーリアルモデルのサンプルロボットを依頼して。
駄目なら、AKIRAかSIZUKAのどちらでもいいわ。」
「済みません、課長。私、クライアントからのクレームで出張しないといけないんで、会議資料はちょっと無理です。」
「わかったわ。じゃあ、会議資料は私と目黒君で作るから、未来ちゃんは出張報告だけ作って。」
「わかりました。」
「課長、スーパーリアルロボットのサンプルの件ですが、黒崎研究所に確認しました。
最大限努力するけれども、入手しにくい材料を使っているので、明日の会議に間に合わせるのは保証できないそうです。
念のため、SIZUKAを今から梱包して特急便で発送するそうです。午後8時に到着する予定です。」
「オフィステクノ工業は調べた?」
「ええ、ロボット分野では新規参入です。これまで受付用の固定式ロボットがメインだったんですが、
最近、人間そっくりの事務用ロボットを開発して、評判も上々です。」
「ちょっと脅威だわ。」
「課長、昨日の出張報告できました。では、申し訳ないですが、後はお願いします。
明日は会議に間に合うように始発で戻ってきます。」
「頼むわ、未来ちゃん。」
森下は済まなさそうに出かけていった。
森下が出かけた後、風間と目黒は明日の会議資料を手分けして作成した。
8時を回ったころ、突然、電話が鳴ったので目黒が出ると、守衛室からで、目黒あてに荷物が届いたという連絡だった。
「すぐ、受け取りにいってちょうだい。」
「わかりました。」
目黒が守衛室に向かうと、人間が一人入るような大きな箱が置かれていた。守衛の手を借りて解梱すると中からSIZUKAが現れた。
SIZUKAの脚もとにはリモコンと小さな金属ケースがあった。ケースを開けると小さな茶色のビンが入っていた。
リモコンでSIZUKAを起動すると、静かに目を開けた。
「SIZUKA、正常に起動しました。」
「SIZUKA、黒崎所長がお前に与えた指示を教えてくれ。」
「目黒様を代理マスタとして、指示に従うことです。マスタから目黒様へ伝言があります。」
「何だ?」
SIZUKAは黒崎昭太郎の声で話し始めた。
「ケースの中のビンを使ってくれ。」
「わかった。じゃあSIZUKA、付いてきてくれ。」
SIZUKAを連れて、執務室にもどり、風間にSIZUKAを紹介した。
「課長、これがSIZUKAです。」
「へえ、未来ちゃんが言ってたとおり、よくできてるわ。ボディラインなんかロボットとは思えないわね。」
風間は、SIZUKAのウェストからヒップのラインを指先でなぞった。
「でも、このメタルボディじゃ人間そっくりとはいえないわよね。スーパーリアルモデルが欲しいわ。」
「課長、これ黒崎所長からの差し入れです。今、ちょうど欲しいものだろうって。」
目黒は茶色のビンをさし出した。
「あら、ドリンク?気が利くじゃない。ロボビタン?聞いたことない商品ね。」
「研究所で従業員向けに開発したそうです。」
「へえ、そう。じゃあ頂くわ。」
風間は、ぐいっと一息で飲み干した。
「味はいまいちね。」
その後、風間は資料作りに専念し始めた。疲れが嘘のようになくなり、頭がはっきりしてきた。
過去の記憶は瞬時に思いだし、判断も即座にできた。
「すごい効き目だわ。これなら、あっという間に資料を作れるわ。」
風間は機械のようにキーボードを叩きながら、資料を作成していった。
「よし、出来上がり。あとは人数分のコピーだけだわ。それは、明日にしましょう。」
「課長、終わりました?体調は問題ないですか?」
「ええ、快調よ。」
そう言って、目黒の顔を見ると同時に、股間の敏感な箇所と乳首に衝撃が走り、思わずのけぞった。
「あうっ。」
「どうしました、課長?」
「なっ、何でもないわ。ひーっ。」
次の瞬間、身体全体に快感が突き抜け、風間は手足を突っ張り、いすの背に体重を預けた。
その間も乳首と股間は風間に快感を与え続けた。風間は、乳首と股間を触りたい衝動に耐えていた。
「ああ、思い切りかきむしりたい。でも、目黒君がいる。」
しかし、その心配は無用だった。なぜなら、そのとき風間は自分の意志で指一本
動かせなかったからだ。


第2話 終



戻る