『メタル ドリーム』

作karma様




第3話 罠


晶の動力炉設計は壁にぶつかっていた。
しかし、この問題を解決しないと自分はプロジェクトのメンバーに認めてもらえないという思いで、
ほとんど寝ずに設計に取り組んでいた。
1週間後、赤川が様子を見に晶の部屋に来てみると、頭を抱えていた。
「どうだ、晶。できそうか。」
「だめです。壁にぶつかってます。」
「何が問題だ。」
「形状を小さくして出力を維持するには、炉容器の強度と断熱性を上げなきゃならないんですが、
そうするとメタセラミックしかないんですよ。でもこいつは加工性が悪くて、とてもこんな複雑な形状の容器を作れないんですよ。」
「加工しやすい形にいくつかに分割して作ったらいいんじゃないか。」
「メタセラミックの接合は簡単じゃありませんよ。できたとしても接合部の強度がでませんよ。」
ここ数日徹夜が続いたため、つい、いらついた口調で答えた。
若造に自分のアイデアを一蹴されて、赤川は真っ赤になった。
「その形状データをもって、あとで俺の部屋に来い。」
怒らせてしまったかと思ったが、あとの祭りだ。気が重かったが、形状データをMOに落として、
赤川主任の部屋に向かった。
しかし、部屋の中には赤川の姿はなかった。
「赤川主任、いませんか。西園寺です。さっきは失礼なことを言ってすみませんでした。」
声をかけると奥から赤川の声が聞こえた。
「おう、晶か。こっちだ。」
声のほうをむくとドアがあった。こんな所に部屋があっただろうかと思いながら、晶はドアノブを探したが無かった。
ドアの奥から赤川の声が聞こえた。
「そのドアは暗証番号で開くんだ。タッチパネルに○○○○と入力しろ。」
ドアが開くと部屋の中には大きな実験ボックスがあり、その前で赤川はせわしそうにコンソールに向かってキーボードを叩いていた。
「ちょっとそこで待っててくれ。」
赤川は晶に目もくれず、キーボードをたたき続けていた。
「なにをするつもりだろう。」
実験ボックスを覗くと、四隅にアンテナのような金属棒が立っていた。
ボックスの前面にはカウンターが取り付けられていて、0を示していた。
「さっきの形状データをくれ。」
MOを渡すと、赤川はMOスロットにそれを挿入しそれから棚に向かった。
棚にはさまざまな材質のブロックが置かれていた。
「確か、メタセラミックだったな。大きさはこれくらいか。」
手袋をはめてブロックを持ち上げ、実験ボックスのハッチを開けて、中にそっと置いた。
ハッチをしめて、赤川はコンソールに戻った。コントローラーを操作すると、実験ボックスの上からロボットアームが降りてきて、ブロックの上で停止した。
ロボットアームの先端にはノズルがついており、それにはチューブが接続されていた。
チューブは銀色の液体で満たされていた。
「晶、見てろ。」
赤川が赤いボタンを押すと、ノズルからブロックめがけて銀色の液体が噴出した。
カウンタの数字が見る見る増えていって天文学的な数字になった。
そのとき晶は目を見張った。強固なメタセラミックのブロックがみるみる崩れていった。
しかも、あとには晶の設計したとおりの形状の容器が出来上がっていた。
ハッチを開けて取り出そうとする晶を赤川は止めた。
「まだ開けるな。」
そう言って、赤川はコントローラの緑のボタンを押した。実験ボックスの排気ファンが起動し、
容器の下にできていた銀色の液溜まりが小さくなっていった。
カウンターは再び0になった。
「晶、いいぞ。」
もどかしそうにハッチを開け、手袋をはめて出来上がった容器を大事そうに取り出した。
「いったいどうっやて?」
「ナノマシンだ。」
「噂には聞いていましたが、本当にあったんですね。赤川主任が実用化したんですか。」
「すごいだろうといいたいが、実用化したのは所長だ。前所長が試作品を作って、今の所長が引き継いで、
それを実用化にこぎつけたらしい。
こいつを使えばどんな物質でも分子レベルで加工ができる。でも、さすがにメタセラミックはてこずったようだな。
いま使った分の8割方がいかれちまった。」
「すみません。私のために。」
「お前のためじゃない。プロジェクトのためだ。なに、自己増殖機能で1日あれば元の数に戻せる。」
「そうか、ナノマシンを使えばテクタイト合金の曲面加工も、小型の高性能電子脳の組み立ても可能になるんだ。どうやって組み込むかわからなかった部品もナノマシンで内部から組み立てれば
いいんだ。これが赤川主任の言っていた極秘ノウハウですね。」
「そうだ。だが、このことは誰にも言うな。所長にばれたら俺はクビになっちまう。」
「わかりました。」
「そいつがあれば、動力炉は完成できるな。」
「もちろんです。」

