『メタル ドリーム』

作karma様




第6話 悪夢の終焉


榛原は、AKIRAが自分を非難するのを聞くと黒崎に怒った。
「なんだ、このロボットの口の聞き方は。晶をロボットにすれば従順になると君が言うから、
多額の研究費を横流したんだぞ。」
黒崎は榛原に平謝りだった。
「申し訳ございません。榛原様。めったにないケースなんですが、オリジナルの自我が残ってしまいました。
すぐに消せますが、私の個人的な興味で今まで残しておりました。お気に召さないのであれば、すぐに消去します。」
「待って!まだ消さないで。」
AKIRAの言葉を無視して、黒崎はSIZUKAに指示を出そうとした。
「おい、SIZUKA・・・。」
黒崎の言葉を榛原が遮った。
「待て、黒崎君。ナノマシンを使った脳改造で自我が残ったというのは面白い。わしも興味がある。
このまま様子を見たい。自我が残っていても、命令に逆らうことはないんだろ。」
「はい、勿論でございます。ロボットとしての制御は完璧です。指一本勝手に動かせません。
もっとも、いまダルマ状態ですから、もともと指は動かせませんが。
ただ、会話は可能にしておりますので、お聞き苦しい言葉を吐くかもしれません。」
「それも、また、楽しみのひとつだ。少し、話をしてもいいかな。」
「ええ、どうぞ。」
榛原は、AKIRAのメタルボディの腹部や胸を撫でながら話し掛けた。
「晶君、いや今はAKIRAと呼ぶべきかな。まだ、自我が残っているそうだな。ロボットになった気分はどうだ。」
「あなたが、私をロボットにした張本人だったんですね。」
「君を一目見たときから、いつかロボットに改造して私の所有物にしようと思っていたよ。
こんなに早くチャンスが来るとは思わなかったがね。」
「あなたは、優しそうな顔の下でそんなことを考えていたのですか。狂っているわ!私を元に戻して!」
「何とでも言いたまえ。もうすぐ、君は私のロボットになる。
君をロボットにした憎き張本人であるこの私の命令に心から服従するんだ。がははっ。
黒崎君、邪魔して悪かった。作業を継続してくれ。」
「よし、SIZUKA、作業継続だ。」
「腹部ハッチの開放コマンドを送信します。」
「さて、まず動力炉を組み込む。君にこれを見せてやろうと思って、自我を残したままにしたんだ。よく見ておくんだぞ。」
「いやよ。そんなもの見たくな・・・うっ。ピッ、コマンド確認しました。腹部のハッチを開放します。」
コマンドを受けると逆らうことができす、AKIRAは腹部ハッチを開けた。
ロボットアームが、自分の製作した動力炉を持って腹部まで降りて来るのが見えた。
静香の手がかりを探るために、動力炉を完成しようと頑張ったこの数日間が思い出された。
結局、卑劣な悪人によって静香はロボットに改造されていた。
そして今、彼らに操られて、その手で妹である自分をロボットに改造してしまった。
かろうじてAKIRAに自我が残っているものの、SIZUKAから送信されるコマンドと、電子脳に組み込まれているプログラムに従うことしかできず、部品を組み込まれ、自分がロボットとして仕上がっていくのを見ているしかなかった。その自我も何時消去されるかわからない状況だった。AKIRAは絶望的な気持ちだった。
その後、ロボットアームは動力炉を周囲の装置とパワーケーブル、制御ケーブルで接続していった。
全てのケーブルが繋がると、AKIRAはパーツデータベースと照合して動力炉を認識した。
「動力炉を認識しました。動力炉を起動します。バックアップパワーを停止し、動力炉からパワーを供給します。」
動力炉を起動させると、軽い振動音を発し、ボディの各部にパワーを供給していった。
「ああ、私の作った動力炉がパワーを生み出している。何度もテストで確認した性能どおりだわ。
私のボディにパワーが流れ込んでくる。気持ちいいわ。」
AKIRAは自分の体に力がみなぎってくるとともに不思議な快感を感じた。
作業が終わってロボットアームが去ったあと、黒崎が腹部を覗き込み、AKIRAに声をかけた。
「AKIRA、動力炉がぴったり収まっているぞ。さすがに晶君の設計した形状は間違いなかったようだね。
先生もご覧になりますか。」
「ううっ、見ないで。」
「ほう、AKIRAのおなかの中はこんな風になっているのか。なんだか機械がゴチャゴチャと入っているな。
真ん中のいくつもケーブルが繋がっているのがで動力炉だな。ちゃんと動いているようだな。
