『メカニカルレディ』

作karma様




第8話 製品の改良


内部テストを終えた後、MIKIのボディに興味をもった佐々木と藤原は、指示されてもいないのに、MIKIの分解を始めた。
MIKIの四肢を外して、ロボット固定用リングフレームに胴だけになったMIKIを固定した。
リングフレームは内側に4本のロッドが伸びて、ロボットの肩と大腿部が固定できるようになっており、左右の肩を2時と10時の角度に、両大腿部を並べて6時の角度に固定した。
それからフレームを垂直に立てて台に固定した。
「あたしは、とっくにロボットにされていたんだわ。これからあたしはどうなるの?」
好き放題ボディをいじられている間、MIKIはショックで放心状態だった。
佐々木と藤原は腹部ハッチに接続したコンピュータでMIKIの内部を調べ、洗練された設計に驚いていた。
「ノーマルタイプの動力炉で、ここまで出力が出せるなんて。」
「このロボットを設計した人は、絶対赤川さんじゃないな。」
「うん。俺もそう思う。」
二人はMIKIの内部構成を調べるのに夢中で、誰かが近づいてくるのに気づかなかった。
「俺がどうしたって?」
二人は驚いて振り返ると赤川が立っていた。
「内部機器の動作確認をしろとは言ったが、分解点検しろとは言ってないぞ。」
「すみません。このロボットがすごいんで、つい...。」
「お前達には、まだ早い!」
「すみません。すぐ組み直します。」
赤川に怒鳴られて、藤原は腕を取り、佐々木は脚を持ち上げた。それを見ていた赤川が二人の作業を止めた。
「ちょっと待て。その腕と脚を見せろ。」
また、赤川に怒られるかと、おずおずと藤原と佐々木は腕と脚を差し出した。
赤川が、それらを受け取ってジョイント部をじっと見ていた。ジョイントの窪みを中心に内側から外側へ微妙に色が変化していた。
「むむっ、これは。内側から外側へ少しずつ材質を変えているのか。」
「ねっ、すごいでしょ。外側のしなやかな材質と、内側の堅い材質をシームレスに融合しているんです。」
赤川は、MIKIの腹部とつながっているコンピュータのディスプレイを覗いた。
「動力炉の出力が通常でも30%高い。瞬間だと倍の出力が出せるのか。」
「ええ。どうやらノンリニア制御してるみたいなんです。この出力と複合構造材があれば、ガードロイドと勝負できますよ。」
赤川はキーボードをカタカタと叩きだした。MIKIは、頭の中を探られる感触がした。
「おや、これは?」
「どうしたんですか?」
「あっ、いや、制御システムも手が込んでいるな。」
「でしょう。赤川さん、誰がこのロボットを設計したんですか?」
「実は、俺も聞いていないんだ。」
「それは、私から説明しよう。」
聞き覚えのある声のほうに赤川が顔を向けると、黒崎所長がそこに居た。所長の後ろに誰か隠れているようだった。
「所長!来てたんですか?あれっ、後ろに居る方はどなたです?」
「紹介しよう。MIKIを設計し、製造した白鳥有香くんだ。」
白鳥は、黒崎の後ろから現れてペコリと挨拶した。

藤原と佐々木は設計製作者が女性だったことに驚いた。
「へーっ。こんな若い女性が設計したんだ。すみません。俺たち勝手にMIKIを分解しちゃって。」
「いいのよ。あたしのロボットをどう思ったか、聞かせて。」
「すごいの一言です。勉強になりました。」
MIKIは、じっと無表情のままだったが、頭の中では信じていた白鳥に裏切られ、足元を失ったようなショックを感じていた。
「白鳥先生があたしをロボットに改造したの?」
しかし、その場に居た人間で、もっとも驚いていたのは赤川だった。赤川は口をパクパクさせて白鳥の顔を見つめていた。
「お、お前、生きていたのか。」
「あら。久しぶりに会ったのに、『生きていたのか。』とは失礼じゃない?ゴウ君。」
「ゴウ君?お二人は知り合いなんですか?」
藤原と佐々木は、白鳥と赤川の顔をマジマジと眺めた。
「お前ら、何で人の顔ジロジロ見るんだ。こいつは昔ここで俺と一緒に研究してたことがあるんだ。」
