『メタル リアリティ』

作 市田ゆたか様



第二話(11)

◆調整◆

メイファの胸の中では、着実に変化が進行していた。
肋骨は分解され、金属のフレームが心臓や肺を支えた。動脈は金属のパイプと化して銀色の心臓が体中にナノマシンを送り出した。

赤い血肉と白い脂肪がまじりあっていた乳房の裏側も均質な金属塊へと変化していった。
胸の感覚がなくなると、快感に喘いでいたメイファに再び恐怖の感情が戻ってきた。

メイファは震えながら自らの胸を抱きしめるようにかかえこんだ。
カチリと音がして胸の蓋が閉じた。

異様な感覚はやがて胸部から腹部、そして腰へと次第に下のほうへ及んで行った。
腹部も胸部と同様に開きそうであったが、恐ろしくてそれに手をかけることはできなかった。

腰から下のドレスの裾がまだ柔らかさを保っていることに気がついて、メイファはしゃがみこんだまま恐る恐る足を広げた。
チャイナドレスのスカート部分の前面が左右に開くとシャラシャラと乾いた音を立て、
腰のスリットの部分から背面に向かってスライドするように収納されて腰から下があらわになった。

身につけていたパンティも銀色に変化しており、腰まわりのゴムひもの部分はスカートをスライドさせるための堅いレール状のリングなっていた。
メイファがパンティ下部のまだ柔らかい部分を掴んで下に引っ張ると、そこはアルミホイルのように破れて肛門と性器が一瞬見えたが、
破れ目から銀色の糸によって再びパンティの形に編み上げられた。
「や……」
奇妙な叫び声をあげてメイファは再びパンティに手をかけたが、再生したパンティは固い金属になっており、今度は破りとることはできなかった。

パンティが変化しおわると、足を被うストッキングが銀色の糸で編まれた網タイツのようになった。
それは見る間に網目が細かくなって行き、その網目はメイファの皮膚に容赦なく食い込んで行った。
「ひぃぃぃ。あぁぁぁぁ、足がぁぁ」
メイファは激しい痛みに足をバタバタとさせていたが、やがて網目が足全体に広がると力尽きて床の上に足を降ろした。
金網はハイヒールを包み込み、赤いハイヒールは一瞬にしてメタリックレッドの輝きに変わった。

変化は両腕にも及び、肩口から次第に指先に向かってじわじわと金網に被われ、
メイファの両腕は何かを掴もうとするような形で固まると、首のリングから上を残して変化は終了した。
左腕の高級腕時計は黄金のベルトが溶けて文字盤が肌に埋めこまれながらもカチカチと時を刻んでいた。

由香はメイファに歩み寄り、胸部と腹部の蓋を開いた。
「いや、やめて」
体内には金属化された内臓が納められていたが、機械的なものはまったく見当たらなかった。
泣き叫ぶ声を無視して由香は体内をチェックして行く。
由香の指先が触れると、その周囲だけ金属化した内臓が一瞬だけ肉の赤みを取り戻すが、指を離すと再び金属に被われた。
「おかしいわね。どうして金属化は進んでいるのに機械化しないのかしら」
「由香サマ。ワタシノ記憶ニヨレバ、設計図ヲいんぷっとスル必要ガアリマス。
ソシテ金属ダケデハナク、半導体・ガラス・絶縁体ナドノ材料ヲ追加スル必要ガアリマス」
「そうなんですか、先輩」
「なのましんハ、分子ヤ結晶ヲ組ミ替エルコトガデキマスガ、元素ヲ変換スルコトハデキマセン。熱力学ノ法則ニ反スルカラデス」
「設計図に材料ね……」
そういうと由香は部屋の設備をチェックした。
「このインターフェイスはそのまま使えそうね」
そういってさきほどまで自分の首に接続されていたケーブルをメイファの首に接続した。
「ひゃっ」
メイファが奇妙な声をあげた。
「このデータも使えそうね」
由香はコンピュータのファイルからリモコンロボットの設計図を見つけ出すと、手早く書き換えていった。
「あとはナノマシンにどうやってデータを送るかよね」
何度かの試行錯誤の後、ナノマシンと通信するプログラムが完成した。
ナノマシンから送られてきたメイファの現在の状態と、ロボットの設計図が画面に並べて表示された。
「なるほど、今は生身と金属の部分が重なっている状態なのね。蛋白質の分子をプラスチックに変えることは出来るかしら?」
由香がコンソールを操作すると、複雑な化学式が画面に表示された。
「どうやら同じ有機物だから、追加材料なしで組み替えられそうね。
腕と足は表面だけプラスチックに変化させて、中身は追加材料の駆動パーツに入替えることにして……。先輩、これでどうですか」
「ハイ由香サマ。コノ設計デ問題アリマセン。ワタシノ手足ノ3倍ノぱふぉーまんすガ見込メマス」
「……そう、先輩の3倍なんて許せないわね。それじゃあ関節の自由度を下げることにするわ。あと、手先を動かす必要はないわね」
そう言って由香は設計図に変更を加えると、両手と両足の部分を画面で選択して実行指示を出した。