作動ランプが点滅している。しかし、このサイズで、従来どおりの性能とはすばらしい。
黒崎君、今度の学会で発表させてくれ。」
「晶は我が研究所の所員だったのですから、この動力炉は本来、我が研究所の成果なんですがね。
そうですねえ、共同開発ということでいかがですか。」
「それでOKだ。」
「先生、ひょっとして晶の才能を利用するためにロボットにしたんじゃないですか。」
「ふふっ。ロボットにしてしまえば、いくらでもこき使える。成果をわしのものにしても文句は言わん。
しかも、秘書にも、ボディガードにもなる。おまけにセックスのおもちゃにもなる。」
こんな連中のために静香も自分も人間としての未来を奪われ、ロボットにされたのかと思うと、悔しかった。
だが、悲しむ余裕は無かった。動力炉の組み込みが成功すると、黒崎にとってAKIRAの自我を残す意味が無くなるからだった。
「動力炉の組み込みが終わったら、黒崎は私の自我を消してしまうわ。」
無駄とは思ったが、何か出来ることはないかと思い、ボディや電子脳をチェックしてみると、
コンソールと電子脳とを繋ぐ回線が一本フリーになっていることがわかった。
「あれっ?この回線はフリーではなかったはずね。そうか、わかった。さっきの赤川主任の誤操作のせいね。」
さらに回線の先を調べると、コンソールのディスクドライブにブランクディスクが入っているのが判った。
「よし、あそこに私の自我の複製をつくろう。無駄になるかもしれないけど、何もしないよりましだわ。」
AKIRAは、回線を通してコンソールのディスクに自我をデータ化して送信した。
幸いコンソールとの通信は、ボディ制御に関係無いせいか、コントロールプログラムの検閲に引っかからなかった。
回線の容量は小さくて作業ははかどらなかったが、黒崎と榛原は、ボディに部品を組み込む作業に夢中になっていた。
腹部のハッチでは、機械化されたAKIRAの性器に制御装置が組み込まれていた。
「先生、これがAKIRAの性器の制御装置です。性器を蠕動させて挿入された男性器に快感を与えます。
ちなみに生身の性器をそのままナノマシンで変換したものです。」
「ほう、それは楽しみだ。」
男たちは自分を性欲の対象としてしか見ていなかった。
「私の性器は、男性の性欲を受け入れるためだけのものになったのね。私はダッチワイフマシンになってしまった。」
そう思いながら、黒崎たちに不審に思われないように、AKIRAは、淡々と組み込まれる部品を認識していった。
「性器の制御装置を認識しました。腹部の部品組み込み作業完了です。腹部ハッチを閉じます。」
「SIZUKA、次はレーザーガンだ。」
「胸部ハッチの開放コマンドを送信します。」
コマンドを受けると、AKIRAは胸部ハッチを開放した。
左右の乳房がそれぞれ外側に開くと ロボットアームがレーザーガンを両乳房に押しこみ、カチッと音がした。
「レーザーガンを認識しました。」
レーザーガンを認識すると、AKIRAは左右の乳房を元の位置に戻した。
「つぎは、額に電子脳のパネルを設置する。」
これには、AKIRAはあせった。パネルを取りつけられたら電子脳の活動が表示されてしまう。
パネルを見て、黒崎が不審に思えば、コンソールで電子脳の活動を徹底的に調べるだろう。
そうすれば自我の複製を作っていることがばれてしまう。
そのうち、SIZUKAからパネル交換コマンドが送信された。
額にパネルと同じ形の亀裂が現れ、カチッと音がして、せり上がった。
ロボットアームがそれを持ち去ると、そこにはパネル設置用の空洞ができた。
別のロボットアームが、ボタン兼用LEDがいくつも並んだパネルを持ってきて、AKIRAの額に近づいてきた。
「あと、もう少しで終わるのに。」
AKIRAが絶望しかけたとき、榛原教授が黒崎に声を掛けた。
「すまんが、黒崎君。その空洞からAKIRAの電子脳をみせてくれんか。」
「先生、急にそんな事言わないでくださいよ。おい、SIZUKA。アームを止めろ。」
榛原はAKIRAの額の空洞を覗きこんだ。
「まるで脳の模型のようだな。」
「もとが生体脳ですからね。」
「表面に模様がある。プリント基板のような模様だな。」
「パネル端子と電子脳を接続する導線が透けて見えるんですよ。さあ、もういいですか。SIZUKA、作業継続だ。」