「ええ!うちの研究員だったんですか?どうりでMIKIの基本的なところがうちの技術と似ていると思いました。
でも、いつごろ研究所にいたんですか?俺達、白鳥さんの名前に記憶がないですけど。」
「そうね。あの事件以来ここには顔をだしてないから。」
「あの事件て、何ですか?」
「8年前に研究所で起きた地盤陥没事故のことだ。」
「8年前にそんな事故があったんですか?でも、白鳥さんて、どう見ても20代前半ですよ。」
「ああ。こいつの外見は当時と変わっていない。」
「童顔だとよく言われるわ。ゴウ君は、すっかり老けちゃったね。もう、オタクは卒業したの?」
「ぷぷっ。赤川さん、オタクだったんですか?」
「お、お前ら、もう検査は終わったんだろ。さっさと、持ち場に帰れ!」
「はい、はい、判りました。ゴウ君・・じゃなかった。赤川さん。」
藤原と佐々木はニヤニヤ笑いながら出ていった。
「あらら。かわいそうに。ゴウ君、そんなに怒ること、ないんじゃないの?」
「俺をゴウって、呼ぶな!」
「あら。初めて会ったときは、自分からゴウって呼んでくれって、言ってたのに。」
「昔の話だ。」
「ふうん。今は、レッキとした主任研究員というわけか。上司の面子があるから、あの子達を追い出したのかな。」
「ここから先はあいつらに聞かせたくない話になるから、帰したんだ。」
「なるほど。わかったわ。」
「まさか、生きていたとはな。てっきり、あの事故で埋まったと思ってたぜ。いままで何処にいたんだ?」
「埋まったはずの女が生きてると判ったら、あなたたちは何処までも追いかけてくるでしょ。
一年くらい潜伏場所を変えながら追っ手が掛かっていないのを確かめてから、黒崎商事の本社ビルで診療所を開いたのよ。」
「名前も変えたようだね。白鳥有香という名前を聞いた時は、誰だか判らなかったよ。声を聞いて君だと判ったときはびっくりした。」
「それにしても、灯台もと暗しだな。黒崎商事に潜んでいたとはな。」
「意外と黒崎商事と黒崎研究所って関係が薄いのよ。これまではね。」
「なるほど。黒崎商事と黒崎研究所が接近し始めたんで、慌てたってわけか。」
「あたしは今の生活を失いたくないのよ。」
「それで、黒崎研に技術供与するってわけか。」
「ただ戻っても、製品素材か実験素材にされちゃうだけでしょ。このために今まで独自でナノマシンを研究してきたのよ。」
「なるほど。では、そろそろ本題に入ろう。赤川君。君はMIKIをどう評価する?」
「客観的に見て、こいつは、確かにうちの現状モデルよりレベルが上だ。
たが、所長が俺の研究をストップさせなきゃ、俺だって、このくらいのレベルに達していたはずだ。」
「君の想像は聞いていない。事実として、MIKIはうちのモデルより上ということだな。」
「まあ、そうだ。」
赤川はしぶしぶ承諾した。
「どうですか?これであたしの実力を評価していただけましたか?」
「この技術が本物なら、君の提案は考慮する価値があるな。」
「黒崎研究所に技術供与する代わりに、あたしに自由を保証するというのは、悪い取引ではないと思います。」
「こいつは驚いたぜ。8年前は天真爛漫でしかなかった女が、いまじゃ所長を相手に駆け引きするとはな。」
「あたしだって、8年の間に生きる術を身につけたのよ。」
「なるほど。でも、俺の目を誤魔化すところまでは到達していないようだな。こいつ、未完成だろ。」
赤川の言葉に、白鳥の目がピクッと動いた。
「赤川君、それはどういうことかね。」
「こいつは、まだ自我が残っている。」
「さすがはゴウ君。よく、判ったわね。」
赤川はMIKIに繋がっているコンピュータのキーボードをカタカタと叩くと、突然MIKIが泣き出した。
「ううっ!先生、あたしを騙してたんですね。」
白鳥は、フレームに固定されたMIKIに近づき、頬をそっと撫でた。
「ごめんね。未来ちゃん。他の人にあなたを改造させたくなかったのよ。」