手足を覆っていた網目は肌にとけこむようにして消え、代わりに硬質のプラスチックが染み出るように肌を覆っていった。
その内側では血管が封鎖され、筋肉や骨がプラスチックの構成に必要な蛋白質やカルシウムに分解された。
そして不要となった水分が激しい汗のように手足から吹き出すと、そこは空洞となった。
空洞には胴体の側から金属が入り込み、駆動装置を形作った。
駆動装置が生成されるのと同時に関節にはくびれができ、やがて稼働のためのパーツの境目となった。
しかし、両手の手首から先には駆動装置は組み込まれず、稼働のための切れ目も作られることはなかった。
そこには余ったプラスチックが充填された。

「いや……身体が動かない……何も感じない……やめて……お願い……」
メイファは首を左右に振って泣きながら由香に懇願した。
「手足の神経が分解されちゃったのね。でもあなたは神経のブロックとかは慣れているって言ってなかったかしら」
「そんな……いや……いやよ……」
「ふーん、この程度のことで……。やっぱりあなたには先輩みたいになる資格はないわ。
先輩はロボットに変わって行く途中だってずっと冷静で、あたしのことを考えてくれていたわ。ねぇ先輩」
「回答不能デス」
「そんなに謙遜しないでください。たとえ今はロボットでも先輩は先輩なんだから。この実験でとったデータがあればきっと元に戻れますよ」
由香はそう言うと、再びコンソールに向かった。
「次は胴体ね。電源に制御装置に……いろいろ必要そうだけど、不足している材料は、この部屋の中から調達するようにすればいいわね」
そういって由香はあたりを見回した。

「まずは制御パネルが欲しいわね」
由香は部屋の中からB5サイズのノートパソコンを見つけ出すと、メイファの開いた胸の裏側に乗せてコンソールを操作した。
乳房の裏側の金属塊が蠢動して触手のようなものが伸びるとノートパソコンを取り込みはじめた。
「ああっ、いやっ、いいっ……」
メイファがあげるうめき声に合わせて、液晶パネルとキーボードが埋めこまれていった。

「電源端子はやっぱりこの場所がいいわね」
由香がコンソールを操作すると、金属製のパンティの底に四角く継ぎ目が入り、スライドして開いた。
四角い穴の中から見える陰部は白いプラスティックの絶縁体へと変化した。
陰毛が分解され、露になった性器と肛門に由香は電源用の太いコネクタを差し込んだ。
「あんっ、いぃっ……、いやっ」
メイファの喘ぎ声に合わせて、くわえられたプラグが引き込まれてびくびくと動いた。
「ああーーーーーっ」
メイファが絶頂の声をあげたところで、由香はコネクタを引きぬいた。
性器と肛門の内側は金メッキされてネジ山が彫り込まれ、それぞれプラスとマイナスの電源接続用のジャックへと変化していた。
由香は指先で金メッキのうえをさらりとなぞったが、メイファはもう何も感じなかった。
腹の中に見えていた胃や腸などの内臓も分解され、バッテリー収納のための大きな空洞が作られた。
由香は部屋の中からメイファが開発したリモコンロボット用のバッテリーを見つけだしてセットすると、腹部の蓋を閉じた。
内臓の中で残っているものは、脳に酸素を供給する心臓と肺だけになった。


◆発見◆

「次はどちらですか」
チェンが言った。
ヘリコプターの中で赤川は受信機をみながら地図をチェックしていた。
「北へ3キロ」
赤川の指示をチェンが通訳してパイロットがへりを操縦する。
「行きすぎた。南へ500メートル。東へ2キロ」
次第に信号が強くなり、赤川の指示も細かくなっていった。
「あそこの倉庫、3つあるうちのどれかだよ」
「わかりました。着陸して捜しましょう」
チェンがパイロットに指示を出そうとするのを黒崎が制止した。
「ちょっと待て。あわてるんじゃない。まず周囲の安全を確認するのが先決だ」
ヘリコプターからあたりを見回すと、倉庫の一つから男たちが貨物船に荷物を積み込んでいた。
黒崎の機転でヘリコプターは目当ての倉庫から離れた倉庫街の一角に着陸した。
3人は男たちの死角から倉庫に近づいていった。
「あそこの倉庫だ。間違いないよ」
赤川が1ブロック離れた倉庫を指差した。
倉庫には男たちが引っきりなしに出入りしており、侵入する隙は無さそうだった。
「警察を呼びましょう」
チェンが言った。
「それがいいですね」
黒崎も同意した。
「えー、せっかく見つけたんだから、俺達で由香ちゃんを助けようよ」
反対する赤川を押えて、チェンは警察に通報した。



第二話(11)/終



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