パネルが空洞にはまると、継ぎ目が消えて、まるで、元からそこに在ったかのようになった。
パネルが収まる一瞬、LEDの一つがチカッと点滅した。
黒崎はしばらくパネルを注視したが、その後は特に変わり無かった。
「んっ、気のせいかな?接触時のノイズかな?」
あわてて、AKIRAは応答を返した。
「電子脳表示パネルを認識しました。只今よりパネルからコマンド入力を受け付けます。」
「SIZUKA、頭のケーブルを外してくれ。」
「了解しました。」
すんでのところで、作業を終えたAKIRAは、ディスク上の自我の複製にはかない望みを託した。
「誰かに見つかって消去されるかも知れない。捨てられるかもしれない。でも、いまは私に希望を持たせて!」
AKIRAが自我の複製を作成したことに気づかないまま、黒崎たちは、ロボットアームが頭蓋ケーブルを外すのを見ていた。
「部品の組み込みも終わりました。そろそろ、自我を消しましょうか。」
「ま、待って!お願い。」
時間の問題とは判っていても、消去される恐怖にAKIRAは耐えられなかった。
「黒崎君、わしはもう少し、このままで楽しみたいんだが。」
「しょうがないですねえ。榛原先生の頼みでは断れないですね。では、もうしばらく残しておきましょう。
さて、手足ができるまで時間がかかりそうですから、胴体だけで出来るテストを済ませましょうか。」
「というと?」
「セクサロイド機能テストですよ。」
「いや、やめて!そんなテストしないで!」
AKIRAの訴えを無視して、黒崎は額のパネルのボタンを幾つかピッ、ピッ、ピッと押して、命令した。
「AKIRA、テストモードを起動する。テスタはこの私、黒崎昭太郎だ。今後は、勝手に喋らないように。」
AKIRAは、何か言おうとしたが、黒崎への応答メッセージしか言えなかった。
「テストモードを起動します。黒崎様をテスタとして声紋登録しました。それでは、私をテストしてください。」
榛原はセクサロイドという言葉に目を輝かせて乗ってきた。
「セクサロイド機能は、どうすれば使える?」
「マスタ登録後は、マスタのボイスコマンドだけがセクサロイド機能を起動できます。」
「そうか。AKIRA、セクサロイド機能起動だ!」
「先生、落ち着いてください。まだ、先生はマスタ登録してませんよ。」
「では、早速登録して・・・。」
「待ってください。AKIRAは、まだテスト中です。先生にお引渡しするのは、テスト終了後です。」
「では、どうすればいいんだ?」
「今、電子脳へのコマンドでテストモードを立ち上げました。テスタは私です。
テスタは、いつでも解除できることを除いて、ほとんどマスタと同じ権限を持っています。
先生には、私の代理になって頂きましょう。まず、ちょっとAKIRAの体に触ってみてください。」
榛原がAKIRAの腹部に右手を載せた。
「固いし、冷たい。」
つぎに、乳房、乳首とさわってみたが、同じ感触だった。
そしてAKIRAにとって、榛原の手が自分の乳房、乳首に触れたことは触覚センサーの信号でしかなかった。
「ロボットだから仕方ないが、これでは、ちょっと抱く気にはなれんな。それに、何の反応もない。」
「先生、胸を触られるたびに反応していては日常業務に支障がありますよ。
では、セクサロイド機能を起動させましょう。AKIRA、セクサロイド機能のテストを開始する。」
勝手な発言は禁止されているので、AKIRAは形式どおりの応答しかできなかった。
「了解しました。」
AKIRAは、外殻が変化するのを感じた。ボディがブルッと震えた。
「私の代理として榛原先生を登録しなさい。」
「了解しました。榛原様を代理テスタとして登録しました。」
「では、先生、もう一度さわってください。」
榛原が再びAKIRAの腹部に手を載せるとその感触はまるで違っていた。
「おおっ、これは!柔らかい。温もりがある。」
「内蔵ヒーターで体温に暖めています。柔らかさは、一つ一つのメタルセルが自動的に変形することで、
実現しています。我が研究所が誇る特殊技術です。AKIRA、もう、声を出してもいいぞ。」
AKIRAはボディの触覚が今までのように単なるセンサー信号でなく、快感として感じていることに気づいた。
もっと敏感なところをさわられたらどうなるかと怯えた。発言を許可されたので、必死で訴えた。
「やめて!お願い。私、そんなテストされたくない!」
しかし、榛原にはAKIRAの言葉など聞こえていなかった。
「うおおっ。」