「何時あたしをロボットにしたの?ドリンク剤、飲んでいないのに。」
「身体検査のときよ。あなたのバリウムにナノマシンを調合したの。
ゴウ君のナノマシンに邪魔されたくなかったから、わざとドリンク剤に気づくように仕向けたのよ。」
「そんな!先生だけが味方だと思っていたのに。」
「少量のナノマシンでロボットに改造する場合時間がかかるの。その間、脳に無用なストレスを与えちゃいけないのよ。
だから、あなたの味方になる振りをしたのよ。AKIKOのように改造途中で酷使すると、生体脳がダメージを受けることがあるのよ。」
「風間さん!風間さんはどうなったの?」
「そういえば、黒崎さん、AKIKOは見かけませんでしたが、今どこにあるんですか?」
「君の言うとおり、AKIKOは検査したら、人格データに障害が発生していた。
社会生活させると妙な言動をして怪しまれる危険があるので、娼婦ロボットに作り変えることにしたんだ。
AKIKOは、黒崎商事に残して、今後のロボットの材料調達をさせようと思っていたが、計画が狂ってしまった。」
「そんな。あの風間さんが娼婦になるなんて。」
「どんな改造をしてるのか興味があるんですが、見せていただけますか。」
「おい、こいつに残っている自我の問題はどうするんだ。」
「私も、その回答を先に伺いたいね。」
「AKIKOの改造は特殊修理室のはずですよね。あたしの回答もその部屋にあります。」
「さっき届いた木箱のロボットのことかな?」
「あれを送りつけてきたのはお前だったのか。」
「そうよ。あのロボットがMIKIを完成させる鍵よ。」
「なるほど。では、その鍵を見せてもらおうか。」
「ゴウ君、MIKIを押して来てくれない?」
「俺が?」
「そうよ。あたしは腕と脚を運ぶのよ。か弱い女に重いもの運ばせないで。」
「お前のどこが、か弱いんだ?」
赤川は渋りながら、MIKIを固定したフレームを押して隣の特殊修理室へ移動した。
「あたしをどこへ運ぶの?」
「娼婦ロボットになったAKIKOを見せてやる。そのあと、おまえは完全なロボットになるんだ。」
「いやーっ!やめて!ロボットになんかなりたくない!」
MIKIは思い切り大声で悲鳴を上げた。だが、それを気に止める者は誰もいなかった。
特殊修理室では、AKIKOも、四肢を外されリング状のフレームに固定されていた。
開放された腹部ハッチからは何本もケーブルが垂れ下がっていた。
頭蓋カバーは外され、さらけ出した電子素子交じりの脳に、幾つものアームが次から次へとやってきては新しい電子パーツを付加していた。
アームの制御コンソールには、SIZUKAが座っており、絶え間無くキーボードを叩いていた。
その様子をじっと見ている人物が居た。目黒だった。
最初に部屋に入ってきたのは黒崎だった。
「健人。ここにいたのか。」
「ええ。AKIKOが改造されているんで、見学してたんです。」
「AKIKOは、人格データに障害が発生してしまった。もう社会生活は無理だから、娼婦ロボットに作り変えているところだ。
改造途中に無理させたのが原因だろう。」
「加賀部長とか鮫島のせいで無理させたからかな。」
そのとき、MIKIを固定したフレームを押して、赤川が部屋に入ってきた。
「おや、森下か。ちょっと見ない間にすっかり見違えたな。なかなかセクシーなロボットになったじゃないか。」
目黒は、MIKIの乳房をギュッと握りしめた。
「あうっ!やめて。触らないで。」
MIKIは、目黒を睨んだ。
「目黒!やっぱり、あんた、この連中の仲間だったのね!」
MIKIの反応に、目黒は驚いた。
「おまえ、まだ自我が残っているのか。」
「MIKIはまだ製造途中なのよ。」
MIKIの腕脚を乗せた台車を押して部屋に入ってきた白鳥が目黒に説明した。
「白鳥先生、どうしてここに?まさか自分からロボットになりに来たんですか。」
「違うわよ。あたしの造ったロボットを所長に売り込みにきたのよ。」
「先生が造ったロボットって、MIKIのことですか?たしか、加藤がロボビタンを飲ませたはずだけど。」
