<紗弥 その5>

 紗弥は、そこに立っていた。何も感じず何も考えないようにしていた。彼女は命令されたこと以外は何もできない人形だ。そして、ただ命令に従うこと、つまり今現在は命令されるまで何もしないことが彼女にとってはこの上無く心地の良いことなのだ。
 舞と陽子が彼女の服を脱がせていく。すでに紗弥の体には下着しか着けられておらず、その下着にも手が掛かろうとしていた。しかし、そんなことはどうでもいい。彼女は人形なのだ。疑問や羞恥心など感じるはずがないのだ。
 やがて、彼女の体から完全に衣服が外され、彼女は一糸纏わぬ姿のままそこに立ちつくした。命令がないので動くこともないのだ。
「さて、このベッドに横になりなさい」彼女の様子をずっと見ていた男が言った。さっきから命令するのはもっぱらこの男だったが、紗弥は迷うことなくそれに従った。命令に従うのはとても心地がよいことなのだ。
 紗弥が台に横になると、舞と陽子が、いろいろな器具で彼女を固定していった。そして、身体のあちこちに何か電極のようなものを取り付けていく。しばらくして、それが一段落したのか、男は言った。
「はい、もう目を覚ましても良いですよ。気分良く目覚めて下さい」
 紗弥の頭に、思考が戻ってくる。とても気分がいい。しかし、そう思ったのはほんの一瞬だった。
 次の瞬間、彼女は自分の置かれている状況の異常さに気がついた。
「ちょっと・・・なにこれ・・・・」
 よく思い出してみれば記憶はある。
(君にも素直になって貰う・・・・)
 男にそう言われて、妙な機械の中に押し込まれた。そして、心地よくなったまま機械から出され、男の言うがままになってここに連れてこられて舞たちに服を脱がされ、そのまま自分で台に横になった・・・・
「さっきも言ったとおり催眠術の一種です。とても気分が良かっただろう?君はかかりやすかったようだから・・・・だがもう気にしなくてもいい。君は二度と催眠術になどかかることはないし、これからもっと気分が良くなる」
 男が言いながら端末を操作した。身体中に取り付けられた電極から、じんわりと心地よい感覚が湧き出してくる。
「ちょっと・・・・なに・・・・イヤ・・・・」
 顔を赤らめながら口にする紗弥。
「君のパーソナルデータを収集している。君から取ったデータはこの端末で処理されて各部材にインプットされ、サイズの変更や各種設定が行われる。そして制御ユニットにもデータが送られて調整設定される。データを収集したらすぐに処置をはじめる。今までの君はその段階でいなくなる。君は永遠に老いることのない保存体に生まれ変わるんだ。保存体・・・・この名称もセンスがないな。近いうちに新しい呼び名を考えなくては・・・・」
 男はまだブツブツと何かつぶやいていたが、紗弥は最後まで聞いていなかった。呼吸が速くなり、経験したことのないほどの恍惚感に理性が押し流され、思考が停止していく。
「ああ・・・・・」
 無意識のうちに彼女は声を上げ、同時に全身を痙攣させた。


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