榛原は、両手で乳房を掴み、乳首を絞り上げた。
「ああ。あうっ。」
さっきまで機械的に処理されるだけだった触覚データが、怒涛のような快感となってAKIRAの電子脳を襲った。
同時にパネルの全てのLEDが激しく点滅した。
「すごい!本物のような柔らかさだ。しかも、ツルツルした感触がたまらん。
しかし、たしか胸にはレーザーガンが装備されていたはずだが。」
「そんな無粋なものは、奥に引っ込めてあります。肝心な性器は確認しないんですか。」
「そうだった。」
脚の無いAKIRAの股間を覗くと、さっきまで閉じていたのに銀色の花が咲いていた。
「これはきれいな形だ。生身のときに見たかったな。」
そう言うと、榛原は真珠のような突起をそっと撫で上げた。
「あっ、ああーん。」
「いい声で泣きよる。おまえの金属の花びらが濡れてきたぞ。いやらしい感じになってきたな。」
「い、言わないで!」
「残りものの自我が生意気な口をきいておるわ。快感なのだろう。パネルのランプが激しく点滅しておるぞ。
これは、どうだ。」
榛原は濡れそぼったAKIRAの奥へ指を押しこんだ。
「あああっ。」
パネルの点滅は激しさを増した。性器内部に何かが挿入されたことを検知すると、
制御装置が作動し性器が蠕動を始めた。
「おおっ。この感触、本物のようだ、いや、本物よりすごい。指が内側へ引っ張りこまれるようだ。
これが、わしの一物だったら…。」
榛原はゴクッと喉を鳴らした。
「お気に召しましたか、AKIRAの性器は?」
慌てて抜いた指を榛原はしばらく眺めていた。
「黒崎君、すまんがこれ以上協力できん。」
「榛原先生、どうしたんですか。何かご不満でも?」
「いや、これ以上続けると自制心がなくなりそうだ。」
「なんなら、別室をご用意いたしますが。」
榛原は、少し考えて答えた。
「止めておこう。どうも、ここにはあちこち隠しカメラや盗聴器がありそうな気がする。」
「大事なお客様にそんなまねはしませんよ。まあ、お疑いでしたら、無理にお勧めしません。」
だが、心の中で用心深いやつだと黒崎は舌打ちした。
AKIRAは、途中の状態で放置されて、ボディがときどきピクピクと震え、パネルのワーニングLEDが継続して点滅していた。
「ピッ、性感処理がループ状態に入っています。・・・お願い。何とかして!変になりそう。」
「大丈夫だ、AKIRA、お前の電子脳はそんなにヤワじゃない。さて、コマンドで強制的に沈静するか。
いや、一度イカせよう。SIZUKA、後は任せる。」
「了解しました。セクサロイドテストはSIZUKAが継続します。AKIRAを操作して代理テスタ権限を獲得します。」
「やめて、静香。私はあなたの妹の晶よ。わからないの。」
「あなたは、西園寺晶をナノマシンで改造した、テスト中のオーダーメイドロボットNo006、AKIRAです。」
そう言うと、金属の指でAKIRAのパネルボタンをピッ、ピッ、ピッとタッチした。
「AKIRA、代理テスタを榛原様から私に変更しなさい。
私は黒崎様の秘書ロイド、オーダーメイドモデルNo005、SIZUKAです。」
「静香、何をするの・・・。ピッ、了解しました。SIZUKAのデータを転送してください。」
再びSIZUKAは、AKIRAのパネルボタンをタッチした。
「AKIRA、赤外線通信ポートを開けなさい。私のデータを転送します。」
SIZUKAは晶の顔を覗き込むと瞳が赤く光った。AKIRAの瞳もそれに反応するように赤く光った。
「静香、私を機械のように扱わないで・・・。ピッ、黒崎様の秘書ロイドSIZUKAを認識しました。
黒崎様の代理は榛原様から秘書ロイドSIZUKAに変更しました。SIZUKA、セクサロイドテストを継続してください。
…ううっ、SIZUKA、あなたにとって私はただのロボットでしかないのね。」
SIZUKAはAKIRAに近づき、無表情のまま、AKIRAの胸の上に覆い被さると、AKIRAの右の乳首をそっと口に含んだ。同時に、右手で左の乳房をやさしく包み、人差し指で乳首をそっと撫でた。
「はああっ。」
SIZUKAが触れたところ全てからジワリと快感が沸き起こった。
SIZUKAの指は、金属の指とは思えないやさしいタッチでAKIRAはとろけそうになった。
やがて、SIZUKAの右手は指先でAKIRAの腹部をなぞりながら、銀色の濡れた花びらに向かい、
中にある真珠をグラインドした。