「悪いけど、あれは、あたしが止めたわ。さきに、あたしのナノマシン飲ませちゃったから。」
「先生もナノマシンを作れるんですか。黒崎研究所以外でそんなことできるなんて驚きだ。」
「こいつは、以前ここで俺と共同研究してたんだ。」
赤川が目黒の疑問に答えた。
「なるほどね。それで、これからMIKIを完成させるんですか?」
「そうよ。そのためにこの部屋に運んできたのよ。ところでAKIKOの改造は終わったの?」
SIZUKAが答えた。
「AKIKOの改造完了までおよそ10分です。」
MIKIが、改造中のAKIKOを見つけた。
「か、風間さんに何をしているの?」
「娼婦ロボット用の電子脳パーツを組み込んでいるところだ。へっ。誰かさんが、妙なナノマシンを投与したから、こいつがおかしくなっちまったんだ。」
「あたしがナノマシンを投与したこと、よく判ったわね。でも、言っておきますけど、最初にクリニックに運ばれてきた時には、もうAKIKOの生体脳は変調をきたしていたわ。
あたしが投与したナノマシンで、かろうじて変調を抑えていたのよ。生体脳制御が不安定になるのはゴウ君のナノマシンの欠陥でしょ。
8年前のあの事故もその欠陥が原因だったじゃない。忘れたとは言わせないわ。」
「くっ。」
「あたしは、その欠陥を克服したわ。」
白鳥は、部屋の隅にある大きな木箱に近づいた。MIKIはその箱に見覚えがあった。通用門から入ったトラックにあった箱だった。
白鳥が梱包用のベルトを外して蓋を開けた。梱包材に埋まってよく見えないが、全裸の女性のようだった。
白鳥はポケットからリモコンを出すと、起動スイッチを押した。
「出てきなさい。」
中から出てきたのは、水野咲子だった。
「咲ちゃん!咲ちゃんまでロボットにしたの?」
「SAKIKOをロボットにしたのは、あたしじゃないわ。ゴウ君よ。」
「じゃあ、こいつは8年前の女子高生?」
「そう、地下研究室が岩盤で塞がれる直前に、SAKIKOに穴を掘らせて、脱出したのよ。
SAKIKOは、あたしの命の恩人よ。そのときからずっと一緒なの。もう、手放せないわ。」
白鳥はSAKIKOに抱きついた。
「だから、ロボットだとバレないように、いろいろ試行錯誤して、SAKIKOの電子脳のシステムに手を加えたのよ。」
「僕は、新入社員のときから咲ちゃんを見てたけど全然気づかなかった。」
「そうよ。不安定だったAKIKOとは違うでしょ。それだけじゃないわ。他のロボットに移植できるように、基本システムとして独立させたのよ。」
「なるほど。MIKIを完全にロボットにする回答は、その基本システムの移植ということかな。」
「そのとおりです。黒崎さん。」
「では、早速、その基本システムをMIKIにインストールしてくれたまえ。」
「いやーっ。やめて!」
「SAKIKO。胸部ポートを使ってMIKIに基本システムをインストールしなさい。」
「了解しました。」
そういうと、SAKIKOの二つの乳首から針のような端子が飛び出した。SAKIKOは、そのままMIKIに近づいていった。
「咲ちゃん。来ないで!」
SAKIKOはMIKIの前に立つと、自分の乳首をMIKIの乳首に接近させてきた。
MIKIはフレームに固定されて自由がきかないボディをもどかしそうにくねらせ、SAKIKOの乳首を避けようとした。
「MIKIの胸部端子の位置が不安定です。位置を固定します。」
SAKIKOはMIKIの二つの乳首を左右の指先で摘んでグイッと引っ張った。
「うっ。」
そして、そのまま針状の端子をMIKIの乳首の中に埋め込んでいった。
「ひーっ!」
MIKIは思わず仰け反った。
「基本システムのインストールを開始します。」
「やめてーっ!」
MIKIは、自分の人間としての記憶や人格が書き換えられていくのを感じた。
「違う。あたしはロボットじゃない。人間よ。」
MIKIは自分を保とうと懸命だった。しかし、努力は空しく、自分がロボットになっていくのを止めることはできなかった。
