<エピローグ:香港>

「では皆様にご覧入れましょう。最新シリーズ、エタナリアです」
 壇上に、ドレス姿の四人の女が一糸乱れぬ整然とした動きで上っていく。その娘たちは、ついさっきまで今マイクを持つ男の横に一列に控えていた娘たちだった。
 大きなホールには、タキシード姿の男や、イブニングドレス姿の女がひしめいていた。ここはとある華僑の豪商の屋敷。屋敷の主人は、自分のコレクションを自慢するために年に何度かこういったパーティーを開く。ここに集う男たちは例外なくとある嗜好の持ち主であり、例外なく大富豪と呼んで差し支えない者たちだった。そして女たちはその男たちに見初められた者・・・・すなわち若く美しい娘がほとんどであった。もともとこのパーティーには女性の招待客はいない。女性は男性招待客の同伴者のみだ。そして彼女たちの大半は、自分が本来どういう意味で同伴されたのか理解していなかった。
 明美も、その中の一人だった。外資系銀行の幹部に声をかけられた。二週間ほどのつきあいで、彼は彼女をここに連れてきてくれた。彼女にしてみれば、上流階級のパーティーに誘われたのを拒む理由はない。そして喜んで香港までついてきたのだ。
 四人に続いて、金色のビキニ姿の女が、台車に乗せられた、まるで骸骨のようなディスプレイ用のモデルを押して壇上に上がる。その動きもまた、無駄のない一定の動きだった。
 最初の四人は、優雅な貴婦人の礼を取ると無機質な声で喋り始めた。
「驚きになられましたでしょうか。この新商品エタナリアは、我が社が総力をあげて開発した、まさに究極の保存体であると自負しております」
 客側から向かって一番左の女、マイが表情一つ変えずに言った。
(ロボットかしら・・・?)明美は思った。動きはしなやかだが、動きにどこか不自然さが感じられる。そして、「商品」と言われているのがそれを裏付けているように思えた。
「こちらをご覧下さい」今度は反対、一番右側のヨウコが、ディスプレイ用のモデルを指し、やはりまるでテープに吹き込まれた合成音声の如く説明する。
「これは、今回エタナリアシリーズのために開発された内蔵駆動ユニットです。このモデルはここにいる五体に内蔵されたものと同一のものです」
 おお、というどよめきが起こる。
(やっぱりロボットなんだわ・・・)明美は感心した。本当に良くできている。まるで人間のようだ。
 今度はヨウコの隣、サヤが口を開いた。
「頭部の制御部分はお客様のお好みで、生体脳と制御ユニットのハイブリッド仕様“エレガント”」無表情のままポーズを取るサヤ。
「電子頭脳仕様、の“ビューティー”、両パッケージ、から、お選び、いただけます」そう言ってポーズを取ったのは金色のビキニ姿をしたミキだった。ミキの言葉遣いは、若干他のデモ機よりぎこちなく、合成されたような音声に近かったがそれが仕様の違いなのだろうと誰もが納得した。そして、最後の一体、ユキが口を開く。
「今回この会場でご成約、素体お引き渡しを頂いたお客様には、捕獲費用の五万ドルを差し引いた上さらに五万ドルをサービスさせて頂きまして、エレガント仕様通常価格百万ドルのところを九十万ドル、ビューティー仕様八十万ドルのところを七十万ドルでご奉仕させていただきます」
 デモ機の五体は、そこで各々ポーズを取ったまま停止していた。冷たい微笑みを浮かべた顔には虚ろな瞳が無機質に輝いていた。
 ざわめきが拡がる。男は得意そうに奥に控えた小柄な東洋人の男が頷くのを見て再びマイクに向かって言った。
「さあ皆様、どうぞ実際に触れてみられて下さい。張様のご厚意でこちらに特別ご相談室を設けさせていただきましたので・・・・納期等はそちらにてお問い合わせ下さい」
 男はそこまで言うと一礼してその部屋に下がった。
(やだわ・・・これ、まるで大人向け人形の即売会じゃない)明美は思った。いろいろと理解できない単語はあったが、それはきっと専門用語に違いないと思った。彼にはきっとこういう趣味があるのだ。しかし、そんな普通とは思えない趣味のパーティーになぜ自分を同伴したのか、彼女は理解できていなかった。
 男性の客が、興味津々といった顔で壇上に上がってはデモ機を弄り回した。彼も、興味津々な様子で彼女を壇上に誘う。
 仕方なく、明美はついていった。彼がピクリともしないロボットをつついて「ほう」と感嘆のため息を漏らす。
「明美、触ってごらん。この胸を」
 明美は恐る恐る「Miki」と名札の付けられた、ビキニ姿のロボットの胸に触れてみた。
(・・・・これが、ロボット!?)
 触り心地がいい、とかそういう類の感じではなかった。肌触りといい、弾力といい、それはまるで生きた女の胸そのものに思える。
「これ・・・・・」明美は思わず漏らした。
「ああ。本当にそのままだな」興味深そうに答える彼。傍らに「ご自由にどうぞ」とあったリモコンを持ち、ボタンを押す。再びビキニ姿のロボットは動き出した。微笑んだ顔に虚ろな瞳が輝く。その奥では、瞳孔のようなカメラが動いていた。