「あうっ。いや。やめて、SIZUKA。私、どうにかなりそう。」
パネルのLEDはゆっくりだが確実に強く点滅していた。黒崎はLEDの点滅を確認するとAKIRAに状況報告させた。
「AKIRA、今の状況を報告しなさい。」
「あうっ、言えない…。ピッ、強い快感を感じています。SIZUKAの性感帯への刺激は非常に効果的です。」
たっぷり、乳首と真珠を愛撫した後、中指を濡れそぼった中へ滑らせた。
「ああっ。いいっ。」
嬌声をあげて、AKIRAは仰け反った。LEDの点滅が激しくなった。
「あっ、あっ、あっ。」
乳首への愛撫も継続しながら、リズミカルに指で攻めるとAKIRAのボディもそれに答えるように揺れ出した。
SIZUKAが徐々にピッチを上げるとついに達した。
「ああっ、もう、だめ。」
パネルのLEDが全て白色に点灯した。SIZUKAはAKIRAが達するのを確認すると無表情に起き上がり、
黙ってAKIRAを見下ろしていた。
「どうだったね、AKIRA。」
榛原の質問に答えるのをためらっていると、黒崎が返答を命じた。
「AKIRA、榛原先生の質問に答えなさい。」
「どうして、そんなこと言わせるの・・・ピッ、はい、イキました。SIZUKAのテクニックはとてもよく感じました。」
「これは、楽しめそうだ。わしのものになったら、毎日使うぞ。」
「よし、セクサロイドテスト終了だ。」

しばらくすると、赤川が完成した両腕両脚を運搬機に載せてやってきた。
「できましたぜ。」
「赤川君、遅いぞ。榛原先生が待ちくたびれておられる。SIZUKA、配置に着いて作業継続だ。」
榛原は、搬送車上のAKIRAの両腕、両脚を眺めていたが、太股を撫でながら、赤川を褒めた。
「これが、AKIRAの腕と脚か。うーむ、美しいプロポーションだ。赤川君はいい仕事をしているな。」
「もともと晶の腕と脚のプロポーションがよかったんで、ほとんど手を加えていないんですよ。
左右のバランスを調整しただけなんですがね。」
「そうかな。このツヤの美しさ。念入りに仕上げているように見えるぞ。
ヒールの形状も元々の設計から少し変えているな。」
「先生、わかりますか。いやぁ、こいつとは一緒に仕事したんで、なんだか愛着が湧いちまって。」
「赤川、何時までも油をうっているんじゃない。先生、もういいですか。作業を始めますよ。」
「済まん。済まん。続けてくれ。」
「よし、SIZUKA、四肢を取り付けるんだ。」
「了解しました。」
SIZUKAは、コンソールにもどり、ロボットアームに指示をだした。
ロボットアームが搬送車から両腕両脚を取り上げ、元の場所に組み込んだ。
「四肢を認識しました。パワーを供給します。」
腕と脚の関節にあるサーボモータが軽い振動音を立てた。
「よし、AKIRA、床に降りろ。」
AKIRAは、上体を起こし、膝を立てて向きを替え、脚を床に下ろしてスッと立ちあがった。
人間なら何気ない行動だが、AKIRAの電子脳の中では、姿勢制御のルーチンが絶え間なくデータを処理していた。
「すごいわ。立つという行為だけで、こんなにデータが処理されるのね。もっと、動きたいわ。
はやく命令してくれないかしら。」
そう思う自分にAKIRAは驚いた。
「私は、命令されることを待っているの?」

「AKIRA、歩行テストを開始する。」
ヒールで歩くため、複雑な姿勢制御が必要だったが、AKIRAの電子脳は難なく処理し、
脚のサーボモータもその制御に充分に応答した。命令に遂行できて、AKIRAは気持ちよかった。
「AKIRAは、ボイスコマンド、パネルからのコマンド入力だけでなくリモコンでも操作できます。
通常パネルからコマンドは無効にしておいてください。それからリモコンも、大事に保管してください。
リモコンやパネルで操作されると、相手が誰でもAKIRAは従ってしまいます。
その場合は、最優先であるマスタのボイスコマンドでキャンセルしなければなりません。
では、リモコンで操作してみましょう。」
リモコンの指示に従ってAKIRAは、腕を屈伸したり、上げ下ろしたり、回転したり、直進したり、右へ、左へと向きを変えた。
「よし、腕と脚は問題なさそうだ。赤川、第2作業室に戻って待機していてくれ。」
「えっ?所長、俺にもAKIRAのテストを見せてくださいよ。」
「君の分担は終わった。後は、私とSIZUKAで十分だ。」
「…はい。判りました。」