「このままじゃ、だめだわ。ロボットになってしまうわ。自分を守りきれない。」
MIKIが諦め掛けたとき、思いついた。
「守れないなら、攻撃はすればいいわ。あたしもロボットならSAKIKOと同じようにデータを送れるはずよね。」
突然、SAKIKOがノイズ音を発した。
「ガガッ。ピピッ。」
「どうしたの?SAKIKO!」
「はい。ガガッ。有香さま。ピピッ。MIKIから妨害信号が送られてきました。」
「なんですって?」
赤川が驚いた。
「こいつは、なかなか強い女だ。晶以上かも。」
晶という名前にMIKIは反応した。
「や、やっぱり、あんたたち、静香さんと晶をロボットにしたのね。」
「SIZUKAはスムーズにロボットに出来たが、AKIRAは手こずったぜ。お前みたいにな。
でも、最後は完全にロボットになっちまった。お前のその頑張りは無駄だと思うぜ。」
「無駄かどうかはやってみなきゃ判らないわ。」
「おい、白鳥有香さん。あんなこと言ってるけど、どうするんだい。」
「SAKIKO、頑張るのよ。転送出力を上げなさい。」
「そうは、いかないわ。あたしの方が動力炉の出力は上よ。」
SAKIKOのボディがガタガタ震えた。
「ガガ、胸部ポートヨリ許容容量ヲ超エル信号ヲ受信シマシタ。電子脳ノ一部ガ、ピピ、機能不調ニナリマシタ。ピー。」
「しまった。やられたわ。」
「ピー。アタシハ、水野咲子トイイマス。今日ハ高校卒業ノ前ニ社会見学ノタメニ黒崎研究所ニ来マシタ。」
「おい、SAKIKOがオカシイぞ。」
「まずいわ。メモリアロケーションが混乱してる。SAKIKO、電子脳のプロテクトをトップレベルに設定しなさい。」
「ガガ。了解シマシタ。電子脳ノデータ保護ヲ最優先シマス。」
「手こずっているようだな。昔のよしみでSIZUKAを貸してやろうか?」
「黒崎研に借りは作りたくないわ。」
「我々は構わないが、後一時間でMIKIが完成しなければ、君の技術は未完成と判断させてもらう。今回の取引は振り出しに戻ると考えて貰おう。」
「くっ。しかたないですね。それじゃSIZUKAを...。」
そのとき、SIZUKAの声がした。
「AKIKO、改造完了しました。」
それを聞いて、白鳥は黒崎に持ちかけた。
「黒崎さん。相談なんですけど、MIKIを使ってAKIKOをいまテストしませんか?あたしの手助けとAKIKOのテストで貸し借りなしにしていただけませんか。」
「我々は別にいまテストしなくても困らない。AKIKOの使用は認めるが、これは我々の君に対する貸しだ。」
「そうですか。いい、アイデアだと思ったんですが。」
「でも、叔父さん。MIKIの完成を急がせるのは、その後のAKIKOのテストを急ぐからだろ。
一緒にできれば、時間が短縮できるよ。貸し借りなしでいいんじゃない。」
「健人、なぜ、言わなくてもいいことを言うんだ。まあ、いいだろう。MIKIを使ってAKIKOのテストをしよう。SIZUKA、AKIKOを組み上げろ。」
「風間さんに何をさせる気?」
MIKIはAKIKOが気になったが、いつまでも気にしている余裕はなかった。
MIKIの妨害信号に用心してSAKIKOは今のところ、基本システムの転送より自分の電子脳の保護を優先しているが、
MIKIに隙があれば、すぐシステムを転送するのは、明らかだった。2体のロボットは激しい攻防のさなかだった。
その間にAKIKOは腕脚が取り付けられ、SIZUKAが起動ボタンを押すと、ゆっくり目を開けた。
「AKIKO、娼婦モードで起動します。」
AKIKOは、今までにない妖しい雰囲気を漂わせていた。SIZUKAがAKIKOに指示を与えた。
「AKIKO。いまから、おまえの機能テストを開始します。あそこのMIKIを客と想定して、サービスを開始しなさい。」
「了解しました。」
「やめて!風間さん。近づかないで!」