晶は、メタセラミックの炉容器を部屋に持ち帰り、炉を組み立て始めた。
1週間後に動力炉は完成し、最終の性能試験にはいった。
動力炉に燃料を組み込み、実験ボックスの中に大事そうに設置し、ケーブルを繋いでいった。
「動力炉起動。」
スイッチをいれると動力炉は軽い振動音をたててパワーを生み出し始めた。晶は1時間おきにパワーを計測し、
振動値、炉内温度、外壁温度を確認して設計どおりであることを確かめた。
次に、晶は急速起動、急速停止、要求値の倍出力、出力調整など様々な状況を想定して試験を行った。
メタセラミックの炉容器は過酷な試験に耐えて、まったく問題なかった。
「これでよし。動力炉停止。」
晶は動力炉が冷めるのを待って、そっと抱えあげて箱に入れ、隙間に緩衝材をつめて台車の上に置き、
赤川の部屋に向かった。
赤川の部屋では、テーブルの上に所狭しとロボットの部品が並べられていた。
赤川は部品リストを見ながら、チェックしていた。
「おお、晶か。動力炉は完成したのか。」
「はい。性能はバッチリです。」
「どれ、見せてみろ。」
赤川は晶から動力炉を受け取ると、大事そうに両手で抱え、外観を確認した。
「なかなか、いいできだな。」
「ありがとうございます。」
「よし、これで所長に頼まれた部品は全て揃った。おまえも見てみるか。」
「はい、見せてください。」
「まず、このあたりがサーボモーターだ。」
「これが股関節とひざか。こっちが肩とひじですね。」
晶は、テーブルの上のサーボモーターを眺めていたが、ふと豆粒大のモーターたくさん並んでいるのを見て摘み上げた。
「おい、勝手にさわるな。順序がわからなくなる。」
「すみません。」
慌てて、小型サーボモーターをテーブルの上に置いた。
「そいつは指の関節用のサーボモータだ。小型だがハイパワーだぞ。俺がナノマシンで作ったやつだ。
サーボモーターも製作が大変だったんだぜ。
護衛用にハイパワーを出せとか、セクサロイド用に繊細な動きを可能にしろとか。
それから、これがバストに付ける連射式レーザーガンだ。こっちは制御パーツだ。
ほとんどがサーボモーターの制御用だ。
繊細な動きを制御するためのな。あと、これが人工性器の制御用パーツだ」
目をそむける動作が不自然にならないように、晶は別の部品を見ることにした。
形が変わっているパーツが目をひいた。
緩やかに湾曲した横長の板の上に正方形のLEDが一列に並んでいた。
裏側を見ると端子がいくつも並んでいた。
「これは?」
「オプションの部品で、額に設置する電子脳の表示パネルだ。このLEDで電子脳の大体の状態を確認できる。
プッシュボタンにもなっていて簡単なコマンドなら直接入力もできる。クライアントによっては人間らしい外観を重視するものもいて、取り付けないこともある。
そのときは、頭蓋部に標準で装備されている電子脳端子にケーブルをつないでコンソールで状態を確認するんだ。」
「そういえば、肝心のロボット本体が無いですね。電子脳も人工性器も。まで出来ていないんですか。」
「うむ。本体と電子脳と人工性器は所長の所掌だ。今夜、おれと所長でナノマシンを使って製作する予定だ。
ほら、そこに見えるだろう。」
赤川が指差した先には、銀色の液体を満たした大きなタンクがあった。
「それが終わってから、この部品を本体に組み込むことになっている。残念だが、お前は参加できないぞ。」
「わかっています。」
そう、言いながら晶は赤川の机の上に、12:00 第3組み立てショップという文字を見逃さなかった。