むっとしながら、赤川は第2作業室に消えていった。
「黒崎君、君は赤川に少し厳しいのではないかね。君も、彼の技術をかっているだろう。」
「先生、あいつは、今でこそ大人しくなりましたが、昔は手がつけられなかったんですよ。
優しい言葉はつけあがらせるだけです。ビシッと言っておくほうがいいんです。」
「そんなものかねえ。」
「先生、これからのテストは、危険を伴うので大型の実験ボックスで行います。
SIZUKA、ボックスNo1を開けてくれ。AKIRA、中に入れ。」
中に入ると、コンクリートの柱が何本も立っていた。柱には赤いマークがあった。
「まず打撃テストだ。AKIRA、マークに打撃をあてて全て破壊しろ。」
「了解しました。」
AKIRAは、コンクリートの柱のマークを正拳突き、肘撃ち、回し蹴りを正確に打撃を当てて、次々と破壊していった。
「すごい。赤川主任のサーボモータはパワーと制御性を兼ね備えているわ。」
これが、自分の身体に組み込まれたものでなかったら素直に感嘆できただろう。
「No2ボックスに移動しろ。次は射撃テストだ。全ての標的をレーザーガンで撃て。」
AKIRAが動力炉の出力を上げて、待機していると、次から次へと標的が現れた。
AKIRAはバストのレーザーガンで幾つもの標的を連射で撃ち倒した。
「レーザーガンを撃つのって、なんか気持ちいいわ。乳首が焼けて熱くなっているわ。
でも今の私にはただの温度データでしかない。」
「No3ボックスに移動しろ。これより耐衝撃テストを行う。
マシンガンがお前に銃弾を連射するが、直立の姿勢を維持しろ。声も出すな。」
AKIRAはマシンガンの前に立った。金属のボディだから大丈夫と判っていても、マシンガンで撃たれるのは恐怖だった。
「怖いわ。逃げたい。」
しかし、コントロールプログラムは逃げ出したくなる恐怖心を押さえつけ、AKIRAに直立不動の姿勢を取らせた。
マシンガンが弾丸を連射したとき、AKIRAは悲鳴をあげたかったが、それも抑えつけられた。
銃弾の衝撃にボディがぐらついたが、そのたびに姿勢を戻して新たな銃弾に耐えた。
マシンガンが銃弾を撃ち尽くすと、床からロケットランチャーが現れた。
「何これ、聞いてないわよ。」
小型のロケット弾が命中し、AKIRAは吹き飛ばされた。
実験ボックスの壁に背中から激突して、床の上にうつぶせに倒れた。
電子脳はノイズでホワイトアウトして、何も考えられなくなった。
パネルでは幾つかのLEDがワーニング点灯していた。
「おい、大丈夫か。わしの大事なAKIRAを壊してしまったんじゃないだろうな。」
「大丈夫です。AKIRAの外殻は、この程度ではビクともしません。」
まだ、電子脳にノイズが走っていて、正常に作動していなかったが、黒崎の指示を遂行するため、
AKIRAはぎこちなく立ちあがり、直立の姿勢に戻った。
「ガガッ、ひどいわ。ガガッ、機械の身体だと思って、ガガッ、無茶苦茶だわ。」
「AKIRA、状況を報告しろ。」
「ガガッ、ボディに損傷はありません。ガガッ、電子脳にノイズがありますが、まもなく復旧します。」
実験ボックスのカメラでアップで映し出されたAKIRAのボディを見て、傷一つ付いていないことに榛原は驚いた。
「先生がAKIRAのマスタになれば、いつでもこのボディで先生をお守りしますよ。」
一連のテストを終えて、AKIRAは、自分のボディが設計どおりの性能を発揮するのを確認すると、
不思議とうれしくなった。
だが、テストが終了すればAKIRAは榛原教授に引渡されるのだった。

「予定していたテストは全て完了です。これで先生に引渡しです。いよいよ、自我を消去しますよ。」
「お願い。消さないで。もう、命令されることに慣れました。なんでも命令どおりに動きます。
素直に従いますから、このままにして!」
「黒崎君。わしはこのままでもかまわんよ。自我を持ったまま操るのもなかなか面白い。」
「先生、私どもは常々お客様のご要望に出来る限りお答えしたいと思っております。
しかし、譲れないことがあります。それは、私どもが提供するロボットが自我を持つことです。
お客様に引き渡す以上、AKIRAの自我は消去します。
どうしてもとおっしゃるならこの話は無かったことにさせていただきます。お金は後でお返しします。
おいSIZUKA、引き上げるぞ。」
「わかった。わかった。ちょっと言ってみただけだ。」
「私どもの方針をご理解いただけて幸いです。では。」