「お客様。このようなサービスは初めてですか?ご安心ください。私は女性のお客様にも喜んでいただけるよう設計されています。」
「そんなサービス要らない!」
AKIKOはMIKIの背後に立ち、両手を延ばして二つの乳房をやわやわと揉み始めた。
「はああぁ。だめぇ。お願い。」
MIKIはいままでに感じたことの無い妖しい快感を乳房に感じた。
「恥ずかしがる必要はありません。快楽に身を任せて下さい。」
SAKIKOの針状端子に貫かれたMIKIの乳首をAKIKOはぐりぐりとしごき始めた。
「ひいいぃっ。やめてーっ。」
「ガガ、MIKIノ妨害信号ガ、ピピ、出力低下シマシタ。」
「もう、一息ね。AKIKO、もっとMIKIを気持ちよくしなさい。」
白鳥は、リングフレームを固定した台車のハンドルをくるくる回した。すると、MIKIの大腿部を固定してしたロッドがリングを移動して左右に開き始めた。
「なっ、何をするの?」
「AKIKOが仕事しやすいようにするのよ。」
右脚8時、左脚4時の角度になって、白鳥はハンドルの回転を止めた。股間を露わにしたMIKIのそこはすっかり潤んでいた。
「お客様、失礼します。」
AKIKOは、右手を乳房から外し、腹部をなぞりながら、そけい部へ指を滑らせた。AKIKOは、MIKIの陰裂に指先を入れ前後になぞり、感触を確かめた。
「いやっ。触らないで!」
「お客様。こんなに感じて頂いて有り難うございます。」
AKIKOは、MIKIの陰裂の中へ深く指を沈めていった。
「はううっ。」
潤滑液が溢れ、ポタポタと滴り落ちていた。
「あら。MIKIは、ちょっと潤滑液が出過ぎね。調整ミスかな?それともMIKIが感じやすいのかしら。」
AKIKOが指を動かす度に、グチュグチュと淫美な音をたてた。
「やめて!意識が集中できない。」
「ガッ。MIKIの妨害信号のレベルが許容範囲まで低下。ピッ。基本システムのインストールを再開します。」
「MIKI。もう、終わったも同然ね。」
「くっ。まだよ」
MIKIは動力炉の出力をあげた。
「頑張るわね。AKIKO、そろそろMIKIのトドメをさしなさい。」
「了解しました。では、お客様始めます。」
「な、何をするの。」
AKIKIOは、左手の親指と人差し指を広げ両乳首に当てがった。右手の人差し指と中指を秘孔の奥深くに沈め、親指を突起に当てた。
まもなく、AKIKOの指にバイブレーションが加わった。
「ひぎゃああぁ。」
MIKIのボディはリングフレームがきしむほどガクガクと激しく揺れた。
噴流のような快感がMIKIを襲い、頭が真っ白になった。そこへ、乳首から基本システムが流れ込んできた。
MIKIは、快感にボディをガクガクさせながら、譫言のように喋り始めた。
「ああっ。基本システムのインストールが完了しました。あうっ。これより、生体脳内のプログラムを書き換えます。
いやぁ。あたし、何を言ってるの?ううっ。」
MIKIは、頭の中をかき回される感触がした。
「ぐああっ。」
薄れていく意識の中で、風間の顔が頭の中に浮かんだ。
「風間さん。あたしは、あなたを救いたかった。でも、もう駄目。あたしもロボットになってしまうんだわ。」
MIKIの目から一筋の涙がこぼれた。
MIKIの思いを余所にAKIKOは黒崎の指示どおり、MIKIをイカせること以外なにも考えていなかった。
MIKIの敏感な箇所に一層のバイブレーションを与えた。
「あああーっ。」
一際、高く歓喜の声を上げた。
「風間さん。あたしはあなたの姿を追ってきたわ。あなたのようになりたかった。」
風間の手にかかって、同じロボットになることが、自分の運命ことの様に思えてきたとき、MIKIの意識は奈落の底に落ちていった。

MIKIが目覚めると、そこはクルマの中だった。スーツを着て、後部座席に座っていた。今までの自分と違う気がしたが、どこがどう変わったのか解らなかった。
しかし確かなことは、今の自分は本来の自分ではなく、仮の自分であることだった。本来の自分はマスタの指示に従う存在であった。