深夜11:30ころ、晶は男の服装で研究所に忍び込んでいた。
男装してきたのは、誰かに見咎められたとき言い訳が利くと思ったからだ。
第3組み立てショップの前で身を潜めて見張っていると、突然まぶしい光が晶を襲った。
「誰だ、そこにいるのは。」
赤川の声だった。しまったと思ったが、あとの祭りだ。赤川を気絶させて逃げることはたやすいが、
相手が警戒してプロジェクトを中止してしまうかもしれない。じたばたしても仕方ないので返事をすることにした。
「俺です。晶です。」
「おまえ、なんでここにいるんだ。」
「自分が設計したロボットの組み立てを直に見たかったんで、ついここに来てしまったんです。
でも、ですぎたまねでした。すぐ帰ります。」
「まあまて。せっかく来たんだ。慌てて帰るこたあねえよ。控え室でコーヒーを入れてやるから飲んでいきな。
所長が来たら、俺からお前の見学を頼んでみてやるよ。」
赤川の意外と親切な態度に驚いた。心の中で、赤川に嘘をついたことを詫びながら、とりあえず、
ここに残る口実ができたことを晶は喜んだ。
「じゃあ、ご厚意に甘えます。」
「こっちだ。」
赤川の後に従いながら、このプロジェクトに秘密があるのは自分の思い過ごしかもしれないと思い始めた。
控え室に着くと赤川は晶に席を勧め、カップを2個出してコーヒーを作り始めた。
「インスタントしかないが、いいか?」
赤川はテーブルの向かいに座り、晶の前にひとつ、自分の前にひとつカップを置いた。
「あっ。ありがとうございます。」
晶は自分の前に置かれたカップに手を伸ばそうとして、ふと躊躇し、赤川の前のカップを取った。
「なんだ?毒でも入っているってか。」
「いや、こっちのカップがなんとなく気に入ったもので。」
赤川は晶の前のカップを自分のほうに寄せた。
「ふん。疑り深いやつだ。ほれ!」
といいながら、コーヒーを一気に口に含み、ゴクンと飲み干した。
「どうだ、何ともないだろ。」
赤川を疑ったことを後悔しながら、晶はコーヒーをすすった。一口飲み終えたとき、
自分の体がグラリと傾いたのに気づいた。
あっと思ったときには、晶の体は床に倒れていた。
「悪く思うな、晶。所長の命令なんだ。俺の机の上に時間と場所のメモを置いとけば、おまえは必ず来るから、
ショップの外で見張っていろとな。」
所長が自分の正体に気づいていたことに晶は愕然とした。相手のほうが自分より一枚上手だった。
晶は朦朧とする意識の中で自分の迂闊さを悔やんだ。
「でも、ど、どうして…」
「ああ。薬のことか。両方のカップに眠り薬をいれといたのさ。そして、俺の口の中にはこれがあった。」
赤川は口をあけて、舌を出した。舌の上には銀色の円盤が乗っていた。
「ナノマシン…」
「そうだ。こいつには眠り薬を分解するようにプログラムしてある。おっと、こんな時間か。早いとこ準備にかかろう。
もうすぐ所長が来るからな。」
舌の上から銀色の円盤を取り出すと、赤川はショップの作業場の扉をあけた。
ぼやけていく晶の視界の中で、扉の向こうに暗闇が見えた。
晶には、これから自分が落ちていく悪夢の世界への扉のように見えた。
自分の身に起きる運命に怯えながら、晶は眠りに落ちていった。

第3話/終



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