黒崎はAKIRAの額に手を伸ばした。
「いやぁ、やめて、消さないで!」
AKIRAの悲鳴も虚しく、黒崎が額のパネルを操作すると、だんだん自我の存在が揺らいできた。
「もう、これで私の自我は消えてしまう。もう私は完全にロボットになってしまう。
これから榛原教授のロボットになる。周りの人は、誰も私が人間だったとは思わない。
私はロボットになってしまう。私はロボット。だめ!私は人間よ、体も脳も機械だけど。私はロボット。
ちがう!人間なのよ。どんなことがあっても私は、人間・・・・ではない。私はロボット。
マスターの命令に忠実なロボット。」
AKIRAは一旦目を閉じ再度目をあけると、抑揚の無い声で言った。
「オーダーメイドロボットモデルNo.006 AKIRA起動正常。ボディのパーツはすべて正常です。
マスターを登録してください。」
「では、榛原先生、どうぞ。」
「うむ、私がおまえのマスターだ。」
「声紋を登録しました。お名前をどうぞ。」
「榛原隆志だ。」
「榛原様ですね。登録完了しました。どうぞ、末永く私をご利用ください。」
「おまえを人間からロボットに改造させたのはこのわしだ。ロボットにされた気分はどうだ。」
「私をこんなすばらしいロボットに作り変えていただいて、感謝しています。」
「さっきまでロボットは嫌だと言っておったぞ。」
「申し訳有りません。人間だった時の自我が残っておりましたので、失礼なこと言ってしまいました。」
「わしはお前のマスタだ。お前はわしの命令どおり動くしかなくなったぞ。」
「マスタの命令に従う事が私の幸福です。」
「いかがですか。これで、AKIRAは榛原先生のものです。それとこれがAKIRAのリモコンです。」
黒崎はポケットからリモコンを出して、榛原に渡した。
「ここで、AKIRAを操作してみてもいいかな。」
「いいですよ。」
榛原は椅子にどっかと座り、リモコンやボイスコマンドで、AKIRAにいろいろなポーズをとらせた。
AKIRAは金属のボディとは思えないしなやかさで、Y字バランス、股割りなどのポーズを取った。
最後に榛原は開脚倒立の姿勢を命じた。AKIRAは後ろを向き、両腕を床に付いて身体を支えると、
脚を横一文字に広げた。
「股間をさらけ出して、恥ずかしいポーズだな。」
「私はロボットです。恥ずかしいという感情はありません。」
「そうか。そのままでセクサロイド機能を起動しろ。ただし、今度は声を出すな。表情も変えてはいかん。」
「了解しました。」
AKIRAは、ブルッと震えた。榛原は椅子から立ちあがると、鞄からバイブレータを出してきた。
黒崎はびっくりした。
「先生、いつもそんなものを持ち歩いているんですか。」
「今日だけだ。AKIRAに使おうと思って持ってきたんだ。」
AKIRAの前に立ち、股間の亀裂を指で広げると無造作にバイブを突き刺し、スイッチを入れた。
AKIRAは無表情のまま倒立していたが、パネルのLEDは全て激しく点滅を始めた。
「AKIRA、感じているようだな。どうだ、苦しいか。」
「はい、性器への強い刺激のため性感が増大しています。
増大する性感と倒立の姿勢制御を同時処理するため電子脳に負荷がかかっています。」
榛原は椅子に座り、AKIRAの様子を嬉しそうに眺めていた。
「黒崎君、SIZUKAを使わせてくれんか。」
「いいですよ。SIZUKA、榛原先生の指示に従いなさい。」
「了解しました。」
「では、SIZUKA、AKIRAの後ろに立って、バイブを出し入れしろ。クリトリスも刺激しろ。」
SIZUKAはAKIRAの後ろに立ち、股間から出ているバイブの端を右手で掴み、出し入れを始めた。
そして、左手で真珠のような突起をグラインドした。AKIRAのパネルのLEDはいっそう激しく点滅していた。
やがて、LEDが一斉にワーニングに変わった。AKIRAの腕がブルブル震えた。
「性器と陰核に対する刺激のため性感強度が上限値に近づいています。
姿勢制御に遅れが出て、開脚倒立の維持が困難になっています。」
「そろそろ、開放してやるか。」
「いえ、先生、最後まで行きましょう。」
「そんなことしたら、AKIRAの電子脳がダメになってしまうじゃないか。」
「大丈夫です。ご覧になっていれば判ります。SUZUKA、ピッチを上げろ。」
「了解しました。」
SIZUKAの手の動きがスピードアップすると、AKIRAのパネルLEDはワーニングからアラームに変わった。