右横でカタカタと音がするので、見ると白鳥が座っていた。白鳥はノートPCを膝に乗せて、忙しくキーボードを操作していた。
運転は水野で、助手席に目黒が座っていた。
「未来ちゃん。目が覚めた?」
白鳥に尋ねられて、MIKIはにっこりと笑って答えた。
「はい。」
いま未来は、人間らしく振舞うことが優先されていた。
「いままでのこと、憶えている?」
「はい。私はバスの転落事故を知って、黒崎研究所に行き、そこでロボットにされた女子社員を発見しました。そして、私も既にロボットに改造されていて・・・。」
そのとき、白鳥がキーボードを叩き始めると、森下は喋るのを中断した。打ち終わると再び喋り始めた。
「私はバスの転落事故を知って、事故現場に急行しました。
そこで目黒君と合流し、黒崎研究所に行き、そこで女子社員をモデルにしたロボットを発見しました。
錯乱した私は女子社員がロボットになったと騒ぎました。そこへ心配になって様子を見に来た白鳥先生が現れて、カウンセリングを受けました。」
「いいわ。では、これからあなたのすることは?」
「バスで亡くなった友人の葬儀に出席します。」
「その後は?」
「亡くなった風間さんの後任として課長になります。」
「あなたの役割は?」
「素体の確保と役員のセックス接待です。」
再び、白鳥がキーボードを叩き始めた。打ち終わると再び喋り始めた。
「公共事業課の管理と上位職との調整です。」
白鳥と未来のやりとりに、目黒が声を掛けた。
「大変そうですね。」
「ええ。思ったよりSAKIKOの復旧に手間取ったわ。おかげで、MIKIのチューニングを車の中でやることになっちゃった。でも家に戻るまでには終わると思うわ。」
「良かったですね。先生のナノマシンが黒崎研究所に認めてもらえて。」
「ええ。所外研究員という立場も手に入れたし、今度オーダーメイドモデルの中にスーパーリアルモデルを加えることになって、そのためのナノマシンを開発することになったわ。
目黒君のお陰ね。何かお礼しなくちゃ。」
「じゃあ、僕をMIKIにマスタとして登録して下さい。」
「なるほど。会社では、目黒君は未来の部下だけど、就業後はロボットモードにしてMIKIのマスタというわけね。
でも、設計製作者としては、マスタ権限は譲れないわ。サブマスタでいい?」
「ええ?サブマスタですか。」
「そのかわり、SAKIKOのサブマスタにもしてあげる。」
「そうですか。うーん。それならいいかな。」
「じゃあ、まずはSAKIKOね。SAKIKO、サブマスタを登録しなさい。」
「サブマスタ登録を開始します。」
「あれ?咲ちゃん、ロボットモードだったんだ。」
「咲ちゃんに運転させるときは、いつもロボットモードにしているわ。そのほうが安全だから。」
「へーっ。そうなんだ。」
「いいから、早く登録しなさいよ。」
「あっ、そうか。俺がサブマスタの目黒だ。」
「目黒様をサブマスタとして登録しました。」
「じゃあ、次はMIKIに登録するわね。」
白鳥がキーボードを叩くと、ニコニコしていたMIKIは宙を向き、無表情になった。
「ロボットモードに移行します。」
「MIKI、サブマスタを登録しなさい。」
「サブマスタ登録を開始します。」
「俺がサブマスタの目黒だ。」
「目黒様をサブマスタとして登録しました。」
「あの森下が、俺のロボットになっちゃうなんて、不思議な感じだな。今日からMIKIとSAKIKOと二体で遊べるぞ。楽しみが増えた。
ところで、先生に俺を登録する方法は無いんですか。」
「実は秘密の方法があるんだけど、教えてあげない。自分で見つけなさい。でも、見つける前に、目黒君がロボットにされちゃうかもね。」
「止めときます。」
二人と二体のロボットを乗せた自動車は、制限速度をピタリに維持しながら、夜明けの高速道路を都心に向かって走り続けていた。


第7話 終



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