「こちらは、エタナリアの基本的品質をそのままに、電子頭脳搭載によって、より、リーズナブルに、お求めに、なって、いただける、ビューティー仕様、です」
 動き出すデモ機「Miki」。
「お客様の、お好みに、あわせて、こんな風にも」
 合成音声のような抑揚のない声に合わせて次々とポーズを取る「Miki」。
「こんな風にも」
 次々とポーズを取るデモ機を見て、明美は少し気分が悪くなった。彼を置いて先に壇上から降りる。彼はしばらく楽しそうにそれを見ていたが、やがて飽きたのか彼女のところにやってきた。しかしそこで、彼女は気付いた。どういう趣味か、結構な数のカップルがその、「特別相談室」に入っていく。
 一組入り、二組入り・・・・そして男女で入った客が男一人でしか出てこない。女性の数が減ってきたことを認識するに及んで明美はようやくその異常さに気が付いた。不安な顔で彼の顔を見ると、彼は笑顔で彼女を促した。
 彼女は急に心細く感じた。ここまで連れてきてくれた彼が、別人のように思える。しかし、他に頼るべき人間もいない。
(なによこの人。日本に帰ったらさっさと別れてやるわ)
 少し嫌な予感がしたが、とりあえずここは我慢と彼に従って彼女は「特別相談室」に入った。そして次の瞬間、彼女は悲鳴を上げていた。
「何よ、これ!」
 悲鳴を上げるが早いか両腕を捕まれる明美。明美の視界にはその光景が映っていた。部屋の奥に積まれたいくつもの棺。いや棺と言うにはそれは機械的すぎた。棺のような形をしたその箱はガラスか何かの透明な蓋で閉じられており、その中のいくつかには裸の女性が横になって目を閉じていた。
 そして、彼女はその光景を見て絶句した。意識を失った女が、イブニングドレスを脱がされ、裸で蓋の開いた棺に寝かされる。そして、身体を棺に拘束されると蓋が閉じられ、何かガスのようなものが注入された。
 彼女はようやく理解した。あれはロボットではなく、同じような女たちのなれの果てだったのだ。そして彼女自身も・・・・・。
 不意に、男の声がした。
「麻酔ガスを注入しています。ここから先、日本に移送して処理を行うまでの間、あのように私どものほうで保管させていただきますがよろしいでしょうか?」
 振り返ると、彼とその男が並んで立っていた。その男の言葉に肯く彼。
「う、嘘よ・・・・」明美は思わずそう呟いたが、両腕を捕まれている彼女はあまりにも無力だった。
「素体名明美。エレガント仕様で承りました。本日のご成約順となりますので納期は一月ほど見ていただきたいのですが」
 男は彼に向かってそう言った。彼が再び肯く。明美は恐怖に目を見開いて首を振った。しかし彼はそれに構わず続けた。
「わかった。で、支払いは?」
「引き渡し時に全額ということで。もう一度ご確認させていただきますが素体は今ここでお引き渡しいただくという事よろしいでしょうか?」男がもう一度確認を取る。
「結構です」そう言って彼は、契約書にサインした。
「嘘よ、こんなの・・・・」つぶやく明美。
「保証期間は50年。君の美しさがそんなに長く残るなんて、僕は嬉しいよ」
 彼は微笑みながらそう言った。返す言葉もない明美。その鼻と口に冷たいものが押しつけられる。何か液体を染み込ませたハンカチのようなものだと彼女には分かったが、どうすることもできなかった。意識が遠のき、明美はそのまま崩れ落ちた。

<おわり>


※このお話はすべてフィクションであり、登場人物その他すべてのものは実在のものとは全く関係ありません。


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<作者あと?がき>
 というわけで最後の追い込みにかかったエタナリアの開発現場からお届けしました(笑)
 まあ、お話というよりも本当にただの製作記みたいになっているのですが・・・まあ、視点切り替え方式の方は楽しんでいただけましたでしょうか?
 今現在これは半完成状態です。本来完成品でない物をお目にかけるのはちと心苦しいのですが、かれこれもう手がけてから1年にもなり、その間にいろいろとあったりもしたためなかなか進まず・・・・というわけで今回とりあえずのお披露目と相成りました。期待して待ってくれている皆様ゴメンナサイ。
 では、今回もおつきあいいただきありがとうございました。
 2003.6.20

※このお話に関する著作権は作者であるKEBOに属します。無断転用・転載はお断りします。
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(c)KEBO 2003.6.20

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