<由希 その5>

 由希は、地下に残された最後の部屋を開いた。薄暗い部屋の中に、たくさんの人の形をした物が立っている。彼女は慎重に壁を探ると次々とスイッチを入れて部屋の中を明らかにしていった。
 そこにあるものが、次々と浮かび上がってくる。由希はもう驚かなかった。缶詰といい冷凍といい、ここでは女性を観賞用の物に加工しているのだ。単純に考えて、それはそういう物を欲しがる人間がいるからであり、商売になるからである。
 拉致されて東南アジアに娼婦として売られるとか、臓器などを抜き取られるという類の話は彼女もよく耳にする。しかし、偽物とすり替わった上観賞用の物に加工されるというのはさすがに聞いたことがない。それにその偽物が何者なのか彼女にはまったく理解ができない。
(舞たち、もしかして・・・もう売られちゃったのかも)
 由希は朧気にそう思っていた。どう考えても地下は倉庫だったし、そこを動き回って見つけられないと言うことは、本物の舞や陽子、そして美貴はもうここにはいないという事もあり得るのだ。
 部屋の中を見て回る由希。そこには、マネキンのように立ち並ぶ、おそらく彼女たちの意志に関わらず飾り物にされた女性たちや、円柱や直方体に閉じこめられた女性たちが何人もいた。そして、そこを支配する静寂・・・・彼女の足音と、冷凍カプセルとおぼしき機械から聞こえてくる低い機械音だけがその空間には響いている。
 女性たちは裸だったり、ふつうに生きていたらまずお目にかかれないようなドレスや由希が見たこともないような服を着せられたりしていた。彼女はそれを一つ一つ改めたが、やはり舞たちの姿は見あたらない。
(やっぱり舞たち・・・)
 由希の脳裏に、舞たちの姿がよぎる。それは、あかるく快活な彼女たちでなく、冷たく、凍り付いた表情のまま身動きしない、飾り物になった彼女たちの姿だった。
(紗弥!)
 首を振る由希。まだこの建物の中には紗弥が残っている。このまま放っておけば彼女も確実に「飾り物」にされてしまうのだと由希は気付いた。
(なんとかしなくちゃ・・・)
 部屋の奥に、さっき男たちが台車を押して乗り込んだ大きなエレベーターがある。彼女は、外に助けを求めるべきか、とりあえず紗弥を助け出すべきなのか迷った。
(紗弥がいればなんとかなるかも・・・・)
 由希は、先に紗弥を助け出すことにした。二人いれば一人よりも心強い。それに、警察に駆け込むにしても説得力があろうというものだ。
 いきなり荷物用のエレベーターに乗るのは危険に思えた。部屋を出て、荷物用でない最初に乗ってきたエレベーターのボタンを押す。
(紗弥がいるのはたぶん四階・・・・)
 ドアが開く。彼女は四階のボタンを押すとドアを閉めた。


<由希 その6へ>   <紗弥 その5へ>