「性感強度が上限値に達しました。5秒後に電子脳は停止します。5、4、3、2、1」
性器からバイブが飛び出し床に転がった。パネルのLEDが一斉に白色に点灯すると、まもなく、全て消灯した。
AKIRAの肘がガクッと曲がって、身体がグラリと傾き、ガシャンと床に崩れた。
SIZUKAはただ無表情に傍に立ったまま、放置された人形の様なAKIRAを眺めていた。
「あわわ。AKIRAが壊れた。」
「大丈夫です。セクサロイドモードでは、性感強度が上限になると電子脳保護のために一時停止になります。
放っておいても再起動しますが、いい機会ですから再起動の方法をお見せしましょう。
SIZUKA、AKIRAを再起動しろ。」
「了解しました。」
SIZUKAは、AKIRAの額に近づき、パネルの幾つかのLEDを同時にプッシュした。
動力炉が振動音をたて、パネルが緩やかに点滅を始めると、AKIRAはすぐさま立ち上がった。
「オーダーメイドロボットモデルNo.006 AKIRA起動正常です。ボディのパーツはすべて正常です。
マスタ、ご命令をどうぞ。」
「いかがですか。お気に召しましたか。」
「ああ、気に入った。」
「それでは、今からお連れになってお帰りになりますか、後でお届けしますか。」
「今日は一日中会議だ。明日、わしの研究室へ届けてくれ。」
「先生の研究室ですか?あそこは晶を知っている人間が何人もいるでしょう。
そっくりなロボットが現れたら不審に思われませんか。」
「誰も、人間をロボットに作り変えたなんて思いはせんよ。
なに、いなくなった晶君を偲んで、そっくりなロボットを作ったとでも言っとくよ。」
「では、格納ケースに一時保管しましょう。2番のケースをお使いください。」
「うむ、AKIRA、2番格納ケースに入りなさい。」
「了解しました。」
AKIRAは、ケースのほうに向きをかえ、正確に直進すると、ケースに自分から収まり、直立の姿勢になった。
ケースの固定器具が手首と足首を挟み、AKIRAをケースに固定した。
「AKIRA、パワーをオフにします。」
動力炉の振動音が止まると、AKIRAは目を閉じ、パネルのLEDは全て消灯した。
「先生、明日、ケースごとAKIRAをお届けします。ケースの暗証番号は○○○○です。」
「ありがとう、黒崎君。もう、これで会うことも無いかな。」
「とんでもない、先生。オーダーメイドロボットは高度技術を集積した機械です。
私どもでは2年毎の定期メンテナンスをお勧めしております。」
榛原はあきれて言った。
「相変わらず、商売熱心な男だ。」
「恐れ入ります。ああ、そうだ。オーダーメイドロボットの基本素材をご提供頂ければ、
メンテナンスはサービスいたしますよ。」
「わかった。だが、立て続けに同じ大学の関係者で失踪事件が発生するのはまずい。2、3年、空けてくれ。」
「承知しました.」
榛原が帰ると、黒崎はSIZUKAに向かって言った。
「SIZUKA、ご苦労だった。1番の格納ケースに入りなさい。」
「了解しました。」
SIZUKAはAKIRAの隣のケースに入り、同じように直立の姿勢をとった。
「SIZUKA、パワーをオフにします。」
SIZUKAも目を閉じた。
「明日になれば、別々になる。今日ぐらいは一緒にさせておくか。」
黒崎はケースの硬質プラスチックの蓋を閉めてロックし、2体のロボットをしばらく眺めていた。
仲のいい姉妹だった2体のロボットは、今は静かに目を閉じて並んで直立していた。
「さて、引き上げるか。」
もう、東の空が明るくなっていた。
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作業が終わって誰もいなくなった第3組立てショップに赤川が現れた。
赤川はコンソールの前に立つと電源を入れ、誤操作の時と同じ人物かと思うほど、
慣れた操作でディスクの中身を確認した。ケースの中のAKIRAに向かってニヤリと笑った。
「やっぱり、俺がフリーにしたあの回線を見つけたか。2年後におまえがメンテに来た時に、
これを電子脳に戻して弄んでやる。楽しみだぜ。」
そういうと、ディスクドライブから金色に光るメディアを抜き取っていった。


『メタル ドリーム』




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